大を漏らした俺の軌跡   作:キューブケーキ

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その後の顛末

 孫家は袁術の支配から脱却し独立する事を狙っていた。だから積極的に袁術を守るとは考えられない。諸侯も野心や利害関係から集っただけだ。誰も他人の為に血を流したがらない。

 結論から言うと袁術の人望は無かったようで鎧袖一触だった。

「なんや、根性無いやつばっかりやなあ」

 張遼の行く手を遮れる者は居なかった。

「お嬢様、逃げましょう!」張勲は大将軍の地位に居るだけあって状況判断には優れていた。

 指揮官はただ攻撃命令を下すだけではない。戦争指導の要領、方針、必要な部署や施設を手配する頭がいる。そして袁術を誉める太鼓持ちは馬鹿では出来ない。空気を読む能力が必須だ。繰り返すが馬鹿では出来ない仕事だ。

 そして張勲は状況的に俺達を撃破するか逃げるかを選択させられた。そして袁術の命を優先したのは当然だった。

「ちっ、逃げられたか」

 本陣を急襲する事には成功したが討ち取るまでには至らなかった。

「そろそろ連合軍の連中も攻めてくる頃やな」

「ええ、取り囲んで押し潰す条件が整っていますから」

 袁術軍を撃ち破った俺達は玉砕覚悟だったが、良いタイミングで駆けつけた曹操軍に囲まれた。中々の精兵で、此方に一歩も引けを取らない。

「惇ちゃん、うちと遊ぼ」

「惇ちゃんだと!?」

 張遼は夏侯惇と楽しそうに戦い始めていた。戦争狂の素質があるな。

 一騎討ちも長くは続かなかった。

 間もなく親衛隊を連れて曹操様がやって来た。俺の目がその中に年端もいかない少女の姿を捉えた。

(何だ、あの少女達は?)

 曹操様の従卒だろうかと考えていると、曹操様から声をかけられた。

「張遼、惇亭、降りなさい。貴方達の主は私の配下が討ち取ったわ」

 曹操様の言葉は衝撃を与える物だったが、やっぱりと言う気持ちもあった。

 だが張遼には予想外だったらしく「なんやって!」と動きを止めてしまった。賈駆との約束を守れなかった。

 曹操様いわく、迂回した別動隊が長安に到る往路を待ち伏せしていたらしい。

 捕虜や住民から情報収集して分析したのだろう。さすが曹操様だと納得し、これには感心した。

「今、降るなら兵の命は助けてあげるわ」

 凄い嬉しそうなを顔してる曹操様の様子からして多分、あれは挑発だな。案の定、張遼が「なめとんのか!」と怒っている。

 陳宮と視線を合わせると諦めの色が映っていた。軍師殿でも無理か。他に選択は無さそうだ。

「兵の命と引き換えなんて汚いわ」

 張遼は睨み付けながら捨て台詞を吐いたが、負け犬の遠吠えでしかない。俺は兵に武器を捨てるよう命じた。

 

 

 董卓様と賈駆の首は都の入り口で晒し首にされた。入城する時に捕虜になった俺達はその前を通り嫌でも目に入った。

(誰、それ……)

 俺と張遼は顔を見合わせた。知らないおっさんの首が二つだ。

「月と詠は保護してるわ」

 馬を寄せてきて囁いた曹操様の言葉にはっとする。真名を呼ぶと言う事は真実だろう。

「張遼、私に仕えなさい」

 目の前で同僚が口説き落とされていた。性的な意味ではない。

 ──で、曹操様の本拠地に戻ってきた訳だが現在、俺は椅子に縛りつけられている。

(何だってんだ)

 ここは曹操様の私室で、机の上には彼女の手作り料理が並んでいる。

「あーん」

 俺の目の前に差し出されたレンゲ。厚切りの肉が乗った炒飯だ。

「へ?」

 差し出しているのは曹操様。

「あーん」

 レンゲでよそわれた料理の香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。俺の好きな辛口だな。

 彼女の新作料理の毒味とかか?

「あの曹操様、自分で食べれますからほどいていただけませんか」

「嫌」

 速答かよっ!

「だって、また何処か勝手に居なくなってしまうでしょう」

 何ですって?

 俺に何を求めているんだ。

「大丈夫。貴方は一生、私が面倒を見てあげるわ」

 大丈夫じゃねえよ。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 レンゲが開いた俺の口に優しく入れられる。悔しいけど舌と胃袋は反応してしまう。

 相変わらず曹操様の料理は美味かった。

「美味しいです……」

 俺の反応に曹操様は満足そうに笑みを深める。

 

 

 恐怖の食事時間が終わった後、寝台に縛られている。俺にこう言う自虐趣味は無い。

 満腹感と精神的披露から眠ってしまった。

「──様、カツオ義兄様」

 目を開けると董卓様と賈駆の姿があった。見た所、酷い目には遭わされてないらしい。無事で何よりだ。

「霞さんが馬を用意してくれました。今なら皆、一緒に逃げれます」

「付いてくるわよね?」

 二人の言葉を聞いた後、俺は頭を振った。

「無理です」

 曹操様は地の果てまで追いかけ来そうな気がする。

「貴女達だけで逃げてください」

 多分、俺が残るなら見逃して貰えると思う。その事を告げると固い表情で賈駆は董卓様を促した。

「分かったわ。月、行こう」

 愚図る董卓様を連れて出ていくと、曹操様が戻ってきた。

 黙って俺を見ている。俺も視線をそらさない。

「見逃してあげるわ。だから──」

「はい……」

 董卓様と皆がその後、どうなったかは知らない。無事に逃げ切れたと信じたい。

 

 曹操様は袁家を滅ぼし、蜀と南蛮を平らげ、独立した孫呉を屈服させ天下を平定した。

 皆が戦で死なずそれなりに暮らせるなら悪くないのかもしれない。

 俺は美味しい食事で太り、歩かないから脚力は衰えて一人で立つ事も覚束ない。今では糞尿を垂れ流して世話される毎日だ。

 感覚麻痺して来る事を自覚する。だけど曹操様、何で俺の下の世話まで嬉しそうにするんですか?

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