目指せポケモンマスター   作:てんぞー

7 / 80
焼けた塔の三匹

 スクーターもキャリーバッグも、必要な道具以外は全て旅館に預けてきた、ショルダーバッグにジャケット、そしてモンスターボール。それ以外の荷物はない。そんな状態で元カネの塔、エンジュシティの焼けた塔へとやって来た。昔、雷が落ちた結果燃え、そして朽ちてしまったカネの塔、それが今、残っている焼けた塔の正体。その時に死んでしまった三匹のポケモンだがなんだかがホウオウにその命を救われた結果生み出されたのがエンテイであり、ライコウであり、スイクンである。ただ一つ言いたいのは、

 

 もうちょっとましな炎技を早い段階でエンテイにあげて欲しかった。それが人のやる事かよ。

 

 いや、そういえばポケモンだった。

 

「んじゃ、まずは軽い調査から始めるか。頼むぜメタちー」

 

 スペアポケットの中から取り出したモンスターボールを開き、そこからメタモンを出現させる。焼けた塔へと勢いよく、滑るように進んで行くメタちーから視線を外し、視線を焼けた塔、つまりはカネの塔跡地へと向ける。そこには完全に焼け焦げ、そして放置された広い土地がある。焼けた木材はそのまま、若干腐っているのも見える。そういう状態で放置されたまま、それが焼けた塔の現在だった。

 

 ありていに言えば、痛々しい。

 

 軽く溜息を吐きながら焼けた塔の敷地内へと入って行く。それに対して視線を向けてくる人間はいるが、それでも止める者はいない。意味のない事だとでも思われているのだろう。実際、意味のない事かもしれない。それでも実行するまではどうなるか解らない―――ボスに教わった事だ。故に出来る事はやっておく。やらずに後悔するよりやって後悔した方が良いに決まっている。腐った木材、焼けた支柱などをよけながら敷地内、というか建造物内を歩いていると、メタちーが床を這いずりながら戻ってくる。

 

メタメタメタ(下に空洞あるっす)メター(掘るっす)?」

 

「GO!」

 

 迷う事無くゴーサインを出した瞬間、メタちーの姿が亜人種のダグトリオのモノになり、一瞬で地面に穴を開ける。それを確認するのと同時にゴーグルを装着し、両手に手袋を装備した状態で穴の中へと飛び込む。ゲームであれば下へと降りる階段があったが、そんな都合の良いものはどうやら存在しないらしい。穴の中を斜めに滑り落ちて行けば、

 

 やがて、洞窟の様な空洞へと到着する。一切の光源が存在しない完全な闇の中、軽い浮遊感を覚える。下へと落ちているというのを自覚しつつ、手を伸ばしてメタちーを手元へと呼び寄せる。ダグトリオの姿をしていたメタチーがメタモンの姿へと戻り、背中へと引っ付く。そのままメタちーが再び変身を使用し、その姿を変える。赤帽子の真似事だが、指、体、或いは意識の向け方でポケモンに対して音声なしで指示を出す事ができる、これは夜という環境を戦場にする自分のパーティーにとっては必須の技術だ。

 

「メタちー、フラッシュ」

 

メタふりぃぃー(了解っす)

 

 バタフリーへと姿を変えたメタモンが背中に引っ付き、ゆっくりと下へと向かって降りて行きながら洞窟内を照らす。穴を開けた場所から地上までは三十メートル程の高さがあった。流石にこれは死ぬほど痛いだろうなぁ、と思いつつ、更にモンスターボールを二つ取り、下へと向けて開閉させる。赤い閃光と共に、下にナイトと蛮が出現する。洞窟内にいたポケモン達が二体の登場と共に一気に離れて行く。着地場所の安全を確保させつつ、ゆっくりとメタちーと共に着地する。

 

「うっし、着地成功だな」

 

 更にボールを取り出し、トロピウスと災花を出現させる。

 

「災花とトロぴーはここで待機、出口のガードを頼む。万が一三匹がここを通って逃亡した場合、”三匹目”を足止めしてくれ。たぶんその必要はないと思うけど、一応保険にな」

 

「ん、解ったわ。幸運を祈っているわよ」

 

がぁーぉぅ(ファイトです)

 

 災花とトロぴーから視線を外し、メタちーを今度はピカチュウの姿に変える。頭の上に乗ったピカチュウはそこでフラッシュを続け、一切の光源が存在しないこの洞窟内に光を与え続ける。これで洞窟内を探検する最低限の準備が出来た。酸素が少々心配だが、ショルダーバッグには酸素缶を一応持って来てある、対エンテイで酸素を燃焼されてしまった場合、これで何とか戦闘続行させられると思いたい。まぁ、おそらくは自分達が入って来たルートとは別の入り口が存在すると思う。或いは空気穴でもあるのだろう。

 

 ともあれ、

 

「進もう。雑魚に構う必要はない」

 

 蛮とナイトの存在感だけで野生のポケモン達は近づいてこない。高レベルは存在する、それだけで他者を威圧する。だから警戒は人間に対してだけしておけば、基本は大丈夫だ。野生のポケモンはそこまで無謀じゃない、命を惜しむからだ。だから本能的に、或いは直感的に強い、或いは危ない相手を避ける傾向がある。

 

 逆に言えば、危険に感じる方向へと進めば、強い奴に会えるという訳だ。

 

 ポケモントレーナーをやっていれば嫌でもそういう感覚は感じる。どんなにポケモンを育てようとも、トレーナー自身が強化されている訳ではない。かえんほうしゃでも喰らえば一瞬で火だるまになってしまう。それであっけなく死んでしまう、それがリアルという奴だ。伝説、或いは準伝説級。

 

『ここまで来るとどこにいるのか、大体感じられますね』

 

 焼けた塔の地下洞窟、その暗闇の中をフラッシュ頼りに進めば進むほど、段々と強者の気配が強く感じられるのが解る。この洞窟のつくりは複雑じゃない。それは歩いている内に簡単に把握できる事だった。道は曲がりくねっていないし、下へと降りる”階段”が存在する。この洞窟は人為的に生み出されたものだというのが解る。

 

 おそらくはカネの塔がこの上に立てられたのだろう。そしてそのうちにこの洞窟の存在が忘れられた、大体そんな感じだろう。あまり背景に関しては興味はないが、予測だけはしておく。それよりも重要なのはバトルが出来るかどうか、という所だ。と、進んでいると正面に岩盤が見えてくる。無言で手を振れば、蛮が前に出て、それに対して”いわくだき”を行い、穴を開ける。予想通り、その先にも空洞が広がっている。ナイト、そして蛮を率いる様に先頭に立って空洞に入る。

 

 そこは洞窟の中でもひときわ広い空間だった。

 

 ピカチュウに変身しているメタちーのフラッシュでも隅々までは明るくならず、影が残っている。そんな部屋の中央、そこへと視線を向ければ、三つの姿が存在しているのが見える。その三つの姿はどれも自分が良く知っている原生種の姿だ。

 

 一つは茶色の毛に覆われた、仮面を被っているような姿の獅子。次のが雷雲を背に背負った虎。そして最後にクリスタルを象った宝石の様な装飾が頭についた、羽衣を纏った水色の獣。エンテイ、ライコウ、スイクン。ジョウト地方における準伝説、或いは伝説級のポケモン達。その一匹一匹が既にポケモンリーグで活躍できる程の実力を保有しているポケモンだ。眼を閉じていた三匹が、此方が部屋に入るのと同時にゆっくりと目を開ける。

 

 その視線が、此方を捉える。

 

 それに合わせる様に右手を前に突き出した瞬間、エンテイ、ライコウ、スイクンの三匹が消える様に動き出す。

 

「バトルしようぜ?」

 

 横を二匹が抜け、外へと向かって走り去って行く―――が、三匹目、その姿は背後の抜け穴を抜けようとするが、それに届くことなく足を止める事になる。

 

なーうなーう(まなざしと)なううう(ふういん)ななう(完了だ)

 

 ステップを取りながらエンテイが再び空洞の中央へと移動する。それに合わせ、数歩前に移動し、ボールの中へとナイトを戻し、蛮に前に出る様に指差す。瞬間、蛮の特性によって砂嵐が巻き起こる。それによって一気にその防御能力が上昇しながら、蛮は素早く、バンギラスという鈍重な種族にしてはありえない速度でエンテイの正面へと殴り込む。ほとんど音を立てずに接近した蛮の姿に驚く事無くエンテイはそれを超えるステップで横へと移動すると、かえんほうしゃを口から、薙ぎ払う様に此方にも向けて放ってくる。だけど、それが来るのは見えていた。エンテイのかえんほうしゃを飛び越える様にドッジしつつ、蛮へとサインと指示を飛ばす。

 

「そこだ!」

 

「ギャァァァァォォォォ―――!!」

 

 蛮のばかぢからがかえんほうしゃを受けつつも放たれる。エンテイのかえんほうしゃを受けながら放ったそれは威力がある程度減退されるが、それでもエンテイを正面から殴り飛ばすだけの力はある。そこで動きを止める事もなく、連続で指示を飛ばしながら此方も走り始める。エンテイの片目は此方へとも向けられている。隙があればこちらも食い破るつもりだろう。エンテイの口と背に炎が灯る。

 

「かわせっ蛮ちゃん!」

 

 素早く蛮が横へと回避しながら、手に岩を固めて作った刃―――ストーンエッジをエンテイへと向けて放つ。横から殴りつけられたエンテイの炎があらん方向へと吹き飛び、洞窟内を赤く照らす。十分な光源が確保されたことに理解し、メタちーもボールに戻しながら走る事を続ける。足を止めればエンテイの良い的だ。蛮が戦えるように、ちゃんと動きと指示を続けなくてはならない。

 

「グルルルゥゥゥォォォオオオオオオ―――!!!」

 

「ギャァァァァォォォッゥゥウウ―――!!」

 

 洞窟内に鼓膜を破壊する様なエンテイと蛮の咆哮が轟く。口を開く様子から即座にガードに入ったため、そして距離があったために無事だが、その隙にエンテイは跳躍を繰り返しながら蛮の背後を取ろうとする。それを蛮は片目で追いかけながらサイドステップからのダブルステップ、素早く連続移動を重ねつつ、じしんを繰り出す。洞窟内の大地が揺れ、そしてエンテイが着地しようとしている足場を破壊する。それをエンテイが体を捻り、だいもんじを放つ事で攻撃しながら態勢を整え直す。

 

「流石伝説って言われるだけはあるな、トレーナーがいないのに強い―――ってか硬いな」

 

 だいもんじを正面から突破しながら即座に追いついた蛮がストーンエッジをエンテイへと叩き込み、その体を吹き飛ばす。吹き飛ばされながら体勢を整え直したエンテイがかえんほうしゃ、今までの数倍の規模で吐き出し、一面を炎で埋め尽くす。それを飛び越え、そして横へと回り込みながらストーンエッジで蛮が応戦する。それを回避する様に動くエンテイの姿を捉える。

 

「そこっ」

 

 投げたハイパーボールを蹴り飛ばす。超高速で突き進んだハイパーボールはエンテイへと当たりそうになった瞬間、燃え上がり、そして塵となる。ち、と舌打ちしながら左手に次のボールを握る。まだエンテイは潰れてくれないらしい。それに蛮もエンテイの攻撃を受け止め続けている為、そろそろ限界かもしれない。いや、まだあと四発は行けるな、と耐久力から計算し、

 

「回避ベースに切り替えろ蛮ちゃん! 予想より耐久力がたけぇ!」

 

「ガァァォォオ!!」

 

 吠えながら蛮がそれに応答する。動きはさらに軽く、そして早くなる。エンテイが種族値に任せた素早い動きを取るのであれば、蛮が取るのは自分の種族の動きではなく、一緒に育ち、そして戦ってきた仲間から覚えた動き―――即ち月光や災花の、素早い、そして姿を消す様な動きだ。そもそも、蛮の体が他のバンギラスより小さいのは、回避しながら攻撃を叩き込めるように鍛えた他に、幼少の頃から戦闘ばかりを行った結果、

 

 外へと向かって広がる筈だった肉体が、圧縮される様になってしまったからだ。

 

 おかげで特殊攻撃力、特殊防御力に関しては伸びが悪くなったのは事実だが、

 

 それを遥かに超える様に防御力、素早さ、攻撃力―――何より体力が異常に伸びた。

 

 これを、変異種という。

 

 故に命じられたように、異常な耐久力で耐えながら蛮が回避する様な動作を取る。溢れ出す炎を横へと回避し、身を低くしながらストーンエッジを盾に、ダメージを受け流しながら新たなストーンエッジをエンテイ―――の横っ面へと叩き込み、その姿を殴り飛ばす。重量の問題から、蛮の攻撃を受ける度にエンテイは強制的に吹き飛ばされる。が、即座にカウンターを放ってくる辺り、エンテイもエンテイで段々蛮のペースに慣れてきている。

 

「良くやった! かわれ、ナイト!」

 

 ボールを二つ、交差させるようにスナップさせ、蛮を戻しながらナイトを出す。出現するのと同時に着地したナイトが声を上げる。

 

なぁーう(詰みに入るぞ)!」

 

「ナイト、よるのとばり!」

 

 洞窟内部の第一天候が、時間帯が夜へと変更し、薄暗い暗闇が辺りを包む。黒尾の特性である”よぞら”をわざマシンとして抽出し、習得させたのがこれ、”よるのとばり”になる。その効果は実にシンプルであり、天気、或いは時間帯を夜にする。

 

 この天気の効果はゴースト、及び悪タイプ技の強化、回避力の上昇、

 

 そして、

 

「―――シャドーダイブ」

 

 闇に溶けたナイトが一瞬でエンテイの背後に出現し、影を纏ってその巨体をエンテイよりも小柄ながら、吹き飛ばす。本来はギラティナしか覚える事のない伝説種の技の一つ―――だが生憎と、それを見て、経験し、そして使える存在がいるのだから、徹底的に繰り返して、才能、或いは素質がありそうな手持ち”全員”に覚えさせた。この夜というフィールドではシャドーダイブが溜めなしで放てる。

 

 そしてこれは、完全な初見殺しだ。

 

 ナイトが闇の中を駆け抜けながら闇と同化し、エンテイの炎を影に潜って回避し、それが終わった直後に横から、下から、背後から出現して影の纏った一撃を食らわせる。回避するエンテイのスピードは大分落ちている、というのも蛮があらかじめストーンエッジとばかぢからでエンテイを削ったのが重要だったりする。

 

「ま―――伝説つってもトレーナーがいないんじゃ動きがワンパだからな。お前の事はじっくり蛮ちゃんで観察させてもらったぜ。もう負ける要素はねぇ」

 

 ハイパーボールを新たに取り出しながら、ハンドシグナルでナイトへと指示を繰り出す。夜というフィールドが出現し、エンテイの動きを自分が見切った以上、もはやシャドーダイブ以外を使う必要はない。ふういんとくろいまなざしでエンテイの逃亡、及びそれを可能にする技が封じ込められている今、

 

 エンテイが俺から逃げ出す手段は存在しない。

 

なうな(詰みだ)

 

「ナイト、あくびからのみきり」

 

「―――!!」

 

 あくびを放ったナイトのそれがエンテイに当たる。次に何が発生するのかを理解してエンテイが逃亡を開始しようとするが、くろいまなざしの効果で逃亡が出来ない。攻撃をしようともナイトは回避に全神経を注ぎ、みきりの状態へと入っている。攻撃を喰らい、弱り、そして完全にエンテイは詰んでいた。やがて、よろよろとエンテイの姿は倒れ、

 

 そして静かな寝息が漏れ始める。

 

「唯一神―――」

 

 弾きあげたハイパーボールに回転蹴りを叩き込み、それをエンテイの額へと叩き込む。開いたハイパーボールはその中へとエンテイを引きずり込み、そして大地の上へと落ちる。数秒間、音を立てながら揺れるハイパーボールの姿を無言で眺める。既にナイトには追撃の準備を完了させている。もし出てきた場合、即座にハメる準備を完了させてある。

 

 しかし、その心配もなく、

 

「―――ゲットだぜ」

 

 ハイパーボールの動きが止まり、エンテイの捕獲が完了した。




 足(唯一神)ゲットだぜ。まぁ、オーバー80一体程度なら大体こんな感じかなぁ、と解ってくれれば。これが普通の伝説となってくると数倍酷い事になります。

 クリスタルのボール蹴りはカッコいいと思うの。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。