目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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最後の休息

 ―――夢を見ている。

 

 ―――懐かしい夢を見ている。

 

 

 

 

 銃を握って、それを少年の姿へと向けている。銃を握っている自分も、そして相対している少年の姿も、ボロボロだ。手持ちのポケモンは全員瀕死の状態になって、戦う事が出来ない―――といっても、二匹しかその頃にはいなかった。だから負けるのは割と当たり前だった。それでも、敗北を認めたくはない、認められない。だからトレーナーとしてはやってはいけない事を、銃を抜いてしまった。そうやって目の前の少年に―――赤帽子の少年、レッドに銃を突きつけて動きを止める。そう、誇りよりも優先させるべき事があった。先へと進ませてしまえば絶対に敗北してしまう。それは理解していた。

 

 赤帽子は死神だ。

 

 だから前へと進ませる事は出来なかった。赤帽子の横で電撃を漏らすピカチュウの姿が怖い。それでも銃を構える腕を降ろす事は出来ない。世界征服。そこに価値を見出している訳ではないし、ロケット団の様な共通の願いを持っている訳じゃない。それでもボスに感謝しているのだ、救われたのだ。だから絶対に裏切る事は出来ない。命を救われたのであれば、その恩を命を持って返さないといけない。それだけの話だ。そう信じていた。だから迷う事無く銃を抜いて、動きを止めていた。

 

 それでもそれには終わりが来る。

 

 結局は負けてしまった。体が耐えられずに横へと落ちて行く。手から銃が零れ落ちて行く。勝てない。絶対に勝てない。犯罪を犯す限りは絶対に、赤帽子には勝利できない。それを理解していても、足掻きたかった。

 

 そんな、苦い敗北の夢。

 

 

 

 

「―――でも、それももう終わったんだよ……終わったんだ……」

 

 ソファの上で目を覚ます。俯せになって眠っていたのは、先程までピカチュウに頼んで軽い電気ショックによる電気マッサージを頼んでいたからだ。肉体的には疲れてはいないが、それでも気持ちが良い、という環境は精神的な疲れを癒してくれる―――こればかりはカグツチの力でもどうにもならないからだ。ワタル戦を前にメンタルもフィジカルも、最高のコンディションに整えておきたい。そういう考えからワタル戦までの一時間の間はなるべく休息しておこうと思ったが、時計を確認する限りはまだ二十分近く時間が余ってしまっている。眠ったのは良いが、浅かったようだ。

 

 だから夢なんてものを見てしまったのだが。

 

 苦い、敗北の想い出だ。懐かしい、シルフカンパニーでの戦いの記憶。絶対に勝てない戦いの記憶だ。だけど、それももう乗り越えた。終わった話だ。過去は過去、それに何時までも囚われている自分ではない―――懐かしい、それだけの記憶だ。何年も前の自分の経験の一つ。それは血肉となって今、自分を生かしているのだ。起き上がり、ソファの上に座り直す。部屋の中にピカチュウの姿がない―――どっかへ遊びに行ったのかもしれない。まぁ、それはいいのだ。それよりも予想よりも早く起きてしまった。

 

「時間が出来ちまったな確認だけしとくか」

 

 カリン戦の時は装着していなかった、紋様が中に見える石が飾ってあるペンダントをちゃんと装着してあるのを確認する。それとは別に、ソファの近くのテーブルの上に広げてある、ワタルに関する資料を持ち上げる。”チャンピオン”、”ドラゴンマスター”ワタル。その手持ちの詳細なデータがその資料には乗っている。無論、ポケモン協会、ポケモン大好きクラブ、そしてポケモン研究会にロケット団からのワタルに対する評価を乗せてある。

 

 ワタルの手持ちは全て天賦固体である。

 

 天賦カイリュー。

 

 天賦ボーマンダ。

 

 天賦デルタ種キングドラ。

 

 天賦サザンドラ。

 

 天賦オノノクス。

 

 天賦色違いガブリアス。

 

 ―――フライゴンさんが話を聞くだけで発狂しそうなパーティーだ。いや、ガブリアスだけじゃなくても発狂するには十分すぎる面子だ。このカントー・ジョウトにおける間違いなく最強の一人であり、最強のパーティーだ。そりゃあ天才、天賦の才を保有するポケモンだけでパーティーを固めもすれば強いに決まっている。だが真に恐ろしいのはワタルがこの六体の原生種を完璧に統率している所だ。天賦の才のドラゴンポケモンなんて”人間を喰って当たり前”なんてしか考えていない様な連中だ。

 

 それが全て、ワタルを主として、良き隣人として、共に戦う仲間として認めているのだ。

 

 実力以上に、ドラゴンポケモンをそこまで惚れさせる器が怖い。

 

 ポケモン協会の評価は”公式戦じゃなければ赤帽子相手に勝率5割の怪物”と評価されている。

 

 ポケモン大好きクラブからは”ドラゴンに愛され、愛する男”と評価されている。

 

 ポケモン研究会からは”解剖したい”の一言で、

 

 ロケット団からは”人間に破壊光線やめろ”で終わっている。

 

 これからは研究会とロケット団の評価を見るのを止める事にしよう。

 

 ともあれ、重要なのはこのワタルとドラゴンポケモンの実力以上に、お互いが完全に信頼し合っているという状況だ。お互いを信頼しているポケモンとトレーナーは強い、恐ろしいぐらいに強い。簡単に言えば能力以上に実力を発揮して来るのだ。解りやすい例は―――蛮だ。こいつは非常に身内へ甘いというか、家族意識が強い。卵から育てている影響があるのかもしれないが、蛮は偶に、命さえ投げ捨てて戦ってくれる事まである。それが”食いしばり”ともいえるものの正体だ。究極的に言えば痩せ我慢、或いは気合。それでダメージを無理やり誤魔化して、戦闘を続行するのだ。深い絆で結ばれているトレーナーのポケモンは、平気な顔でそうやって戦闘を続けてくる。

 

 ある意味、限界突破とも言える。

 

 もう一点厄介なのはワタルが他の地方のドラゴンタイプポケモンを使用しているのを見れば解るが、ワタルは強くなる事に対して非常に貪欲であり、流行に対して敏感だ。おそらくはこのカントーやジョウトで、タイプ限定型の交代戦術を使う珍しい人物でもある。この場合、間違いなくマルチスケイルカイリューが受けとして機能して来るのだろう、実に泣きたくなってくる。ワタルの事だ、おそらくは羽休め辺りを仕込んでいるに違いないし、許されない事で有名なバリアカイリューなのだろうとは思う。

 

 バリアマルスケ羽休めカイリュー。一体何を相手に耐久を挑むつもりなのだろうか。

 

『今回の勝負、どうやら勝利の鍵を握るのは私の様ですわね』

 

「クイーンか」

 

 近くのテーブルの上にはモンスターボールが置いてある。自由に出しておく時間がないからそのままにしてあるが、どうやらバリバリ起きていたらしく、此方の事を見ていたらしい。まぁ、クイーンの言っていることは正しい。まず間違いなくクイーンが勝利の鍵となるだろう。恐らくこの世界全体でも、”天賦殺し”と”色違い殺し”を保有しているのはクイーンだけだろう。だからワタル戦ではどうやってクイーンを消耗させずに出番を回すか、というのも大事になってくる。

 

『まぁ、勿論私の特技に関しては警戒されているでしょうから、私を組んだと思わせてそれをあえて外す……という手もありますが、この状況で私を外す意味はないでしょうし、普通にスタメンに組んでおいた方がいいと思いますわね。まぁ、あまり売り込みみたいなことはしたくはないのですが、恐らく私がサポートなしで戦っても、安定して二人までなら狩り落とせる自信がありますわ』

 

『ここぞ、とばかりにアピールで御座るなぁ……』

 

 まぁ、事実、今回の戦いにおけるエースは間違いなくクイーンだ。一枠、クイーンで確定しているといっても良い。

 

「現状の所、確定しているのは黒尾、ナイト、蛮、災花―――そしてクイーンだ。この五人までは選出確定しているんだわ。ただ最後の一枠をいったい誰にすればいいのか、って所で若干迷ってる所はあるんだわなぁ、これが……」

 

 そうねぇ、とダヴィンチの暢気な声がする。

 

『私は三回までだったら間違いなく封印でアドバンテージを稼ぐ事が出来るわ。後は未だに見せていない”ときのほうこう”や”あくうせつだん”でフィールド崩壊、環境再構築の手伝いも出来るわん。ただ、やっぱり耐久力と火力は完全に死んでるわよ、私。アドバンテージは稼げても、絶対にダメージは稼げないと思うわ。火力の増強を考えず、搦め手によるサポートと状況支配を狙うなら間違いなく私ね』

 

『ちなみに今回、拙者は辞退するで御座る。大舞台で戦いたいのは山々で御座るが、拙者の役割はトラッピングで御座る。恐らくワタル殿のドラゴンポケモンであれば設置しても破壊するか突破して来るから、あまり効果が期待できないで御座ろうな』

 

 そういう訳で、サポートでいれるならダヴィンチを入れる事になる。現在の構成を考えるとフルサポートの数が足りないから、ダヴィンチを入れるという選択肢は悪くはない。だが、この戦い、凄まじい耐久力を誇るドラゴン軍団を相手にするのだ、ほんとうにサポートだけで火力は十分なのか? という疑問が残る。

 

『となると、私かアッシュの出番よね』

 

 サザラがそう言う。

 

『私はパーティーのエースとして実績を重ねてきた自信があるわ。何よりこの世界におけるサザンガルドは私だけ―――ドラゴンタイプから身を守りながら的確に弱点を突いて戦う事が出来るわ。このパーティーで一番経験のある”天賦の才”だし、間違いなく火力としては最上級、最大のエースとしての活躍を約束するわ。私一人でパーティーの火力はゴリゴリ上がるわよ』

 

 それに対してアッシュが続く。

 

『なら私は”種族値”で勝負よ。固有種であるメガリザードンZは私だけ、この種族値だけに関しては伝説種さえも超越していると自負しているわ! 同じレベル帯での勝負ならまず間違いなく火力、耐久、速度におけるアドバンテージを捥ぎ取れるわ、何せ相手のパーティーが種族値による暴力だからね! タイプも炎ドラゴンだから相手の弱点を突いて戦えるわ! 私も天賦の才よ、天賦とやり合うなら間違いなくこの種族値と才能が武器になるわ』

 

 ……アッシュも大分言う様になった。最初の頃の子供っぽさが嘘の様だ。成長した、という事なのだろう。とりあえず残った月光を抜いた三体は三体とも天賦の才だ。これだけいると天賦が安く見えるが、数千、或いは数万体の内の一体のみにしか出現しないのが天賦の才というものだ。ここまで一か所に良く集められたものだ。三体集めるとか相当辛いのだ、普通は。

 

 とりあえず纏めてみる。

 

ダヴィンチ……フルサポーター

 メリット……多彩なサポート手段、豊富な技幅、確実にアドバンテージを稼げる

 デメリット……火力と耐久力が皆無、ワタルがタスキを貫通する可能性

 

サザラ……フルアタッカー

 メリット……超高火力、相性補完完璧、弱点を殴れる

 デメリット……一番有名なパーティーのアタッカー、対策されているかもしれない

 

アッシュ……フルアタッカー

 メリット……現存するポケモン最強の種族値、弱点を狙える

 デメリット……サザラ同様ドラゴンタイプである為、ワタルにその存在を見抜かれやすい

 

「……纏めてみると大体こんな感じか」

 

 それぞれ特色が見えてくる。火力が蛮と災花とクイーンで足りていると思えばダヴィンチを、そうじゃなければアッシュかサザラを加えるといった所だろう。アッシュとサザラの差別化は天候を重視するかどうか、というところだろう。夜から星天に繋げて一致天候Vジェネレートを放てるのはアッシュだけだし、星天解除流星群で一番ダメージが稼げるのもアッシュだ。恐らく、瞬間的な火力ではアッシュが上回る。ただ居座る事を考えたらサザラが上回るのだろう。だが……ダヴィンチを加え、全体の生存率を上げる為にサポートさせるというのも実に捨てがたい。

 

 選択肢が多くて困る。

 

「まあ、誰を出すかは大体決まっているんだけどな」

 

『ほう?』

 

 興味津々な声に応えつつ、時間を見る。もうそろそろ準備をしておくべきだろう。ボールとゴーグル、ジャケットを装着し直しながら口を開く。

 

「俺が最終戦に選ぶ最後の一人は―――」

 

 さあ、

 

「始めようぜ、最終決戦」




 黒尾……先発
 蛮……物理アタッカー
 ナイト……受け・交代起点
 災花……フルアタッカー
 クイーン……天賦キラー
 ????……不明

 最終戦、つまりはチャンピオン戦は次回。ポケモンORIGINのチャンピオン戦BGM辺りを流しながら読むと臨場感が出るかもしれない。

 それでは次回。

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