主人公ですか。お断りします
俺の名前は北郷一刀。
ある日、気付くと恋姫の北郷一刀に転生か憑依していた。
俺の前世はどうでもいい。過ぎた過去で、俺は今と言う現在と未来に生きる男だ。
イケメンの容姿を活かして学園ハーレム生活を築くのも良い。だがNice boatの首チョンパはご遠慮したい。
問題は今後、発生する死亡フラグ満載のイベントだ。
恋姫世界の運命が避けられないルートか、それとも避けられるのか。とりあえず高校は聖フランチェスカ学園以外を受験した。
(さて、これで銅鏡の割れるイベントはどうなるのか?)
平成の日本人にとってはイラクやシリアで日本人が殺されようと他人事だ。日本で起きた大規模な震災だって、半年も過ぎれば過去の事で、身内に被害が無ければ忘れてしまう。
平和ボケではない。究極の無関心だ。
(つまるところ、俺は典型的な事無かれ主義の日本人だな)
大昔の古代中国で何万人死のうが、大陸が戦乱の地獄になろうが俺には関係無い。
原作ゲームの主人公は、主人公だから熱血漢なだけでリアルに人助けをする気で戦いに身を投じるならお人好し過ぎる。
(俺には無理だな)
万が一に備えてはおいた。もしも古代中国なんかに飛ばされたら生きていく自信はないからだ。
体力作りをしながらタイ捨流のじいちゃんに剣道を教えて貰った。
もしもの時は中国を脱出し日本に向かう積もりだ。東シナ海の横断は危険だが、朝鮮半島から対馬を経て九州には行けるだろう。
そんなわけで古代中国の歴史書や地理を調べた。基本として正史三國志や三國志演義も読み漁った。
(諸葛孔明が邪馬台国に攻め込む小説、あれは脱出の参考に成るか?)
これだけ努力をしても運命は覆せないらしい。
『北郷、暇か?』
学校の休み、だらだらと夜更かしをして布団の中でポチポチとゲームをしてると電話がかかってきた。
「特に用事はないな」
思春期のリビドーをゲームで発散していた所だ。
『今すぐ来い』
「何だって?」
何だかんだと遊びに行く約束をして着替えていたら、自室に鏡の様な物が現れた。
ゲームの始まりだ。
「糞っ、突然すぎだろ。ムリゲーだっての!」
すぐさま用意していたバックパックを掴み背負った。中身は日本で合法的に手に入る武器で、コンバットナイフ、サバイバルナイフ、ククリナイフ、バヨネット、ペーパーナイフ、果物ナイフ、カッターナイフが入ってる。他にも地図、コンパス、水と缶詰め、レトルトカレー、調味料等も入れていた。
(まさか、本当に使う日が来るとはな……)
諦めた瞬間、俺は煌々と輝く光に包まれた。
そこはだだっ広い荒野だった。うん、どう見ても日本じゃないね。
俺の服装はジーパンに長袖パーカー、ニット帽。北東アジアは寒い地方だと聞いていた。
(外出前でマジ助かった)
これで風呂上がりとかだったら凍え死んでいる。
自分の部屋に居たので当然、足は裸足だ。
バックパックに入れていた予備の靴下とブーツを履いた。自分の用意の良さに満足する。
「おい兄ちゃん、珍しい物を着てるじゃねえか。持ってる物を置いていきな」
「はぃ?」
ただのユニクロだが。
振り返ると何処から現れたのか、三人の盗賊か強盗っぽいおっさんに囲まれていた。
「き、着てる物を、全部置いていくんだな」
はいそうですか、と差し出す訳は無い。そしてこの状況は即座に理解できた。
(あー、最初のイベントか)
やはり言葉は通じるらしい。何と言うご都合主義!
「早くしろ!」
怒鳴られ怯えたふりをしながらポケットに手を入れた。
(それならば何とか成るか)
こう言う時に備えてポケットにはスペツナズナイフが入っている。
正面に対峙するリーダーらしい男の顔面に向けて発射した。
殺すシュミレートはやっていた。対応する暇は与えない。
「な」
圧縮された空気とガスの力で眼球を貫いたブレードは脳まで達した。即死だ。
「あ、兄貴ィ!」
取り巻きのデブとチビが騒いでいる。チャンスだ。
チャンスを活かすのは俺の努力次第。
「せいっ」
バックパックから取り出したククリナイフで二人の頭部を狙って降り下ろした。オンタリオのククリナイフでブラックブレードが格好良い。
「うわ、なにをするやめくぁwせdrftgy──」
不意をつかれたとは言え注意力無さすぎだろう。カスが。死で償え。
ほぼ無抵抗なままに無力化された二人。ざまぁ。
クールに死体から所持品を漁ったがたいして金目の物は持っていない。
着てた服は血まみれだしゴミだ。こいつらの持っていた武器、本、僅かな金ぐらいだ。
「これが曹操の探していた太平要術の書か?」
残念ながら漢文は返り点のレ点とかが無いと読めない。これでは宝の持ち腐れだな。
とりあえずは全部、バックパックに回収して貰っていく。
「さて、行くか」
大陸とんずらの第一歩だ。
殺人は外道。
人の道を外れたが現実感を伴っては居ない。
(相手も賊だ。殺らないと此方が殺られていた。ま、仕方ないな)
初めての殺人を自分の中で正当化すると、防水処置でビニール袋に入れていたお菓子からチョコレートを取り出してかじる。
(うん、美味い)
甘さが疲れを癒す。防災グッズには必需品だ。
今の中国は修羅の世界って感じか。今回は賊がアホなので上手く行ったが、いつも上手く行くとは考えていない。
(武将相手にしたら100%俺の負けだな)
スマホのアプリにコンパスもあるが、電池が切れたら高価な携帯も役に立たない。
ローテクのコンパスが一番安心だ。
現在地は分からないが、取りあえずは南へ南へと俺は歩き続ける。そうすればいつか海に出るだろう。
途中、商人の馬車がやって来た。やったね!
「あんちゃん、こんな所でどうした?」
人の良さそうなおじさんだったので話を盛った。
「賊に襲われまして、命からがら逃げてきました」
返り討ちで殺した何て普通はひくからな。俺でも関わり合いに成りたくない。
「それは災難だったな。近くの街まで乗せてやるよ」
まあ嘘は言ってない。賊を倒した後、災難を逃れていると端折っただけだ。
礼を言って乗せて貰った。
「最近は賊が増えて物騒だよな」
「ですよねえ」
今は黄巾賊の暴れている時代と言う事は間違いないらしい。
朝鮮半島に向かいたいが、取りあえずは大きい町で現在位置を確認しないと。
俺は戦争に巻き込まれるのはごめんだ。
スタートは悪くない。陳留で刺史様の金髪ドクロちゃんには遭遇しなかった。
と言う事は、ここは公孫賛の治める幽州か、袁術の治める揚州か、それともそれ以外の場所か?
(原作キャラには誰にも遭遇しなかったし、このまま逃げ切れるか)
──なんて行くほど世の中は甘くは無かった。
歴史の修正力か、天の御使いとして俺を捜索する連中にとって身柄の確保は絶対だった。
目の間現れた人物はフードを被っているが、隙間から覗かせた顔は美人さんだった。
(うわぁ、こいつまさか……)
ただ者ではない雰囲気に気圧されながらも、褐色の肌は孫家関連の者かと考えた。
目つきの鋭さと固い空気に押されていると彼女は一礼した。
「お初にお目にかかります、御遣い様。私は孫権に仕える甘興覇と申します」
鈴の甘寧だ。何でバレたんだ?
「御遣い? 人違いじゃないですか」
誤魔化そうとしたがスルーされた。
そして俺は問答無用とばかりに捕縛されて孫策の前に引き出された。
これでは罪人じゃねえか。マジでふざけんな。
「ふ~ん、君が御遣い様ねぇ」
ジロジロ見られて居心地が悪い。
(甘寧さんよぉ、お前の主人は孫権じゃなかったのか?)
俺の恨みを込めた視線はスルーされている。
孫策が近付いてくる。うわ、はみ出そうな乳をしてやがるな。けしからん!
(あんたのピンクの髪こそ地毛には見えないんだけど。後、その露出狂の痴女っぽい薄着は目に毒です!)
俺が色々と苦悩してると孫策は説明をしてくれた。
「私って勘だけは鋭いのよね。それも外れた事が無いの」
「はぁ」
例によって原作キャラのチート能力、動物的直感って奴で巷に流れる御使いの場所を探し出したと言う。
勘だけで俺を見つけ出すってどんなエスパーだよ。
孫策の能力があれば拉致被害者や行方不明者の捜索が捗りそうだ。
「君、名前は?」
最初は金日成と嘘でもつこうかと思ったけど、チート能力でバレそうに思えた。素直に名乗った。
「北郷一刀です」
「変わった名前ね」
そりゃ日本人と中国人では国が違うし当然だ。
「それで、俺は何で連れて来られたんですか?」
「私達、孫家が袁術の下で客将をしてる事は知ってるわね」
そりゃゲームと三國志の知識で知ってるけど、知ってるのを前提で話すのか。
確かに自分語りを聞くまでもない。
孫策は独立の機会を伺っていた。客将と言っても使い走りだ。嫌になるのも分かる。
「天の御遣いが孫家に味方している。これは私達にとって大義名分になるの。衣食住には不充させないわ」
だから協力しなさいと言われた。
(つまり原作の種馬ポジションか?)
周りの女性陣を見る。顔、胸、足、顔。
おおう、美女に囲まれ悦楽の日々、楽園か……。良いんじゃない。バッチコーイ!
「皆、俺の女……ぐふ、ぐふふ。ヒィヒィ喘がさせて孕ませてやる……ん?」
冷たい目で見られている。何? まさか、考えを読まれ居たのか!
「あ~言っておくけど、うちの子達に合意無く手を出したら殺すわよ」
孫策が本気なのは直ぐにわかった。あれは俺なんか虫けらにしか思っていない、簡単に殺す人殺しの目だ。
怖ぇ……。