目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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最強への道

 ……流石に疲れた。

 

 本日の対戦が終了して手続きやインタビューで拘束されてから数時間、漸く帰れるはずなのだが、

 

 それでもこれから何が起きるかは大体予想がついている。

 

 ヤナギとの試合が終わり、スタジアムの裏口からホテルへと向かって移動しようとするが、既に裏口のほうへと回り込んでいた参加できなかった大量の記者やレポーターが道を塞ぐように待ち構えており、カメラとマイクを一斉に此方へと向けて、インタビューを取ろうとしている。まるで光に群がってくる虫を思い出させるその勢いに辟易としつつ、ゴーグルを落としたまま、人混みをかき分けるように歩く。今迄は裏口はセーフだったのだが、ついにバレてしまったあー、なんて事を思う。

 

「決勝進出おめでとうございます―――」

 

「ありがとう、君何歳? ポケギアID持ってる?」

 

「オニキス選手に質問です! オニキス選手は―――」

 

「24歳、彼女募集中です」

 

「すいません―――」

 

「謝れるのは人間として出来ている証拠だから誇りに思うといいよ。俺? ハハッ!」

 

「真面目に―――」

 

「答えてるから問題ないな。んじゃ、ワダツミ」

 

「了解」

 

 背後で今まで気配を殺していたワダツミが一瞬で隣へと移動し、体を抱き上げるとそのまま跳躍し、近くのビルの上へと飛び乗る。それに反応するようにレポーターやカメラマンたちが飛行ポケモンを取り出し、追いかけてくる。こいつら、少々アグレッシブすぎやしないか? そんな事を思いながらワダツミに抱きかかえられるような形で高速でホテルへと向かって移動を開始する。後ろから飛行ポケモンに乗った姿が追いかけてくるが、テレポート級の速度で移動するワダツミに追いつけるわけもなく、ガンガンと引き離し、一気にホテルの屋上に着地する。ヘリポートになっているホテルの屋上は許可なしではレポーターたちの入る事の出来ない領域だ。ワダツミから降りながらレポーターたちに残念、さようなら、と挑発するように手を振りながらエレベーターの中へと入る。

 

 そのまま自分が借りている部屋へと迷う事無く移動し、倒れ込む様にベッドに体を預ける。

 

 疲れた。流石に疲れた。物凄い疲れた。一日二試合ってのが今のペースだ。だけど、たった二試合。それだけで全身から力が抜けるように疲れている。想像以上に集中しているのかもしれない。ゴーグルを外す事さえ面倒でそのまま、ベッドに沈み込む。気持ちがいい。流石ロイヤルスイートだ、ベッドはふかふか、アロマでリラックスできるし、ルームサービスだって好きなだけ頼める。エンジュシティの旅館も中々なものだったが、それでもここはグレードが違う。セキエイ高原の中でもぶっとんだレベルの高級ホテルである事に偽りはない。もう、このまま眠ってしまいそう。

 

「主……主よ……」

 

 ワダツミが何かを言って来るが、それを無視して目を閉じる。疲れているのだ。

 

『主よ……聞こえますか……今……私は貴方の心へと直接語りかけています……聞こえていますか……? き、聞こえていますか……?』

 

「芸が細かいなぁ! クッソ! ツッコミしたから起きちまったよ!!」

 

 体を勢いよく起き上がらせて振り返ると、ベッドの前の空間、というか床の上に正座するワダツミの姿が見えた。あぁ、そういえばボールの中へと戻すのを忘れていたな、と思い出す。いや、だが、待て。軽く眠気と疲れのせいで脳味噌が働かないだけで、なんでワダツミは正座なんかしているのだ。もっと、この駄鳥の属性ってツンツンしている自信過剰なタイプではなかったか? なんというか、大人しく正座している姿は新鮮であり、違和感のある光景だった。しかもさっき、”貴様”や”お前”ではなく”主”呼びではなかっただろうか? 予想以上に真面目な話だということに気付き、ゴーグルを外し、ベッドサイドテーブルにゴーグルを、横の床にジャケットを脱ぎ捨てながらベッドの上で胡坐を組み、膝に頬杖をついてワダツミを見下ろす様に視線を向ける。

 

「……で、なによ」

 

「いえ、今回の試合を通し、主の実力を、そして”格”を改めて確認させていただきました。始めは無名の者にはたとえ力を認めようとも……とは思っておりましたが、ですが此度の戦いを通して理解しました。力だけではなく、我が主はこの地方、いえ、世界に轟くだけの名を持つ、王者の風格を纏う事の出来る者であると。故にこれからは態度を改め、真に主として仰ごうかと思っています。戦いであろうと、伽であろうと、ご自由に我が身を扱いください」

 

「……」

 

 ワダツミの発言と、そして態度の急変に言葉が出ない。

 

なーお(なんだあれ)

 

『エンジュ系という事でなんだか若干キャラを喰われている気がします』

 

『あー……黒尾は巫女系で御座るからキャラ喰いあっているで御座るからなぁ……』

 

ガオー(そういう)ガーオ(問題じゃ)(ない)

 

 ゆっくりと頭を下げ、臣下としての礼を取るワダツミの姿を見て、この娘に対してどういうリアクションを取るべきなのか、一瞬困る。だが一瞬だけだ。何時も通り扱っていればそれでいいのだろうと即座に判断する。まぁ、素直になったのだから、それだけ前よりはいい感じになったのだと思えばいいのだ。自由に動かせる伝説のポケモンを得た。そう思えばいいではないか。

 

「あ、ちなみに私はオニキスちゃんがマジでポケモンマスターになるまでは何もアクションは見せないからね! こればかりはずっとずっと前から言っている事だし解っているよね?」

 

 近くの影から出現したギラ子はそう言うと飛び出し、ワダツミの隣へと着地し、ポーズを決める。ワダツミとは違い、ギラ子は既にボールで捕まえてあるのだが―――それはほとんど機能していないのも同じだ。ギラ子の空間干渉能力ではボールの中に拘束し続ける事が出来ないからだ。だからギラ子の状態は現状、ほとんど野生の状態とは変わりがない。だから思っている、

 

 ―――ギラ子に関しては、ポケモンマスターになってから、もう一度勝負する必要があるんじゃないか、と。

 

 たぶんギラ子もそれをこっちが察しているから何も言わないのだろう。だからこっちからも何も言わず、腰へと手を伸ばし、そこからホウオウの入っているボールを取り出す。ボールの中に入っているホウオウは軽く封印されている様な状態になっている。ボールを破壊出来ないような工夫なのだろう。それを手に取り、どうしたもんか、と思う。

 

「んー、ホウホウちゃんはボールから出さない方がいいよ? 今人類に対する殺意マシマシだと思うから」

 

「主、主。虚空の主と同意します。我の旧友ですが、どうやら長年その中に封じ込められていたようで、解放と同時に激しく暴れる可能性が高いです。というかほぼ確実に大暴れしそうです。抜け出せない様に弱めた状態で封印しているのが相当怒らせている様で、話を聞きだすにはまず最初に倒さないと無理そうです」

 

「じゃポケモンリーグ終わった後でやるか……」

 

 ホウオウのモンスターボールをしまう。どう足掻いても今はホウオウをどうこうする予定は組めない。そんな余裕はない。明日に待っているのはポケモンリーグ決勝戦―――つまりは最強のトレーナーを決める戦いだ。それに勝利する事で漸く、ジョウト・カントー最強のトレーナーという称号を得る事が出来る。それを得て初めて、四天王とチャンピオンと戦う事が出来る。この五人に勝利する事でポケモンマスターという”ポケモンバトルを極めた者”という意味の称号を手に入る。長く、辛く、そして険しい戦いだが、

 

 負けない。負けたくない。勝つんだ、絶対に。その願いを叶える為に戦い続けているんだ。

 

 が、今は休むべきだ。そう思い、再びベッドに倒れようとしたところでポケギアに通信が入ってくる。そこに出てくる人物の名を確認する―――シルバーだった。僅かに戻ってきていた眠気を吹き飛ばしながらポケギアの通信機能をオンにする。

 

「はい、此方オニキス」

 

『……久しぶりだな。大会の様子を見ていたぞ。まぁ、仮にも俺に戦いを教えると豪語したんだ、これぐらい戦えなくては困るんだがな』

 

『おい、お前そんな事言って勝った時は凄い喜んでたじゃねーか』

 

『煩い! 黙ってろ!』

 

『素直じゃないわねー』

 

『ツンデレって奴かしら』

 

 どうやら今のシルバーの周りには良い友人が集まっているらしく、ワイワイガヤガヤとシルバーの背後からゴールドや、知らない女たちの声がする。そういえばシルバーは元々ヤナギを、仮面の男を追いかけていたのだ。となると、リーグで敗北したヤナギをシルバーは追いかけたのだろうか? となるとあの銀の羽の使い道が少々気になる。虹色の羽、銀の羽は本来ホウオウとルギアと出会う為の道具だ。相応しき運命の持ち主へと渡る様に、そういう願いの込められた道具だから、それ以上の効果は持っていない様な気もするのだが、

 

『結論から言えば―――戦いは全部終わった。それだけだ』

 

 そうか、終わってしまったのか。ヤナギのあの去り際の姿から、大体どういう結末だったかは、想像しやすい。

 

「……そっか、お疲れ様。俺は今セキエイ高原から出る事が出来ないから言葉だけで祝福しておくよ。どうだ、唯一神は役に立った?」

 

『駄犬っぷりは嫌でも理解させられた……が、もう必要もない。近いうちに返す』

 

「別に急がなくてもいいよ、どうせチャンピオン倒すまではセキエイ高原から出れないしな」

 

『くくく、自信たっぷりだな』

 

「違うなぁ、俺の方が強いってだけの話なんだよ。オラ、全部終わったんならポケモンを返すだどーのこーのより、こっちに来て顔を見せろ。またポケモンについて教えてやっから。後明日は祝勝会の予定だから、絶対に遅れるなよ?」

 

『ここまで来ると清々しいまでの自信だな』

 

『とか言いつつお前笑ってるよな』

 

『やっぱりツンデレさんかしら』

 

『やーいツンデレやーい』

 

『う! る! さ! い! ぞ! 貴様らぁ!』

 

 どうやら本当に良い友達をシルバーは持てたらしい。ボスからも、シルバーからも親子の話に関しては一切、何も聞いていない。だけどシルバーがこの調子なら、きっと悪い事は何もないのだろう。なんだかんだで優しい子だ、そしてボスもああ見えて不器用なだけだ、それをお互いが理解さえして、仲を取り持ってくれる理解者がいれば、繋がる事はそう難しくはない。そして友達がいる今のシルバーに、それは、決して幻想なんかじゃないと思える。

 

「じゃ、俺は明日に備えて一眠りしてからデータ見直したりする作業があっから、好きな時に俺に頼ったり、遊びに来いよ? じゃあな」

 

『あぁ』

 

 ポケギアを切り、装着していたそれを外し、ベッドサイドテーブルへと放り投げる。

 

 決勝戦の相手は既にでている。

 

 ―――ダークタイプ使いのエヴァ。

 

 18m級クレベース、

 

 天賦ニドキング、

 

 天賦デルタ悪オーダイル、

 

 ダーク個体色違いバンギラス、

 

 ダーク個体サザンドラ、

 

 ダーク個体デルタ鋼ゴルーグ、

 

 ダーク個体ギャラドス、

 

 ダーク個体ドサイドン。

 

 ―――これがエヴァがこのポケモンリーグに登録した手持ちであり、ポケモンでもある。基本的に試合に出すダーク個体は今回のリーグを通して”公式戦で数制限された”為、一試合に三体までしか出す事が出来なくなった。エヴァが繰り出すダーク個体はそれほどまでに極悪であり、制限を必要とするほどに狂ったバランスの戦力だった。ダークタイプは全てのタイプに対して効果抜群を与え、受ける時は今一つだ。全てが効果抜群の攻撃になる為、相性補完や受けポケによる受けループなんてものが成立しない―――それがダークタイプというタイプの恐ろしさだ。それに恐ろしいことに、ダークタイプで受け戦術まで彼女は手を伸ばしている。

 

 ダークタイプであれば他のポケモンに対してはどれでも受けで出られる為、誰を出そうが構わない、という恐ろしい事実がある。

 

 ―――この攻略は難しいし、今まで以上に苦しい戦いになるだろうが、

 

 今は眠い。

 

 明日の戦いが待っている。今は寝て、そして休もう。

 

 そう思い、片手で招き寄せるように手を振ると、ギラ子と睨み合っていたワダツミが近寄ってくる。近寄ってきた姿を抱き寄せ、ひんやりとしたその体の涼しさと感触を楽しみつつ、抱き枕がわりにし、

 

「お休み……二時間経過したら起こして……」

 

「えっ」

 

 そのまま目を瞑る事にした。




 NEXT! vsダークパ!

 異常個体か天賦かダークタイプしかいないという環境ブレイカー。だけど良く考えるとオニキスの手持ちも割と異常個体しかいねぇなぁ! って状況なので何も言えなくなった。

 おそらく次回は1ミスが敗北に繋がる戦いになるでしょう。

 出るか、奥の手! と言う事でシルバー君の周りにほっこりしつつ次回。

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