目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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ポケモンリーグ決勝戦

「―――あぁ、大丈夫だ、俺は、いける」

 

 ゴーグルを装着する。

 

 両手にグローブを装備する。

 

 ミリタリージャケットに袖を通す。

 

 ボールベルトに持っているポケモンを全て装着する。そこには勿論ワダツミと、そしてホウオウのモンスターボールもある。レギュレーション的に参加は出来ないが、それでも世界最高の舞台へと今から行くのだ、その雰囲気の欠片でも味あわせてあげたい。

 

 ブーツに足を通し、出かける準備は完全に完了した。両手をコートのポケットの中へと入れ、そしてホテルの部屋を出る。そのままエレベーターに乗り、ロビーへと出る。周りの宿泊客から突き刺さる視線を威圧のみで追い払い、ホテルを出る。正面、ホテルから出てくるのを待ち構えるレポーターや記者の姿がある。それを一瞥し、殺気の存在しない、純粋な闘志のみを刃として集団に突き刺す。

 

「邪魔だ、退け」

 

 動きが止まり、道が開く。誰も何も反応しない空間の中で、モーセが海を割ったかのように、人波を割って前へと進む。煩わしいインタビューも、取材も、それらすべてが反応できずに動きを止めている。最近はうろちょろと面倒だったし、ざまぁみろ―――と全く思う事はない。正直興味すらない。視界の端に入れる予定すらもない。この程度の連中に関わっている様な余裕が、今日ばかりはないのだ。だから、神経は既にこれから起きるバトルへと向けて、注がれている。

 

『今日は相当”キレ”てるわねぇ。ボス並とはいかなくても、結構いい感じに読めそうね』

 

『流石です主』

 

なおー(駄鳥)……』

 

 セキエイ高原の街並みを特に気にする事もなく歩き、そのままセキエイスタジアムの裏手からスタジアム内へと入り、ゆっくり、ゆっくりと歩きながら思考を作って行く。ずっと、昨夜から今まで、どうやって戦うか、どうやって対応するか、その事ばかりを考えている。誰を、バトルに出す6人をどうするか、というのも凄まじく悩んだ。悩んで悩んで、凄い悩んで、そして今でも悩んでいる。ここで負ける事は出来ない。背負っているのは自分の思いだけじゃないのだ。

 

 戦い、そして敗北してきたトレーナー達の無念を背負っているのだ。

 

 負けたくない。

 

「負けたく、ない」

 

『えぇ、そうですね。負けたくはありませんね。積み重ねてきたもの全てが一瞬で否定されてしまう、それもまたポケモンバトルですから』

 

 トキワの森でボスに救われてから、黒いロコンと出会ってから、イーブイに出会ってから、カントーを出てから、他の皆に出会って、考えて、育成して、試して、失敗して、成功して―――そしてトレーナーとして七年の歳月を重ねて、漸く”オニキス”というトレーナーは完成した。そんな気がする。赤帽子や緑色みたいに一年でポケモンリーグ制覇してチャンピオン、と行けるまでの才能はなかった。だけどこの七年で、ポケモントレーナーとして自分を極限まで完成させた。ぶっちゃけてしまえば、育成能力、身体能力に関してはもうこれ以上成長のしようがないと判断している。後は経験を積んで、読みの精度を上げるだけ。それしかないのだ。

 

 気づけば何時の間にかスタジアムのフィールドへと続く廊下を歩いていた。スタッフがゴーサインを出している為、出てもまったく問題ないのだろうと思う。故に歩いて、ホテルの時から変わらない歩みで手をポケットに入れたまま、通路を抜け、そして広い、晴天の下へと出る。姿が衆目にさらされるのと同時に爆発する様な声が響き渡る。この数日で何度も耳にしている間に聞きなれてしまった、迎える声と拒絶する声。勝手だ。究極的に勝手だ。勝ってほしい。負けてほしい。プライドや信念を無視してそんな事を会場の人間は言葉を吐きだす。

 

 それが心地よい。

 

 なぜかは解らない。だがフィールドへと移動している間に、妙に聞き覚えのある声ばかりがピックアップされて耳に引っかかる。

 

「負けるんじゃねーぞオニキスボーイ!」

 

「四天王戦で待っているぞ!」

 

「私の分もしっかり戦いなさい」

 

 ロケット団に所属する三人のジムリーダーの声だ。マチスと、キョウと、そしてナツメ。三人には感謝している。マチスとキョウはボスと一緒にポケモントレーナーのイロハを教えてくれた人物だ。年長者でありながら此方に対してあまり、子供のような扱いをせず、ポケモントレーナーになった時は、立派な大人として扱ってくれた。ナツメは貴重な同年代のトレーナーだった。サイコメトリーが出来るから唯一、俺の心の中身を全部知っているのに―――それでも何も言わず、何も変わらず、ずっとそのままでいてくれた。その姿に救われたのは一度だけではない。

 

「負けるなぁ!! かっこいい所見せろー!」

 

「貴様を倒すのは俺だ! 負ける事は許さんぞ!」

 

 シルバー、そしてゴールドの声だ。そこまで関わったわけでもないのに、シルバー、そしてゴールドは本気で声援を送ってきてくれている。その声に混じる期待の熱が背中を押してくれる。そう、自分は今、誰かの後ろを追うだけではない。誰かの前に立ち、”規範”として憧れの的になっているのだ。この試合だって何十、何百、何千、何万というこのジョウトとカントーの住民たちに見られているのだ。この戦いを見てポケモンバトルの憧れに目覚める人間だっている。

 

 私、俺は、あんな風になりたい。

 

 その夢を与える立場でもあるのだ。

 

 ―――フィールドの端へと到着する。フィールドの反対側にトレーナーの姿が見える。長い銀髪に黒いワンピース、赤いツインリボンで髪を飾る女の姿だ。年齢はおそらく自分と同じ二十代中盤ぐらい、その眼は此方の様に炎でギラついている。あぁ、そうだ、この状況で燃えないトレーナーなんかいないだろうよ。男も、女も、関係ない。関係ないのだ。ポケモントレーナーである事に必要なのは闘志と、そしてポケモンだけだ。

 

『……毎年、この時になると妙な寂しさが胸に浮かび上がります。これで決まってしまうのかと……そしてこれで始まるのかと、そう思うと複雑な気持ちがどうしても胸に浮かび上がるんです! さあ、やってまいりました! ポケモンマスターリーグ、決勝戦! ジョウト地方、そしてカントー地方最強のトレーナーを決定し、四天王への挑戦権を得る為の最強にのみ許された権利! それを! 獲得する為の! 勝負!』

 

『これでポケモン協会には雇われていない、フリー、或いはスポンサー付きの企業トレーナーで最強の者が決定するのう……』

 

『とはいえ、今年勝ち残った二人はスポンサーがついていても立場はフリーのトレーナーのようです』

 

 心臓がバクバクと音を鳴らしている。血が湧きたつ。頭がクリアになって行く。酸素を求めて口を開けば、それだけ口の中が乾燥して目の奥がチリチリする。らしくもなく緊張しているのかもしれない。あぁ、仕方がない。仕方がないだろう、だってこの舞台にずっと前から立ちたかったのだ、夢見ていたのだ、ここに立つ事を。そしてここから始める事を。誰もがそれを理解してくれる筈だ、ここに立つ事は、トレーナーとしての夢なんだから。

 

『―――エヴァ選手はおなじみダークポケモン使い! そのあまりの凶悪さ故に本来は捕獲されてもトレーナーを殺すという暴君達をなんとエヴァ選手は複数率い、そして完全に統率している! もはやそれだけでわかる、ただものじゃないという事は! ダークポケモンの耐性を利用した居座り戦術―――なんて事を彼女はしない! 一切の慢心もなく、最善の手を狙って殺意を突き立ててくる!』

 

 エヴァへと視線を向け、目が合う。

 

 ―――それだけで心を通わせた気がする。きっと、彼女とは良い友人になれる。

 

 この戦いが終わればだが。

 

『―――オニキス選手は独自の天候使い! もはや疑う必要はない、カントー・ジョウト、いや、おそらくこの世界で最強の天候パ使いは間違いなくこの男だ! 徹底的に天候を支配してアドバンテージを奪い続けるこの男こそが”天災”の名に相応しいと魂で理解した! ”暴君”エヴァvs”天災”オニキス、どちらもポケモンの強さに関しては”異常”の一言に尽きるキチガイレベルだ!! さあ、またせたな皆! そろそろ始めようか、このリーグに決着を! そして新たな始まりの為に!!』

 

 声が聞こえた。視線を持ち上げ、そして会場の客席にある入口の方へと視線を向けた。

 

 ―――そこには黒いロングコートに、ボルサリーノ帽姿の男がいた。

 

 音もなく、唇が動く。

 

 ―――勝て。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ―――!!」

 

『それでは―――』

 

「あぁぁぁ―――!!!」

 

 自分も相手も、馬鹿のように叫びながらボールを取り出し、

 

『―――決勝戦! 開始ィ―――!!』

 

 その中におさめられたポケモンを繰り出した。

 

「災花ァ―――!!」

 

「キングゥ―――!!」

 

 繰り出されたのは白い服装のアブソル―――災花、そして相手のフィールドに出現したのは紫色のパーカーにミニスカート姿の亜人種のポケモン、ニドキング―――天賦のニドキングだ。フィールドにニドキングが降り立つのと同時に天賦のプレッシャーが、そして暴君の覇気がフィールドを押しつぶすように展開される。エヴァのパーティーは全てが”狂個体”と呼べるトレーナーにはほぼ制御できない、凶暴なポケモンであり、それはこのニドキングも例外ではない。凶暴性故に容赦なく競技であっても”殺しに来る”ポケモンだ。災花の耐久であれば間違いなく一撃で殺してくる様な相手だ。故に、最初から遠慮はしない。切り札は全て繰り出す。奥の手を叩き込む。

 

 ―――何故、この試合に至るまで災花を試合でほとんど使わなかったかを教える。

 

「さあ、始めるわよ。私は不幸の女―――相手にとってはね」

 

 因果が歪む。二律背反が発動する。触れられないと触れられるという境目が破壊され、運気に災花が触れ、それが調律される。極限までの幸運を自陣へと呼びこみ、そして不幸を相手へと押し付ける。目に見えない、触れる事も出来ない、だけど確かに存在する、理不尽な状況を生み出す。天運を持たぬ故に生み出した、天運を獲得する方法。

 

 天候使いであれば、空間を支配しろ。

 

 ニドキングが大地を砕きながら踏み込んでくる。ばくれつパンチだろうか? 凄まじく鍛えられており、普通であれば外す可能性を持っているそれも、良く鍛えられたポケモンである為、ブレずに真っ直ぐ災花へと向かって突き進んでくる。

 

 それを災花は偶然にも回避成功する。

 

 天運を引き寄せて災花は回避し、すれ違いざまに確定された急所の一撃をニドキングへと叩き込んだ。首を裂く様に放たれた一撃は大きくニドキングの体力を奪う。奇襲が成功した所で災花のバトン効果は発動しない。故に手動で災花をボールの中へと戻す。

 

「戻れ―――」

 

 そして戻した所で次のポケモンを、黒尾をフィールドへと放つ。出現と同時に天を夜に染め上げた黒尾が着地するのと同時に、咆哮するニドキングが一直線に黒尾へと迫り、そしてその拳を叩き込んできた。それを黒尾は受け、吹き飛びながら耐えた。その身に纏っている持ち物は気合いのタスキである為、この一撃だけは何が何でも耐え切る。そしてきつねびを黒尾が放ち、フィールドに残留する炎が生み出される。夜になったことで天候バトンが発生する。黒尾が闇の中へと溶けて行きながらバトンを交代し、能力を上昇させながら再びバトンを災花へと回し、災花をフィールドへと放つ。

 

「さ、真剣勝負の時かしら?」

 

 災花が一瞬でニドキングへと接近し、ニドキングが反応するように先に回り込む。横へと回り込んだニドキングの攻撃に体を掠らせるように回避しながら、つじぎりがニドキングへと叩き込まれる。それをニドキングは耐え切りながら三連続でばくれつパンチを高速で叩き込んでくる。それを目を瞑り、自身の行く末を天運に任せて災花は回避し、腕を交差させるようにニドキングの背後へと抜けるようにつじぎりを繰り出す。重なった二撃のつじぎりをニドキングへと通すが、ニドキングは睨む様な視線を災花へと向ける。まだまだ体力は残っている、と言う事だろうか。いや、”ダメージが見えない”だけだ。確実に倒れるのに近づいている。

 

 ニドキングのばくれつパンチが災花へと迫り―――再び災花が回避するが、そろそろ”乱数”的に攻撃が当たる確率が高くなってくる。迷わずバトン効果を発動させ、攻撃後に闇の中へと溶けるように災花をボールの中へと戻ってこさせる。入れ替わるようにボールをスナップさせ、交代させ、そして繰り出す。

 

「―――狩れ」

 

「はぁーい!」

 

 甘ったるい、熱の籠った声を響かせながら天賦殺しが出てくる。クイーンが殺すべき天賦を前に嗜虐的な笑みを浮かべ、その殺意を目印に攻撃を必中へと導く。殺意のマークを終えたクイーンがニドキングの天賦の隙を取り、一直線に駆け抜けながら姿を飛ばし、振り下ろすようにドラゴンダイブを放つ。ニドキングの背後に立ったクイーンは満足げな息を吐きながら仕留めたニドキングを一瞥する事もなく、ボールの中へと帰って行く。ボールを更にスナップさせ、次のボールを手に取る。倒れたニドキングをエヴァが回収する。クイーンを戻しつつ次は何が来ると思案する。が、結論は出ない。

 

 故に蛮を出す。

 

「行け、蛮ちゃん!」

 

「潰せギガース!!」

 

 それと同時に相手が出したのはバンギラスだった。此方は通常の個体よりも小さい姿のバンギラスであり、相手は通常よりも1mも大きい、3m級のバンギラス。”大きいは強い”の法則はポケモンの世界では当たり前の法則だ。故にこのダークバンギラスは強い、当たり前のように強い。出現しただけで周囲へと振り撒く殺気が、それが此方の心臓を突き刺し、殺しに来ている。だがその程度の殺意、殺気、死の恐怖であればボスに最初に叩き込まれている。何度も吐きながら経験し、体にそれは友人であると覚えさせた。それは勿論、自分のポケモン達にでもある。故に殺意は寧ろ心地よい。実家に帰ってきたような温かみすら感じる。

 

 蛮が場に出た事で砂嵐が荒れ狂う。一瞬で大地は砂で埋まり始める。

 

「天候支配の発展系―――”浸水”から得て作った……環境支配、完成形……!」

 

 そして、砂嵐は砂漠へと進化した。大地が砂に覆われ、移動を制限する―――その為に育成されたポケモン以外を。当たり前のように砂漠に適応した蛮が吠え、そしてそれに応えるように黒いバンギラスが吠え返す。凄まじい戦意のぶつかり合いが始まり、会場の防壁を貫通して気当たりを辺りへとばらまいている。それに一切頓着する事無く指示を出す。

 

 蛮がステルスロックを撒き、中指を黒いバンギラスへと向けながら消えるように砂嵐の中へと溶けて行く。

 

「!? グルルルゥゥァァァァァァ!!」

 

ガーオ(バーカ)ガガガオ(正面から)ギャオー(戦うかよ)

 

「ゴギャアアア―――!!」

 

 去り際に蛮の挑発が決まる。ステルスロックと挑発を成功させた蛮は天候バトン効果で強化を引き継ぎながら次のポケモンへと流れを作る。それを繋げるように素早く次のポケモンを―――クイーンを繰り出す。出現と同時にエアロックを発動させたクイーンがハルバードにエアロックで解除した砂嵐を纏め、それを振り上げる。

 

「戻れ! 行け、機械王!」

 

 寸前、黒いバンギラスが戻され、違うポケモンが―――ダーク個体のゴルーグが繰り出される。一直線に振るわれたハルバードは大地の力を吸収し、地面タイプの究極技となって斬撃をゴルーグへと刻んだ。それを受けて十メートル程後方へとゴルーグは下がるが、その衝撃を完全に耐え抜き、そして立った。それを確認しつつクイーンは相手の耐性を破壊した感触にボールの中へと戻って行く。

 

「相手が天賦(カモ)じゃないと今一ノリが悪いですわね……ああいうのはサザラさんやアッシュさんにお任せしますわ。お二方ならなんとかなるかもしれませんわね」

 

「成程な」

 

 クイーンがボールに戻るのと同様、相手もゴルーグをボールの中へと戻して行く。バトンを回しながら天候を変化させるために再び、蛮を繰り出す。砂漠に適応するように砂嵐が荒れ狂う中で、相手も同時に新しいポケモンの姿を繰り出す。

 

 ―――それは巨大だった。

 

 ひたすら巨大で、プレッシャーの塊、そして無差別にそこに存在するだけで冷気を振りまくポケモン、18m級のクレベースだった。ありえないほどの巨大なサイズはモビー・ディックを思い出させるが、元々ホエルオーという種族はデカイものだ―――クレベースはここまで大きくはない、異常に発達し過ぎだ。ステルスロックをダーク対策に撒いたが、クレベースが出現と同時にそれを踏み潰し、破壊してしまっている。黒いバンギラスとゴルーグには成功したが、このクレベースは巨大すぎて、きつねびが効果を全く見せていない。

 

 ―――交代は出来ない。

 

 ここでこいつを潰さなくてはならない。

 

「ゴォォォォォォォ―――」

 

 指示を出す。

 

 それに反応するように咆哮を轟かせた蛮が正面からクレベースへと突貫する。反応するようにクレベースがジャンプする姿は早い―――少なくとも数値で言うS80級の速度を持っていた。が、それよりも早く接近した蛮は跳躍し、飛び上ったクレベースの顔面を掴み、

 

「ぐ、ぐる、グルゥォォォォ―――!!」

 

 ばかぢからに任せて空中で振り回し、そのまま落下するように大地へと叩きつけた。フィールドそのものを粉砕し、砂漠の砂を一気に巻き上げさせる。その中で立って蛮が全力の拳をクレベースへと叩き込み、自分の9倍近くはあるであろう姿を殴り飛ばした。バンギラスとして最も正しく、そして最も王道な戦い方。ひたすら肉弾に特化した重戦車。見た目は小さいが、外側に育つはずだった筋力を異常圧縮させて進化させた蛮はその見た目にはそぐわない、凄まじいまでの筋力を持っており、それがクレベースを殴り飛ばす等という暴挙を許したが、

 

 クレベースも普通ではない。

 

 蛮の攻撃をダメージを喰らいながらだが、耐え抜いた。

 

 砂漠に霰が降り始める。クレベースの周囲をふぶきが竜巻の様に狂いながら蛮へと向かって来る。それに対して迷う事無く残った砂嵐の残滓を利用し、天候バトン効果で蛮を戻し、そしてナイトを繰り出す。交代する様に入れ替わられたナイトへと向かってふぶきの竜巻が衝突し、それによって舞い上げられた体にクレベースが体当たりを繰り出す。弾丸のように飛ばされたナイトがフィールドの端へと吹き飛ばされ、大地を転がりながら立った。

 

なお(やれやれ)……なーお(ハードだな)

 

 つきのひかりでナイトがその体力を回復させる。が、それはクレベースも同様で、一気に自己再生で体力を回復し始めている。……間違いなくクレベースを出しているのはアッシュを誘っているからだ。ここでアッシュを出せば、間違いなく狩られると予感する―――だからこの戦いでの選抜メンバーにアッシュを入れておかなくてある意味正解だったかもしれない。

 

 ナイトをバトン効果で交代させ、そしてポケモンを入れ替える。

 

「行け、黒尾!」

 

 黒尾がフィールドに出る。クレベースと黒尾が正面から対峙し―――そして黒尾が動くことなく放った焔がVの字を描き、それで砂漠そのものを吹き飛ばすように一気に最大熱量を放つ。一瞬で広がる業火がフィールド全体、そしてクレベースを飲み込んだ。Vジェネレートの発動にクレベースの弱点が貫通されるが、それはクレベースを倒すには至らない。クレベースが一気に接近し、その巨体で黒尾を弾き飛ばし―――一撃で撃破する。

 

 同時に、その体から伸びた闇がクレベースの巨体を足元から掴み、その魂を奪って諸共滅ぶ。

 

 みちづれが成功し、黒尾の犠牲でクレベースが落とされる。Vジェネレートを喰らっても倒れないクレベース―――そんな異常個体、まともに相手はしていられない。耐性破壊をする必要のない相手であるのにここまで手古摺らせられた―――ダークポケモンの影に隠れがちだが、やはりクレベースや天賦のポケモンもかなり恐ろしい。黒尾をボールの中へと戻し、ボールを手に取る。その中身を相手と同時に放つ。

 

 災花がフィールドに立ち、そして相対するように黒いバンギラスが立った。ダークタイプは辛い相手だ―――何よりまだ相手の手札が二体程露見していない。終盤まで隠し通そうとしているのは見えている為、此方も見えている札で対応するしかない。とはいえ、ポケモンが少なくなればなるほど不利になって行くのが交代戦術だ。此方は段々と追い込まれて行く。それよりも早く相手を沈める必要がある。

 

「回すわ」

 

 剣の舞を行い、災花が素早く闇の中へと沈み、姿を消してバトンを繋ぐ。代わりに出現するのは―――蛮だ、火の海だった環境は砂嵐によって埋め尽くされ、再び砂漠と砂嵐が支配する環境に戻る。蛮の出現を見た黒いバンギラスが吠えながら一瞬で蛮へと接近し、その拳を蛮へと叩きつける。それを蛮は両足で踏ん張って堪え、片手で叩きつけられた拳を握り、そのまま引くように黒いバンギラスを倒し、上へと投げ、顔面を掴み、そしてクレベースに行ったように、大地へと体重を乗せながら叩きつけた。プロレス染みている”受けてから殴る”というスタイルは蛮のその肉体への自信から来るものだ。

 

「どうするどうするどうするか―――」

 

 呟きながらも指示をする事を止めない。回避動作に入った蛮が黒いバンギラスのフックを回避し、そのままジャブからアッパーを叩き込み、足払いからの背負い投げで黒いバンギラスを投げ飛ばす。それに反応した黒いバンギラスが空中で体勢を整え直し、その間に蛮が中指を立て、挑発しながらステルスロックを撒き、砂嵐の中へと消えて行く。キレた黒いバンギラスが咆哮し、大地を揺らす程に踏みつけている。バトンを繋げ、ポケモンを蛮から災花へと受け継ぐ。フィールドへと出てきた災花は即座に追いかけてきた黒いバンギラスの攻撃を回避し、そのままカウンターにつじぎりを叩き込み、その流れから不意打ちを叩き込んでバトン効果を発動させる。

 

「こんにちわ、貴方は壊れないでくれるかしら?」

 

 クイーンがエアロックで砂嵐を吸収し、キャンセルしながら大地の力を纏って相性破壊の一撃を繰り出す。それに合わせるように相手がポケモンを入れ替える、黒いバンギラスからゴルーグへとポケモンが入れ替わり、大斬撃がゴルーグへと突き刺さる。それはゴルーグの姿を吹き飛ばすが―――耐えられる。

 

「この感触……”がんじょう”ですわね。どうやら体力が減ってようが強制的に発動するタイプですわ。削り甲斐がありますわぁ」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべながらクイーンがボールの中へと戻って行く。それに合わせるようにゴルーグもボールの中へ。バトンを交代させながら砂嵐の消えた中で、災花を放つ。それに合わせる様に繰り出されたのは、

 

「グギャァァァァァァァ」

 

「グルルルァァァァァァ」

 

「ゴガァッォォォォ―――!!」

 

 三つ首の竜―――悪竜サザンドラのダーク個体だった。災花を場に出した瞬間、しまった、と判断する。バトン効果は”最低限1行動”行わないと発動できないし、交代するにはタイミングが悪すぎる―――体が動きに追いつかない。

 

「避けろ災花!」

 

「当てなさいブラッド!」

 

 サザンドラが吠えた。瞬間、”三倍量”の流星群がフィールド全体を蹂躙する様に降り注ぎ始めた。これがサザンドラというポケモンが”原生種”で人気な理由であり、育成が難しいと言われている理由。サザンドラは三つ首を持っている為、育成をちゃんとやれば、或いは高いレベルの育成を施せば、一部の技を三倍量で繰り出す事が出来る。その筆頭として有名なのはその育成方法を編み出したワタルであり、ワタルのサザンドラだろう。今、放たれた流星群には逃げ場がない。

 

 災花がフィールドに展開している”超幸運圏”を駆使しても必中の状況からは逃れられない。

 

「予言するわ……貴方、不幸よ」

 

 災花を流星群が叩き、一瞬で戦闘不能に追い込む。お疲れ様、そう言いながら災花をボールの中へと戻す。

 

 これで黒尾と災花、相手はクレベースとニドキングが落ちた。これで状況は4:4、中盤戦に入ったと言っていい。

 

 そろそろお互いにエースの出し時だ―――いや、そう判断したからこそサザンドラを出してきたのだろう。災花の入ったボールを戻しながら次に出すべきポケモン、それを瞬時に判断する。相手もサザンドラを居座らせるなんて愚は犯さず、ボールに戻しながらバトンを回している。息を吐きながら呼吸を、リズムを整え、頭の中で次の動きを思考しながらボールを手に取る。

 

「―――頼んだ蛮ちゃん―――!」

 

 まだエース(サザラ)は出せない。いや、相手に今回連れてきたエースがサザラかアッシュ、そのどちらかであるというのを相手に特定させたくはないのだ。サザラがフィールドに出れば、天候支配は完璧なものになる。サザラであれば行動毎に天候を指定し、それを支配する事が出来るからだ。だが逆に言えば手札が完全にバレると、何を繰り出せばいいのか、どう追い詰めればいいのか、それが解ってくるのだ。

 

ガーオ(これだけ)ガオー(長く)ガガオ(戦うのも)ガーオ(久しぶりだな)……!」

 

 普段であれば終盤戦に入っている様な長さなのに、まだ中盤戦が続いているのだ。それは長くもなる。今も考えるのに必死で、何時気を失うか解りそうにもない。

 

 ただそれでも、戦うのは止めない。

 

 それがトレーナーという生き物だから。

 

 相手のフィールドに出てきたのはゴルーグだった。正面から蛮とゴルーグがにらみ合い―――そして殴り合った。先に到達したのは蛮の拳であり、それがゴルーグを殴り抜き、吹き飛ばした。既にクイーンの手によってタイプ相性が破壊されている為、ゴルーグはダークタイプの耐性で守る事もできず、まともに攻撃を喰らい、吹き飛びそうな所を蛮に掴まれ、そのまま大地へと叩きつけられる。そこからストーンエッジを叩き込まれ、蛮が反撃を許さずにノーガードで戦う。

 

 そして蛮が攻撃を繰り出そうとするのに反応し、

 

 ゴルーグが爆裂した―――否、だいばくはつを放った。

 

 タイプ破壊されたのではもう受けとしては機能しないから、早めに大爆発を使って処理したのは寧ろ英断と言えるだろう。

 

「耐えろ蛮ちゃん!」

 

 蛮が指示に従い、歯を食いしばって耐えた。瀕死になったゴルーグがモンスターボールの中へと戻されて行き、それに合わせて此方も蛮をボールの中へと戻す。あと一撃でも喰らえば蛮はアウトだ。これで4:3だが―――実質的には3:3だ。それでもステルスロックときつねびで相手の火力と交代にプレッシャーを与えているという状況に関しては此方が一歩リードしていると言っても良い。何よりも相手のバンギラス、サザンドラに火傷で火力を封じ込めているのがリードしている点だ。

 

 ―――だが相手のラムのみ持ちが見えていない。

 

 となると温存しているのだろう、

 

 此方の様に。

 

「もう一度だ、潰せギガース!!」

 

 黒いバンギラスが繰り出される。それは満身創痍の蛮を目撃した瞬間、怒りで受けている状態異常をふきとばし、一直線に蛮へと向かって来る。素早く蛮のバトン効果を発動させ、蛮からバトンをナイトへと繋ぎ、ナイトを蛮の代わりにフィールドに出す。それで相手のバンギラスの動きは止まる事も緩む事もなく、

 

 全力のばかぢからがナイトを吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされたナイトは空中で体勢を整えながら着地し―――そして吠えた。

 

 強制的に黒いバンギラスがボールの中へと押し戻され、そしてそれと入れ替わるように一体のポケモンが場へと出現して来る。それは登場と同時に天候を砂嵐から大雨へと変え、きつねびを消沈させながら雨でステルスロックを洗い流し、雨の流れに乗ってやってきた、

 

 オーダイルだった。

 

 登場と同時に発生した津波が強制的にナイトを押し戻し、ボールの中へと押し込む。その代わりに強制的に蛮がフィールドへと引きずりだされる。強制的に引きずり出された影響ですなおこしが発動せず、そのままオーダイルのフィールドのまま、津波が蛮を襲い、一気に体力を奪い去った。そのままオーダイルが波に乗ってボールの中へと戻って行く。

 

「お疲れ蛮ちゃん、俺のミスだ……流石天賦、といった所か」

 

 ここが使い時だと判断し―――思考を加速させる。

 

 極限にまで思考を加速させた領域の中で考える。これで3:3、相手とは大体イーブンな状況になり、手札の内容も解ったと。相手の残りの手札は天賦オーダイル、ダークバンギラス、そしてダークサザンドラだ。特にさっきのオーダイルが厄介だ―――おそらくはダーク個体以上に。本来吠える等で強制的に引きずり出された場合、すなおこし等の天候変化は発生しない。が、それを先程のオーダイルは発生させていた。つまりは天賦だ。

 

 無理、無茶。無謀を現実へと変える才能の持ち主―――それが天賦(6V)個体だ。

 

 今のオーダイルを見た感じ、設置除去、天候変化、環境適応、雨天開幕攻撃、そして天候バトンが組まれて行った―――”アッシュと同じ”様な構成だ。いや、メガリザードンZという固有な上に種族値が飛び抜けている彼女と比べれば、オーダイルの個体値は低いだろうが、それでもあのオーダイルは完全にアッシュ、蛮、そしてナイトをメタっている。此方であのオーダイルにまともに対応できるのはクイーンぐらいだろう。サザラでも戦えるが、無駄に手間取るのは目に見えている。そしてナイトの場合、あの津波による強制交代が痛い。受けとしての役割を果たさせてくれない様に見える。

 

 あのオーダイルを今まで見せずに終盤までキープしていた理由はシンプルだ。

 

 終盤で出されると詰む可能性があるからだ。

 

 いやらしい、実にいやらしい構成だが―――最後の二体になる前に一回、引きずり出せたのは幸いだ。おかげで此方は詰まなくても済む。まだ勝てる―――勝てる可能性はある。ならここからはどうする? どうやって戦う? 簡単だ、相手はもうオーダイルを温存してこない。

 

 それを利用するしかないのだ。

 

 思考の加速が通常の領域へと戻ってくる。大量に体力を消耗しながらも、息を吐き、整え、そして次に繰り出すボールを握り、迷うことなく繰り出す。

 

「ナイト!」

 

 繰り出されたナイトに相対する様に出現するのは―――黒いバンギラスの存在だった。序盤から終盤まで、ずっと何度も登場しているバンギラス、流石ダーク個体としか言いようがない。なんて異常な耐久力を誇っているんだろうか。だがいい加減鬱陶しくなってきた。ここらで落としたいという気持ちもある。いや、先に落とさないと辛い。サザンドラと比べて気持ちの悪い程耐久力のあるこいつは、絶対に先に潰さないと駄目だ。だから、

 

「ナイト、おきみやげ」

 

なーお(チェック)

 

 ナイトのおきみやげがバンギラスを襲い、その姿から力を奪い、ナイトが倒れる。バンギラスの攻撃が空振り、倒れたナイトをボールで回収しながら次のボールを手に取る。次、どのポケモンを繰り出すべきか、”相手の次の行動が解る”から繰り出す。思考加速をさせた間に相手を追い込む方法は考え付いた。いや、理解した。故にシンプルにそれを実行する為にボールを取り、相手がポケモンを戻すのに合わせ、同時にポケモンを出す。

 

 此方はクイーン、

 

 そして相手はオーダイルを。

 

「ッ!?」

 

 おそらくエヴァの表情にはっきりとわかる驚きの表情は初めてだったかもしれない。

 

 ―――これがボスやヤナギが行う、経験や読みから来るチェックのかけ方。

 

 それは間違いなく妙手だった。そしてオーダイルを、天賦のオーダイルを前にクイーンが極上の獲物を見つけたと、殺意と情欲の視線で相手を捉え、殺すべき存在として一瞬で捉え、殺意のマーカーを完了させる。交代等の指示が入る前に、相手が天賦であるという事を理由に優先度を奪い、一瞬で接近したハルバードでその特性と能力を削り殺しながら振り抜いた。

 

「あ、は、あは、あはははははははぁ! あははははははははぁ―――! 貴方凄い! 天賦として凄い完成されているのね! 凄いわ! すっごく壊し甲斐がありそうなの! 素敵! ねぇ! 貴方を壊させてお願いしますわ!」

 

 オーダイルが豪雨の中を滑るように回避行動に入るが、まるでその逃げ場が最初から分かっているかのようにクイーンは先回りしていた。天性の天賦殺しがオーダイルを狩る為にそのハルバードを振るうが、その切っ先は何にも触れない。

 

 まもるを使われた。

 

 それに対して嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「がーり、がーりぃ!」

 

 まもる越しにオーダイルの体力を削り、クイーンとオーダイルが飛びのいた。そのまま波に乗ってオーダイルがボールの中へと戻って行く。

 

「あら、根性がありませんわねぇ。まぁ、良いですわ。火照った体はオニキス様に慰めて貰うとして、これでチェックメイトかもしれませんわよ? うふふ、ははは……あははははははぁ―――!」

 

 狂笑を響かせながらクイーンがボールの中へと戻って行く。もはや此方のモンスターボールは二つしか残っていない。クイーンからバトンを渡す事の出来るポケモンは残り一体。息を吐きながら、おそらくは最後になるであろうポケモンの入ったモンスターボールを手に取る。それにありったけの魂を込めれば、反応するようにボールの中から溜めこまれた竜のオーラが溢れ出す。握っている、充電しているその時点で手袋を切り裂き始める。

 

 ボールを親指でスナップさせるように弾き上げ、開いている左手でジャケットを掴み、それを一気に引っ張る様に脱ぎ捨てながら右手でボールを掴み、一気に後ろへと引っ張る。最大状態へとチャージされたはじける竜のオーラがグローブを完全に破壊し、そして腕に消える事のない傷をまた増やしながら、前方へと向かって全力で繰り出す。

 

「終わらせろ、サザラ……!」

 

「ここが分水嶺だ、ブラッド!!」

 

 右腕から血を溢れさせながらモンスターボールを破壊し、はじける竜のオーラを纏ったサザラが雨雲を、そして地を満たす水を切り裂きながら両手でギルガルドを握った状態で降臨する。そのまま前方へと、登場したサザンドラを睨み、止まることなく極光の剣を振り下ろした。それぞれが違う軌跡を描く七つの剣閃が美しい軌道を描きながらサザンドラに襲いかかり、一気にその存在をふきとばし、沈めた。

 

「ダークタイプ? 知ったこっちゃないわね。最強のサザンドラ、最強のエースはこの私よ。誰にも止められない。私は止まらない。この魂に誓って、絶対の勝利を愛しい人へ。かかってこい有象無象」

 

 サザラの言葉に応える様に繰り出されるのは黒いバンギラスの存在だった。荒ぶるバンギラスは登場と同時に凄まじい速度でサザラへと一直線で向かう。竜の咆哮を響かせながらキングシールドでその突進を受け流したサザラを迎えた天候は―――完全な闇だった。濃霧ですらない。一寸の光も、星も、月明かりも存在しない、完全な闇。

 

 まるでダークタイプを象徴する様な、そんな完全な闇だった。

 

 だが、そんな闇の中でも戦える様に、サザラは訓練されている。

 

 故にバンギラスへと、

 

 きょっこうのつるぎが放たれた。美しい七色の軌跡が斬撃となってバンギラスに襲い掛かり―――蓄積されたダメージと合わさり、一気にバンギラスを吹き飛ばし、竜の咆哮が再びスタジアムに木魂する。フィールドを覆う闇を夜の星天が明るく照らし、星の軌跡がサザラに必中の軌跡を伝える。出現したエヴァの最後の手持ち、オーダイルと正面から、豪雨が侵食しつつあるこの夜の空の下でにらみ合う。

 

「悪いわね、私は”全員”の願いを背負うのよ―――この程度じゃ止まれないの」

 

 オーダイルへとキングシールドを叩きつける様に接近してハイドロカノンを受け流しつつ咆哮を轟かせ、雨を吹き飛ばしながら帯電したスパークしている空を描く。ギルガルドに落ちてきた雷撃をそのまま斬撃として振るい、オーダイルごとその周囲の空間を逃げられない様に薙ぎ払った。それをオーダイルがきのみを噛みちぎりながら耐え抜き、サザラに接近して来る。

 

 キングシールドを投げ捨てたサザラはオーダイルが接近して繰り出してきた拳を移動しながら受けると、そのまま動きを止める事無く龍の咆哮を轟かせ、流星の降り注ぐ夜を浮かべる。はじける竜のオーラを集中させ、

 

 逃げ場がないようにそれを振り抜いた。

 

 瞬間的にまもるを使用したオーダイルのそれを貫通し、そのままオーダイルを瀕死に追い込み、戦闘に終止符を打った。ギルガルドを肩に乗せ、そして視線を敗者へと向ける事無く此方へとサザラは向ける。

 

「約束したでしょ、絶対勝たせるって」

 

「疑った事はねぇよターコ」

 

 褒めて、と言わんばかりに近寄ってくるサザラと共に戦闘天候と効果の全てが消失し、

 

 戦闘が終了した。

 

 すぐ前にまで来たサザラの頭を撫でてあげ、直ぐにボールの中へと彼女を戻す。フィールドの反対側へと視線を向ければ、立ったまま、表情を変えずに涙を流しているエヴァの姿が見えた。

 

『―――決着!!』

 

 あぁ、

 

『ついに決定しました! ポケモンリーグ!』

 

 これで、

 

『今年度最強のポケモントレーナーは!』

 

 俺が、

 

『―――トキワの森のオニキス選手です!』

 

 ジョウトとカントー最強のトレーナーだ。

 

 後は四天王とチャンピオンを倒すのみ。

 

 それで漸く、入口に立てるのだ。

 

 本当の”最強”との勝負の入り口に。




 ……予想以上に長くなっちゃったなぁ(震え声

 気が付いたら1万4900文字ってどういう事だこりゃ。

 おそらく今まで書いて来たポケモンバトルの中で一番ガチな内容だったんじゃないかなぁ、って感じです。最後のおきみやげからの流れを妙手って言いましたが、ああいうクリティカルな動きを3連発ぐらいしてくるのがボスや本気ヤナギです。

 読みの強い人ってこわいね。

 個人的に小さい蛮ちゃんがクレベース投げる辺り気にいってたかなぁ、なんて思いつつ、次回表彰式的なアレコレとか四天王戦ルールとか。

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