「かん、せーい!」
「わーい!」
「……」
喜ぶエリートトレーナーやジムリーダーとは裏腹に、シルバーとゴールドは倒れて動かなかった。ゴールドも割と高い頻度で遊びに来ていたのでついでに纏めて作業に駆り出していたのだが、この程度で動けなくなるとはだらしない。そんな事を思いながら完成したオニキス邸へと視線を向ける。念願のマイホームだったが―――もはやマイホームというよりは一つの巨大施設となっていた。まず今立っている正面から見えるのはエントランスと受付が一緒になった事務所部分であり、その向こう側には色々と施設が揃っている。まずは色んな環境でポケモンが暮らせるような暮らしエリア、これは何時までもポケモンをボールに入れておくのではなく、放し飼いにしておく為のエリアであり、草原、山岳、湖、洞窟、温泉、と様々なエリアに分かれている。このエリアが一番広く、面積を喰っている。
次に来るのが最新式トレーニングエリアであり、流れの強弱を調整できるプールやポケモン用のトレーニング器具、利用器具、回復装置、測定器等が揃えられている、フィットネスジムの様な施設であり、ポケモン達に対する適切なトレーニングを行う為の場所でもある。完全に育て屋や、プロフェッショナルのブリーダーがポケモンを育成する為に必要とする、使用する施設であり、お金に任せて最新機を揃えたため、ジョウトでポケモンを育成するのであれば、最高峰の環境を揃える事が出来ている。
次にバトル施設。と言ってもバトルが出来る様にスタジアムサイズのバトルフィールドを用意しただけであり、ここでなら育成したポケモンを公式戦のフィールドで戦わせられる、というものだ。レベル制限機も導入したので、50フラット、80フラット等でも勝負できるようになっている。
そして最後に来るのが宿泊施設。自分の家だ。そう、もはや家がオマケという感じになりつつあった。ちゃんと客が泊まれる様に部屋は多めに作ってあるし、ガス、水道、電気だって通っている。もはやポケモンをボックスに預けておく意味もないので、今まで捕まえて来た百近いポケモン達を全てこの新しい場所に放った。建設作業が終わった成果、全員勝手にのびのびと新しい拠点を楽しんでいるのが見える。そんな、凄い数のポケモンがいる場所を見ながら、呟く。
「家ってなんだ……」
「もうこれ、完全にただの育て屋だろ……」
グリーンの言葉は正しい。受付までセットでつけたのだから、完全に商売を始める事もできるのだ―――今はそんな余裕がないけど。
「しかし、本当に一週間以内に終わらせたわね」
「人間、やれば出来るもんよ」
「いくらなんでも限度があると思うけどな」
エヴァとグリーンと完成させた豪邸? きっと豪邸らしき何かを感慨深く眺めていると、飛行音が聞こえてくる。振り返りながら空へと視線を向ければ、ジバコイルの上に乗ったミカンとマツバの姿が見える。おー、さっそく来たか、と思いながら手を振れば、向こうも振り返し、ミカンの手が当たったマツバが押し出されてジバコイルから落ちた。即座にゲンガーを出し、それで安全に着地したマツバだったが、ミカンは直ぐにジバコイルを着陸させ、凄い勢いで謝り始めている。面白い子だなぁ、なんて思っている間に二人が到着する。
「ホームレス脱却おめでとう」
「うるせぇ。好きでホームレスやってるんじゃねぇよ。まぁ、宿無しの野宿が楽しい事は認めるけどさ」
マツバとミカンが完成した新たな育て屋らしき場所をみて、
「就職おめでとうございます? あ、育成依頼って請け負ってますか? 新しくハッサムを入手したんですけどあの、メガシンカってハッサムにできませんか? ハッサムには軽く秘められた潜在能力を感じるから出来ると思うんですけど……」
「あ、なら僕のゲンガーもちょっと面倒見てくれないか? 開幕で夜を展開できる感じに調整してくれると……」
「育て屋じゃねぇつってんだろ!!」
中指を向けるが、それをマツバは笑って受け流し、しかしモンスターボールを手に取る。
「そんじゃ、お祝いついでにバトルでもしようか。その為に用意した場所なんだろうし。ポケモンリーグの時は明確に肩入れする事は禁止されているけど、四天王戦となれば完全に話は別だ。僕たちジムリーダーも鍛錬の付き合いぐらいは出来るさ。バトルで経験を積みたいんだろう? だから連れてきたよ―――一軍を」
「あ、私もお手伝いの為に一軍の皆を連れてきました。本気でバトルが出来るって聞いて、皆物凄くはりきってますから、楽しく、激しくバトルが出来ると思いますよ」
「となるとバトルが出来そうなのが五人になるわね。こうなったら総当たり戦のミニトーナメントにしたほうが盛り上がりそうね」
「んじゃ、軽くトーナメント表を―――」
グリーンがそこまで発言した所で、更に気配と羽ばたきが聞こえてくる。視線を38番道路の方へと向ければ、更に飛行するポケモンの背に乗って飛んでくる姿が見える。カイリューの背に乗っているのがイブキ、ピジョットの背に乗っているのがアカネ、そして、
トゲキッスの背に乗っている妖怪アイス狂い。
「やっほ、遊びに来たわよ! あ、トーナメント? 私も入れて入れて」
「シンオウに帰ってくれチャンピオン!!」
―――結局、そのまま総当たり戦が開催された。最終的に参加した面子はマツバ、ミカン、シロナ、グリーン、エヴァ、イブキ、そして自分の合計七人。既に言われている通り、ジムリーダーが一番忙しいのはポケモンリーグのシーズン中であり、それを抜けると挑戦者がいなくなるため、比較的余裕が出てくるのだ。その時間をジムトレーナーの育成なんかに当てるのだが、それでもしっかりとオフの日は作ってある為、こういう風に集まる事が出来る。故に、今回参加した面子は全員ちゃんとスケジュールで休日を入れ、そして一軍の面子を連れてきた。そしてジムリーダーの一軍というのは、
大体、ポケモンリーグの三回戦から決勝クラスの実力はあるのだ。
そういうわけでトーナメントが一日で終了する事はなく、凄まじい激戦が繰り広げられた。自分が初日に相手をしたのはマツバ、ミカン、そしてグリーンだ。マツバの第一軍はゴーストタイプであり、最も相手をするのが面倒なタイプ―――状態異常を場に出てきたときにばらまくタイプの戦術の使い手だ。
まず最初にヤミラミ、これが場に出るだけで相手に対して催眠術を発動させるという極悪極まりない仕様をしており、ノータイムで悪夢と夢喰いを発動して来る。他にもかげふみ、かなしばり、封印、ポケモンを交代する事で相手の動きを制限するというスタイルを持っており、相手が催眠術等の変化技で状態異常にかかったら、そこから交替できない様にポケモンを固定させ、そのまま沈めるという極悪極まりない戦術を有して来る。やはり、というか完全な対策なしでは勝てる相手ではなく、vsマツバの戦績は2:0で最終的に敗北してしまった。こればかりは完全に相性ゲーな部分がある為、どうしようもない。ただキョウのスタイルとマツバのスタイルは非常に似ている。その為、キョウ戦を見据えて色々と考えさせられる事はあった。
次に戦ったのがミカン―――見た目は凄く可愛らしいが、その戦闘は物凄く堅実であり、可愛らしさの欠片もない。簡単に言えば役割理論に近いものがある。受けは防御の硬いポケモンで、そして攻撃はそれ用のポケモンで。それを凄まじいレベルで行っているのだ。確実に相手の次の一手を予想し、それに超反応する様にポケモンを入れ替え、バトン効果を発動させながら任意のポケモンを確実に場に引き出し、怒涛の攻めを繰り出す。
ただ、それだけではない。鋼ポケモンの耐久力という観点を極限まで育ててあり、ポケモン別に格闘耐性、炎耐性等を付与しており、”手持ち全てが耐久出来る”様に調整されている。その硬さは鋼ポケモンでありながらダークポケモンにさえ匹敵する程であり、ジバコイルの”不沈”の名を理解させられた。ただ、このバトルに関してはメガリザードンZ化したアッシュがクリティカルに突き刺さり、Vジェネレートによるアッシュ無双が繰り広げられたため、そこまで苦労する事はなかった。とはいえ、交代する度に回復効果と防御上昇効果を発動させるミカンの手持ちは悪夢の耐久パとも評価できる。
次にグリーン―――容赦なく元チャンピオンとしての実力を発揮してきた。その手持ちは所謂”初代”の手札だ。ただ御三家は赤帽子に渡してしまったのか、御三家の代わりに新しいポケモンが入っており、面子はサンドパン、フーディン、ナッシー、ウインディ、パルシェン、そしてサンダースだ。グリーンは赤帽子に負けてチャンピオンの座に興味を失い、ジムリーダーとブリーダーの二足の草鞋を履くトレーナーだが―――馬鹿にしちゃあいけない。グリーンはあの伝説の赤帽子と同類の生き物なのだ。戦えば勝つを地で行く最強のトレーナーの一角であり、属性的にはほとんど赤帽子と変わらないのだ。そしてその戦闘領域はやっぱり、赤帽子と変わらない。
最も原始的で、
最も親しまれた、
―――道具と特性、天候が殺される戦場。
つまりはポケモンバトルを”初代”仕様で行うのだ。グリーンがポケモンに求めるのは斬新な育成でも何でもなく、ポケモン本来の強さであり、種族値であり、そしてレベルだ。道具と特性と天候、交代効果なんて物も封殺する姿は現代のバトルキラーとして赤帽子と並ぶ、最強のトレーナーの姿だった。伝説にまではその戦場は通じないだろうが、それでもグリーンのこの暴力的な程現代のバトルを否定する戦闘スタイルは、
誰も勝利する事が出来ず、その日、唯一全勝した人物でもあった。
腐ってもチャンピオン。カントー最強の最年少ジムリーダー。
グリーン、未だに健在。
「それじゃあまた明日!」
「おやすみなさい!」
「明日は絶対にお前を滅ぼすからな! あとフライゴン!」
イブキのフライゴンさんへの挑戦状を聞きつつ、家から出て、そしてポケモンに乗って飛行して帰って行くジムリーダーたちを見る。イブキ、マツバ、そしてミカンは比較的近い所に住んでいる為、泊まる必要はない。家の中に入ると、ロビーのソファでくつろいでいるグリーンとエヴァがポケモンカードで遊んでいる。
「で、お前らは泊まりか」
「寝袋は持ってきてるわ」
「こっからトキワジムに帰るのだるいしな。それに明日、試合の続きやるだろ? ……うし、進化完了」
「げ、タンマ」
「タンマなし」
結構人んちで自由にやってるなお前ら、と一瞬思うが、
「オニキスー! この冷蔵庫はできそこないよー! アイスがないわー!」
「できそこないはテメェだよシンオウチャンプ! はよ帰れ!」
「あ、だめ、今下着姿だから来ちゃだめー。あ、でもアイス持ってきて」
「こいつ……!」
キッチンの方から投げられてくるシロナの声に頭を抱える。風呂場を勝手に使った上に冷蔵庫まで漁られている。
これに関してはどうでもいいから早くシンオウに帰って欲しい。
溜息を吐きながら、また一日が過ぎて行く。
最終的なミニトナメ優勝者は全戦全勝でグリーンくん優勝、二位で一敗の妖怪アイス狂い、三位はエヴァとオニキスがタイだったそーで。
赤帽子の影に隠れてるけど割と緑の子も理不尽。