あわわだって生きているんだ
天の御遣い北郷一刀様をお迎えした私達は蜀を建国しました。その過程は楽ではありませんでした。
お仕事が一段落付いて空いた時間、私は一刀様のお部屋を伺いました。
「一刀様、お茶をどうぞ」
西からやって来た商人から手に入れた茶葉を使いました。
「ありがとう、雛里」
私の真名を呼んで一刀様は、私の頭を優しく撫でてくれます。
策を建て沢山の敵を殺して来た私ですが、こんな日がずっと続けば良いのに。そう思います。
私、龐統士元は荊州襄陽郡に生まれ水鏡先生の塾でお世話になっていました。
「はわわ。私の姓は諸葛、名を亮、字は孔明です。わ、私の靴を舐めても良いですよ?」
「ぇ……」
初めて出逢った時、朱里ちゃんは頭のちょっと変な子でした。
知識が豊富なのは良い事ですが、偏った知識は害にしかなりません。朱里ちゃんの場合、ちょっと大人びた本を沢山読んでいました。
授業で朱里ちゃんを撃破した私は、私に並ぶ才を朱里ちゃんに見出だし友達になりました。
「雛里ちゃん、一緒に素晴らしい主君を見付けて天下の為に頑張ろうね」
「う、うん」
正直、天下に興味は無かったのですが、朱里ちゃんと一緒に居たくて付いて行き、そして桃香様にお仕えする事になりました。
「戦は常に正々堂々、正面から戦う物だ」
桃香様の義妹、関羽雲長こと愛紗さんは、その武に誇りを持っていました。
義勇兵を組織して黄巾賊を倒して居た頃は、それでも良かったのですが反董卓連合に加わるとそうも行きませんでした。
汜水関の守りは固く将の武を貶める事で誘い出しました。
「私に卑怯者の汚名を被れと言うのか!」
「あわわ」
愛紗さんの怒りは分かりますが、怖くて朱里ちゃんの背中に隠れてしまいました。
「これは桃香様の為です。他に策があるなら、私達もこの様な策を進言したりはしません」
私を庇いながらもはっきりと言う朱里ちゃんの言葉に愛紗さんは渋々了承しました。
華雄さんを討ち取り、そして虎牢関に向かった連合軍は呂布さんの抵抗に遭遇しました。
「どうしよう雛里ちゃん。呂布さんの強さはおかしすぎるよ!」
朱里ちゃんが困った表情で抱きついて来ました。温かい。朱里ちゃんの鼓動を感じながら私の考えを告げました。
「やっぱり多人数で囲み討つ位しか思い付かないよ」
「でも皆、怒るよね」
朱里ちゃんも同じ考えに至っていた様です。でも私達の提案は歓迎されないでしょう。武人の誇りって面倒です。
そう思っていたら、孫権さんが捕虜交換に紛れて呂布さんを倒してしまいました!
(あわわ、凄いよ。あんな事を実行に移せる何て)
武人の誇りを捨てさせた軍師に敬意を感じました。
「雛里ちゃん、孫策さんの所に天の御遣い様が居るんだって」
天の御遣い。その人が軍師の周瑜さんに決断させたそうです。
董卓軍最後の攻勢に対して私達は活躍出来ませんでした。
華雄さんを討ち取り名を上げた劉備軍は、連合軍の兵站を守る後方警備を命じられていました。
そのお陰で、本陣を急襲された袁術様を保護する事が出来ました。
「お嬢様、ここまで来たら安全ですよ」
「おのれ、董卓め。妾を脅かしおって! 少し漏らしてしまったではないか」
赤面して立腹される袁術様を、張勲様が囃し立てて機嫌を直しています。
「あの、宜しければどうぞ」
袁術様が蜂蜜好きと言う事は知れわたっていました。蜂蜜水を差し出すと、喜んでお飲みになっていました。
張勲さんはそんな袁術様を優しく見守っていました。優しいお姉さんみたいな人が居て、袁術様が少し羨ましいです。
「劉備さんには洛中の掃討に加わって貰いますよ」
張勲さんの配慮で洛陽入城の末席に加えて頂ける事になりました。
ですが、義勇兵の皆さんが言う事を聞いてくれなくなりました。戦以外での盗みや殺しは賊と代わりありません。私達の大義が汚されます。
「どうしょう雛里ちゃん!」
「悪い兵隊さんは桃香様の為にも成らないし、殺すしかないよ」
放置すれば私達も連座で処罰されます。死にたくなんて無い。
(それにその人達は悪事を繰り返す。死ぬのが早いか遅いかと言うだけだよ)
最悪の状況の中で、一刀様に出会いました。
これこそ朱里ちゃんの言ってた運命の出会いでしょうか。
「俺は天の御遣い何て大それた者ではありません。始皇帝の時代に現れた平民、そんな感じです」
そう言って私達から『ご主人様』と呼ばれる事を拒みました。桃香様の事も真名を許されたのですが、一歩下がって『劉備様』と呼んでいます。
真名を許されたのに呼ばないのは非礼ではないかと愛紗さんが食ってかかかりましたが、一刀様は「俺はいつか、ここを出て行くから」と頭を下げられました。
いつか天の国に戻られる。なんだか一刀様を遠くに感じて寂しさを覚えました。
連合軍の解散後、張松さん、法正さんを煽動して劉璋様を謀殺した私達は益州を手に入れました。
これも一刀様の提案があっての事で、根なし草から領土持ちへの躍進です。
朱里ちゃんと私は水鏡先生から破門にされましたが、仕える主君の為と言う大義があります。例え卑怯と言われても勝ち残る策をこれからも桃香様に進言し続けます。
(水鏡先生……)
それに、ここで後悔し立ち止まると大好きな先生の名前に、更に泥を塗ってしまいます。
それだけは嫌です。
だから桃香様の為、お仕事を頑張ります!
私達が苦労して国造りをして地盤を固めていた頃、曹操様が魏王と成られました。
漢の丞相であった曹操様は、覇道と言う野望の一端を見せたのです。
「曹操は第二の董卓に成ろうとしています。何れは禅譲させて皇帝に成る腹積もりでしょう」
一刀様の言葉で漢の臣である私達は、皇帝陛下を蔑ろにする曹操様に対して憤慨しました。
「劉備様は中山靖王の係累、漢の正統成る後継者です。今こそ皇帝に即位され、逆賊曹操を討てと号令を! さすれば諸侯はこぞって陛下の麾下に馳せ参じるでしょう」
曹魏を討ち洛陽を取り戻す。桃香様に強い意志が生まれました。
桃香様の夢、漢の復興を目指して蜀は動き出します。
先ずは地盤を固める為にも、後顧の憂いを無くす為にも南蛮征討の兵を差し向けました。
「総大将関羽、先鋒張飛、中軍黄忠、副将魏延、馬謖……」
桃香様の前で出帥の陣構えが報告されました。総大将は愛紗さんで私が軍師に付きます。
南征の間、蜀の守りに朱里ちゃんや星さんも残っています。
「一刀様は、此度の南蛮平定をどの様にお考えですか?」
「戦と言うのは土地を巡る物だ。敵の兵さえ奪えば土地は手に入る。問題はその後、反乱を起こさせない事だよ」
一刀さんの言葉に私は頷きます。反乱を起こされては安心出来ません。
「不穏分子は纏めて皆殺しにする」
私の言葉に一刀様は正解だと言う様に、頭を撫でてくれました。
頑張って蛮族を退治して、帰って来たらまた褒めて頂けるのでしょうか。
そしてやって来ました。緑深い山奥、南蛮の地に。
「暑い~、疲れたのだ……」
「もう少し頑張って下さい。あの山に着いたら休憩ですよ」
私は鈴々ちゃんの先鋒に同行しました。慣れない地形と言う事で、愛紗さんの決定を補う為にも情報が必要だったのです。
南蛮は鬱蒼と繁る緑で昼間でも視界が悪く、起伏が多く毒の沼さえある土地柄で、行軍には不向きな地形でした。
それと暑さや敵の襲撃に対する緊張感で疲労が溜まります。
目指していた山の上に稜線陣地を張ると斥候を周囲に放ちました。
状況確認は大切ですからね。
報告によると南蛮軍が此方の迎撃に差し向けた兵は騎兵が6,000、歩兵4,000程の兵力との事です。
「騎兵がいささか多いですね」
対して此方は騎兵2,000、歩兵3,000。鈴々ちゃん個人の武力を除外して、二倍の兵力差がありました。
「鳳統殿、どうなされますか?」
鈴々ちゃんの将を務める姜維さんが尋ねて来ました。
義は無く利で始めた戦です。負ける事は出来ません。
「張飛さんは尖兵として敵の騎兵を釣り上げて下さい」
私的な時間はともかくとして、部下の目もあるので真名は呼びません。
「任せるのだ!」
頼もしい返事とを返す鈴々ちゃん。早速、南蛮軍に攻撃を開始しました。
「突撃、粉砕、勝利なのだ!」
(一刀様のお陰ですね)
一刀様に聞かされたアレキサンダー大王を思い出しました。味方の騎兵がペルシャの騎兵を引き付けて、その間に本陣を衝いて大王は勝利を納めたと言うお話です。
「死ね」
そう言って襲いかかる南蛮軍の将、ミケさんに鈴々ちゃんは不敵な笑みを浮かべ言い返しました。
「その言葉、まんま返すのだ」
鍔迫り合いを交わす中、ミケさんは自身を鼓舞するように強い言葉で鈴々ちゃんを恫喝してきました。
「その綺麗な顔を首ごと切り飛ばしてやる」
「お前、もしかして自分が死なないとでも思ってるのか」
鈴々ちゃんは呆れた様に告げました。これは私の策です。
「アホすぎる」
その言葉にミケさんは怒りの表情を浮かべました。
「本気にさせたな」
「馬鹿か」
徹底的に馬鹿にして挑発すると鈴々ちゃんは後退の指示を部下に出しました。
ここまで言われれば逃がすまいと追いかけるのも当然です。
追跡するミケさんと南蛮軍の騎兵。その側面を伏兵として待機していた姜維さんが突きました。
「ふざけるな下衆が」
ミケさんは自分が罠に嵌められたと怒鳴りました。あわわ、大きな声でここまで聴こえてきます。
批難しても戦況は好転しません。降り注ぐ矢の雨にばたばたと南蛮兵が倒れていきます。
ごめんなさい。これも桃香様の天下の為です。
「ぐああああああああ」
卵巣嚢腫が破裂した様なミケさんの絶叫が耳に残りました。
捕虜の証言によると南蛮王孟獲様にはトラさん、シャムさんの二人が率いる軍勢が残っているそうです。情報を引き出した後は、畑の肥やしに成って頂きました。
兵は詭道なりと言いますが、新安城の南で秦卒20余万を埋めた楚軍の項羽さんや、趙国降兵の士卒45万人を斬首した秦の白起将軍に比べれば、まだまだ覚悟が足りません。