愛紗さんは常々、『私は桃香様の矛だ。それを誇りに思っている』と仰って居ました。
同じ様に私も桃香様に仕える軍師として誇りを持っています。
戦は攻撃の為の物と守る為の物があります。そして成都に魏軍が迫っている訳ですが、都は守る物だと思うのは固定観念です。戦とは最後に残った者が勝ちと言えます。
今回、成都の戦は桃香様を逃がす事が目的です。
落鳳坡で麋芳さん、孫乾さんの軍勢は破られ成都の郊外に敵が迫ってきました。
「……皆……死ねば良いのに!」
悲痛な叫びを漏らす桃香様の背に、真っ赤な夕日が燃えていました。
魏軍の成都侵攻に際して私は、民や兵は囮として残し、桃香様だけを逃がす選択をしました。
城の隠し通路から街中に出ると脱出を開始します。一刀様も廓爾喀刀と言う曲刀を持っています。
「酷い!」
路地から穴に放り込まれる死体が見えました。蜀の民や兵の多くが戦いに負けて死に逝こうとしていました。
漢と言う国を想い桃香様に夢を託し、支える事を選んだ民草達が、三族どころか皆殺しです。
逃げ出す私達の姿を捉えて魏軍の兵士が襲いかかって来ました。
所詮、この世は弱肉強食なのです。弱ければ誰も守る事は出来ません。
「このクズめ、死んで詫びろや!」
桃香様が切り伏せられ様としていました。私は割り込んで体を盾にしようとしました。
ですが斬られたのは一刀様でした。
血に濡れたスジがはっきりと分かりました。ヒクヒクしている筋肉や脂肪の断面が見えます。
「一刀様!」
夢ではありません。
「糞、らしくない事をするもんじゃないな。マジで痛い」
一刀様は体が勝手に動いたと言ってました。私は悲しみを初めて知りました。
「主人公補正……無しかよ……」
そう言って一刀様は気を失いました。
叫び声を飲み込んで傷口を止血しました。でも止まりません!
その間に護衛の兵士が敵を食い止めてくれていました。
「雛里ちゃん、急いで」
一刀様を背負って私と桃香様は走ります。「此方です!」案内に連れられて竹林に駆け込むと脱出用の馬が隠してありました。事前準備の賜物です。
魏は都を放棄して囮に使った。攻め込んだ味方は益州制圧後に戻って来る敵によって退路を断たれ酷い目に遇うでしょう。でも私にはどうする事も出来ません。
今は逃げるだけ。私達は南蛮に向かいます。そこで再起を図れるかさらに逃げる事になるのかは分かりません。
桃香様は逃走の途中に病で倒れました。桃香様の死と共に、漢王朝復興の夢は破れました。
時代の勝者と成ったのは曹操様です。
風の噂では主だった将も討ち取られたそうです。戦に負けた事はやっぱりとしか思えませんでした。
ですけど私は生きています。
今日は空が曇っている。窓の外を眺める一刀様に声をかけました。
「一刀様、お昼にしましょうか」
此方を見詰める一刀様の瞳は透き通っています。初めてあった頃とは輝きも違いますが、今の一刀様の瞳の色も私は好きです。
寝台で横に成っていた一刀様に手を貸して体を起こします。
「お口を開けて下さい」
こうやって一刀様のお世話をするのが命を救われた私の恩返しです。
ずっとずっとお側でお仕えします。