しかしながらこれからはさらに忙しくなってゆく時期、私は無事にこの小説をエタらず終えられるのか!?←エタるな
さて…しばらくは鬱というか暗い雰囲気が続くと思われます。
この作品全体通しての話かも知れませんが…
キャラ崩壊してる可能性が無きにしもあらずですが、なるべくそれは気をつけていこうと思っています(汗)
黒に浮かんでいる、自分の所々汚れた体。
全方位からこだまのように響く、けたたましい咆哮。
穂乃果は目を開けた。
所々あぶくが上に上がっていくそこは、まるで海のよう。
青みのない黒い海の上から、月に照らされたように真っ白い光が海上から差している。
意識を取り戻した彼女の目に次に飛び込んだのは、周りに力無く沈んでいる仲間たち。
彼女自身も含め、メンバー達の服装は既に制服に戻っていた。
「…みんな!!」
急いで彼女は足と手を使って泳ぎながら、一人一人に話しかけて起こしていく。何故か声を出しても、息は苦しくならなかった。
「ぅ……ここは…どこ…?」
八人が見守る中、最後ににこの目が薄く開いた。
「良かったぁ…全員無事で」
全員が安堵の表情を見せ、ことりが安心したようにため息をつく。
メンバー達の無事を確認すると、絵里が周りを見渡した。
「私たち、本当にどこに飛ばされたのかしら…?彼の精神の中にいることは確かよね」
希が頷いて答える。
「そうやろうな。あの時うちらはゴジラの怒りを買って引き込まれた…もしかしてここは彼の心のより奥深く…?」
「考えられないことも無いけど…私たちだけじゃ知りようもないわ。
それに…」
真姫が言いながら瞳を曇らせて俯く。
「私たちが…負けたことには変わりないわよ」
他のメンバーも一斉に無言になる。
その時、にこが我慢出来ないとばかりにいきなり真姫の襟首を掴んだ。
「そんなこと…今言わないでよ! 私はさっきまで完全に信じてたのよ、絶対に私たちμ’sは勝つんだって!私たちが創り出す笑顔のパワーが勝利するんだって!真姫だってそうだったでしょ!?」
黒い海底に響く、他よりも小さい少女の、悲鳴にも聞こえるような叫び声。
にこは、そこまで言ってから腕に込める力を強めた。真姫は何も言わず彼女の言葉を聴いている。
「なのに…なのに…!こんなボロ負けした後で…こんな落ち込んでる時に言うことじゃないわよ…!」
そう言いながら、やっと襟首から手を離し、真姫を突き放した。
彼女の目には、涙が浮かんでいた。
彼に笑顔が通用しなかったことへの、やりきれない無念さが宿っているようだった。
気まずい沈黙の中、何とかしてこの雰囲気を切り替えようと凛の声が響く。
「やっぱりゴジラには感情が無いのかな?だから歌が効かなかったんじゃ…」
「で、でも…ゴジラがおもいっきり吠えた時は、確かに「怒って」たよ。そもそも感情が無かったら、私たちを気にかけることすら無いはずじゃ…」
花陽が疑問を呈すると、海未が皆さん、と呼びかけて自分に視線を集中させた。
「どちらにしろ、真姫の言うことが現実です。
私たちは、ゴジラに負けました。ここが彼の心の何処であるかも今の私たちには知りようがありません。
しかし、ここがゴジラの中であるならば何かしら手がかりが見つかるはず…この九人で行動して、何か無いか調べてみませんか。その方が、ここでくすぶっているよりはいいはずです」
海未の言うことに、一部は何も言わなかったものの、全員が頷いて賛成した。
「そうと決まったら早く探そうよ!まずは上の方に上がってみたらどう?」
凛が真上に向かって指を指すとー
突然彼女達の横を、巨大な何かがゆっくりと上がっていく。
自分たちを押してくる強烈な水流に、彼女達はそれが来た方向を見る。
すると、「あっ」と思わず全員がその方向を見たままで、いくつかの叫び声が漏れた。
「これって…」
ことりが途中まで呟いたその言葉を、穂乃果が繋ぐ。
「恐竜…だよね?」
彼女らの数倍の身長は有るであろう、海の色と同じ色の恐竜が全長数メートルはある古代魚のような魚類を口にくわえていた。
狩りに使うにはさぞかし不便であろう小さな手。
代わりに発達したのであろう、大地を踏みしめるに適した足。
一振りすれば強力無比な破壊力を生むであろう、全長の半分を占める尻尾。
そして幾分大人しめながらも、強者たる野性的な威厳を見せる精悍な顔。
特徴のほとんどが、あのゴジラに酷似していた。
決定的に違うのは、単純に言えばサイズ、そして「オーラ」である。
ゴジラがあそこまで漂わせていた殺気に似たプレッシャーが、彼からはあまり感じられない。
その瞳も何処を見ているか分からないぎょろりとしたものではなく、海上をまっすぐ見つめていた。
見えていないのか、ぼんやりと見ている彼女達を気にする風も無く、彼はゆっくりと上昇してゆく。
「…一体あれは?ゴジラに似ているようにも見えますが…」
海未の言葉を聞き、メンバー達はあの映写室での芹沢博士の言葉を思い出した。
「…もしかして、あれは…?」
穂乃果は呟いた後、決心してメンバー達に恐竜を指差しながら呼びかける。
「みんな、あの恐竜を追ってみない?ここがゴジラの心の中なら、あの恐竜が鍵になってるかも知れない!」
彼女が全員を見渡すと他のメンバー達も穂乃果の意見に賛成し、少し小さくなった影を追ってμ’sは泳ぎ始めた。
九人の横を通りすぎた時と同様、恐竜はそれほど急いでいるようでは無かった。
巨体に見合った、ゆったりとした速度で海面へ上昇していく。
それを追う彼女らも、次第に少しずつ光が強くなってくるのを感じる。
やがてザバァン、と上で音を立てて恐竜が海上に顔を出し、小さな白い波の模様をグレーの海面に作った。
そのままうつぶせの体勢となり、そのまま船のように浮かびながら進んで行く。
彼女らも、海上の様子を見るために海と空中との境界へと迫っていきー
やがて、塩のしょっぱい味と、暖かい空気が顔を撫でる感覚と共に、上半身を出した。
空気に触れた時に反射的に閉じていた瞼を開く。
その時九人の少女の目の前に広がったのはー
白い空と、黒い海。
二色で構成された景色の中に、九人だけがそれぞれの色を持って存在している。
まるで、九人が何十年も昔の映画の世界に入り込んだようだった。
「これは一体…」
そう言った海未を含む九人が呆然とした顔でいるその前で、恐竜は水上に山を作り、水をかき分けながら前進していく。
その先には、一面中鬱蒼とした熱帯雨林で覆い尽くされた孤島があった。
彼女ら及び恐竜がいた場所は島にかなり近かったようであり、海岸まで後五十メートルとなかった。
ある程度海岸に近づくと、恐竜はうつ伏せの状態で泳ぐのを止め、二本の脚をどっかりと浅瀬に下ろして歩き始めた。
ゴジラほどでは無いが、それでも直立状態では高さは10メートルほどにもなり、歩く度に地面の震動が弱くながらも伝わってきていた。そしてよく見れば、彼の背中には背骨が変化したのだろうか、小さな突起が規則正しく並んでいる。
にこはその後ろ姿を、砂浜を歩きながらじっと見つめていた。
「やっぱりあの恐竜、見れば見るほどゴジラに似ているわ…やっぱり、あれって…?」
砂浜を進んでいた恐竜はジャングルの中へと入っていった。そこは何回も通ったためかぽっかりと空洞が出来ており、さながらジャングルに出来た植物のトンネルである。一歩踏み出すごとに、彼は黒の中に消えていく。
「あっ、早く行かないと見失っちゃう! 急いで追いかけようよ!!」
穂乃果は、バシャバシャッと水の音を立てて砂浜を走り、トンネルへと駆けていく。
「穂乃果!」
海未を先頭とし、メンバー達も穂乃果の後を追って白い砂浜を走っていく。その時気にはしなかったが、水の中から出ても彼女らの体は乾き切り、彼女らが通った後には何の足跡も残っていなかった。
――
九人がかき分けて進むジャングルは、正に生命の宝庫だった。
巨大な木々がそびえ立つ中、様々な鳥のさえずる音があちこちからこだまし、足元にはシダやコケがところ狭しと生い茂っている。それらを彩るように、見たことも無い美しい模様をした蝶が飛んでいったかと思えば、トカゲや珍しい形をした虫が木を這っていく。これに色が付いていたら、どれだけの光景だろうか。
恐竜の後ろ姿と足跡を追いながら、μ’sはこの島の自然に見とれていた。
「スゴい…こんな場所初めて来ました…」
花陽が横を飛んでいった鳥の群れに目を奪われている横で、真姫は巨大なシダ植物に視線を向けていて、どうも何かが気になるようであった。
「みんな、気づいたことがあるんだけど」
どうしたのかとメンバー達が彼女の方を向く。真姫は鬱蒼とした森林を見渡した。
「ここらの動植物…ほとんどが現在では絶滅したものだわ。それもかなり昔…少なくとも白亜紀には消滅したもののはずよ」
海未が彼女の方を向いてそれに答えるように頷く。
「そのようですね…私も薄々思っていました。この風景の持ち主のゴジラも生物である以上、ここが白亜紀そのままの時代である訳がありません。つまり、この島は地球の歴史ではかなり最近、しかも穂乃果の予測通り、芹沢博士が言っていた『ゴジラが怪獣となる前』の風景…つまり彼の記憶だと私は思います」
「それって…あの時言ってた『ラゴス島』のこと!?」
映写室での芹沢博士を思い出して凛がはっとした顔になると、それを受けて真姫が腕組みをして頷いた。
「そうね、恐らくは。推測に過ぎないけれど、このラゴス島は絶海の孤島で、なおかつ南海の未開の土地…奇跡的に何の干渉も無かったおかげで、当時の生態系が独特な形で発展したんでしょうね。そうでも無かったらあんな恐竜が生き残ってる訳が無いわ」
「でも…今のところあの恐竜しか見当たらないけれど、他に大型の生物はいないのかしら?少なくとも、あの生物の腹を満たすほどの大きさの生物がいるはずよ?」
絵里がもっと他に生物はいないかと周りを見渡しているとー
「――――――――――――――――!!!!!!」
爆音が鳴り響く。
穂乃果達は急いで近くにあった茂みに身を隠して息を潜め、改めて恐竜のいる場所を確認した。
彼は岩場にある洞窟の前にやって来ていた。今の音が彼の発した咆哮であることは確実だろう。
その重厚でどこまでも続いていきそうな音は、確かにゴジラのものであった。
彼女達は確信した。
やはり目の前の生き物は、怪獣の力を手に入れる前のゴジラの姿に違いない、と。
しかし。
「確かにゴジラの鳴き声だけど…やっぱり何かが違う」
穂乃果は何か違和感を感じずにはいられなかった。
音こそ同じだが、彼が今発している咆哮にはー
「そうだ…殺気が無いんだ」
そう。最初に海底で彼を見たときと同じだった。彼の発する音からは、他者を寄せ付けないあのプレッシャーが感じられなかったのだ。それはむしろ、何かを呼んでいるような鳴き声にも聞こえる。
「――!」
「――!――!」
間もなくして小さく答えるような甲高い鳴き声がする。
恐竜は、どこか安堵したかのようにくぐもった音で唸った。
するとー
「――! ――!」
洞窟の中から、しばらくして三匹の小さな恐竜の子どもが這い出てきた。
「…!」
μ’sのメンバー達は、隠れながら目を見張った。
親恐竜は一唸りすると、ずっとくわえていた古代魚をそっと三匹の前に置いた。
人間ほどの大きさしかない三匹は、この時を待っていたと言わんばかりに一斉にがぶりつく。
その光景を親恐竜はずっと食べ終わるまで見守っている。
そこには、我が子を愛する父親の姿が確かにあった。
「あれが…ゴジラ…?」
花陽は戸惑いを隠せずにいる。
容赦なく大勢の命を踏みにじり、他の怪獣を何度も叩きのめすほど残酷で、悪魔のような怪獣になるであろう恐竜がれっきとした子育てをしているのだから。
子ども達を見ている彼の目は愛情と穏やかさに満ち、あの恐怖を撒き散らす怪物と同じものとはとても思えなかった。
「…信じられない。私たちに見せた目は、絶対にこんなものじゃなかったわ」
人間を見る時、彼の目はこんなに澄んでなどいなかった。
まるでそれは「ごみくず」を見下ろすような眼差しで。
「これが…ゴジラの本当の姿だって言うの?確か、水爆であの恐竜は怪獣になったって、芹沢さん達は言ってたわよね。
じゃあ、一体水爆の何がこの恐竜をあんな慈悲の無い怪物に変えたって言うの…?」
絵里がそう言う前で、親恐竜は子ども達に顔を舐められている。
人の家族と何ら変わらない平和な光景が広がっていたところー
突然その親恐竜は顔をもたげ、周りを見渡した。
一瞬メンバー達と目が合う。
驚いた九人は気づかれたと思って反射的に茂みに隠れたが、彼は全く気に止めもしない。
子ども達は不思議そうに自分たちの親を見つめている。
「あれ…私たちの姿が見えてない…?」
ことりの言うことは、ある意味当たり前であった。
ここは彼の記憶と思われる場所。既に起こったことを、彼女らは見ているだけなのだ。
すると恐竜は、子ども達と洞窟内に向かって一吠えした。
すると、洞窟の奥の暗闇からもう一匹の同じような姿の恐竜が顔を出す。
良く見るとその後ろにはいくつかの卵らしき物体が敷かれた草に置いてあり、どうやら彼の伴侶らしいと分かる。おそらく雌であろう。彼は卵を守っている彼女の代わりに、子ども達のための食糧を調達したというわけである。
雌の親恐竜は子ども達を体を使って巣の方に引き寄せながら、答えるように短く鳴いた。
すると、雄の方は巣を後にして移動し始めた。概ね、偵察と言ったところだろう。
「あっ、またどこかに行っちゃう!」
ことりが慌てた様子で彼の後ろ姿に目をやりながらささやく。
「何に気づいたんやろ?さっき何か音とかしたっけ?」
「さぁ…分からないけれど、今はとにかく追いかけるわよ!」
希に答え、発破をかけたにこを筆頭に、μ’sはゴジラを再び追いかけた。
その後ろで、子ども達を目の前で遊ばせていた母親は、μ’sに気づくはずもなく、去っていく父親の姿を見送っていた。
―――
恐竜は、何かに導かれるように歩を進めていた。
大きな歩幅のおかげでその速度は、彼女らが全力で走ってようやく追い付けるほどである。
「もう…何処へ行くつもりなのよアイツは!」
「ほら、にこちゃん遅れてるよ! これを逃しちゃったら、私たち勝てないかも知れないんだよ!?」
にこが音を上げそうになり、全く息の上がっていない凛がその手を引っ張っている。
それもそのはず、さっきから何十分間、彼女らは走ってばかりだった。
島がどのくらいの大きさかは分からないが、いくら追いかけても景色が開ける気がしない。
「本当にどこもかしこも植物ばかりやね…やけど、ウチ、一つ分かったことがあるん」
希は走る速度を落とさないように気をつけながら全員に語った。
「この島…至るところにあの恐竜達が暮らしてる。
しかも、社会性を持って全員が共同体として生きてるんや」
彼女らは道中、何度も彼と同種の恐竜と遭遇した。
彼らはお互いを見ると互いに軽く吠え合い、彼はそれを頼りに行く道を決めているようなのだ。
それはまるでフェロモンによって餌の場所を教えあう蟻のように、お互いが連係し合うことで成立する、しかもそれより遥かに高度な社会性である。
おそらくこうした彼らの家族としての「絆」が過去の大絶滅を乗り越え、ここまでこの種を繁栄させて来たのだろう。
「ゴジラは最初から恐ろしい化け物だったって思ってたけど…何だか違ったんだね」
ことりの言葉にメンバー達は、少しだけゴジラという怪物の隠された一面を見た気がした。
やがて、恐竜はさっきとは別の砂浜に出た。
ジャングルを抜け出した彼は砂上に大きな足跡を残しながら黒い大海を見つめている。
「はぁ、はぁ…やっと追い付いたね」
穂乃果は息を整えながら植物を振り払い、恐竜の背中を見つめた。
その顔が向いている方向に視線を移しー
彼が何に気づいたのかを確実に悟った。
海に浮かんでいたのは、いくつもの物体。
何も言わぬグレーの鉄の塊達は、「何か」を待つようにじっとしている。
海未はそれを見て、突然何かを思い出した。
「あのいくつもの戦艦…まさか、今日は…!」
後に続く言葉は、もう決まっている。
映写機で写った、あの日。
歴史に残る出来事が、目の前で行われようとしている。
恐竜は、怪訝な顔で奇妙な光景を見つめる。
その時、上空で耳をつんざく音がした。
彼は空を見上げる。
非常に小さな黒い点が、向こうの空でさらに小さな点を落とした。
その点は、ゆっくりと空を落ちていく。
そして点は海にどんどん近くなり。
海に届きそうになった瞬間。
光った。
映っていた景色が吹き飛んだ。
次もまだまだゴジラ回です。
次回のbgmは、「映像の世紀」のテーマ 「パリは燃えているか」または初代ゴジラのbgm「海底下のゴジラ」かもですね。