転生して主人公の姉になりました。ダンまち編《凍結》 作:フリーメア
ん?駄作者ですか?ぼくの足元でバラバラになっていますよ」
和葉「ではどうぞ」
現在、ベルはダンジョンの六階層にて魔法の試し撃ちに来ていた。
ベルの魔法【ファイアボルト】は、和葉とヘスティアが予想したように魔法名を言うだけの詠唱の必要ない魔法だった。勿論これにはメリットとデメリットがある。メリットは、詠唱が必要ないので連射が出来る、ということだ。仮に相手が魔法の詠唱を警戒して近づいてきたとしても、至近距離で当てることが出来る。デメリットは、威力が低い、ということだ。基本的に魔法の威力は詠唱の長さに比例する。短文詠唱であれば威力は低く射程距離も短い。逆に長文詠唱であれば威力は高く射程距離も長い。そのため無詠唱である【ファイアボルト】は威力が短文詠唱魔法よりも低い。といっても、ベルのステータスなら八階層までなら一撃で葬れるだろうが。それに加え【
最初ベルは数発試し撃ちをしたら帰るつもりだった、のだが…
「【ファイアボルト】【ファイアボルト】【ファイアボルト】【ファイアボルト】【ファイアボルト】【ファイアボルト】!!」
『『『『『『チョッ!!!??』』』』』』
「あははははは!!楽しい!!【ファイアボルト】!!」
『ギャッ!?』
魔法を撃つことが楽しすぎてそんなことは忘れてしまっている。今まで出来なかったことが出来るようになれば楽しくなるものだが…どう見てもやりすぎだ。ベルを知っている人物が今の彼を見たら必ず思うだろう。お前誰だ…、と。キャラ崩壊を起こすほどに楽しいらしい。連射しまくってモンスターも変な奇声を発している(言葉に聞こえるのは気のせい、と言うことにする)。もはや可哀想になるレベルである。
ある程度暴れまくって正常に戻ったベルは慌てて時計を確認した。和葉の指定した時間まであと十分。
(よかった…。まだ余裕はある)
これでもし一時間を過ぎていたらと思うと顔を青くする。和葉の説教だけは絶対にくらいたくない。
もう帰ろうと思い道を翻すと、通路の奥にモンスターの影が見えた。よく見れば『ウォーシャドウ』のようだ。ベルにとっては相手にならない。まだこちらに気付いていない様なので、ベルは気付かれない内に倒そうと思い極力気配と足音を消し接近をする。後二歩でナイフの間合いまで来たとき、違和感を持った。
─なにかが違う─
冒険者としての勘が今すぐ離れろと叫ぶ。ベルはその勘に従い即座に距離をとった。その時ベルのいたところに産まれたばかりの『ウォーシャドウ』が爪を振り下ろした。しかしモンスターが自身の真横から産まれてくるのはなんとなく分かっていた。それでは何故?その疑問はすぐに分かった。違和感を持った『ウォーシャドウ』が、産まれたばかりの『ウォーシャドウ』を
そこで最初の違和感の正体が分かった。その『ウォーシャドウ』の爪が異常発達しているのだ。いつも見る『ウォーシャドウ』より二倍近い長さがある。
(あれは…、亜種!?)
ベルはつい最近、和葉と一緒にエイナから教えられたことを思い出した。あれは和葉が亜種について聞いたときだ。
─エイナさん、亜種について少し聞かせてくれませんか?─
─ん~まだ必要ないかもしれないけど、勉強熱心な和葉ちゃんの為に教えてあげようか。亜種っていうのは通常種のモンスターに比べて体のどこかが異常発達したり、体の色が変わっているモンスターのことを言うんだ。少し前に『漆黒のコボルト』ってモンスターがいたんだ。【ロキ・ファミリア】の人が退治したけど、その『コボルト』は通常種の『コボルト』より強かったの。Lv.2の冒険者がやられちゃうほどに…。
─『コボルト』が、ですか?─
─うん、そうだよ。亜種の厄介な所は通常種と同じ階層に産まれることなんだ。
心配しなくて大丈夫だよ。亜種なんてそうそう産まれてくるものじゃないからね。
でも、もし亜種と出会ったら戦おうとしちゃ駄目。絶対に逃げてね?─
この時、エイナは一つだけ間違った情報を教えてしまっていた。確かに亜種は通常種と何かしら違うところがあり知能も高いが、それだけだ。産まれたときの強さは通常種より多少は高いがさほど変わらない。では何故『漆黒のコボルト』はLv.2冒険者を倒せたのかのか。答えは簡単だ、魔石を喰らい強くなったからだ。他のモンスターより知能が高かった『漆黒のコボルト』は自分より強い者は避け、同程度もしくは弱いモンスターの魔石を喰らい続けた結果、Lv.2まで這い上がった。
しかしそんなことを知らないベルはエイナに教えられた通り、逃げようとした。次の瞬間、ベルの体は吹き飛んだ。何度も床を跳ね、壁にぶつかりようやく止まる。誰が自分を吹き飛ばしたのか考えなくとも分かった。あの『ウォーシャドウ』だ。ベルと『ウォーシャドウ』の距離はそこまで離れていなかったが、それでも近づいてきたことに気付かなかった。いつもなら気付くはずなのに、だ。
実はこの時のベルは
ベルは意識が朦朧としているせいで目の前に『ウォーシャドウ』が来てもなにも出来ない。
(あ…ヤバい…意識が…でも….ここで…..落ちたら……死….…ぬ……..)
そこでベルの意識は落ちた。『ウォーシャドウ』はそんなベルに構わず爪を振り上げる。しかし爪を振り下ろす前に体を横に斬られ、更に上半身を縦に斬られた、二人の剣士によって。
一人は言うまでもなく和葉だ。そしてもう一人は─
「おや、アイズ・ヴァレンシュタインさんじゃないですか。お久しぶりですね」
「ん、久しぶり」
─アイズ・ヴァレンシュタインであった。
ベルが出て四十分後、和葉はダンジョンに向かい始めた。ベルには
和葉は襲ってきたモンスターを葬りながら六階層へと向かう。
(通常より爪が長いですね…。亜種でしょうか─)
─だからどうしたというのだ。亜種だろうが何だろうが自分の家族に害するものは全て排除するのみ。
和葉は更に加速、そのまま横に一閃。更に縦に斬ろうとしたとき、別の誰かが『ウォーシャドウ』の上半身を斬り裂いた。
「おや、アイズ・ヴァレンシュタインさんじゃないですが。お久しぶりですね」
「ん、久しぶり」
その人物はアイズだった。そして、この場にはもう一人─
「アイズ、いきなり先に行くなと…。ん?君は…」
─Lv.6、エルフの第一級女性冒険者、リヴェリア・リヨス・アールブ、二つ名は〖
「初めまして、というべきでしょうか。【ヘスティア・ファミリア】所属、和葉・クラネルです。以後お見知りおきを」
「あぁ、あの時の君か。リヴェリア・リヨス・アールブだ。よろしく頼む
あの時はうちの
リヴェリアは酒場の一件を覚えていたようだ。忘れる方が難しいだろうが。
リヴェリアの言葉に和葉は苦笑しながら答えた。
「あの時も言いましたが、本当の事なのでそこまで気にしていません。ですが─」
和葉は不敵に笑い、言った。
「─僕達は弱者のままでいるつもりはありません。目標は
リヴェリアとアイズは、和葉の発言に目を丸くしたが、リヴェリアは目を細め和葉同様不敵に笑う。
「ほう?それは楽しみだ」
笑い合う二人、ちなみにこの時点の二人はベルの事を忘れている。
「…リヴェリア、その子、大丈夫?」
アイズの一言でハッとなった二人はベルを看る。といっても、看ているのはリヴェリアだが。
「どうですか?」
「…外傷は無し、どうやら
それを聞いた和葉はしまった、という顔をした。
「?どうしたの?」
「いえ、ベルに
後半を一人言のように言った和葉は大きく溜息をついた。因みに和葉自身は
「アイズ、お前はこの子についていてあげろ。その子に謝りたいんだろう?和葉、と言ったか、君は私が地上まで届けよう」
突然リヴェリアが立ち上がりそんなことを言った。アイズはキョトンとしたが、和葉に異論はない。
「ではお言葉に甘えて。アイズ・ヴァレンシュタインさん、ベルの事をよろしくお願いします」
「…でも、何をすればいいか、わからない」
「仕方のない奴だ」
リヴェリアはアイズの耳元で何かをささやいた。アイズは首をかしげながら聞く。
「そんなことで、いいの?」
「お前だったら喜ばない男はいないだろう」
「…分かった」
ほんの少し考えたアイズはうなずく。
「弟を看ていただきありがとうございました」
「礼を言われることじゃないさ。あの子を助けたのはアイズだ。君も一緒だったが」
ベルをアイズに任せ、和葉はリヴェリアと地上に向かっていた。
「ところで思ったことがあるのですが、アイズ・ヴァレンシュタインさんってなんと言いますか、少し天然と言いますか、とにかく聞いていたよりも普通な女の人ですね」
頬をかきながら和葉がこう言ったのは、アイズが恥ずかしげもなくベルに膝枕をしたからだ。普通、謝罪をしたいからといって膝枕をするのだろうか。少なくとも和葉は聞いたことはない。たとえするのだとしても顔を赤くしたりするのではないだろうか。
どちらにしろベルはお礼もなにも言わずに帰ってきそうだ。
(その場合はシバきますか)
なんとも危ない姉である。
「確かにあの子は天然が入っていてね。それで苦労することも多々ある、がこういう事態では有効だろう?」
ほんの少しだけ悪い笑みを浮かべるリヴェリアに和葉は苦笑する。
「リヴェリア・リヨス・アールブさん、貴女も案外悪い部分をお持ちのようで」
「フルネームで呼ばなくていい。気軽にリヴェリアと呼んでくれ」
「すいません、僕の悪い癖でして。失礼だと思いますが僕自身が信頼しないと名前で呼べないんですよ」
少しバツの悪そうな顔をする和葉。リヴェリアはそれに気分を害した様子もなく
「なるほど、こう言ってはなんだが少し変な癖だな」
と言った。和葉は目を軽く見開く。
「あまり気分を害していないのですか?」
「これくらいで気分を害していたら【ロキ・ファミリア】の幹部は務まらんよ」
「そういうものですか」
そう言いながら和葉は通路から出てきたモンスターを空気を使って圧殺する。それはもう見事にグシャッと音をたてて全身が潰れた。見る人が見ればトラウマになること間違いなしである。そしてちゃっかりと風を使い魔石とドロップアイテムの回収はしている。因みに会話の最中にこれを何度もやっていた。おかげで通路が血塗れである。
「ふむ、先程からモンスターが潰れていたが、それが君の魔法か?詠唱もなにも言ってないように見えるが」
「まぁそうですね。あまり言えませんが造形魔法なんですよ、僕の魔法」
リヴェリアは目を見開いた。今までそんな魔法を聞いたこと無かったのだ。そしてもう一つ、あっさりと隠すことも無く答えた事にも驚いた。それに和葉は苦笑する。
「貴女は【ロキ・ファミリア】、しかも幹部の人ですから他の人には言わないだろうと勝手に信用させてもらいました」
「信頼は得ていないが信用は得ている、ということか」
「そういうことです」
ダンジョンの入り口でリヴェリアと別れた和葉は換金所には行かず、そのまま教会に帰った。
「ただいま帰りましたよ、ヘスティア」
「お帰り和葉君、ベル…ってベル君はどこだい?」
和葉はベルをどうしたかというのを説明すると
「なんでベル君をヴァレン
案の定ヘスティアは暴れた。和葉がニッコリと笑顔を見せたらおとなしくなったが。
「別にベルが誰に惚れようとあの子の勝手でしょう?ヘスティアがベルに振り向いて欲しいのは分かりますがね」
そこで一回区切り
「ベルの人生ですからあの子が選んだ人ならなにもいいません。ですが、僕としては─」
それ以上は言葉を発さず黙った。ヘスティアは首を傾げながら言う。
「?和葉君?」
「…いえ、なんでもありません」
和葉は軽く笑みを浮かべ、それ以上の追求を許さなかった。
数十分後、顔を真っ赤にして帰ってきたベルに和葉が「目覚めたときどうしましたか?」と笑顔で聞いたとき「な、なにもせず帰ってきました…」と顔を青くしながら答え、白兎の悲鳴が夜のオラリアに響き渡った。
余談だが、別の場所にてエルフの女性冒険者の笑い声も響き渡ったとか。
『漆黒のコボルト』って原作にいませんでしたっけ?それを出したつもりですが、もし他の方の作品から盗っていたらお許しください。決してパクったわけではありません。
あ、それと亜種の設定はオリジナル(のつもり)です
誤字脱字がありましたらご報告お願いします。