俺は孫家に養われ飼い殺しの生活が始まった。孫家のみこしに担がれるかは糞どうでも良い。
働かずに寝て過ごし食えるなら、それを求めるのは人の性だ。努力や勤勉と言うのは社畜の為にある言葉だ。俺はこんな訳のわからん世界で就職する気も無い。
ともかく働きたくないでござる。働いたら負けだと思う。自尊心? そんな物は野良犬にでも喰わせてしまえ。楽して稼いでる奴何て世の中に幾らでも居るんだ。
目指せ不労収入ってか。
「北郷、天の話を聞かせてくれ」
そう言ってたまには周瑜や軍師連中が部屋に訪ねて来るので暇潰しにはなる。
「フリードリヒ大王の話でもしましょうか?」
「大王と言うぐらいだから偉大な人物なんでしょうね」
軍師と言えばやっぱり戦争の話。目を輝かす巨乳眼鏡さんは陸遜。知識を得ると欲情する変態さんだ。
俺としてはなし崩し的にゲフンゲフンな関係になっても問題無いが、孫家側では一対一で対面しない様に常に複数の面子でやって来た。
今回は呂蒙が目付け役として陸遜に着いて来ている。
(孫家の軍師は眼鏡っ子ばかりか)
孫家の一族、重臣はガチで超絶可愛い面子が揃っていた。
問題はハレンチで過激すぎる極小の衣服を身に纏っている事だ。
無邪気で隙だらけに見えるが、皆、俺より強いので手出しは出来ない。触れたら首チョンパだ。
これぞ蛇の生殺し。
そこまで見せるなら全部丸見えでも良いじゃないか!
(誘ってんのか、こいつら。欲求不満なんじゃないの?)
媚薬でも調達して……何てゲスの極みな妄想ぐらいしか出来ない。
ネット環境も無いからおかずを現地調達もできやしない。畜生めっ!
「北郷殿、また卑猥な妄想でもしてらしたのですか」
あきれ半分で声をかけて来たのは俺の教育係である張昭さん。子持ちの未亡人なので、天の御遣いと懇ろになるならむしろ幸いらしい。
確かに張昭さんも良い女だけど、コブ付きの責任なんて取れない!
「張昭様、それじゃあ俺がスケベ見たいじゃないですか。孫家にいかに恩返しするか日々、頭を悩ませています」
「本当かしら」
疑惑の目を向けられて心外だ。勿論、その場しのぎの口からの出任せだけどな。
孫策はただ飯は食わせないと、俺に孫家での仕事が出来る様に政のあれこれを叩き込ませた。
三國無双や決戦2、三國志戦記で鍛えられた俺の戦術は孫家の軍師を唸らせた。だけど内政は無理だ。
張昭さんもやたらと張り切っていた。高校生に治水工事とか分かるかよ!
巨乳。それ確かに素晴らしい物かも知れない。
だが手に入れてしまえばありふれた果実でしか無い。
時代はチッパイだ。
我が武道の師である周泰ちゃんもチッパイである。
周泰ちゃんをペロペロしたいが、勿論、NOタッチで愛でるのが紳士だ。
「一刀さん、聞いてますか?」
俺の進呈したダガーナイフを逆手に構えて対峙する周泰ちゃんに声をかけられた。
「もちろんです。チッパイ先生」
「は、え?」
おっと、思わず言ってしまった。
見せびらかされるだけの巨乳に食傷気味な俺はチッパイに癒しを受けている。
無い乳万歳、マジで巨乳は死ね!
だって仕方無いじゃないか。四六時中、見せ付けられたら俺の理性だって飛ぶよ。
例によって艶かしく悶える陸遜に挑発されて、おっぱいを揉んでしまった。
そうしたら席を外していた呂蒙が戻ってきたんだ。
「何してるんですか、この変態!」
殴られました。
あの日受けた右ストレートの痛みを俺は忘れない。
文官なのに、何であいつあんなにパンチが強いんだ。
ToLOVEるなラッキー・スケベでは無いと現実は厳しい。殴られて記憶を失うなら、それは脳が内出血で圧迫されている可能性が高い。極めて危険だ。
そんなこんなで、噂は直ぐに広まって巨乳には警戒されるし散々だ。
俺の癒しはチッパイだけだ。癒しだけにいやらしい。なんちゃって。
下らないアホみたいな冗談はともかく、孫家は文官であっても遊ばせている余裕はない。剣を持つ腕があるなら、老人や子供でも戦わせる。現に俺より年下の孫家の末姫も戦う術を持っている。
俺も爺ちゃんに鍛えられて護身程度の腕は持ってる積もりだったが、人を殺す技術には至らなかった。
「賊を殺した事があるなら大丈夫です。直ぐに慣れますよ」
我が師はそう言われたが、人殺しに慣れたくはねえよ!
「人体の急所を狙って下さい。太い血管を傷つければ出血で死に至ります」
背中を幾ら斬っても人は簡単に死にはしない。ナイフは一撃必殺刺殺の武器になる。急所を狙えと言う事だった。勿論、打撃の武器ではない。
言われた通りに首を狙って一撃を入れるが、足を刈られて倒され首を絞められた。細腕が巻きつき両足で俺の体を拘束している。
「足元ががら空きだとこうなります」
(ギ、ギブ!)
師との組手が終わると、ニポポ人形みたいな標的相手の練習をした。
弓は繊細な技術が求められる。それよりは形だけでもナイフを極める方が早い。
孫家からとんずらするにしても修得して置いて損にはならない技術だ。何事も反復演練あるのみだね。
体を動かすと次は頭の勉強で、軍師連中を相手にする。
今日の担当は諸葛瑾さんだ。諸葛亮の姉と言う事だが、妹の栄養分は全部姉の胸に行ったらしい。未だ見ぬ孔明ちゃんに憐れみを感じた。
「孫家が袁術を倒す方法ですか?」
自己判断能力の確認だろうか、それか物は試しで訊いてきたのだろう。底の浅い考えが読めてくそワロタ。
その気になればクーデターはいつでも起こせる。問題はそのやり方だな。
よし、期待を裏切ってやろう。
「短期決戦なら金で兵隊集めて一気に袁術の首を狙います。長期なら阿片や大麻を広めます」
俺はケシや麻の栽培と麻薬の密売を進言した。阿片戦争や旧日本軍に習ったやり方だ。
「袁術を討つには国を乱した官匪として責を追求すれば良い。大義名分で民衆も味方に出来ると思います」
いかに孫家の将兵が精強と言っても不死身の軍隊を作る事は出来ない。相手が兵力で勝る以上、独立戦争を堂々とやるのは被害が出る。政権奪取と孫家への統治の移行は速やかに行われなければ意味がない。
敵から金を手に入れ国力を低下させる。一石二鳥だ。
「後は……そうですね、袁術側の官吏を詐欺ではめたり、家族や親しい者の誘拐、脅迫、殺害をしたり、要は袁術の総体的な戦力──国力や民衆に対する影響力を下げてやれば、此方の思うままです」
やり方が汚いと批難を浴びたが、これも一つの案だ。決めるのはそちらで俺ではない。諸葛瑾さんも、人を犠牲にして手に入れる孫家の治世って物を頭では理解しているだろう。
(つーか、俺に解答なんて求めて無いんだろう?)
これは袁術と孫家の生き残りを賭けた闘争だ。手を抜いた方が負ける。やるならアメリカ人みたいに徹底的にやるべきだ。
まあ、俺は袁術との戦いが始まるまで長居をする気は更々無い。大陸が幾ら乱れようが俺は痛まないからな。だって日本人ですもの。
俺が孫家でヒモ生活な日々を過ごしてる内に、外の世界は大きく動き出していた。
大きな歴史イベントだ。
霊帝がポックリ逝って、大将軍何進が宦官にぶっ殺された。
その後、荒れた都と次の帝を董卓が掌握すると好き勝手にしたらしい。
らしいと言うのは袁紹が檄文を諸侯に飛ばしたからだ。
大義がどうの、不仁がどうの、民草を救う為とか何か難しい事が書いてあった。
(曹操が檄文を送ったと言う作品もあるけど、ここはやっぱり恋姫の世界だな)
ちょっとの政変で国が乱れる様な漢帝国が復活するわけねえだろ。
だけど反董卓連合が結成され連合軍の一翼として袁術軍は参加する事となった。袁術の客将と言う事になっている孫家の面々も、今回の戦に動員された。そして俺は戦いの始まる前に抜け出す積もりだったが連行された。
最悪、洛陽から黄河を下るのも選択肢に入れた。幽州、遼西、平州、高句麗って経路で対馬を経て愛すべき故郷に向かう。時代は違っても俺は日本人だからな。
「袁隗殿まで董卓に付くとは思いも寄らなかったわ」
袁隗は袁術の叔母で中々の人物らしい。孫策が敬っているのだからそうなんだろう。
「敵味方に別れた以上、遠慮は非礼だ」
「そうね」
周瑜さんの言葉に頷く孫策。
「天の知識でこの戦はどうなってるの?」
汜水関に向かう道中で孫策に尋ねられて頭を捻る俺。
「たしか、華雄を義勇兵の劉備軍が挑発して一騎討ちを行い、劉備配下の関羽が討ち取りそのまま関を越えた様な記憶が……」
その後は覚えていない。
(天下無双の呂布をどう裁いたか、なんか劉備が呂布に城を取られていた様な。『蒼天航路』では弟よ、とか言って、あと不細工な嫁さん貰っていた様な……)
演義は吉川版も北方版も三国志は読んだ、岩波と講談社の和訳も読んだ。だが一片の記憶も残っていない。
(おいおい、嘘だろう。あんなに勉強したじゃないか!)
俺は死亡フラグ回避の為に極力、資料を集めて読破した。自称グリンベレーの逆撃も、孫家主役の呉も、張遼に呂布が首を跳ねられた叛も、再見で締めた反も、天破も、異も、超も、大も、眠狂四郎の作者の物も参考になるならと小説も売ってるだけ全部買った。火葬戦記な孔明の艦隊だって揃えた。
それなのに三國志に関する知識がごっそりと抜け落ちている。
関羽の北伐とか余計な事だけは確りと思い出せた。
(商業作品で神様出すなんてありえねよ……って違う!)
もどかしさと脱力感を感じた。
俺の事情は関係無しに、孫策軍は袁術軍の尖兵として攻撃を開始した。
この時代の投石機は現代の砲兵と違い射撃準備時間がかかる。組み立てと石の準備だ。その為、矢で面制圧をしながら接近するのが基本的戦術となった。
此方にはノーベル殺人賞の取れそうな孫策が居るから楽勝だろう。退かぬ、媚びぬ、顧みぬの三拍子が揃った女傑だ。
(チートキャラ出したら最初からクライマックスじゃねえか)
孫策は程普、韓当、祖茂を率いて前進した。俺は孫権や周瑜、黄蓋と後方で待機している。
(恋姫では劉備が先陣じゃなかったのか?)
周瑜さんに訊くと、戦は貴賤が大事、たかだか義勇兵に大切な先鋒を任せる事は出来ないと言っていた。それも当然か、身分意識の強い時代だからな。
前線では、孫策が敵の将にピンキーとか言われていた。ナイスな展開だ。
誰だろう、あいつ 。徐栄か? 旗は董となってるが董卓では無いだろう。
周瑜さんにまたまた訊いてみた。
「あれは董惇亭だ」
元々は曹嵩の家臣で、袁紹にも仕えていた事があるらしい。
中々、面白い奴だ。
(あ、思い出した。村上版だと、孫堅が袁紹に先鋒を志願したんだったな)
と言っても孫堅は既に亡くなっており、演義に近いけど恋姫世界だ。
(それで李粛が夜襲を仕掛けて来たんだ)
連合軍に打ち込まれる乾坤一擲の楔だ。
孫策の兵に死傷者が出るのは確定だが、俺はこんな所で死ねるか。
「奇襲?」
「はい。少数選りすぐりの猛者で、敵陣を浸透突破します」
俺の提案に孫策は乗った。闘争を心から楽しむ彼女には、最高にチムドンドンする戦場を与えてやれば良い。
孫策が負ける訳はないし、敵の夜襲を逆に阻止できる。さらに俺は生き延びれる。
完璧な策で自分が怖い。
「雪蓮、敵にも考える頭はある。気を付けろ」
「大丈夫よ。冥琳は心配性ね」
朗らかに笑う孫策を周瑜さんは苦い表情で見送った。何か気になるのか?
孫策が率いて行った兵力は騎兵200、歩兵300。他にも連合軍から幾つかの部隊が参加していた。総数で5,000程の部隊に成った。戦力的には十分だと思う。
元々、孫策は体育会系の脳筋で城攻めよりも野戦を好む傾向があった。今回の策は渡りに船だった。
だが奇襲は敵に読まれていた。
孫策は敵の捕虜になった。済北相の鮑信も死んだと言う。
(そんな馬鹿な)
報告を聞いて俺も驚いた。恋姫でも三國志演義でもない展開だ。
孫策軍の指揮系統を構成する幕僚は丸々残っているから、孫権の指揮で軍は動ける。だがそれだけでは収まらない。
矛先は策を進言した俺に向いてきた。
「北郷、どう言う事だ!」
周瑜さんに迫られた。やべえ、マジ切れして殺されそうだ。
孫権や甘寧も怖い目をしてる。
(考えろ、考えるんだ!)
数学は苦手だから、素数を数えてクールになると言う選択肢は無い。
(誰かの責任……押し付ける相手……)
ふと思い付いた。
「これは張勲の策では無いでしょうか?」
「何だと」
目を細める周瑜さん。
「張勲は袁術を一番に考える腹臣です。今は孫家も客将ですが、江東の虎の娘は何れ袁術の敵になります。張勲程の者が主の脅威に気付かないはずもありません。それならば狼と潰し合わせ様と考えたのも当然でしょう?」
元から袁術に対して持っていた孫家の不信感を煽ってやった。
「確かに張勲ならば……」
考え込む周瑜さん。
恋姫の袁術は、見た目が可愛いが頭はチンパンジー以下。張勲の傀儡と化していた。
「おのれ張勲め」
孫権が怒りの声をあげた。怒りの矛先を反らせた様だった。
チョロいぜ。