目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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vsホウオウ

 ―――煙草を口に咥えたりするのはえらく久しぶりな気がする。

 

 普段は健康に悪いし、一本吸ったらその分を吐きだす為に運動を増やさなくてはいけないからめんどくさくて吸わないのだが、それでも偶に、本当にたまーに無性に吸いたくなってくる時があるのだ。何故だか解らないが、かっこよく吸っていたボスの姿に憧れてしまったからだろうか? それでもどうしようもなく、吸いたくなってしまう悪癖が存在するのだ。そういう時は我慢せずに、慣れてない煙草を口へと運び、そして吸う事にしている。大抵は一本吸った所で飽きて止めてしまうのだが。ともあれ、今日は珍しくそんな気分だった。煙草を口に咥えながらシロガネ山の中で、人の気配が一切存在しないこの僻地で、ポケモン達を従え、立っている。

 

 周辺にポケモンの気配は一切ない。頭上で浮かんでいるワダツミの発する伝説のオーラを受け、既に一帯のポケモンが避難しているからだ。普段にはない、特上の戦意と闘気を纏わせた伝説に近寄ろうとするポケモンは、野生であれ、100レベルであれ、存在しない。それは即ち、死を意味するのだから。だからポケモンは寄らない。遠くから見ている幾つかの視線はこのシロガネ山の”ヌシ”や、ここで修行している一部のぶっ壊れたトレーナー達の視線だ。そういうのはどうでもいい。興味があるのは別の事なのだから。

 

 ―――ある事をしようとする為土地を求めた。

 

 その結果、貰ったのがシロガネ山の入山許可だった。

 

 故に一切の遠慮をする事もなく、シロガネ山の奥地へと踏み込んだ。そこに本来いる人とは―――まだ逢えない。逢ってはいけない。そういうルールだ。だから深く踏み込んでも、誰とも逢ってはいない。周りが山に囲まれてできている小さな盆地、その中央に立ち、煙草を咥え、ゴーグルを装着した状態でポケットに手を突っ込み、足元に置いてあるモンスターボールを眺める。いい加減、こいつをどうにかしないといけないと思っていたのだから、実行する。

 

 モンスターボールを蹴り上げ、そして飛ばす。蹴り飛ばしたモンスターボールが開き、そこに封じ込められていたポケモンが勢いよく出現する。それに合わせて懐からハンドガンを取り出し、それでモンスターボールを射撃し、破壊する。

 

 モンスターボールの束縛から解放されたポケモンは飛び上がると虹色の翼を羽ばたかせながらその巨大な姿を霊峰に晒す。美しくも力強い”鳳凰”をモチーフとした伝説のポケモンは空に浮かび上がると漸く解放されたことから歓喜の炎を天に届かせる。シロガネ山というカントー・ジョウト有数の極寒の地域が、一瞬だけ、完全に冷気を捨て去るほどの熱量が広がり、そして消え去った。空から此方を見降ろす伝説のポケモン―――ホウオウは視線を此方へと向けてくる。

 

『―――良くぞ私を解放しました。本来であればその功を称え、今までの行動を不問としたい所ですが―――』

 

「おいおい、前口上は必要としてないんだよ。白々しい言葉を掲げなさんな」

 

 直後、エアロブラストがホウオウを穿ち、岩肌へとワダツミと同サイズのその巨体を吹き飛ばす。そのまま更に連続で十連エアロブラストがホウオウへと叩きつけられ、ホウオウが全身にせいなるほのおを纏い、空気を燃焼させながらエアロブラストを無効化し、空へと浮かび上がる。即座にせいなるほのおが大地を焼き尽くすようにホウオウの眼下に広がるが、素早く横へと出現したフーディンが片手で体を抱き、そして再びテレポートで姿を飛ばす。

 

 ―――遥かに上空に。

 

 ボールベルトからモンスターボールを取り出し、素早くそれをホウオウの頭上へと出す。そこから出現したクイーンが高速で落下しながら両断する様にハルバードを振るい、ホウオウの”回復力”を削ぎ殺す。落下するその姿をファイアローが回収し、落ちながら両手をポケットの中に戻し、

 

「んじゃ、やろうぜホウオウ。俺が上で、お前が下だ。徹底的にそれを教えてやる―――伝説ごときが調子に乗るなよ」

 

 ホウオウが怒りを現すように吠え、

 

「吠えてる暇があれば攻撃しろよ」

 

 エアロブラストが炎の結界を貫通してホウオウを穿った。怯んだ隙に天候を支配したワダツミが一瞬で暗雲を呼び寄せ、海水の豪雨を発生させる。ホウオウはその体を炎で護っている為、濡れはしないが、それでも環境は炎を弱体化させるように追い込んで行く。何より”同じルートの伝説”という存在がクリティカルにホウオウに突き刺さって行く。通常のポケモンではない、伝説対伝説という環境を構築している為、普通のポケモンでは与えられないダメージでも、絶大な効果を発揮する事が出来る。

 

 足場代わりに潜り込んできたピジョットの上に着地しながら、命令を下す。

 

「お前ら、その思い上がってる阿呆鳥に現実を教えろ」

 

 直後、七色の剣閃が、流星群が、タイプ無視の獄炎が、嗜虐の一閃が、そして伝説の波動を纏った激水流がホウオウに同時に襲い掛かり、その姿を更に吹き飛ばす。霊峰に叩きつけられたホウオウの姿を確認し、ポケットから取り出した起動スイッチを二回、押し込んで捨てる。直後、山頂の方で爆発が発生し、一気に山頂に積もった雪が流れながら岩や木々を巻き込み、巨大な雪崩となりながらホウオウのいる斜面に襲い掛かってくる。回避する為に起き上がろうとするホウオウを縫い付ける様にゲンガーが四体、ホウオウの影を踏み、そして逃げる事を許可せず―――雪崩がホウオウを飲み込んだ。笑いながら追撃を止めないワダツミの事もあり、そのまま雪崩に飲み込まれたホウオウが谷底へと―――盆地へと落ちた。

 

「カチカチっとな」

 

 ポケットから取り出した二つ目の起爆スイッチを二回押し込み―――先程まで自分が立っていた盆地、その大地が全て一斉に爆裂しながら弾ける。仕掛けられた大量の地雷とクレイモアが一斉起動し、ホウオウを完全に飲み込む様に爆発し、飲み込んだ雪崩さえも吹き飛ばしながら災害の黒煙を巻き上げる。ホウオウの支配力が弱まった隙に、豪雨が盆地を満たすように雨を、水を溜め始める。

 

 ”浸水”が始まる。

 

 水が集まり、ホウオウがその中へと沈んで行く。丹念にワダツミがその力を籠め、そして用意した海水はもはやワダツミの一部だと表現しても良い、極限まで”炎熱に対する耐性”を保有した海水である為、ホウオウの体に触れても一切蒸発する事がなく、シロガネ山の中に海を形成して行く。即座に浮かび上がろうとする姿をゲンガー達が影を踏んで阻止し、上空から極光の剣と流星群が絶対に浮かび上がらせない様に叩き落とし、尚且つ海が高速で水流を発生させ、下へ、下へとホウオウを引きずり込み、その酸素と体力を体を引き裂く勢いの水流でダメージを与え続ける。うずまき島を守護するうずしお、ワダツミが形成していたそれが今、ホウオウを閉じ込めて拷問に等しい苦しみを与えている。

 

「正直に言おうか―――お前はそこまで怖くないんだよ」

 

 そう、本当に怖いのは―――”ヤナギが伝説を持っている”という状態だった。

 

「いいか、俺が恐れていたのは極限まで経験を溜めこんだ、俺よりもトレーナーとしては優秀なヤナギがお前を使う事だ。極論、ポケモンってのは暴力だ。意思を持った暴力だ。銃や刀が意思を持っているのと同じ様な状態だ。だから怖いのはその使い方であって、性能が高くても使い手が馬鹿じゃあ全く意味がないんだよ? ん? 馬鹿にしてるわけじゃねーよ。一回目」

 

 ぼきぃ、と折れる音がシロガネ山に響く。

 

 伝説の―――ホウオウの首が折れる音だ。ワダツミが発生し、そして絶対に逃がさない様に沈め続けた結果、窒息しながらホウオウは首を折られて死んで―――そして即座に完全回復した。酸素を取り戻し、傷を再生し、そして折れた個所なんてないかのように完全な状態で復活した。だがそれでも状況は一切変わらない。ホウオウは身動きの取れないまま、沈んだままだ。その体を更に拘束する様に、二十を超える草ポケモンがうずしおの中へとやどりぎのたねを放ち、それを使ってホウオウの体を更に形成された海の中に固定して行く。

 

「いいか、俺が怖かったのはそうやって、極限まで突き詰めた暴力である伝説のポケモン、それを老練のトレーナーであるヤナギが利用する事だ。ぶっちゃけ、何をしても勝てるイメージがわかないってのが本音だ。あぁ、だけどそれはあくまでもヤナギがお前を使った場合の話だ―――ぶっちゃけ、ワダツミを入手した時点でお前の能力はある程度抑え込めるから、恐怖自体はねぇんだよ。これで二回目だな」

 

 ホウオウが再び死ぬ。ホウオウの悲鳴がシロガネ山に響き渡り、それに反応するように二体のポケモンが出現する。

 

 蒼と黄色の二匹―――スイクンとライコウ。

 

 それを阻む様にエンテイが―――唯一神が邪魔に入る。

 

 準伝説であれば同格の三匹だったかもしれないが、現状は完全に育成されて、レベル100へと到達した唯一神の方がライコウやスイクンよりも強い。故にスイクンとライコウはナイトがサポートに入った唯一神を突破する事が出来ずに、ホウオウの救援に駆けつける事が出来ない。スイクンとライコウが怒りを見せる様に吠えるが、それを唯一神が涼しい表情で受け流す。

 

 ホウオウが蘇生したのを確認し、言葉を続ける。

 

「今回の状況は事前に準備が出来たし? お前のデータは確認できたし? 場所はこっちで指定できたし? はっきり言って、ワダツミの時とは違って、戦場と状況を指定して、尚且つアドバンテージを捥ぎ取れるって時点で負ける要素がねぇんだよな。まぁ、これがギラティナやディアルガ、パルキアだったら時空間とか対処のしようがねぇからどうしようもねぇし、グラードンとカイオーガに至っては大きすぎてハメもクソもねぇんだけど―――まぁ、お前程度の”雑魚”だったらこうやってハメ殺すのは難しくないんだよ。はい、三回目」

 

 再びホウオウが死に、そして蘇生される。ホウオウ―――鳳凰の名の如く、不死身であり、死を否定する力がある。それ故に、ホウオウは死ぬ事が出来ない。何度殺されようと、その度に起き上がって、蘇る事しか出来ない。その度に強くなるわけでもないのだから、どうにかなる訳じゃない。それにこの状況、完全にワダツミが、同格の存在がある為に、強引に突破する事は出来ない―――同格である故に力は相殺されてしまうのだから。

 

 逃れようとホウオウが蘇生しながら足掻くが、やどりぎのたねは更に絡み、体を強く締め上げる。

 

「だから宣言するぞ―――俺は、お前の心が折れるまで今からお前を殺し続ける」

 

 再びホウオウが死に、蘇る。

 

「すぐそこにスイクンとライコウがいるだろう? 今からお前の目の前で捕獲する」

 

 ホウオウを殺し、蘇らせる。

 

「じっくりと時間をかけ、丁寧に弱らせて逃げられない様にしながら捕獲させる」

 

 ホウオウが溺死し、蘇る。

 

「お前が出来るのはそこで無力なままずっと眺めている事だけだ」

 

 ホウオウの首がワダツミのエアロブラストによって折れる。そしてまた蘇る。

 

「ヤナギに負けて、捕まって、それで屈服した事で憎いか? 俺が? 人間が? なら好きなだけ憎め、これから数日でも数週間でも、お前の心が折れるまでスイクンとライコウを嬲って、その上でお前の心を屈服させるまで追い詰める。その憎悪が体の中から完全に消え去って俺に屈服するその瞬間まで貴様は逃がさない」

 

 ホウオウが再び死ぬ。そして蘇る。

 

 完全な流れ作業だ。最初のエアロブラストによる奇襲が成功した時点でもはやこの流れは確定していた。ワダツミの時は戦場をアサギシティへと引っ張らなくてはならなかったが、トラップを仕込んだ状態で始められる上にワダツミがいるのだ、敗北する理由がない。故に後は作業だ。殺して、蘇って、殺して、蘇って、それを何度も繰り返しながらスイクンとライコウを―――ホウオウ唯一の味方を目の前で屈服させる。

 

 穢れのない聖域を征服する事には至上の快感が付きまとう。

 

 ワダツミも、ルギアという伝説のポケモンを屈服させる事には快感を覚えた。

 

 つまり―――自分も立派に悪人だということだ。

 

 最近人に優しくしたり、ポケモンリーグで頑張ったり、真っ当な活動ばかりで忘れ気味だったが、

 

 ―――ロケット団総帥、サカキの弟子なのだ。

 

「―――久しぶりに、情け容赦なしにやらせてもらうぞ、雑魚め」

 

 開始したときとは全く違い、見下ろす側と見上げる側を完全に入れ替え、

 

 ホウオウの為だけの地獄を始めた。




 ほ、ホウオウダイーン(震え声

 最近ロケット団っぽいことしてないよなこいつ? とか思った結果がこれだよ。本質を忘れちゃいけない。こいつ、平気な顔で殺人をやり遂げたキチガイだって事を……。

 でもやっぱり心の強い娘の心を折って完全に屈服させるのは楽しいと思うんです。

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