翌朝にこは目を覚ましたとき、しまったと思い、慌ててベッドから起きあがった。いつも四時に起きて四時半から六時半まで、近くの駿河屋という和食弁当屋で弁当に米と具材を詰めるバイトをするのだ。時給八二〇円のバイトである。
しかし起きあがったあと、にこは自らが見おぼえない部屋にいることに気づいて、あたりを見まわした。ここはどこ……?と呆然とした。
ベージュの壁紙が張られた部屋だった。タンスや勉強机があった。
それと漫画本がいっぱい詰まった本棚があった。そこに詰まった漫画本はにこが普段読まないような、知らない題名の本ばかりだった。がーるふれんず、ラブ&バトル、ブルーフラワー、純愛プリンセス、ひみつ♡などなどだった。
にこも漫画は好きだが、いかんせん金がないので立ち読みが多かった。だから家にこれだけの漫画本がある風景は圧巻だった。
にこがふだん読むのは、母親の影響でセーラームーンやキャンディキャンディ、ベルサイユのばらなど古い作品ばかりだった。
にこはじっと本棚を眺めていたが、慌ててハンガーラックを探した。ハンガーラックには制服があった。
そのとき、にこはあることに気づいて、天井を見上げた。天井には巨大なラブライブのポスターが張りつけられていた。
そしてポスターの花陽のところがきらきらとした銀色の星型シールで囲まれていた。にこはここで全てを思いだした。にこはすがた鏡の前にゆっくりと歩いた。鏡に映っていたのはもちろん凛だった。
にこは思わずため息をついた。にこはスマホを取りだした。凛のスマホである。
電話した。しばらくしたあと、出た。
――はいにゃ〜〜
凛の眠たげでのうてんきそうな声が聞こえた。
――凛、バイト行った?
にこは問いただした。
――バイトって何だにゃ?
――バイトよ! バイト! 四時半からのやつ!
にこは怒気をこめてスマホに叫んだ。
――何を言ってるんだにゃ?
凛はまだ寝ぼけているらしい。
――私の代わりにバイト行くって昨日約束したじゃない!
――……昨日……?
電話がしばらく途切れた。電話から戻ったとき、凛の声は沈んでいた。眠気が覚め、昨日のことを思いだしたらしい。
――忘れてたにゃ……
――もう、しっかりしてよ!
にこはスマホごしに凛に怒鳴った。しばらくバイトについて説教したあと、電話を切った。
にこは時計を見た。六時半である。ふだんならば、バイトから戻って弟と妹の朝食を作るために全速力でママチャリを走らせている時間だ。にこはまだ眠れると、ベッドの上の目覚まし時計をつんつんと人さし指でつつき、ニヤリと笑って、黄色いピカチュウのベッドの上に大の字になった。