目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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四天王カリン

 四戦目。

 

「―――流石に肉体的には疲れていなくても精神的には少し消耗している頃かしら? どう? 本気のポケモンバトルはフルマラソン並に体力を消耗するらしいわよ。だからダイエットなんかするよりも6vs6のポケモンバトルを繰り返す方が遥かに痩せる、って言われるほどにね。まぁ、どうでもいい事よね。その気迫からすると目的を達成するまでは倒れないでしょうね、貴方は」

 

 フィールドを挟んで最後の四天王、カリンを睨む。黄色のキャミソールに白いジーンズ、中々グラマーな体形をした薄青色の髪の美人だ。四天王の最後の一人、”悪使い”のカリンだ。基本的なタイプが悪タイプ、と自分と被る様な特徴を持った四天王だが、彼女まで到達する戦いは少なく、情報もそこまで多い訳じゃない。それでも勝てない相手じゃない。

 

 彼女は此方を見て、微笑む。

 

「きっと、貴方は私に勝つのでしょうね」

 

 カリンのその言葉に首を傾げる。

 

「いいえ、負けるつもりはないわ。負けるつもりで戦う敗北者はここにはいないわ。それでも客観的な事実として、貴方は勝つと思うわよ。貴方は気付いていないだろうけど、私達四天王は大陸の最強クラスよ。ポケモンリーグを勝ち抜いた時点で貴方はそのクラスに立った―――ならそれをなぎ倒しながら進む貴方の強さは一体どれぐらいなんでしょうね?」

 

「強くなったことを自覚しろ、ってか。最強を目指してるんだから知ってるに決まってんだろ」

 

「そう」

 

 何時も通りの観客の熱狂と実況の茶々。それを聞き流しながら視線と耳をカリンへと向ける。

 

「―――強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手……本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てる様に頑張るべき―――」

 

 カリンはそう言ってモンスターボールを手に取り、それに合わせる様に此方もモンスターボールを手に取る。カリンは笑みを浮かべて問うてくる。

 

「―――貴方のポケモンはどうやって選ばれたのかしら? ―――マニューラ!!」

 

「行け、黒尾―――!」

 

 体のラインを浮かばせるタイトスーツ姿のマニューラが出現し、相対する様に黒尾が出現する。それと同時に出現する夜の闇がスタジアムを覆い、もはや定石となった夜の展開を完了させる。相手のマニューラと正面から黒尾が相対する。相性は―――悪くはない。だが相性以上に悪いものがある。カリンは四天王随一の育成家だ。好きなポケモンしか育てない事で有名だが、そのジャンルに関してだけは、

 

 ポケモンのレベルは110に到達しているとさえ言われている。

 

 ポケモンの能力はゲーム的に言うと得意な能力で数値が+3から+4される。レベルが10も開きがあればそれは30や40という差になる。この世で一番簡単な攻略方法は”レベルの暴力”だ。それをほんとうにカリンが成し遂げていたとしたら、それは凄まじい事となる。レベル、単純にして明快に覆しにくい事実だ。それを戦術で埋めて、潰さなくてはならない。

 

 マニューラが前へと出る。それに合わせる様に狐火が発動し、神速が黒尾へと叩きつけられる。その勢いに吹き飛ばされながらも、抗う事無く後ろへと下がり、ボールの中へと闇に紛れる様に戻ってくる。そこから迷う事無くポケモンをアッシュへと切り替え、繰り出す。夜の闇に星空が生み出され、輝く様にアッシュを祝福する。その中を悠々と登場したアッシュが星々の輝きに炎を激化させながら登場する。登場したアッシュがマニューラを睨み、ブラストバーンを放つ。咄嗟に回避行動を取ったマニューラが回避に成功した直後、一気に接近したアッシュがVジェネレートを叩き込み、マニューラに直撃させ―――マニューラを落とす。

 

「私達が出会えたのは運命、それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

 マニューラを落としたアッシュが星々の光を受けながらボールの中へと戻って行く。それを見たカリンが成程、と呟きながらボールの中へとマニューラを戻す。撃破効果のおかげでVジェネレートによる下降効果はない。だから引き継いで次のポケモンへと繋げる。息を吐きながらボールを回し、それを次のポケモンへと、月光へと繋げる。月光の出現と同時に大雨が降り始める。闇色の雨が視界を制限し、環境を一気に不明瞭な状況へと持ちこむ。その中でカリンは次のボールを手に取り、口を開く。

 

「本当に? ほんとうにそれが運命だと思っているのかしら? 厳選された、強いポケモンを選ばなかった? 弱いからと選択肢から切り捨てたポケモンはいなかった? 気に入らないから考える事すらないポケモンがいたんじゃないかしら」

 

「だからと言って自分の今の立場を恥じる者等一人もいないで御座る! トレーナーが、お館様が我らを選んだのではない、我々が共に協力し合ってこういう形になっただけで御座る」

 

 カリンの繰り出したポケモンは原生種のミカルゲだった。ガスの様な体をしているミカルゲの姿は捉えにくく、見通しが悪い。それでもこの環境は月光の方が慣れている。既にまきびしが撒かれており、それが突き刺さっているのが見える。大雨の中、みがわりを生み出した月光のそれをすり抜ける様にミカルゲが月光を捉え、槍のようなガスが突き刺さる。痛みの声を漏らしながらバックステップで距離を取った月光が雨に紛れてボールの中へと戻って行く。それと入れ替わるように場に出てくるのは―――災花の姿だ。一瞬で姿を喪失させるとミカルゲの背後に出現し、三連続の辻斬りを交差する様に繰り出しながらフィールドに立つ。

 

「くだらない問答ね―――ここまで来たら答えなんてもう出ているのに」

 

「そうね、ほんとうにくだらない問答ね」

 

 解っているのか、カリンは笑う。

 

「でもね、大切な事なのよ。ポケモンの出会いは一期一会だと言われているわ。だけど本当にそうかしら? ある筈の出会いを見てないフリで逃していないかしら? ま、関係のない事だろうけどね……所詮は戯言よ」

 

 ミカルゲの怨念が溢れ出し、それが災花を貫く。一瞬で瀕死近いゾーンまで削られたな、と判断しながら災花をボールの中へとバトン効果で戻しつつ、それを次のポケモンへと、アッシュへと回す。現状、レベルの暴力に対して種族値の暴力で完全に対応が出来るのがアッシュとサザラのみだ。色違いや天賦を気にする必要はない。カリンに色違いや天賦は存在しないのだから。そして彼女はある意味、最弱の四天王とも呼ばれている。

 

 四人目の四天王を突破する者は九割がた、チャンピオンに勝利しているのだから。

 

 星天が空に浮かび上がる。登場と共に星天を泳ぐ姿はミカルゲを捉えるとVジェネレートを放ち、その姿を一瞬で沈める。が、その姿を引きずり下ろすように、ミカルゲが倒れると同時にその全身から黒い手が伸びる。アッシュを掴んだ黒い腕がみちづれにミカルゲ共々アッシュを落とす。瀕死になったアッシュを素早くボールの中へと戻しつつ、次のポケモンを―――蛮を繰り出す。対応する様にカリンが繰り出してきたポケモンは亜人種のアブソル―――災花よりも背が低く、そして若く見える個体だった。蛮の出現と共に始まる砂嵐、その中に紛れる様にアブソルが姿を隠そうとするが、

 

ギャーォ(見えてるぜ)

 

 奇襲気味に襲いかかってきたアブソルを察知し、回避しながらアブソルを掴み、ばかぢからの拳をその腹に叩き込んで一気に殴り飛ばす。そのまま大地を踏みしめてフィールドから岩を突き上げさせ、それを壁代わりにアブソルを叩きつけた所で、一気に前へと飛び出る。その腕の形はラリアットを放つような体勢になっており、寸前に復帰したアブソルがそれを回避する。岩を砕きながらラリアットに失敗した蛮が少々物悲しげな表情を浮かべながら砂嵐に紛れ、ボールの中へと戻って行く。それに合わせてボールを次のポケモンへ、

 

 災花へと回す。

 

「―――これで上昇効果を含めれば能力は追いついたか」

 

 砂嵐に身を隠した災花が一瞬で相手のアブソルの背後へと回り込む。反応したアブソルが回避行動に入り、辻斬りを回避する。だが運命を捻じ曲げる様に斬撃を捻じ曲げた災花が避けた筈のアブソルを捉え、その体力のほとんどを持って行く。これがレベル100のポケモンであれば、間違いなく倒しきれていただろう。が、100レベルを超えるポケモンの体力では落ちないらしく、耐え抜いたアブソルが反撃に繰り出しただまし討ちを受け、災花の体力が切れる。

 

「呪われろ……!」

 

 不幸の願いが相手のアブソルから幸運を奪う。

 

 倒れた災花をボールの中へと回収しながら、ナイトを繰り出す。場に繰り出されたナイトが問答無用で守るを繰り出し、アブソルからの攻撃に身を守った。忘れやすいかもしれないが、既に狐火、まきびし、そして砂嵐が場に出ている。ここに出現するだけで体力が削られる環境であり、戦えば戦う程不利になって行く。アブソルが抵抗に辻斬りを放つが、月の明かりを受けて体力を回復させるナイトにはまるで意味を持たない。

 

 スリップダメージを受けてアブソルがそのまま沈む。

 

なーなーん(久しぶりに倒した気がする)

 

 最近はエースへの繋ぎばかりだった気がする。ナイト自体が活躍するのは随分と久しぶりかもしれない。小さく笑いながら、相手のアブソルがボールの中へと収納されて行くのを確認する。ナイトをそのまま出したままで相手の出方を確認する。カリンは既に次のポケモンの入ったボールを手に取っている。

 

「―――言葉で語り掛けるだけ無駄ね。貴方はここまで来た、そして先へと進むでしょうね。恐らく、この地方で貴方を止められるトレーナーはもはや大会で出会える事はないわ。こうやって戦って確信した。貴方、”彼”と同じレベルの化け物ね」

 

「そう褒めてくれるなよ、照れるだろ」

 

 カリンが繰り出したヘルガーとナイトが睨み合う。が、先に行動に出るのはヘルガーだ。炎を纏って突進して来る原生種の姿にナイトは正面から攻撃を喰らって耐えると、吠える。ナイトの咆哮が響き渡ってヘルガーが縮こまり、ボールの中へと強制的に戻らされる。そんなヘルガーの代わりにドンカラスが無理やり引きずりだされ、そして吠えたナイトは闇夜に乗じてボールの中へと戻って行く。その代わりに砂嵐の中を突き進んでくる様に蛮が出てくる。

 

「貴方、もしかしてシバを倒したときにポケモンが余ったのを偶然だと思った?」

 

「―――ハ、どうでもいいなぁ!」

 

 シバとの戦いでクイーンが余ってしまったのは偶然ではない。キョウ、イツキ戦を通して自分は成長していたのだ。そして成長し、今も強くなっている。ハッキリ言ってしまえば簡単だ―――チャンピオンが四天王を倒すのが当たり前の様に、俺が四天王を倒すのも当たり前の話。それだけの話だ。そのレベルに俺が上がり、ポケモン達が強力になってきているというだけだ。だから、カリンは悟っているのだ。ポケモンをよく見る事が出来るから。

 

 ―――勝ち目はない、と。

 

 それでも四天王として、最後まで戦い続けるだろう。

 

「蛮ちゃん、蹂躙しろ」

 

 命令に従ってドンカラスを潰す為に蛮が一気に前へと出る。火傷とまきびしを喰らっていても、ドンカラスの方が動きが早い。蛮よりも早く動き、背後へと回り込んで鋼に変化した翼を叩きつけ、蛮の体を砕こうとする。それを体で受け止めた蛮はドンカラスを掴み、大地へと叩きつけてから蹴り上げ、ストーンエッジのフルスイングを叩き込んでドンカラスを吹き飛ばそうとし―――ドンカラスが空中で体勢を整え直し、ゴッドバードを即座に叩き込みに行く。それに対応する様に正面からドンカラスを殴り飛ばし、ゴッドバードの衝撃を潰す事が出来ずに、

 

 蛮とドンカラスがダブルノックアウトで同時に倒れる。

 

 蛮をボールの中へと戻し、相手がドンカラスをボールの中へと戻す。これでアッシュ、災花、蛮が落ちて相手はアブソル、ミカルゲ、ドンカラス、マニューラが落ちて3:2の状況だ。此方に残されているのは黒尾、月光、そしてナイトだ。状況は完全に此方がリードしている。恐らく、カリンとは一番相性の良い四天王だろう。

 

 カリンと自分の勝負は戦う前に始まっている。

 

 読みでも戦術でも能力でもない、

 

 育成の勝負だ。

 

 戦う前にどれだけポケモンを強く育成できたか、それで勝負が決まる。

 

 だから負けはしない。レベルで負けていても、そんな事で負ける程弱くポケモンを育ててきているつもりはないのだから。

 

 カリンがヘルガーを繰り出してくる。それに合わせる様に再び月光を繰り出し、天候を大雨へと変える。浸水し始める水がヘルガーの力を大きく削ぎ、そしてその攻撃と威力を制限する。ヘルガーがダメージを無視しながら一気に月光へと接近するが、月光がみがわりを生みだしてその攻撃を回避しつつ、みがわりを爆発させる。その衝撃にヘルガーが怯んだ瞬間、水手裏剣が放たれ、ヘルガーを穿つ。それでもレベルの高いヘルガー、その程度ではまだ沈まない。バトン効果を発動させて月光を戻し、ポケモンをナイトへと入れ替える。

 

 ヘルガーが繰り出したかみくだくをナイトが耐え抜き、吠える。強制的にヘルガーがボールの中へと押し戻され、そしてもはや出ても意味のないポケモンになる。ヘルガーの体力を考えれば、まきびしと火傷のスリップダメージで沈むからだ。

 

 ナイトが吠えた事で場へと引きずり出されたポケモンは―――ナイトと同じ、ブラッキーだった。ただしこちらは亜人種であり、黒い服装にブラッキー特有の尻尾を生やした、パーカー姿の可愛らしい少女だった。おそらくはエースなのだろうが、育成型が相手であれば、対処は難しくはないと思っている。迷う事無くバトン効果でナイトを戻しつつ、ポケモンを黒尾へと切り替える。

 

 黒尾が出現した所で、ブラッキーが黒尾へと近づき、攻撃を放ってくる。

 

 それをガードする事もなく受け入れ、黒尾は沈み、

 

 みちづれが発動する。黒尾の怨念が大地から影の腕を生みだし、それがブラッキーを掴んで無理やり瀕死へと引きずり落とす。倒れた黒尾をボールの中へと戻しつつ、再びナイトをフィールドへと繰り出す。カリンも同じくポケモンをボールの中へと戻すが、それでも繰り出す事の出来るポケモンはもういない。カリンは軽く溜息をつく。

 

「もう、貴方は完全に四天王のレベルを超越しているわ……先へ進みなさい、そしてチャンピオンへと挑むといいわ。貴方は……いえ、これは必要のない言葉ね。貴方はきっと戦って、そして勝つのでしょうね。今までの様に何時もの様に。羨ましいわね、好きなポケモンで戦って、そしてどこまでへも行けるというのは」

 

 湧きあがる歓声の中、息を吐きながらナイトをボールの中へと戻し、実況を解説の言葉を聞き流しながらフィールドに背を向ける。

 

「これで……四戦目クリア―――」

 

 血は熱で滾っている。

 

 心は今もバクバク存在を主張している。

 

 頭の中はどう戦えばいいかでずっとループしている。

 

「―――後、少し……」

 

 息を吐き、背後へと視線を向ける事もなく控室へと、一時間の休息を挟む為に歩いて行く。




 好きなポケモンだけをずっと育てたら110レベとか言うお人。ただ相性ゲーなのでオニキス君には絶対に勝てないという。レベルの暴力が通るキョウには比較的に相性が良いらしい。

 というわけで四天王はサックリ突破です。

 そして余興はここまで。

 漸く本番

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