目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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出発点

「……死ぬかと思った」

 

「……うん。本当にね」

 

 レッドとそうやって溜息を吐きながら、シロガネ山の下山を完了する。何があったのかと言うと、実に簡単な話―――バトルが終わってぼろぼろの状態の所をバンギラス、ムウマージ、ゴローニャが率いる群れが襲いかかってきたのだ。まさに波状攻撃、バトルが終わって手持ちが全滅している瞬間を狙ってきた野生のポケモンの群れによる攻撃はまさにこの瞬間を狙っているものであり、珍しく頭が空っぽになっていた状態なので、そのままげんきのかけらを使う事を忘れて銃等を使って撤退戦開始、

 

 げんきのかけらを使えばいいじゃねーか! と思い出すまで数時間、シロガネ山でサバイバル戦を繰り広げる事になってしまった。人間、パニクるとどうなるか一体解ったもんじゃない。まぁ、そんな訳で、”先行充電”と”先行加熱”は異能ではなく、ポケモンの能力を限界まで引きずりだした戦闘方法だ。その為、必然的に耐えきれないトレーナーの方へとダメージが入る。結果、治療する必要もあり、その分、数日間シロガネ山で過ごす事になり、

 

 こうやって、漸く下山する事が出来た。レッドも敗北したのが良い機会らしく、そろそろ両親に生存報告をする為にマサラタウンまで一度行こうという事らしく、一緒に下山してきた。シロガネ山のふもとへと到着した所で、漸く”飛行制限”ともいえる状況が解除される。ケンタロスジャーキーをもがもがと口に加えながらも、軽く一息を付く。

 

「……君はどうするの」

 

「待ち人がいるからな、ハードスケジュールだけど今からトキワシティへ向かうさ。マサラに行くならトキワまで伝説便で送るぜ」

 

「それは……楽しそうだし、頼もうかな」

 

 楽しそうに笑みを浮かべるレッドにそうだろうそうだろう、と胸を張る。伝説のポケモントレーナーなんて元の世界で言われているが、ここにいるレッドは伝説のポケモンを一体も捕獲してはいない―――つまり、伝説のポケモンを保有しているのはこの俺だけの特権となる。そこらへん、割と誇らしい、というか明確に負けていない所なので割と自慢している部分なのだ。ともあれ、手を天に掲げ、そして口を開き、声を響かせる。

 

「来い、ツクヨミ!」

 

 足元が一瞬で黒に染まり、やぶれたせかいへと接続される。それと同時に感じる一瞬の浮遊感の直後、それを支える存在によって消失し、やぶれたせかいから出現した、オリジンフォルムのギラティナ―――ツクヨミによって持ち上げられ、空へと舞い上がる。首輪と鎖へと加工されたはっきんだまのおかげで自由にオリジンとアナザーの姿を切り替えられるツクヨミは、レッドと己を背に乗せ、シロガネ山付近を越えて行き、そのまま真っ直ぐ東へ、カントー地方へと向かって飛翔して行く。

 

「おぉ、凄い凄い! 伝説の上に乗るってこんな感じなんだ、いいなぁ」

 

「はっはっは! もっと褒めろ! もっと褒めろ! この俺が最強だからなぁ!」

 

「……来週辺り再戦を挑もうかなぁ」

 

 頂点、長く続かないかもしれないなぁ……なんてて事を思いつつも、ツクヨミが重力や風圧、そういった干渉を反物質の生成により相殺し、無力化して行く。慣性が発生しているのに、なのにその背に乗っている自分達は一切衝撃や揺れを感じない、その快適さを楽しみつつも次々に変わって行く景色を楽しんで行く。移動は早くても、それでも見える事は多い。たとえばすぐ横へと視線を向ければ、三十を超えるエアームドの群れが飛翔している。此方へと視線を向け、ツクヨミへと敬意を示し、一定まで共に飛翔してから別れる。

 

 地上へと視線を向ければ野生のギャロップとポニータの親子が湖の畔で休息を得ており、それを喰らおうと虎視眈々と狙うウインディの姿が見えた。野生のポケモンは観察しているだけで一日が終わる。そう言われているが、実際にそう思う。ポケモンにはまだ未知の領域が存在し、そして自分は、きっと、まだポケモンで知らないことが多いと思う。この世界で生まれ育った者達みたいに、ポケモンが生活にあったわけではない。トレーナーズスクールに通ったわけでもない。

 

 この体を形作っているのは”生きる為”に必要なポケモンの知識と、バトルの全てだ。

 

 逆に言えば、それしかない。

 

 ―――そんな事を考えている内にカントーとジョウトの境目を超え、あっと言う間にトキワシティの姿が見えてくる。流石にピジョットでももうちょっと時間がかかるものだが、伝説を移動手段として利用すると、そんな事はない、旅も一瞬で終わってしまう。トキワシティの中にゆっくりと降下する様に降りて行き、飛び降りても平気な高さまで下がったところで、レッド共々ツクヨミの背中から飛び降りて着地する。ツクヨミも亜人種のアナザーフォルムへ、ドレスとロングコート姿の女の子の姿へと変身し、横に着地する。

 

「それじゃあ、ここからは歩いて帰るよ。応援してるよ」

 

「おう、また遊ぼうぜ」

 

 右手で軽く手を叩きあうと、まだ完治していないので、微妙に痛みが響いて、二人で一瞬だけ動きを止め、ちょっとだけ笑って、そして直ぐに背を向けて歩きだす。トキワシティはそう広くはなく、密集地でもない。軽く歩けば、まばらな人影が、その視線が此方へと向けられているのが解る。現在、このカントーとジョウトではトップに有名人となっている自覚がある。伝説のポケモンの背に乗って登場なんてすれば一瞬で人が駆け寄る―――なんて事にはならず、そんな事よりも”畏怖”が先行し、誰も近づいてこない。

 

「寂しいもんだわ」

 

「じゃあ私が温めてあげるー。ぬーくぬーく」

 

「いや、まぁ……暖かいからいいんだけどさぁ……」

 

 色ボケ伝説の態度に溜息を吐き、ツクヨミと腕を組みながらトキワシティの中を歩く。前来た時と全くトキワシティの姿が変わっていない。その事に安心感を覚える。それはつまり、自分がここでポケモントレーナーを始めた頃から全く変わっていない、という事でもあるのだから。

 

「やれやれ、どうしようもないな、俺は……」

 

 小さくつぶやいた言葉を、ツクヨミは聞かなかった事にして聞き流してくれる。それがありがたい。そう思いながらトキワシティを北の方へと抜けて行けば、段々とトキワジムの姿が見えてくる。昔見たトキワジムよりも遥かに大きく、そして新しくなっているのはグリーンがジムリーダーになってからトキワジムのリフォームがあったからだ。だから自分が居た頃とは違う風にジムが変わっている。が、此方に関しては何度もお邪魔させてもらっていたりする。

 

 何だかんだでグリーンとは育成友達なので交流が多い。

 

 が、今日はトキワジムには向かわない。

 

 そのまま、ツクヨミを連れてトキワシティ、そして2番道路の境目までやってくる。

 

 ここから2番道路、そう書かれてある掲示板のすぐ横に立っている黒尽くめの男の姿が見える。黒いコートで全身を隠し、更に黒いボルサリーノ帽を被った中年の男性。”いかにも”といった雰囲気を持つ男は視線を持ち上げる事無く立っており、見つけたその姿へと近づいて行く。足音か、或いは気配で此方の事を察した男は視線を持ち上げ、此方へとその瞳を向けてくる。ほんとうに、久しぶりにその顔を見た気がする。だから思わず、小さく笑みを零してしまった。

 

「待たせましたか」

 

「あぁ、俺を待たせるとは色んな意味で大きく育ったようだな」

 

「勘弁してくださいよ、こっち、シロガネ山から直行で来たんですから。ほとんど休みなしですよ? ちょっとぐらいいいじゃないですか―――」

 

 そう言って、笑い声を零し、見る。

 

「―――お久しぶりです、ボス」

 

「あぁ、久しぶりだな……小僧」

 

「サカキちゃんやっほー」

 

 そう言って手を振るツクヨミの姿を見て、途端サカキの表情がまるで苦虫を噛み潰した様なものになる。あぁ、そういえばボスはツクヨミの事が苦手だったなぁ、と思い出す。基本的にローテンションというか、静かな雰囲気を好むボスだが、それと正反対の超ハイテンションに無敵とも言える精神性、どれだけ威圧しようが、暴力に手を出そうが、そんなもの伝説には意味はない。そういう事もあって、苦手意識を抱いているのが見える。

 

「……成長した様だな」

 

「あ、これ何をしても無視されるパターンだ」

 

「対処早いですね、ボス」

 

 文句を言いたそうな表情をツクヨミが浮かべているが、こいつが関わっていると何時まで経っても本題に入れない為、問答無用でGSボール内へとボッシュートする。去り際にいけず、何て事を言うがオールギャグなお前の存在が悪いのだ。そう、お前の存在が。

 

 ともあれ、

 

 トキワシティを背後に、2番道路をボスと並んで歩き進む。ゆっくりと、のどかな田舎の風景を眺めながら二人で歩くのは、ほんとうに久しぶりかもしれない。二人で武者修行の為に他の地方へと向かったりしたときはそれなりにこういう事はあったが、ここ数年は別々に行動していたし、最近はバトルばかりだ。その為、妙に懐かしく感じる。

 

「……調子はどうだ」

 

「悪くないです。けど、まだ未熟は感じます。先行充電の真似事はやっていますが、安全に繰り出す為の装備が完成してないというか……装備耐久の限界を繰り出しているせいで右腕が持たないというか。いい加減改善したい所ですね」

 

 右腕を持ち上げてボスへと見せれば短くボスがそうか、と答える。

 

 トキワシティからトキワの森はそう遠くはなく、2番道路を歩き進んでいると、やがて前方に森の姿が見えてくる。そのまま足を止める事無く、トキワの森の中へと入って行く。モンスターボールの中からでも睨みは効く、野生のポケモンは一切自分達に近づいてくる様な事はない。襲われる心配は一切ない。第一、今のボスとのタッグであれば伝説でさえ恐れるに足らない。

 

「懐かしいですね……全部、ここから始まったんですよ」

 

「もう7年……いや、8年か。最初にお前を見た時はどこのガキが迷い込んだものかと持ったが―――」

 

「あはは……その節は本当にお世話になりました。いや、それ以外の事でもいっぱいいっぱい、ボスにゃあ恩を受けてばっかりですわ。もう、ほんとうにどうしようもないぐらい、ボスには助けられてばかりで……」

 

 そう、全てはここ、トキワの森で始まった。

 

 ■■■という青年がいた。彼は訳もわからずこの世界へと、トキワの森へと漂着した。そしてスピアーに命を狙われ、それを当時のトキワジムジムリーダー・サカキに救われた。ボスは助けてくれたのだが、

 

「―――ボスが善意で助けたわけじゃないって事、俺、知ってますよ」

 

「そうか」

 

 俺にはあった、ポケモンに関する知識が、最新の研究者でさえ保有しない知識が。伝説の三鳥がカントーのどこにいるのか、ミュウツーとはどういうポケモンなのか、ポケモンはどういう進化をするのか、どういう戦い方が得意なのか、世界にはこんな技がある、こういう進化がある―――多くの、宝物とも言える知識を持っていた。それをボスは欲しがっていた。だけど尋問や自白剤なんて道具を使う事はプライドに触れる。だからボスはゆっくりと、面倒を見ながら情報を引きだす事を選んだのだ。

 

 ロケット団総帥としてではなく、

 

 ジムリーダーのサカキとして接してくれたのだ。

 

 ―――無論、俺はボスの正体を知っていた。そして冷静になれば、何を求められているのかは理解した。馬鹿じゃないから、考えれば解る事だ。

 

 それでも、

 

「救われました、ボスには。ああやってあの時、ボスが手を出して助けてくれなかったら、たぶん狂ってたのかもしれません。家族はいない、友人もいない、知らない場所、知らない人、未知で溢れているといえば美しいんでしょうけど、未知は恐怖でもあるんです。知らない事だけで囲まれて人が一番最初に感じるのは恐怖だって、身を以て理解させられました」

 

「……それで」

 

 トキワの森の中へと進んで行くと、開けた場所へとやってくる。

 

 昔、トキワの森に対する苦手意識を克服する為に使った、練習用の広場だ。懐かしい。黒尾とここで朝から晩までずっとポケモンバトルの練習を繰り返してた時期があった。それからもう7,8年が経過してるのだ……自分も、もう、

 

 ……卒業の時期だ。

 

「―――後悔はあるのか」

 

「いいえ、ありません」

 

「―――やりたい事は見つけたか」

 

「はい、やりたいことがいっぱいあります」

 

「―――なら何を求める」

 

 トキワの森の広場、その両側に分かれる様にボスと相対する。ボルサリーノ帽を深く被っているせいで、その表情を読み取る事が出来ない。だが確実に、此方の事を待っている、という事だけは理解できた。これは、きっと、俺の我儘なのだろうと。思う。甘えているのかもしれない。ボスの事は、本当の父親の様に慕っている。いや、此方の世界における父親として思っている。それだけ世話になり、そして憧れてきた。だけど、ボスの方はどうなのだろうか。面倒だと思っているのだろうか? シルバーを見つけた恩としてこうやって付き合ってくれているのか?

 

 解らない。

 

 きっとそれをボスは言葉で絶対に語ってくれない。

 

 だけど、俺も、ボスも、ポケモントレーナーだ。

 

 ―――だから、モンスターボールを手に取る。それを握り、そして何時でも繰り出せる様に準備は一瞬で完了させた。湧きあがる闘志、戦意が未だかつてないほどに心の底から湧きあがってくる。レッド戦、ワタル戦の時よりも、更に、熱意が身を満たす。

 

「―――ずっと憧れてきた。貴方の背中を追ってボールを握った。言葉でこれ以上語るものはない。ただ、今日、俺は貴方を超えます―――サカキ」

 

 静かに、ただ静かに、穏やかな笑みをサカキが浮かべた気がする。

 

「―――出来るものならやってみろオニキス」

 

 その手にはモンスターボールが握られていた。

 

 そうやって、

 

 ―――一つの終わりを迎える為の戦いが幕を開ける。




 次回、最終戦

 なんか、こう、気合の入るBGMでもオススメ。め。(タイプワイルドやOK用意しつつ

 こう、なんというか、昔のポケモンのOPやEDは割と好きなものがありますわ。

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