目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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挑戦者

 何千という人が見ている中で、ポケモン協会の会長が目の前でやってきて、そして握っているトロフィーを此方へと手渡して来る。それを受け取った時、熱いものが胸にこみ上げてくるのを感じる。ついに、ついにここまで来たのだ。ここまでやって来たのだ。その歓喜の感情に突き動かされるまま、受け取ったトロフィーを片手で持ち上げ、そしてスタジアムに見せつける様に掲げた。直後、爆発する歓声が勝利を祝福し、そして称えた。その気持ちの良い声援を浴びながら、視線をポケモン協会会長へと向ける。短く咳払いをした会長はスーツについているピンマイクに声を響かせる。

 

「―――これで君はジョウトとカントー最強のトレーナーという称号を得る事が出来た。それは間違いなく君がこの二つの地方に存在する数百、数千というトレーナーの上に立ったという証拠でもある。だけど忘れちゃいけない、それは本当の最強ではないという事を。この二つの地方にはポケモン協会が指定した最強の四人と、それを従えるチャンピオンがいるという事に」

 

 視線を自分のいる表彰台から外しスタジアムの中央へと向ければ、そこには五つの姿がある。

 

 四天王のイツキ、キョウ、シバ、そしてカリンに―――ワタル。ポケモンリーグを通して決定される最強ではなく、ポケモン協会が定めた最強の五人。四天王とチャンピオンだ。その重みは大会での称号以上に重い。なぜなら、四天王もチャンピオンも”10回出場すれば絶対に7回はマスターリーグで優勝する”と言われる猛者なのだから。七割とか確率が低いのではないか? と言われがちだが、そんな事はない。この狂った環境で七割も優勝を確保できるのは異常を超えて化け物としか表現する事が出来ない。

 

 この五人を倒して、ポケモンマスターの称号は得る事が出来るのだ。

 

「君が真に最強の称号を、ポケモンマスターの称号を得たいというのであれば―――君は絶対にこの五人を超えなくてはならない。このリーグで優勝した事によって君は、四天王へと挑戦する権利を得た。敗北すればその瞬間終了、やり直しは聞かず、翌年のリーグで優勝しなきゃ再び挑戦権は得られない」

 

 だから、

 

「―――ポケモンマスターになる為には、一度も敗北する事無く四天王を全員倒し、そしてその先でチャンピオンを倒す必要になる。その覚悟があるのであれば、君だけの為の大会―――”マスターズチャンピオンシップ”が開催される。君に最強へと挑戦する覚悟はあるか!!」

 

 会長のその声に笑みを浮かべ、トロフィーを担ぐ。

 

「元よりそのつもり! ここで挑まねぇ奴は男じゃ―――いや、トレーナーですらねぇ! 死んだ方がマシだ! 四天王への、そしてチャンピオンへの挑戦を所望する!」

 

「良くぞ吠えた! それでこそポケモントレーナー! これより一か月後にマスターズチャンピオンシップを開催する! 公式ルールの勝ち抜き戦、参加できるポケモンは”9体”まで! 君の為の、君だけの、最強へと挑戦する為の大会、一か月後に開催する!」

 

 人の声が爆発するように広がって行く。トロフィーを担ぎながらスタジアムを見渡す。もう、そこにはボスの姿はいない。だがきっと、戦いは見てくれただろうとは思う。次の戦いが自分を待っているのだ、休んでいる暇などない。一か月後に備えて準備をしなくてはならない。

 

「それでは優勝者のオニキス選手には賞金一千万を―――」

 

 優勝賞金や権利、トロフィーを受け取り、観客の期待に応える様に勝ち取ったものを掲げる。

 

 

 

 

 流石に表彰式の後にあるインタビューやレポートに関しては逃げる事が出来なかった―――というのも、こういう物がポケモン協会の収入源にもつながっているからだ。スタジアム内に入りこんだレポーターたちに関してはポケモン協会が許可した連中なのだ、最大限配慮しないと駄目だろう。何せ、トレーナーとして活動する上で、ポケモン協会の顔を伺っておくのは必要な事だから。ポケモンセンターの無料利用やフレンドリィショップのトレーナー向け割引は全てポケモン協会の負担なのだから。だから数時間、インタビューや雑誌への取材に応えて終わらせ、スタジアムの選手用通路を歩くと、前方に黒いワンピースドレス姿の女の姿が見える。

 

「久しぶりに敗北させられたわ。聞いてもいいかしら、最後の妙手、アレ、何故私がオーダイルを出すのが解ったのかしら」

 

 エヴァは道を塞ぐようにそう聞いて来た。だからそうだな、と言葉を置く。

 

「あの時の俺の手持ちはクイーンとサザラで、アンタの所はオーダイル、バンギラス、サザンドラ。ナイトで置き土産を行えばバンギラスの火力がガクっと下がる、この状況でクイーンともサザラとも戦いたくはないだろう?」

 

「そうね、だから迷わずギガースを下げたのよ。最後の一体は執拗に出さないからおおよそ、あの悪竜ちゃんだって解っていたし。あのメガシンカだったかしら? した子だったら間違いなく途中でバトン効果の為に出していたわよね」

 

「あぁ、で、前提条件として一回吠えるでオーダイルを引きずりだしているって事があるんだ。つまり心理的には”バレたから隠す意味はない”って思っているわけだ。その上でサザンドラはステロと火傷を受けているからプレッシャーがかかっている状況だ。こんな状況でサザンドラを出した場合、即座に撃破される可能性が高い。だったら無傷のオーダイルを出して天候の支配と場に対するプレッシャーを与えたいだろ? だからそれを読んでクイーンで狩ったって事だよ」

 

「成程、完全に私の思考が読まれてしまったのね。不利を承知でブラッドを出すか、ギガースで居座って入れば多少は違う展開を見れたわね……ありがとう、おかげで自分の未熟が見えたわ。あの短い時間で良くもそこまで素早く考えられたわね」

 

 それに関しては完全にワダツミのおかげだ。ボスの様な経験から来る魔性の読みが存在しない為、伝説を使った加護を必要とするが、そのおかげで高速思考を身に着ける事が出来た。これがあるからこそ激戦の中でもタイムを取って、冷静に次の一手を考える事が出来るのだ。逆に言えばこれがないと相手の行動を読む事が出来ない、という部分もある。もっともっと経験を積みたい。そしてあの背中へと追いつきたいのだ。

 

「改めてエヴァよ、宜しく」

 

「オニキスだ、宜しく」

 

「これからチャンピオンシップの準備でしょ? 手伝いが必要なら何時でも呼んで頂戴、どうせ次のシーズンまでは育成するかバトルしているだけだから、手伝いになれるなら喜んで行くわ。これが私のポケギアの番号よ」

 

 そう言ってエヴァはポケギアの番号が書かれたメモを渡してくる。

 

「お、サンキュ」

 

「私に勝ったんだからポケモンマスターにならないと承知しないわよ。じゃあね」

 

 そう言って背中を向けたエヴァはサーナイトをボールから出し、テレポートで一瞬で姿を消す。消えてしまったその姿のいた場所を軽くだけ眺め、頭の裏を掻く。エヴァの手伝いの申し出は実際にありがたい。四天王戦を行うマスターズチャンピオンシップ、それまでの一ヶ月はみっちり育成とバトルを繰り返す予定だったのだ。だけど普通のバトルではだめだ。自分と同格のポケモントレーナーと戦おうと思っていたのだ。

 

 具体的に言うとカントー・ジョウトの本気ジムリーダーやポケモンリーグの他の参加者たち。

 

 だがエヴァが付き合ってくれるというのなら渡りに船だ。”これから毎日ポケモンバトルが出来る”のだ、ありがたくこき使ってあげよう。なにせ、今回の決勝戦に関しては自分でもかつてない程にヒートアップし、本気で戦う事が出来た、そんな気がするからだ。ともあれ、これからの予定を軽く頭の中で組み上げつつ、トロフィーを背負って歩き始める。選手用通路から出てスタジアムの一般エリアへと入ると、見慣れた姿が視界に入ってくる。

 

 集まっているのはカントージムリーダーズに交流のあるジョウトジムリーダーズ、そしてゴールド、シルバー少年を始めとする若手のトレーナー達の姿だった。流石にそこにはボスの姿はなかったが、それでも見知った顔がこうやって揃っている姿を見るのは実に面白かった。というかちょっと待て、集団の中に物凄く見覚えのある姿がある。黒いロングコートに黒い髪飾りを付けた金髪の女の姿は、

 

「お前は妖怪アイス狂い!」

 

「失礼な! 私はそんなアイスに狂っていないわよ。ただちょっと毎日食べているだけよ」

 

「狂ってるじゃねーか!」

 

 いや、問題はそこではない。彼女は―――シロナはシンオウ地方のチャンピオンなのだ、ポケモンリーグのシーズンである事に変わりはない筈だ。他の地方のリーグに顔を出していていいのだろうか。そんな事を考えて視線を向けるとあぁ、とシロナが声を漏らす。

 

「大丈夫よ、今年のシンオウリーグは参加者が少なかったから昨日終わったのよ。こっちでも四天王挑戦者が出たからどこのポケモン協会も大忙しでしょうね……まぁ、チャンピオンの仕事は防衛と鍛える事ぐらいしかないし、今の私は来月まで暇よ」

 

「良し、生贄ゲット」

 

 暇なら貴様も使い潰してやる。勿論すぐそこで笑って見ているジムリーダー共、貴様らもだ。そう宣言すると笑い声が響き、迎えてくれる集団に混じるように歩み寄ると、後ろから持ち上げられる。うぉ、と声を漏らしながら視線を下へと向ければ、マチスが此方を持ち上げていた。

 

「ヘイ、未来のチャンプ! 気分はどうよ!」

 

「最高だな!」

 

「もう勝った気でいるんじゃないのか……」

 

「勝つ気でやらなきゃ駄目だろ!」

 

 笑いながら飛び降り、肩を組みながら陽気に笑い合い、そして祝勝会をする為に用意していた店へと全員で向かう。間違いなくこの後、成年未成年関係なく全員酔いつぶれるだろうが、そんな事は今だけは良かった。

 

 ずっと、ずっと憧れ、目標としていた舞台へと上がり、念願を成就する時がすぐそばまで迫っているのだ。だから、今は馬鹿のように騒いで、そして遊び惚ける事を許して欲しい。

 

 これを終わらせたら―――もう、後戻りも敗北もできない、戦いが待っているのだから。




 妖怪アイス狂い - お祝いという名目でこっちのアイスを食べ気に来た
 エヴァさん - ポケモントレーナーという修羅
 会長さん - 長年会長やっているから修羅耐性が高い
 トロフィー - 無理やり飲まされて酔った蛮が半分喰った

 マスターズチャンピオンシップは全部で合計”9体”まで。

 四天王、チャンピオンの面子は6体固定。

 つまりリーグとは違って控えに一人追加されるのである。

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