このシーンは前から練っていたので、比較的すぐ書けましたね。
まぁ、見られた方が納得出来るモノなのかは分かりませんが(笑)
特にこのシーンはあの伊福部昭先生の「ゴジラのテーマ(正しくは自衛隊のテーマ)」を掛けながら書きました!
いやぁ、今僕が最も尊敬する作曲家はやっぱり、伊福部昭、そして畑亜貴ですね~。
両者には五十年以上の年の差があり、しかも主に前者は特撮怪獣映画、後者は現代アニメなど、曲も全く違いますが(笑)
『だから! これは我々日本チームが対処すべき事柄であって、あなた方が口を出すべきところではないと、何度言えば気が済むのですか!
五年前のことを覚えておられないとは言わせない。今すぐ引き返していただきたい!』
芹沢一行、そして星空凛と小泉花陽が乗り込む車に、芹沢の英語の怒号が飛び交う。
腹立たしげにスマホを切る芹沢。
それを心配そうに見る二人の少女の視線に気づくと、彼は申し訳なさそうな顔をした。
「…すまない。とあることで、少し揉めていてな。君たちにもいずれ迷惑を掛けることになるかも知れん」
「……一体、誰と電話されてたんですか?」
花陽が遠慮がちに聞くと、芹沢は素っ気なく答える。
「米軍の少佐だ」
花陽と凛は、答えと芹沢の態度のギャップに目を白黒させた。
「べ、米軍!? 何がどうなってるんだにゃ~…」
「や、やっぱりこの人たちすごい…!!」
「仕事上当たり前のことだ。…それに…人に尊敬されるような仕事じゃない」
「「え?」」
二人の頭に疑問符が浮かぶが、それは小美人の呼び掛けによって遮られた。
「芹沢博士」
芹沢はハンドルを握って前を見ながら答える。
「どうしたんだ?」
彼女たちのうち一人が、目を閉じながら不安そうな顔で口を開く。
「彼女たちの七つの反応のうちの一つが、速度を早めました」
凛と花陽の体が、ピクッと動いた。
「…何?」
「向かっているのは…どこでしょう。判りません」
「あ…その近くの二つも追いかけて、速度を上げています」
「…穂乃果ちゃんたちの二年生組だ…」
花陽がそう呟くと同時に小美人のもう一人も異変を知らせる。
「後の四人の反応も、早く動き出しています。…どうやら全員が、一定の場所に向かっているようです」
「貴女たち、何か心当たりはない?」
グレアム博士が聞くと、凛は首を傾げた。
「みんなが…向かう場所…?」
「…小美人さん、でしたよね…? 今、みんなはどこに居るんでしょうか…?」
花陽の質問に、小美人が運転席のカーナビを指差す。
「あなた方がおっしゃる穂乃果さんたちの場所は、神田、お茶の水、秋葉原に囲まれた地域です」
「その地域は貴女たちが見た怪物の予想進行ルートと一致していますが…何故自分たちから危険地帯に近づくようなことを…?」
はっとした顔で顔を見合わせる凛と花陽。
「…私たちの住んでる地域の中で、身を危険に晒してでもみんなが行きそうなところ…」
互いに合点し、頷いた。
「あそこしかない…」
「…何処なんだ?」
芹沢博士が聞くと、少しの間の後花陽は口を重々しく開いた。
「音ノ木坂学院…私たちの、かけがえのない所です」
凛は顔を車窓の方に背けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ーあの生物が、オトノキに向かってるってー
『…イヤだ! そんなのイヤだ! そんなの…私が許さない!!』
穂乃果は、ことりの言葉を脳内で反芻しながら、あたう限りの速度で見覚えのある景色を駆け抜けていた。
『あそこは…何があっても無くしちゃいけない! あそこだけは…守らなきゃいけない!!』
到着してからどうするのか、どうやって守るのかなど、彼女の頭の中には無い。
ただ、自分たちμ’sの全てとも言えるあの場所を、無視することなど出来なかった。
『お願い! 間に合って!』
足音が聞こえてくる。
破滅をもたらす、重低音が。
彼女が出たのは、いつも穂乃果たちが通る通学路。お店が立ち並ぶ中、上へと長い階段が伸びている。
無意味に灯っている赤信号を無視し、穂乃果は無人の道路を走って渡った。
右手の空が赤く染まっている。どうやら怪物はそちらから来ているようだ。
階段を登り始める。さっきからずっと走っていた体にがたが来て、息も絶え絶え。
足を踏みおろすごとに太ももが痺れ、崩れ落ちそうになる体に鞭を打つ。
下手すれば豪雪の中を走ったあの時よりも酷い痛みに、彼女は堪え忍んだ。
「うりゃああああああああああああああ!!」
一気にかけ上る。
そして、最後の一段。
ゆっくり呼吸を整え、彼女が目を開けたその先では。
「………………良かった………………」
穂乃果は、ホッと胸を撫で下ろした。
音ノ木坂学院は、確かに有った。
校門も、立派な校舎も、しっかり存在していた。
「穂乃果!!」
穂乃果が振り向いた先にはー
彼女を呼んだ海未を始めとする、凛と花陽を除いた六人のμ’sのメンバーが居た。
「穂乃果…あなたは、どれだけ私たちを走らせれば気が済むのですか! あなたは、いつもそうやって危険なことに首を突っ込んで…」
海未の厳しい言葉に、穂乃果は頭を垂れた。
「ゴメン…みんな。また突っ走っちゃって。
どうしても出来なかったの…
私たちμ’sの一番大好きで、大切な…この場所を見捨てることが」
「…穂乃果…」
彼女が誰よりも学校とこの街、そしてμ’sを愛していることを知っているメンバーたちを、沈黙が支配する。
その時。
「―――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!」
殺気、混沌、狂気、激怒に満ちた咆哮が、周りの空気を震わせた。
少女たちの体が一瞬硬直する。
「…まさか」
ことりに続いて、他のメンバーもそれを追うようにして学校の左手へ目線を上げると。
目を見開き言葉を失った。
そこにあるのは、学校の右手の巨大な硝煙の中から顔を出す、怪物の姿だった。
ズシン、ズシンと轟音を立て、建造物を踏み潰しながら前進するそれの高さは、学校の四倍以上はある。
「何て…大きさ…」
絵里の言葉通り、奴に比べれば、周りの建物はミニチュア同然だった。
歩くだけで建造物を簡単に壊していく様は、まるで津波のよう。
やがてその怪物は音ノ木坂学院の校舎から数十メートルの所まで近づき、次の一歩で巨大な左足により柵を蹴っ飛ばした。怪物は前進を止めようとしない。
「あ…ああ…!!」
穂乃果が怪物に向かって手を伸ばすのとー
怪物が、次に前方に出した右足を校舎にめり込ませるのは同時だった。
コンクリートが崩れる鈍い音が、穂乃果たちの所にも響いてくる。
違和感を感じたのか、怪物の進行が止まった。
今まで前を見ていた顔面が、ゆっくりと下方の校舎に向けられ見下ろす形になる。
「…あ…」
彼女たちはそれが見えた瞬間、心臓が矢で射抜かれたように立ちすくんだ。
その目は何を考えているのか分からない、狂気すら読み取れる異様に小さく無機質な白黒目玉で。
その焼けただれたようなボコボコとした表皮が形作る不安定なシルエットが、不気味に背中の方の炎に照らし出され。
顔の真横より後ろまで異常に裂けたその大口には、内側にも外側にも不揃いな犬歯が無数に生えていた。
不思議なことに、悲鳴を上げる者はいなかった。
それ以上の、声を出す余裕など無いほどの「恐怖」を、身体中で味わったのだ。
続いて怪物が、足を校舎にめり込ませたまま口を開いた。
尻尾の先が、うっすら青く光り始める。
口の端からは蒸気が昇り始める。
それを見た穂乃果の心を嫌な予感が染めていく。
「…何を…する気なの……?
…嘘…嘘だよ…ね?」
穂乃果が一歩ずつ踏み出す間に、青い光はゆっくりと、炎のような背ビレを上に伝っていく。
そう。ここに居る者ならば分かる。
あの光の前兆だ。
「…まさか…」
海未たちも怪物が何をしようとしているかを理解した途端、何か大切なモノが圧迫され、踏み潰されようとしている感覚を生じた。
「嫌…よ…そんなこと…考えられない…」
真姫が首を横に振るが、目の前の現実は変わらない。
背ビレの光は、もう胸の辺りまで来ていた。
だが、メンバーたちが固まって動けない中で、一人だけが校門を通っていった。
穂乃果である。
校門を通り、グラウンドを駆けていく。
去年、桜たちが立派に咲き誇っていた季節、彼女はこの学校をスクールアイドルとなって救うと決意した。それから約一年が経ち、仲間も増え、ラブライブ!という舞台に上がれる程になったけれど、ずっと変わってないことがある。それは。
ーこの学校が、この街が、みんなが大好きだということー
『此処はみんなの思い出なだけじゃない…此処は、みんなの宝物そのもの…だから』
彼女は力ある限り叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
この街の、この学校の、μ’sの思いを代弁したその言葉はー
破滅の光で打ち砕かれた。
校舎が、青白く染まる。
窓ガラスは衝撃波によって一瞬のうちに全て一斉に砕け散り、コンクリートは高熱によって溶けていく。
コンクリートが吹き飛ばされて鉄骨部分が露になり始めたかと思うとー
光の当たっていた部分で大爆発が起き、校舎が一気に爆炎に包まれる。
約五秒の間で、校舎の彼女たちから見て右半分は消滅した。
「やめて」
もう一度息を吸い込み、再度の熱線。
今度は、手前から奥へ「薙ぎ払う」。
たちまちのうちに、校舎全てを火炎が飲み込んだ。
「やめて」
最後に爆発が重なりあって巨大なキノコ雲を形作る。
その爆発で、屋上も、部室も、音楽室も、体育館も、一瞬で消え去った。
やがて、青い光は止んだ。
後に残ったのは、瓦礫だけ。
音ノ木坂学院は、およそ三十秒にして崩れ去った。
少女たちが懸命に守ろうとした学校は、一分もせずに消滅した。
「…」
穂乃果は、自分の体から生気がスーッと抜けていくのを感じた。
光の宿らなくなった虚ろな瞳で、怪物を見上げる。
「何でなの」
彼は邪魔な自分の足の上の火にまみれた瓦礫を蹴飛ばし、再び前進を開始した。
「何で、こんなことをするの」
怪物が気づく様子はない。
「今まで」
嗚咽を漏らし始めた穂乃果の心は今まで味わったことのない深い絶望と虚脱感に蝕まれ、沈んでゆく。
やがて彼女は学校だった場所に向かって崩れ落ち、手で顔を覆い、そして火に照らされながら地面にうずくまった。
「今までしてきたことは、何だったの? 教えて! 教えて!!」
その時、泣き叫ぶ彼女に、肩に何か後ろからの感覚が感じられた。
穂乃果が後ろを向くと…その原因は、自分の肩に手を置く、海未の姿であった。
後ろには、五人のμ’sのメンバーたち。
顔を背けて溢れる寸前涙をこらえる真姫。燃える学校をまっすぐながらも濡れた瞳で見つめているにこ。
声を立てて希に泣きつく絵里に、その希も精一杯涙と共に唇を噛み締め、その隣ではことりがしゃっくりを立てて静かに泣いていた。
みんな私と同じ気持ちなんだ、と思った彼女に、海未が語りかける。
「穂乃果。どうか、貴女がそれ以上言わないでください。そうでないと…」
彼女の涙が瞳を満たし、溢れる。
「私たち、もう何も出来なくなります……!」
そこで海未の言葉は嗚咽で途切れた。
「…みんな………」
穂乃果の顔が、さらに涙でクシャクシャになった。
「あああああああ!! ああああああああああああ!!!!」
今までの数々の記憶が、灰となって散っていく。
一つの慟哭が、二つになり、四つになり。最後には七つになり、涙が音ノ木のグラウンドを濡らした。
この時この場所で、東京の災禍の中で、ある少女たちのとある物語が完膚無きまで破壊された。
自分たちの夢が、宝物が目の前で破壊されるのに何も出来ず、抗うことすら彼女たちには許されなかった。
歌の女神たちー「μ’s」の七人はこの時初めて、自分たちの人間としての無力さを、身を持って知ったのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、もちろん芹沢博士たちが乗る車の車内でも、二人の女神ー少女が呆然としていた。
「嘘…凛たちの…学校が…!」
凛と花陽の瞳に写るは、丘から助けを呼ぶような火の手を上げる音ノ木坂学院。
ーだったもの。
「…まさか…」
花陽の表情が、絶望に染まっていく。
「クソッ…遅かったか」
芹沢博士はギリッと歯を噛みしめた。
「そんな…そんなの…嫌だ…!!」
凛が泣き叫び、花陽の胸に顔を押し当てた。
「…凛ちゃん」
花陽はそれを、涙を静かに流しながら、何も言わず受け入れていた。
「…博士…いくら小美人の言った『アレ』しか彼に対抗する手段が無いと言っても、今の彼女たちに実行してもらうのは…酷ではありませんか」
グレアム博士が二人の様子を見てから彼女たちを気遣ってそう言うと、芹沢博士はしばらく間を置いてから口を開いた。
「…確かに…『アレ』は、場合によっては今の彼女らの心の傷を再起不能な程に深くする可能性もある……だが」
芹沢は向こうに向かっている青い光を見つめながら言った。
「この状況を放置する訳にはいかない…彼女たちにとって更に悲惨なことが起こるのは確実なのだから」
怪物を見るその双眼は、いつの間にか険しくなっていた。
芹沢博士たちが小美人から聞いた『アレ』とは…?
積み上げて来た物を目の前で壊されたμ’sはこれからどうするのか…?
次回もお楽しみに!