目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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トキワの森のオニキス

 場に繰り出される最初のポケモンは―――ダヴィンチだ。それに合わせる様に繰り出されるのはドサイドンであり、ダヴィンチが登場と共に鈍色を描いて鋼タイプに自身を染め上げる。それと同時に赤い絵の具を使って封印を描き、出現したドサイドンの巨体の技を封じ込めようとする。が、それを最初から予見していたかのようにドサイドンは口で咥えていたメンタルハーブを飲み込み、即座に封印効果を解除しつつ、

 

「―――そこだな」

 

 静かにサカキの指示が響いた。サカキの指示に従うドサイドンのがんせきほうが発射され―――ダヴィンチの急所を穿つ。二撃目、狙いすました指示からの一撃がダヴィンチの急所を穿つ。三撃目、ダヴィンチの急所を穿たれる。四撃目、指示の切れ味が落ちない、的確にダヴィンチの急所を見抜いてがんせきほうが貫く。そして五撃目、最後の一撃が急所を穿ってタスキを潰しながらダヴィンチを問答無用で沈めた。

 

「うそ……ん……」

 

 開幕、一手目から何もする事が出来ずにダヴィンチが沈められた。その事実に内心、戦々恐々としながらボールの中へと戻し、走りながら次のボールを手に取る。サカキも前へと出ている。ほぼポケモンの真横という位置に立ち、バトルを眺める。その距離から見極め、そして的確に指示を繰り出すのだ。それがサカキのスタイルであり―――恐ろしさ。異様に頭が回り、そして経験から次の一手を確実に予想し、対策と布石を打ってくる。

 

 だから、サカキの様に凄まじい指示能力を持ったトレーナーとの戦いは”短期決戦”に持ち込まれる。どれだけ指示を掻き乱すか、或いはそれすら許さず叩きつぶせるか、それで勝敗が完全に分かれるのだ。だけど、その程度サカキだって把握している。だからそれを利用して、こっちの強引な一手を完全に読み切ったのだ。

 

「―――ポケモンリーグで出したのが駄目だな。一回見れば十分だ」

 

 つまり、ポケモンリーグでの戦いは把握されているという事だ。ちょっとだけ、嬉しくなる。あの戦いをちゃんと見ていてくれた、という事なのだから。だからここからは間違えない。居座るドサイドンを眺めつつ、ポケモンを入れ替える。ドサイドンの重量級、破壊力に真っ向から戦えるポケモンは少ない。だから繰りだすのは決まっている。

 

 道を作るのは、

 

「エースの仕事よ―――!」

 

 サザラがボールから放たれ、笑顔を浮かべながら登場し、宣戦布告する。放たれた挑発効果がドサイドンを飲み込み、ドサイドンが挑発に乗る。

 

「戻れ―――行け、カバルドン」

 

 ボールの中へとドサイドンが素早く戻され、素早いボールスナップと共に、ドサイドンの代わりにカバルドンが繰りだされた。原生種のカバルドンは出現と同時に声を響かせ、砂嵐を呼び起こす。その姿へとはがねのつるぎが直撃するが、相手に岩タイプは存在しない為、通りが悪い。だがそこから動きを繋げる様に周りの環境―――トキワの森に満ちる木々の力をギルガルドに集め、そして振り抜いた。

 

 くさなぎのつるぎが放たれた。草タイプの斬撃がカバルドンを捉え、その姿を吹き飛ばすが―――ギリギリ耐えた。チ、と舌打ちしながらカバルドンがボールの中へと戻って行き、此方も合わせる様にサザラがボールの中へと戻って行く。素早くボールをスナップさせ、お互いにポケモンを入れ替える。砂嵐を維持させるのは”大地”のサカキを相手するには悪手だ。だから蛮は繰りだせないし、即座に天候を切り替えられるポケモンを繰り出すしかない。

 

「出せ、ゲッコウガを」

 

「ッ、月光……!」

 

 繰りだすポケモンの環境による制限誘導。指示が得意なトレーナーであるからこそ、相手の思考と手札を読み、最前手を導きだすトレーナーだからこそ繰り出す事の出来る手段。特にサカキ程のレベルになれば、思考加速を行える回数は伝説なんかに頼らずとも六回、或いは七回を超える。それだけの回数、サカキは最前手を考えつく時間を生み出す事が出来るのだ。

 

 公式戦、そしてロケット団というフィールドがなければ、レッドすら圧倒して喰う経験と思考能力。

 

「難敵で御座るな!」

 

 設置の代わりに影分身を行いながら登場した月光に合わせ、土砂降りの大雨が降り注ぎ始める。ポケモンの攻撃範囲に身を晒している自分も、サカキも、ポケモン達と合わせて一緒に土砂降りに体を濡らすが、それでもポケモンに対する指示は一切遅らせない。サカキも合わせる様にポケモンを繰り出してくる。出現して来るのは原生種のグライオンだった。飛行しながら出現したグライオンが雨の中を泳ぐように一気に月光へと近づいてくる。

 

 直後、繰りだされるアクロバットを見切りで月光が回避する。その動きは迷いがなく、的確に影分身を見抜いての攻撃だった。いや、実際見抜いていたのだろう、サカキが。半端な手は出せないと思いつつバトン効果で月光をボールの中へと戻し、そして切り替える。繰りだすポケモンは時間がかかってしまったが、

 

「―――お久しぶりです、総帥」

 

「お前か。久しいが……」

 

「えぇ、闘争の時です。全力で相手をさせていただきます」

 

 ―――黒尾だ。出現と同時にトキワの森が夜に包まれ、闇の空間が広がって行く。大雨の中、黒尾の炎の勢いが消沈されてしまうが、その役割は夜の闇を展開する事にある。素早く狐火を雨の中、消える事無く展開させると、一瞬で接近したグライオンのアクロバットが隠し持っていたひこうのジュエルを消費されながら放たれ―――黒尾の急所に突き刺さる。黒尾の体力が大幅に消耗されながら、気合でダメージを食いしばり、バトン効果を発動させる。黒尾がボールの中へと戻って行くのと同時に、グライオンがアクロバットの反動を利用して、ボールの中へと吸い込まれる様に戻って行く。

 

「月光!」

 

「カバルドン」

 

 月光とカバルドンが同時に出現し、砂嵐が上書きした直後に再び大雨が展開され、カバルドンの展開する砂地を泥の様な泥濘へと変えて行く。瞬間、月光が相手に先んじて動く。水の手裏剣を生みだしながらそれをカバルドンへと投擲して叩きつける。

 

「お替わり自由で御座る」

 

 水手裏剣の後ろに隠されていた水手裏剣が追撃としてカバルドンに命中し、カバルドンがそれによって落ちる。良くやった、と月光を褒めながら月光をボールの中へと戻す。カバルドンがボールの中へと戻る直前、

 

 大雨が吹き飛ばされて砂嵐が展開される。あのカバルドンは瀕死時に天候変化を行う能力を持っていたのだろう―――つまりは”捨て駒”だ。それを理解した時には既に月光はボールの中へと入っていた。また場に出すには一回、別のポケモンを経由しないと駄目だ。此方の打ち筋を確実に誘導、制限されているという理解に冷や汗を浮かびつつ、笑みを浮かべる。そんな状況になっているのは、サカキが此方を敵として認識してくれているからだ。敵として認識しなければ適当にレベル100のスピアーでも出してくる。それで終わりだ。だが、敵として認識し、

 

 対等として扱ってくれるからえげつない、本気のバトルを行ってくれる。

 

 それが嬉しくて堪らない―――だから、此方も本気で戦う。

 

「ナイト……!」

 

「蹂躙の時間だ―――」

 

 ナイトがフィールドへと繰り出され、そしてサカキがポケモンを繰り出す。それは蒼色のミニスカートに青色のシャツを着た、ガブリアスの亜人種だった。だが出現と同時にその姿は光に包まれ、そしてサカキのコートポケットから一つの石が取りだされる。ガブリアスと反応する様に輝くその石は、

 

 キーストーンと呼ばれるものだった。

 

「―――メガガブリアス」

 

「……なおーん(やべぇな)

 

 メガガブリアスへと進化を果たした。その存在は良く知っている。速度が落ちた代わりに凄まじいまでの攻撃力を保有する、メガシンカするポケモンの中でもトップクラスの破壊力を保有する”怪物”だ。一説によると速度が下がり、ガブリアスナイトを持たせなきゃいけないぶん、ラム持ちや拘る事もできないから劣化でしかないとも言われている。が、それを指示型のトレーナーが保有すると話は変わってくる。サカキの様な人間であれば、速度は所詮読み抜けば覆せる要素でしかない。だから、メガガブリアスの存在は凄まじく相性が良い。

 

「お前に出来て俺に出来ない訳がないだろう」

 

「簡単に言ってくれるなぁ……!」

 

 ナイトが直後守る。それを読んでいたのか、メガガブリアスがつるぎのまいでその破壊力を強化する。あ、これマジでヤバイと判断した直後、ナイトからポケモンを切り替え、交代する。ナイトからポケモンを黒尾へと繋げれば、サカキもポケモンを交代させていた。最低限、火傷によってメガガブリアスの攻撃力は半減させているが―――天下のドラゴンポケモンだ、状態異常に対する条件回復能力を持っていてもおかしくはない。

 

「どうした、消極的だな」

 

「困ってるんですぅぅぅ!!」

 

「見れば解る」

 

 ―――だけどメガガブリアスを潰す方法はある。問題はぶつけ方だ。そこまで持って行けば多少は流れを此方へと引き寄せられる。

 

 サカキがドサイドンを繰り出し、がんせきほうを黒尾へと放った。直撃した黒尾が倒れ、そしてみちづれが発動する。黒尾が瀕死になる事と引き換えにドサイドンが問答無用で沈められる。これで状況は4:4、此方が黒尾とダヴィンチを失い、向こうがカバルドンとドサイドンを失った。状況的にはお互いにお互い先発とサポーターを失った状況だ。

 

 ―――深呼吸した思考を加速化させる。

 

 ゆっくりと流れる時のなかで、冷静になって考える。

 

 4:4は中盤戦の基本的な状況であり、ここまで来ると大体先発は潰すか、潰されている―――両側の先発が完全に落ちているというのは少々珍しいところがあるかもしれないが、痛いのはサポーターを失っている状況だ。相手は砂嵐起点のカバルドンが、此方がダヴィンチだ。この両名が落ちているのが辛い。だがサカキの性格を考え、カバルドンが捨て駒だった事を考えると、砂嵐起点はもう一体いると思う。じゃなければ地面タイプ統一パーティーで”すなおこし”持ちを容赦なく捨て駒に何て出来ない。

 

 となると、ここで天候を変えても”別のポケモンで天候を戻してくる”という可能性を考えなくてはならない。そこが、月光を繰り出すタイミングだ。いや、そこ以外で繰り出せば間違いなく潰される。だから月光は”温存が強制されている”状態だ。面倒だ。

 

 ほんとうに面倒で、強い。

 

 相手ほど強いポケモンが育成出来ない。

 

 相手ほど強いポケモンを持っていない。

 

 相手ほど強い能力を持っていない。

 

 ―――だったら指示すれば良い。勝てる様に。相手の思考を読み、手札を読み、どう攻撃を繰り出せばいいのか、どうやって状況を生み出せばよいのか、それを理解し、想像し、そして実行するのだ。それがサカキの様なベテラン指示型スタイル。ポケモンの動きや環境で強制的に打てる手を制限する。ダヴィンチの様な封印や物理的な封印ではなく、精神的なロジックから来る封印だ。この手は打てない、そう相手に理解させる事で状況を予想しやすく、そして自身に有利になる様に動かしているのだ。

 

 こうなってくると、完全に予想外の行動で動きを乱す以外には勝機が見えなくなってくる。

 

 ポケモンリーグの戦いを見られているなら―――ポケモンリーグに出なかったポケモンで戦えばいいのだ。

 

 思考がクリアになって行く感覚を感じつつも、加速は終わる。それでも思考が澄んでいるこの状況、また一つ、壁を突破した様な、そんな気がする。次のサカキの一手を完全に予測し、ポケモンを迷う事無く選び、このバトルに置いて未だに露出していない、最後の一体を選び、そして繰りだす。

 

「メガガブリアス、蹂躙しろ」

 

 サカキの繰りだすメガガブリアスに合わせる様に、殺意を奮いあげてボールを揺らす、竜殺しをボールの中から解き放つ。

 

「求めていたものだぞ―――」

 

「ガ、ブ、リ、ア、スゥゥゥゥゥゥアアアアァァァ―――!!」

 

「ゴンさん!」

 

 ドラゴンポケモン以外に対しては絶対的に無力であり、戦闘にすら発展しない、欠陥品とも表現できるポケモン。公式戦では出場停止のポケモン。ポケモンバトルが成立しないという理由から出場が永遠にできない、絶対的なドラゴンポケモンの死神が殺意のヴェールを纏いながらボールから放たれ、場に降臨した。砂嵐によるペナルティを殺意のヴェールで無視し、砂の力によって強化されているメガガブリアスの霞む姿を殺意の直感のみで見つけ出す。

 

「ガブリアス! お前、ガブリアスだよな!? メガガブリアス……? メガガブリアス! メガガブリァァァァァァス!!」

 

 竜殺しの殺意が撤退を禁止した。

 

 竜殺しの殺意が変化技を禁じた。

 

 竜殺しの殺意が先制を奪って爪先に竜の防御を貫く刃を与える。

 

 回避も防御も守る事も見切る事も許されない。フライゴンさんが優先度を奪った動きで一瞬でメガガブリアスの背後へと到達し、じゃれつくを繰りだし、その姿をまるでボールの様に弾き飛ばし、姿が立て直す前にすれ違いざまにじゃれつくを二連続で叩き込み、反撃や呼吸の間を与える事もなく、そのままメガガブリアスを葬り去る。

 

「もういないならば……さらば……!」

 

 メガガブリアスを葬り、そして直感的にサカキの手持ちにドラゴンポケモンがいないことを理解したフライゴンさんが直後、その場で体力を全て捧げて瀕死に陥る自殺を行い、倒れた。倒れた二体のポケモンのボールの中へと戻しながらお互いに笑みを浮かべる。

 

「どーよサカキ、今のは予想外だったろ!」

 

「ふ、確かにな……が、それぐらいで俺は倒せんぞ」

 

「解ってるさ……!」

 

 それでも、状況は圧縮されて行くのだ。それに抜き性能が極限まで高いメガガブリアスを葬れた事は大きい。元々サカキがガブリアスを保有する事を考えて、フライゴンさんを叩き込んだのだ。メガガブリアスをまともに相手にしてたら、間違いなく被害が大きく出る。ここはフライゴンさんで殲滅して正解だった。問題は、ここから試合を運ぶ方法だ。高速で思考する事はもう、自分の経験と技術力では無理だ。

 

 だから、全力で頑張るしかない。

 

「サザラ―――!」

 

「グライオン」

 

 サザラとグライオンが繰りだされ、グライオンが繰りだされた直後サカキがボールへとグライオンを戻す。そのアクションに合わせてくさなぎのつるぎをサザラが振るい、直後、グライオンと入れ替わるように繰りだされたポケモンは黒いサングラスを装着した、目つきの悪い亜人種のポケモン―――ワルビアルだった。くさなぎのつるぎがワルビアルへと吸い込まれる様に命中し、大きくワルビアルは仰け反りながら、

 

 砂嵐が発生し、

 

 そして、懐から一枚のカードが―――レッドカードが零れ落ちる。

 

「反則で退場してもらうで」

 

「しまっ―――」

 

 レッドカードの効果でサザラが強制的にボールの中へと叩き込まれ、そして入れ替わるように月光がボールの中から引きずりだされる。強制交代効果で引きずりだされてしまったために、天候変化が発動しない。引きずりだされる様にワルビアルの前へと出現した月光は今、恰好の餌となってしまっている。

 

「たえろ月光―――!」

 

「穿て、ワルビアル」

 

「はいなー!」

 

 接近し、ワルビアルがばかぢからを振るい、それを月光へと叩きつけながら、強制交代の影響で体勢の整っていないその姿を更に追撃する様に連続でばかぢからで殴り、問答無用で地面に叩きつける。体力を一気に奪われる連撃を喰らって月光の体力が奪われる。耐えてくれ、そう祈るが、的確に急所を貫く攻撃は完全に月光の意識を奪い、その姿を大地に沈めた。

 

「お疲れ様月光……!」

 

 月光を戻すのと同じタイミングで、ワルビアルがボールの中へと砂嵐に乗じて消えて行く。天候交代能力、やっぱりあるよな、と強く拳を握りながら、やる事に変わりはない。状況は2:3、此方が完全に不利。癒しの願いや託す願いでナイトを使い潰せば逆に勝機が消えるタイプの状況、

 

「サザラ……!」

 

 サザラが繰りだされ、そしてそれに合わせる様に繰り出されたポケモンは、

 

「―――大きくなったわね……」

 

 紫色の服装に身を包んだポケモン。全ての始まりにおいて、命を救ってくれたポケモン―――ニドキングだった。それが正面からサザラと相対する。ドサイドンに続くサカキのエースであり、超級とも表現できる実力の持ち主。ただし、天賦でも色違いでもない。いや、そもそもサカキの手持ちには天賦が一体として存在していない。それを見れば、解るだろう、サカキというトレーナーの考え方、戦い方が。

 

「穿てサザラァ!」

 

「……そこだ」

 

 サザラとニドキングが相対し、一瞬で接近し―――指示力の差によって、ニドキングが先制を奪う。そうしてばかぢからを繰りだし、サザラを殴り飛ばそうとするが、キングシールドで僅かに硬直する様に耐えてカウンターの斬撃をニドキングに叩き込む。直後、ニドキングがだっしゅつボタンによってボールの中へと戻されて行き、素早くその居場所と入れ替わるようにワルビアルが出現し、

 

 ノータイムでばかぢからが再び放たれる。連続で繰り出されたリセットされた状態のばかぢからを受けて衝撃にサザラが僅かに後退し―――そして全力でギルガルドを振るい、極光の刃を繰り出してワルビアルを薙ぎ払う。天賦の逆鱗に触れた一撃がワルビアルの急所を抉り、そして分散した斬撃が連続で襲いかかり、その体力を奪う。ワルビアルが倒れ、竜の咆哮をサザラが轟かせる。反応する様に砂嵐が吹き飛び、そして星天が夜空に浮かび上がる。

 

 ―――漸く砂嵐の排除が完了したが、遅かったかもしれない。

 

「戻れサザラ、ナイト―――!」

 

「―――」

 

 ナイトを繰り出すように、サカキがグライオンを繰り出した。残念だがナイトでは突破力に欠ける、絶対にグライオンを倒す事が出来ないし、吠えてニドキングを引きずりだしてもそれに繋げる事が出来ない。サザラに全てを託すしかない。

 

「託す願い……!」

 

「追い風―――」

 

 相手側に追い風が発生し、逆風の中、ナイトが勝利を願い、力をサザラへと託し。素早くナイトをボールの中へと戻し、弾けるオーラをボ-ルと、そして右手に纏った。ボールを粉砕しながら弾けるオーラを纏ったサザラが放たれた。そうやって放たれたサザラがグライオンを睨み、問答無用でギルガルドを振るい、その斬撃を直撃させる。が、その直後、サザラの能力は引きずられる様に下がる。

 

 置き土産だ。サザラの能力が下げられたところで、

 

「仕上げだ、仕留めろ」

 

「潰せサザラ……!」

 

 サザラがニドキングと相対する。瞬間的に最高速で迫るサザラの動きに対してサカキが見切り、回避の指示を繰り出す。

 

「あてろ!」

 

「いいや、かわせ」

 

 必中の軌跡を描いた刃はしかし、上回ったサカキの指示により潰され、回避され、懐にニドキングが滑りこむ。反応したサザラが即座に回避行動に入るが、それよりも早くゼロ距離から大地の力が放たれ、サザラを穿つ。衝撃を無視してニドキングを弾き飛ばしサザラがきょっこうのつるぎを振るう。が、ニドキングが後の先を奪い、経験則から発生する必殺から逃れる為に技の始動を見切り、

 

 大地の力で潰し、

 

「これで終わりだ」

 

 拘っている故に、極悪な威力を誇る大地の力でそのまま、サザラを問答無用で、グライオンの置き土産によって重点的に下がっているその抵抗を突破して粉砕する。

 

 サザラが倒れ、次のボールを手に取ろうとして―――気付く。

 

「あ……」

 

 ―――今のが最後のポケモンだった。

 

「あーぁ……」

 

 掴もうとしていた手を降ろし、何とか笑みを浮かべながら、目の端に溜まって行くものを感じ、呟く。

 

「やっぱ……強いよ……本当に……ずるいなぁ……」

 

 そうやって、

 

 俺のケジメは、

 

 ―――敗北して終わった。




 ボスは強かった。

 次で最終話。

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