目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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ポケモンリーグ準決勝戦

『さあ、お待たせしました準決勝戦! しかしこの準決勝戦、今回に限っては特殊なルールが適応されます! なんとオニキス、そしてヤナギ両選手達は”伝説”と呼ばれる一匹、或いは極限にまで個体数の少ないポケモンを保有しているのです! ここまで話をしてしまえば嫌でもわかりますね? えぇ、特殊ルールとは簡単! 伝説対伝説! 1:1の伝説勝負で決着しないだろうか? という内容です! 本来は公式戦における伝説のポケモンは使用禁止です! それも当たり前でしょう』

 

『伝説のポケモンと言えば高耐久、高火力、特殊能力持ちでこれ、一体いるだけでポケモンバトルという競技を完全に破壊する強さを持っておるからのう。実際、伝説一体に対してチャンピオンがポケモン六体で挑んだとしても、勝てる可能性は極限にまで薄いんじゃ』

 

『まぁ、実際ズルイって言葉が出てきますからね。伝説は育成しなくても完成されている様な存在ですからね。そのまま戦闘に投入できますけど―――逆に言えば、トレーナーが必要ない、と言う事でもありますから。トレーナーとポケモンの実力を測るこのポケモンリーグ、ひいてはポケモンバトルに置いては不要、或いは過ぎた存在ですね』

 

『じゃが、それでも見たいもんじゃのう……育成された伝説、それを十全に操るトレーナー、そしてぶつかり合いを。儂もどうやらまだまだトレーナー精神が残っておる様じゃ、いやぁ、ワクワクしてきおったなぁ……』

 

『オーキド博士、あまりご無理を……』

 

『こら! 儂をあまり老人扱いするでないわ!』

 

 相変わらず実況と解説席が騒がしい。普段なら微笑む程度の余裕はあったかもしれないが―――生憎と、今、そんな余裕は存在しなかった。体に込められるだけの殺意を込めて、闘志と共にそれを練りつつ、フィールドの端に立ち、正面を睨む。フィールドの反対側には車椅子に乗ったヤナギの姿が見えており、その後ろにはデリバードがいる。この会場自体にボスやシルバー、ゴールドがいる。何かアクションを取れば即座に抑えられるし、

 

 そうでなくても、追いかける事ぐらいであれば十分できる。

 

 ―――十中八九移動用にフーディンを保有していると思うが。

 

 ともあれ、此方にそこまで余裕があるわけではない。ゴーグルを装着した状態で腕を組み、向こう側にいるヤナギを睨む。それをあっさりと受け流しながらヤナギは”ジムリーダー”としての表情のまま、此方へと相対する。良い、そっちがそう言うつもりならそれでいい―――化けの皮を剥がしてやる。そう思い、憤怒に感情を支配させない様に調整しながら湧き上がる闘志に身を任せる。

 

『では待たせました―――準々決勝第一試合! トキワの森のオニキス対チョウジジムのジムリーダー、ヤナギ! 伝説対伝説の超変則特別試合! 開始します!』

 

 試合開始の合図が放たれる。それと同時に右手を天に掲げる。それに合わせるようにヤナギが車椅子に搭載していた杖を取り、それで横の大地を叩く。

 

「―――来い、ワダツミ」

 

「―――来なさい、フリーザー」

 

 スタジアムの上空が―――セキエイ高原が暗雲に覆われる。普通のポケモンの試合の比ではない。普通のポケモンが天候変化を使ってもフィールド分、訓練されたポケモンでもスタジアム全体という程度の広さが限度だ。だが現在、上空に広がっている暗雲は完全にセキエイ高原そのものを飲み込んでいる。そしてその暗雲は分厚い雲の層となり、一時的な変化ではなく、干渉を無視して居座り続ける自然現象となって君臨する。その暗雲を裂くように接近して来る二つの姿がある。巨大な二つの白と青い影。此方の後方、そしてヤナギの後方から出現するのは、

 

 海神ルギア。

 

 氷鳥フリーザー。

 

 ホウオウを出さなかった事には一瞬だけ驚いたが、だけど”成程”と納得出来る事さえあった。永久氷壁のヤナギと呼ばれる程に、ヤナギは氷タイプのスペシャリスト、エキスパートだ。おそらく”氷タイプで限定すれば無条件でどんなポケモンをも従える”事が出来るだろう。ブリーダーとしてフリーザーを見れば解る、あのフリーザーは野生の状態のまま、育成されてある。ヤナギの手で。野生の状態を保っている為に、恐ろしい程の実力を秘めている―――この三年間、カントーから離れている間に育成されたのだろう。少し悔しい。

 

 が、

 

「影響力はこっちのが上だ―――!」

 

 手を前に突き出す。反応するように大粒の雨が降り出し―――即座にバケツをひっくり返したかのような豪雨へと変化する。まるで空そのものが雨の中に沈み、海が浮かび上がったような、そんな環境が生み出される。フリーザーの周囲だけはしかし雨が降る事なく、近づく雨粒は全て凍り付き、半径10m圏内が霰へと自動変換されている。フリーザーも大きさが10m程ある事を加えれば、かなりの影響力だ。いや、ルギアに天候という領域で競り合う事が出来る時点で化け物だ。思い出せ、サザラでさえ対抗できなかったのに、フリーザーは成功しているのだ。

 

『主、我を従えてみせろ』

 

「誰にものを言ってやがる―――てめぇこそ俺の指示について来てみろ!」

 

 原生種としての姿で頭上を飛行するワダツミ、その口元が笑みを浮かべる様に見えた。が、次の瞬間には空に出来上がった豪雨の海をワダツミが”泳いだ”。あまりにもなめらかで自然な動きに一瞬で、その眼を奪われそうになる。美しい。純粋にそう評価するしかない。普通のポケモンでは絶対に届かせる事の出来ない存在としての美しさがある。一瞬で泳ぎ始めたワダツミを光が覆う。

 

「ホロンヴェェ―――ル!」

 

 ホロンヴェールが発動し、ワダツミのタイプが水・ドラゴンへと変化する。デルタ因子の後天的注入によって飛行タイプの攻撃力を上昇させている為、主力であるエアロブラストの威力低下を心配する必要もない。そのまま、攻撃を放つ為に凄まじい速度でフリーザーへと向かって行く。

 

 反応するようにフリーザーも空を高速で飛翔する。ほとんど浮かんでいる海という環境に対して、それはフリーザーに作用する事はない。その体に届く前にすべての水分が氷結するからだ。ある意味、最悪の相性だと言っても良い。ワダツミを迎えるようにフリーザーも絶対零度のオーラを纏い、

 

 正面から翼で互いを叩き合った。

 

 交差する様に放たれた翼の一撃はフリーザーの絶対零度のオーラを貫通して全身を水で覆い、そして酸素を瞬間的に奪って溺死させた。それと同じように、フリーザーに触れたワダツミの体が一瞬で氷結し、そして全員が氷に覆われて大地へと落ちた。凄まじい衝撃を撒き散らしながら落下してきた二つの巨体を眺めながらヤナギが口を開く。

 

「捕まえてまだ一ヶ月の筈なのですが……良く育成されていますねぇ」

 

「育成という分野においてはトップを走っている自覚はあるからな―――だからこの程度じゃないだろ。俺も、お前も」

 

 言葉と同時に水と氷が弾け、ワダツミとフリーザーが起き上がり、一気に飛翔する。超高速で飛翔しながらアクアリングをワダツミは展開し、エアロブラストの十連発をフリーザーへと向けて放つ。それに対してフリーザーは絶対零度のオーラを身に纏い、それを凶悪化させる。迫ってくる空気の弾丸、それを氷結させる事で無力化させながら接近し、そのままワダツミへと向かって高速で接近して来る。フリーザー、その特性を見抜く。このポケモンは”全ての攻撃に絶対零度を付与”しているのだ。永久氷壁の様に溶けない氷ではないが、まともに喰らえば一撃で死滅する氷だ。面倒だ。そう判断し、シンクロしつつある意識を通して、指揮する。

 

 即座に海水の竜巻が三つ、フリーザーの正面に発生し、フリーザーに衝突する。凍らせながら突破したそれを抜いた先に―――ワダツミはいない。亜人化し、落下しながら回避したのだ。故に亜人化した姿でフリーザーの下へと回り込んだワダツミは手を伸ばしてフリーザーの足を掴み、凍って行く腕を無視してそのままフィールドへと向かって投げ叩きつける。即座に原生の姿へと回帰し、大地へと叩きつけられたフリーザーに竜巻を六つ、それを束ねながらビームの様に一直線に叩きつける。

 

 竜巻を叩きつけられた大地が破砕される様に爆裂し、大きく抉れる。フリーザーの姿が吹き飛び―――その姿が氷に覆われてから無傷の状態へと再生する。その姿を追う様にワダツミが高速で接近し、その姿を捉えるようにふぶきが豪雨の中を薙いだ。直撃するそれをワダツミが氷結しながらも突破し、フリーザーへと到達し、エアロブラストを放つ。フリーザーに衝突する前に弾けてエアロブラストが風の爆弾となって衝撃波をフリーザーへと叩き込み、その姿をフィールドの端へと弾き飛ばす。

 

「貫けワダツミ……!」

 

 豪雨が空中で渦巻きながら集中し、空中でいくつものハイドロカノンを形成し、一斉にフリーザーへと向かって放つ。放たれた複数の究極奥義はフリーザーを貫通し―――そして砕け散った。氷像だったフリーザーが砕け散った中から、亜人の姿が見えるのも一瞬、ハイドロカノンを回避した直後に元の原生の姿へと戻り、

 

 天をオーロラが輝いた。

 

 直後、霰ではなく氷柱が雨の様に降り注ぐ。フリーザーが本気を出したのだろうか、そう判断しながら高速でワダツミを移動させる。それを追う様に背後から接近して来るフリーザーに対して一瞬だけワダツミを亜人化させ、元の原生の姿へと戻す。急激な変化は速度の急変更となって現れ、フリーザーの頭上を越えて後ろへと飛ばし、一瞬でフリーザーの背後を取る。放たれたエアロブラストが氷結する、それに追いついたワダツミがその背後から20連続のエアロブラストを放ち―――強引にフリーザーの姿へと叩きつける。それを受けたフリーザーはダメージを受けた個所を氷結し、砕いて氷の中から再臨する。その姿を追いつめるように海水の竜巻が回転速度と破壊力を増しながら行く先を塞ぐ。

 

「ちぃ、しぶとい!」

 

 フリーザーが竜巻を氷結させた瞬間にワダツミが加速する。降り注ぐ海水が津波となって襲い掛かってくる。それを氷結させるが―――壁となってフリーザーの行く手を阻む。急上昇して逃れようとする姿をワダツミが追い抜き、先回りする。全体的な能力は此方の方が勝っている―――対ホウオウを見据えて育成しておいて良かった、と思う。そう思考しつつも、竜巻と暴風をフリーザーへと叩きつける。

 

 それに反応する様にフリーザーが水分を蒸発―――フリーズドライを放った。竜巻の海水が蒸発し、その冷気がワダツミの体に届き、蝕む。激痛を無視させながら空気と水を圧縮させ、フリーザーには処理しきれないだけの量を一気に押し潰すように叩きつける。

 

 それをフリーザーが端から凍らせて行く。

 

 だが竜巻を、海水を、そして空気を一気に、全て叩きつけるように、

 

 上から押しつぶすように叩き込み続ける。

 

 対抗するようにフリーザーが氷結させるが―――フリーザーとワダツミ、伝説と準伝説では扱える力の”キャパシティ”の格が違う。唯一神一人ではワダツミを倒せない様に、フリーザーでもワダツミを潰す事は出来ない。いや、氷のエキスパートと準伝説という組み合わせはフリーザーを限りなく伝説に近い領域へと引き上げている。が、それでも、

 

 伝説には届かない。

 

 既にワダツミの体には傷が一つも存在しない。

 

『格の差を思い知れ小娘―――』

 

 ワダツミの声と共にプレッシャーが倍化され、一気にフリーザーの処理できる量をオーバーロードし、大量の水流と風圧が大地を満たす。一瞬でフィールドが浸水し、地上に海が出来上がる。ワダツミとフリーザー、両方を許容できる大きさではない為、ワダツミが亜人化し、フリーザーを沈めた疑似海の中へと飛び込み、姿は亜人のまま、原生の時と変わらぬ速度で超高速水流、酸素を強制的に吐き出させ、そして体を引き裂く水の流れを生み出し、

 

 一気に疑似海から飛び出す。

 

「出直せ」

 

 そうやって自分の横にワダツミは着地し、

 

 海が崩壊する。

 

 フリーザーはそのまま、力なくフィールドに突っ伏す。それを見届けたワダツミが此方へと視線を向ける。

 

「ふ、どうだ、我が力は」

 

「勝って当然の勝負で胸を張るなよ、恥ずかしい」

 

「!?」

 

 軽くショックを受けているような表情を浮かべているのが地味に面白いが、簡単にえさを与えてはいけないのだ。つけあがるから。だからワダツミから視線を外し、ヤナギへと視線を向ける。何か妙なアクションをするのであれば即座に動けるように。最大限の警戒を持って視線を向けるが、ヤナギは軽く笑みと共に頭を下げ、

 

 そしてデリバードが此方へと近づいて来た。

 

「デリッ!」

 

 そう言ってデリバードはモンスターボールを渡してくる。即座にデータ確認をすれば、確かにその中におさめられているのはホウオウだった―――無論、非正規品のモンスターボールである為、ボックスへと送る事が出来ない様になっている。確かに、本物のホウオウらしい。目的を諦めたのだろうか?

 

 そう思って視線を持ち上げてヤナギへと向けるが、ヤナギは片手に銀色の羽―――ワダツミの羽を握っており、直ぐに背を向け、デリバードに車椅子を押してもらいながらフィールドから出て行ってしまった。何か、何か声をかけるべきだったのかもしれないが、

 

 ヤナギのその去って行く姿は妙に儚く、

 

 ―――まるでこれから死にに行く人の様にさえ思え、声をかける事ができず、見送ってしまった。

 

 起き上がったフリーザーがそのまま飛翔し、二子島へと向かって帰還して行く姿を眺めながら、

 

 何か、何か一つの物語が終わったような、そんな妙な予感が頭をよぎり、

 

 そして思い出した。

 

「あぁ、そうだ」

 

 ―――これで決勝進出だ、と。




 ワダツミ、完落ちを表現出来るようになるまであと1試合。プライド的に格が低いんじゃ許せないって伝説ルールがあるからしゃーないね。

 というわけでヤナギの伝説はフリーザーでした、と。

 メタ話をするならヤナギ側の事情を知っていて協力しているというアレ。ただやっぱ、準伝と伝説ではランクが違うから勝てないよ、というお話。そもそも正攻法で戦うとなると赤帽子出勤時点でゲムオバなので次点でこれが最善策というお話で。

 ある意味で予定調和。お爺ちゃん、勝たなくてもいいからね。

 老兵は静かに去るのみ。
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