目指せポケモンマスター   作:てんぞー

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唯一神

「―――ふぅ、予想外に疲れたな」

 

 焼けた塔地下の洞窟から脱出し、地上に戻ってくる事に成功した。見張りの二人からはライコウとスイクンがジョウト地方へと解き放たれたことを教えてくれた。おそらく、その内、相応しいトレーナーがあの二匹を捕まえるだろう。そんな事がなかった場合、またこっちから出向いて捕まえに行くのも悪くはないだろう。ともあれ、全身を覆う疲労に焼けた塔の中にある、焦げて辛うじて形が残っている階段に腰を下ろし、そしてショルダーバッグからサイコソーダを取り出す。圧縮保存されている食料に関しては特殊な技術で”劣化しない”様に出来ている為、冷たいまま飲む事ができる。

 

 エンテイ戦で疲れた体にサイコソーダの炭酸が染み渡る。

 

「っかぁー! キくぅ! 蛮ちゃんとナイトもお疲れ!」

 

 後ろからのしのしとついてくる蛮にサイコソーダの瓶を投げ、そして横に来たナイトの口の中に飲みやすい様にソーダを垂らす。そうやってエンテイ戦の功労者を労う。実際、バトルはスマートに進んだが、少しだけ予想外の部分もあった。ギラティナを相手にしたときに相手は自分よりも遥かに強い存在であると解っていたのに、若干舐めてしまった部分がある。くろいまなざし、ふういんで後は蛮を出せば捕獲まで追い込める。そう予想していたのだが、

 

 あのまま蛮を最後まで戦わせていれば、おそらく途中で蛮が落ちていた。その場合、此方へのガードを行えるポケモンが存在せず、俺が焼き殺されていた。だから蛮が落ちる前にナイトへと切り替える必要があった。まぁ、結果論で言ってしまえばエンテイを捕獲できたのだから、それで大成功とも言えるのだが。ただ、やっぱり伝説種は凄いと思う。トレーナーが育てるよりも遥かに強靭な肉体を保有している。

 

「こう見えて誰よりも育成力に関しては高いって自負してたんだけどねぇ、ボスでさえ育成に関しては俺が上だって認めてたし。やっぱ存在としてのベースが違いすぎるのかねぇ」

 

ガウガウガウ(まぁ勝てたし)

 

ななうなう(落胆する必要)()なうなう(ないだろう)ななーう(実際)なうななうな(卵から育てた)なーなう(蛮がほぼ互角だ)なななうななう(誇っていいと思うぞ)

 

 フォローを入れてくれるナイトの頭を撫で、そして飲み終わったサイコソーダの瓶を捨てる。まぁ、やはりトレーナーが育てたポケモンと、そして野生の伝説では限界があるのかもしれない。それこそ、ミュウツーの様な事をしない限りはトレーナーの手で伝説級の強さを持った存在は生み出せないだろう。相手が80で、此方が100という話ならば別だが、

 

 同じレベルで戦えば、1対1では勝つのは難しい。

 

 ホウオウとかの完全な伝説級と成れば6タテされる事さえ覚悟しなくてはいけない。

 

 伝説とは本当に理不尽だ―――気合や根性でどくどく、ふういん、かなしばり、アンコール、くろいまなざし、その他諸々の技を打ち破ってしまうのだから。

 

「とりあえずエンテイを捕獲成功したからお前ら下がってろ―――」

 

 立ち上がり、ベルトからモンスターボールを―――エンテイの入っているハイパーボールを取る。それで何をするのか、それを察したナイトと蛮が後ろへと下がり、少しだけ警戒する様な様子で立つ。言葉にしなくても此方の意図を察してくれる、賢い仲間で良かった、と思いつつ、ボールを素早く開閉させ、

 

 目の前にエンテイを出現させる。出現したエンテイは風にその毛を揺らしながらも、軽い熱気を纏って此方へと鋭い視線を向ける。それにたじろぐ事もなく、真っ向から視線を返す。試す様な視線だと、自分はそう思っている。事実、自分の能力だけを見るなら、相手の方が圧倒的に格上だろうが、それで上下関係が決まるわけではない。

 

 いいか、

 

「誰を試してやがる」

 

 逆にエンテイを威圧し返す。僅かにだが、此方の動きに対してエンテイが驚く様な、そんな気配を抱くのを感じる。

 

「で、どうするんだ? 気に入らないってなら今からでもバトルの再開をしなくもない。ただお前はもう俺が捕まえた、俺の登録されたポケモンだ。だから逃げようとしてもボールの中に戻るだけだし、捕獲の為にしていた遠慮をする必要も一切ねぇ。潰すだけなら蛮ちゃんとサザラを出すだけで蹂躙できる程度のレベルなんだよ」

 

 他力本願? 違う。育ててきたこのポケモン達こそが、俺の力であるのだ。だからそれを誇る事の何が悪い。彼、彼女たちは俺の為であれば、即座に命を投げ出す事だってする。その程度の信頼関係をこの数年、旅を続けながら重ねてきた。そして自分も、自分のポケモンの為であれば、それぐらい躊躇せずに出来る。だから、俺が蹂躙する、そう決めたら俺のポケモンが一瞬で動き、蹂躙する。言葉に偽りはない。

 

「ただ、俺も鬼畜じゃない。俺が主として不満なら、お前の主に相応しい人間を数人ほど知っている。カントーのカツラとか、ファッキン赤帽子とか、これから台頭して来るであろうゴールドとか、若様とか、他の地方の連中とか、な。だけどその前に聞いておく、俺に従う気はあるか、否か。先に言っておくけど俺はお前を手放す気はない。もとより手放す気なら捕まえる為の準備なんてしなかったしな」

 

「……」

 

 此方の視線、威圧を正面から受け、エンテイは黙ったまま動きを見せない。ゆっくり、そして計る様に思考を巡らせているのが解る。だが、此方が姿勢を崩す事はない。というか伝説、準伝説級相手に絶対に言葉の撤回や下手に出てはいけない。こいつらは一種の絶対強者だ。それに勝利したのであれば、その勝者としての立ち位置を最後までゴリ通さないといけない。じゃないと、この連中は最後まで好き勝手行動するだろう。

 

 どっかの超時空系の様に。

 

 伝説に認められた人間ではないのだから、従ってくれない。

 

 だったら従わせないといけない。

 

 それも上辺だけではなく、心の底から。

 

 じゃないと何時か喰われる。

 

 それで一回屈服、感服、どんな方法でもいいから認めさせたらコミュニケーションを取って、親しくなって行くのだ。一番初めの、上下関係を叩き込む、命令を聞く関係を構築する事が伝説ではなくても、ポケモンを相手にする場合は重要なのだ。相手は人を簡単に殺せる生き物なのだ、だからこそ解らせないといけない。

 

「で、返事は」

 

 そう言った視線の先で、エンテイは此方へと向ける頭を下げ、そして平服する様な姿を見せる。直後、光がエンテイを包み、その姿が人型へと変わって行く。大きかったポケモンの姿はしなやかな人の姿へ、その毛皮と同じ茶色のロングパンツとジャケット、インナーは白、髪も白だが、エンテイの特徴的なマスクの赤と白、それがメッシュの様に線が二本、前髪に見える。人の、女の姿へと変わったエンテイの姿があった。エンテイはその状態で立ち上がり、此方へと視線を向け直す。

 

「私が負けたのは事実だ、私のトレーナーとして認め、従おう。元々ホウオウ様に拾われた命、再びポケモンとして戦う事が出来るのであれば憂いはない。その実力は良く理解した、私の力を証明する為にも是非励んで欲しい、トレーナーよ」

 

「じゃあお前の名前は今日から唯一神な」

 

「!?」

 

 ナイトと蛮が背後で笑い出している。それを見てマジか、といった表情でエンテイ―――否、唯一神が此方へと視線を向けてくるが、その表情に無言のサムズアップを向け、此方が本気である事を告げる。それに絶望した様な表情を浮かべる唯一神の姿を見て、そしてこいつ、案外馴染むのは早いかもしれないな、なんて事を思う。とりあえず笑えるなら混じれるという奴だ。ともあれ、

 

「ポケモンリーグ、そして公式戦では伝説及び準伝説の使用が禁止されている。だから必然とお前を使いまわすのは草試合とか、野戦とか、そういう所になる。予めお前がそういう大舞台に出せないって事だけは解っておいてくれ。じゃねーと俺の方が困るから。あと基本的に俺は伝説とかに任せて無双ゲーするのも好かない。だからやっぱ出番は減る。つか俺もお前の移動能力が欲しくて捕まえた様なもんだしな。まぁ、それでも今よりも強くしてやるのは間違いないから、それだけは安心してくれ」

 

「トレーナーの言葉であれば従うが……本当に強く出来るのか? 私を。伸びしろはもうほとんどないぞ。私は純粋な伝説種ではないから限界突破(100超え)は出来ない」

 

 限界突破―――伝説のポケモンが持っている、絶対的特権。トレーナーが育てたポケモンは絶対に100レベルを超える事ができない。100レベルを超える、それこそが伝説が伝説である所以の一つ。人間がどんなに頑張ろうとも、絶対に到達できない頂点に君臨している。だからこそそんな神聖な存在を引きずり落とし、蹂躙する事に快感を覚えるのだが。自分も中々業の深いものだ。

 

 さて、唯一神、つまりはエンテイは純粋な伝説種ではない。伝説というには若すぎる。そして同時に弱すぎる。故にランクとしては準伝説クラス、他のポケモンと同じ、限界突破ができない存在になる。そしてレベル80であるという事は、あと20レベル分しか成長の余地が残っていない。八割方ポケモンとして完成されている、という意味でもあるが、

 

「言っておくが俺はナツメみたいな特殊能力を持っている訳じゃないし、キョウの様に裏の裏を読める訳じゃない。マチスの様に化け物染みた身体能力がなけりゃあ、ボスの様に他者を圧倒する指示能力があった訳じゃない。だけどな、俺は知り合いの中じゃ一番育てる事を得意としているんだよ。五段階評価で言うと俺の育成能力は五段階目なんだよ」

 

 じゃなきゃ本来覚えられない筈のふういんやシャドーダイブを覚えさせることなんて不可能だ。

 

「まぁ、真面目に育てるならまずはレベルリセットして、そこから苦戦するという経験を積ませながら変なクセを付けない様に気を付けつつ、戦術と能力に見合う技をガンガン覚えさせる必要あるな―――とりあえずまもるとせいなるほのおとフレアドライブな、マジこの三つな。お前の救済は全てこの三つにかかっている。開幕じしんで落ちる未来だけは見ちゃ駄目なんだ……!」

 

「何故私以上にそこで必死なんだ……」

 

 この憐れなポケモンは知らないのだろう、その種族としての長所をかえんほうしゃしか吐けないせいでずっと無駄にしてきた悲しい事実を。まぁ、エンテイを育てていなければ笑い話にはなるのだ。ただ、こうやって実際に育てる事になると、笑う事は出来ない。早急にメインウェポンとサブウェポンを用意しておかないと駄目だ。唯一神はこの状態でもかなり強いが、それでもバッジ六個目、七個目のジムリーダーを相手にした場合”完封”される可能性が出てくる。

 

 特にヤナギとかそこらへん、予想できる。

 

 ヤナギが相手の時だけガチ戦術でさっさと終わらせようとは考えている。

 

 それだけ戦いたくない。いや、本当に。タイプ相性とかガン無視で戦いたくない手合いである。

 

「とりあえず唯一神、お前ら三匹はジョウトをほとんど自由に駆け巡れるって俺は聞いているんだけど、そりゃあ俺を乗せても出来るか?」

 

 その問いに唯一神は首を傾げ、あぁ、と言葉を置く。

 

「可能だぞ。我々はこの地を自由に駆け巡る力を蘇った時に授かったからな。故に一か所からもう一か所へと自由に移動できるな。それはたとえトレーナーを乗せていても変わらないだろう。ただし、それはこの地方限定とはなるが。この地方から出たらそこまで自由とはならないだろう」

 

「ジョウトから出たらソッコでレベルリセットするけどな」

 

「!?」

 

 というわけで、空を飛ぶ終了のお知らせ。バッジ集めの必要性も同時になくなった。

 

 ―――元々、ポケモンリーグへ出場するのはシロガネ山への入山許可の為だ。

 

 唯一神の力でジョウト内を自由に走り回れるなら、そもそも警戒網を唯一神に乗っかって突破すれば良いのだ。バッジ集めもクソもない、完全犯罪が完了される。今もシロガネ山で引きこもり人生を過ごしているファッキン赤帽子の顔面にモンスターボールを叩きつける事が今、この瞬間、可能になったのだ。ボスが本気で戦い、敗北した、唯一の例外。

 

 それを超える事で、自分は漸く、ボスと正面から戦える様な、そんな気がする。

 

「ま、これでエンジュジムを態々攻略しなくてもタンバジムを先に攻略する事ができる様になったな。ついでにスズの塔の頂上へカチこんでホウオウと一戦やらかすか」

 

「あの……本当に不敬なので出来るなら止めて欲しいのだが。恩を仇で返す領域を超えているのだがそれは」

 

「じゃあ、まぁ、適当な時に一戦やる方向で」

 

「捕まった私が無力である事をお許しくださいホウオウ」

 

 とりあえずボールの中にポケモンを三人ともしまう。唯一神には悪いが、彼女をスタメンで利用するつもりは今のところはない。ジョウト地方にいる間はロケット団関連のアレコレで色々と移動して回るのだ、本格的に育成を考えたら一旦レベルリセットする事から考えないといけない為、そうした場合、唯一神の移動能力が失われてしまう可能性もある。

 

 このシーズン中に確実に一回、最低一回は赤帽子、

 

 最強のトレーナー、レッドと対戦しておきたいのだ。

 

「……ま、とりあえずは旅館に戻るか。焦ってバッジを取る必要もなくなったし、ちったぁ楽ができそうだなぁ」

 

 唯一神捕獲の余韻に若干浸りつつも、ゆっくりとエンジュシティへと向かって歩き出す。

 

 今夜もフルコースだ、なんて事を考えながら。




 唯一神あっさりと降伏。ま、そんなもんだよね。エンテイの捕獲って簡単だし。ゲームのまんまの伝説種だと物凄い弱いというか可哀想なので、システム的現界を突破してもらいました。

 ギラ子の捕獲がボスと共同で二人の手持ち全滅したって言えば伝説に対する恐怖は通じるかも。

 まぁ、準伝でも街一つ十数分で消すぐらいの力はきっとあるんだろうけどさ。

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