これ書いてて私もいろいろつらくなったのですが(汗)、大丈夫。ハッピーエンドですよ。←
bgmは前回言ったやつがイメージです。
混ざりあう白と黒。
その色の正体は、炎と煙が互いに混合したものである。
それらが、一瞬のうちにラゴス島の全体を覆い尽くしていた。
巻き上げられた塵によって黒く染まった空の下、一面を囲う炎の中で横たわっていた穂乃果達は、徐々に意識を取り戻しつつあった。
もはや九人の視界を覆っているのはさっきまでの平和な森林ではない。
地獄である。
何百度の高温に晒されて、葉を既に失って禿げた木々はごうごうと燃え、あらゆる生物は僅か数秒のうちに全身が溶かされていた。幾多の命が悲鳴を上げ、断末魔を叫び、苦しみもがきながら一つ、また一つと消えていく。
これを地獄と言わずして何と言おうか。
そしてその中でその「映像」を見ている人間達…μ’sだけが、生きながらにしてその地獄の中に放りこまれていた。
「穂乃果ちゃん…どこ…!?」
座り込んだきり動けないことりの怯えた目が、炎の中をさまよう。
もしや、私以外みんな…?
そんな嫌な予感がうっすらと浮かんだ時、ことりの肩を誰かが掴んだ。
「ことり…大丈夫ですか?」
「ことりちゃん!怪我とか無い!?」
ことりは聞き覚えのある声にパッと振り返った。
その声の持ち主は海未と、彼女に肩を貸してもらっている穂乃果だった。
幼なじみ達が生きていたことに安堵すると同時に、穂乃果の少し青みがかった膝に目が行ってしまう。
「…海未ちゃん、それに穂乃果ちゃん!…良かったぁ…
でも穂乃果ちゃんのその膝…大丈夫なの?」
心配そうな目で問いかけると、彼女は笑顔を作って首を横に振った。
「大丈夫だよ…ちょっと挫いただけだから。そんなことより、みんなここにいる…?」
穂乃果は海未と肩を組み、バランスを崩しそうになりながらもことりの手を取って立たせてから、周りに呼び掛けた。
「私と希は大丈夫よ。そっちは?」
「凛とかよちんも無事だよ!真姫ちゃんとにこちゃんも、来てるみたい!」
どうやら全員無事だったようだ。何とかそれぞれがフラフラしながらも立ち上がり、穂乃果達の前に現れる。
「あの時いたのが砂浜で、近くに大きな障害物が無かったのが幸いやったね。記憶の中とはいえ、あんな衝撃を受けて、軽症で済んだのが不思議な位やな…」
「でも、まさかこの日があの核実験の日だったなんて…こんな島が巻き込まれていたなんて想像だにしなかったわ」
希に続けて絵里が言った後、改めて核兵器の威力に脱帽する。
「…あんな遠くで爆発したのに…草一本も残ってないじゃない…」
真姫を肩で支えながら、にこがあまりに変貌した島に言葉を失っている。
そして少しあちこちを見てみれば、その所々には黒焦げ、もしくは眼球が飛び出、皮膚が爛れてずる剥けた死体がー
「ひっ…」
真姫が恐怖の表情を浮かべ、思わずにこに体を寄せる。
「…皆さん、あまり周りは見ないようにしましょう」
海未は顔を歪めてそう呼びかけた。
「それより、問題はあの恐竜の居場所です。おそらく彼も、どこかに飛ばされたと考えて良いでしょう」
「でも、そんなのどうやって探すの?何も手がかりなんか無いのに…」
凛が泣きそうになっている花陽を宥めながらそう言った時、
「…………」
微かに届いた、弱々しい何かの鳴き声。
「…みんな…今の聞こえた?」
急に静まり返った中で、人差し指を口に当てて絵里が呟くと、もう一度その音は響いて来た。
「…………」
「間違い有りません…これはまさしく…」
そこまで言うと、海未は穂乃果の顔を見た。
「ゴジラの、だね」
すると、突然目前の火に包まれた大木がメキメキッと音を立てて根元から崩れ落ちー
その後ろから、大きな物体が前方に倒れ込んできた。
「きゃああっ!」
ちょうど倒れ込む位置にいたμ’sのメンバーは、悲鳴を上げて後ろへと飛び退く。
重機の如く数メートルはある木を押し倒したそれは、地面へドシャッと乱暴な音を立てて倒れ込んだ。
良く見るとそれは単なる物体ではない。
僅かながら、聞き覚えのある音が発せられている。さっきの音と同じだ。
そう、その物体の正体は、彼女達が追いかけていた恐竜そのものだった。
だが彼の体のあちこちでは表皮が溶けて崩れ、そこからは血がにじみ出、体のほとんどを染めていた。
さらに腹の所々には衝撃によって飛ばされたのであろう木片、岩の破片が深々と突き刺さっている。
「…」
あの力強い姿から一変してしまった、ボロ雑巾のような痛々しい見た目に、彼女達はしばらく絶句してしまった。
自分達が実際にあの衝撃、熱線を浴びていたら、と考えると吐き気さえ覚える。
そうして少女達が遠目に見守る中、恐竜は後脚に力を込め、よろめきながらも体を持ち上げた。
突き刺さった箇所から鮮血が吹き出し、脚がガクガク震えながらも彼は何とか二足で立った。
「―――……―――――――――!!!!……」
彼は何かを叫ぶような鳴き声を上げると、燃え上がる大木や岩場に体をぶつけながらも、何処かに向かって走り始めた。
如何にも必死な叫びに、穂乃果達は思うところがあった。
「これは…もしかして」
そこまで言ってから、穂乃果は悟った風で首を横に振った。
「いや…絶対『あそこ』に向かうはず」
今までの彼を見れば明らかだ。
こんな時に、彼が向かいそうなところはただ一つ。
「今すぐ追いかけましょう。彼が見えなくならないうちに!」
海未が、燃える密林に潜っていく恐竜を見てそう言ったときにはもう、それが果たしてゴジラを制する手がかりになるのかということはあまり意味が無くなっていた。
ただ、どうして彼が『ゴジラになった』のか、はっきりとした真実を見たい。
いや、見なくてはならない。そう感じたのである。
そして彼女らもまた、炎の中に飛び込んでいった…
―――
そして数十分後。
μ’sは先ほどの巣にやって来た。
いや、この場合、巣『だったところ』と言った方が適切か。
そこには、まさしく足場というものが無かった。辺りを見渡しただけでも無数の焼けた巨大な岩石が散乱し、それに燃えて倒れた木が重なることでさらに無秩序な状態となっている。
「…ここも、無事じゃなかったみたいね」
葉っぱが無くなった茂みを掻き分け、にこが岩山を見つめながら呟いた。
そして彼女らの前では追いかけてきた恐竜が、先ほど声が掠れていたのが嘘のように吠えていた。
「―――――――――――!!!!!!!!! ――――――――――――!!!!!!!!!!!」
我が子と伴侶を呼んでいるのだろう。
こんな状況では、あんなにいくら呼んだって返事が返ってくる筈がない。
メンバー達が、そんな絶望的な観測をしていたその時。
「―――……―――……」
目の前の恐竜とは別の何かの鳴き声が小さく響いた。
「…!」
恐竜もμ’sも、顔をもたげ、辺りを見回した。
ふいに、恐竜がある地点に行くと、急いで岩を血だらけの顔ではね除け始める。
まさか。
そう思った彼女らの予想に答えるように、その音は少しだけ大きくなる。
やがて、恐竜は何かに覆い被さるようになっている大きな岩板をくわえて向こうにずらした。
そのなかから出てきたのは…
他でもない、彼の伴侶だった。
恐竜は、一層大きな唸り声を上げる。
それは、最初はてっきり再会を喜んでいると思ったが、良く目を凝らして確かめると、そうでないことが分かった。
彼女の鼻や口は、全く動いていない。息をしていないのだ。
彼が発しているのは、大切な者の死に対する悲しみの咆哮なのだ。
では、あの音を出していたのは誰なのか。
答えは…その下にあった。
「―…―…」
小さな何かが、這い出て来る。
「…子どもだ…」
凛が呟いたその子どもは、あの三匹の中でも一番小さい恐竜だった。
「きっと…お母さんが落石から庇ったんだ」
花陽の言うことが事実かは分からないが、おそらくそうだろう。
彼らは、同種を何よりも大切にする生物なのだから。
「後の二匹はどうなったの?…もしかして、もう…」
彼女の言葉はそこで途切れてしまった。
一つしか鳴き声が聞こえて来ない時点で、結果は分かりきっている。
それでも、この雌の恐竜は三匹とも守ろうとしたに違いない。たとえ自分の命が無くなろうとも。
だが、この子どもは一番幼かったせいか、狭いところに閉じ込められていたために息も絶え絶えである。
恐竜はそれも分かっているのか、子どもを気遣うように小さく唸った。
幸い、それほど大した怪我もあるわけでもない。これからしっかりと育ててやれば、ちゃんと成長するだろう。
やがて、恐竜は子どもに顔をくっつけ、ゆっくりと息をした。
それは、我が子の無事に安堵するかのようだった。
だが、メンバー達も一息ついた瞬間、容態は一変した。
「――――――――――――――――――――――――――――!!?!??!!」
子どもがいきなり喚き、暴れ始めたのだ。
何が起こったのか、分かるものはいない。
恐竜も、突然の出来事に顔を引っ込め、戸惑ったように鳴く。
子どもはなおも二転三転し、何かにのたうち、もがき苦しむかのように動き回る。
μ’sも含め、誰もが何も出来ず立ちすくむだけ。
助けを求める鳴き声が、彼に向かって発せられる。
恐竜も何かをしようと顔を近づけるが、どうしようもない。
そうこうしている間に、突然子どもの動きが止まった。
「―――………?」
それを間近で見た恐竜は、どうしたのかと問いかけるように小さく唸った。
子どもの目は見開かれて、体の各所がピクン、ピクンと痙攣していた。
恐竜の顔が再び子どもの顔に擦り付けられた。子どもの鼻孔は、開いていなかった。
僅か数秒の出来事だった。
μ’sのメンバーは、それを見て確信した。
この小さき命は、事切れてしまったのだと。
そしてその原因は…
親である、この恐竜そのものなのだと。
彼の体そのものか、あの彼が放出した息。あれが、この子どもを死に至らしめたのだ。
恐竜はゆっくりと子どもから顔を上げた。
おそらく彼には何が起こったのか分からないだろう。
だが、一つだけ分かることがある。それは
ー自分は、孤独になったということだ。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!?!??!!!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ゴジラが…泣いてる…」
穂乃果が言った通り、彼の目からは小さな川が出来ていた。
通常なら、涙を流すのは人間だけのはずだったが、この時だけは違った。
彼は、一体あの「光」にどんな感情を抱いてこの咆哮を上げているのか。
すべてを奪い去った、あの光に。
憤怒か、憎悪か、敵意か。
それとも、悲しみか、嘆きか、または苦痛か。
もしくはーそれら全部か。
はたまた、何の感情も無いのか。
人間には永遠に分からないであろう、そんな叫びが全てを揺らした。
空が、歪み始める。
黒い水滴が落ち始めー
彼の体が黒に染められていく。
穂乃果の手のひらに、水滴がついた。
それを見て彼女はデジャヴを覚え、呟いた。
「黒い…雨」
言うと同時に。
天上から、雷が黒い雲を突き抜け彼に落ちた。
彼は、天上を見上げたまま咆哮し続けていた。
μ’sのメンバー達は、思わず目を腕で隠した。
しばらくして。
ムワッとした蒸気に、彼女達は目を開ける。
目の前の視界を、黒いゴツゴツとした物体が覆っている。
少しずつ視線を上げていくと、それは足だと分かる。
さらに上方を見ると、鋭く尖った爪が冷たく光る腕があった。
その表皮全てが焼けただれたかのように歪み、そしてその裏で筋肉が動いているのが分かる。
そして…顔は、あの見覚えのあるものになっていた。
不安定な顔のバランスに、口から覗く不揃いに生え揃った歯。
そう、あの怪物と同じ姿だ。
それでもまだ、その瞳は光を保っている。
どうやら何か違和感を感じているらしい。
その怪物は、周りを見渡す。
彼の周りには、視界を邪魔するものはない。
彼は視線を真下に向けた。
そこにあるのは、自分が生まれ育った島。
そしてー黒くなって歪み、巨大な怪物となった自分の腕、足だ。
彼は固まった。
目から徐々に光が失われる。
彼は理解したのだろう。
自分が、今までとは全く違う自分になってしまったことに。
「…」
もはや咆哮すら上げなかった。
何かを理解し、諦めたかのように、彼はおし黙った。
完全に、瞳から光が追い出される。
そのとき、彼の中で、名もなき恐竜は死んだ。
彼は、『ゴジラ』になったのだ。
光を嫌い、光を憎み、光を殺す者に。
一歩踏み出した。
焼け野原となった土地に、巨大な足跡が出来る。
五歩も踏み出すと、たちまち海岸にたどり着いた。
熱くなった海に足を浸けると、大きな水飛沫と共に大量の魚の死骸が飛び散る。
ゴジラはそのまま海水に沈んでいく。より深くへ、より深くへと。
光から離れ、光のことを忘れるために。
それがかなわなかったのは、言うまでもないが。
そして彼が海に消えた瞬間、彼女達の周りの景色が歪み始める。
それら全ての色が混ざりあって、やがて周囲は最初と同じ暗闇となった。
その中で九人は、何も言わなかった。いや、何も言えなかった。
涙を流している者さえいた。
それは、あまりにも救いのない物語だったのだ。
周りに何度も核爆発や大砲の映像が流れる。
全てを奪われ、孤独になった者の、際限の無い苦しみ、復讐の連鎖。
仲間を大事にする恐竜であった彼には、隣に寄り添ってくれる者さえいない。彼が今までに見てきたのはいつでも、自分を殺そうとする者なのだ。
彼らが繰り出すのはいつでも「光」。
二度と見たくなんかないのに、彼はそれを何度も何度も浴びせられたのだ。
何回もそれが続くうちに、彼の本能は「破壊」で染められたのである。
そして現在。
彼女達μ’sは彼の心を希望という「光」で照らそうとした。
だが、六十何年も引きずってきた彼の歪みきった過去を、簡単に書き換えることなど出来ないのである。
それは結局、光に敏感なゴジラを刺激するだけだったのだ。
つまり、背負ってきたものが違いすぎた。ただそれだけである。
「最初から…勝つことなんて、許されていなかったっていうの…?」
穂乃果がうちひしがれると同時に、青い光が彼女達を照らす。
はっとして前を向くと、そこにあるのはあの青い炎の怪物。
あの強烈なプレッシャーを放ちながら、威嚇するように唸っている。
今なら分かる。この威圧感の正体が。
それは、ゴジラそのものだ。ゴジラが今まで溜め込んできた何もかもが、何をせずとも溢れ出ているのだ。
「もう…ダメなんだ、私たち…何をやったって、アイツに勝てやしない。
私たちの物語なんて…ゴジラの前じゃ何の意味も無いんだ…!!」
涙をこぼす彼女に、海未が肩を掴んで自分の方に向かせた。
「穂乃果…そんな…そんなことを、言わないで下さい!!あなたは太陽だったはずです!
私たちμ’sを照らし、何処までも引っ張っていく太陽が、私たちには必要なんです!」
「そうだよ、穂乃果ちゃん! こんなことで…μ’sが終わっていいの?
私…絶対にこんなところで終わりたくなんかないよ!!」
ことりも加わって彼女を励まそうとするが、もはや敗者の意地のようなものだった。
彼に勝てないことは分かりきっている。ただ、こんな暗闇の中でこの九人の物語を終わらせたくないのだ。
「そうよ、穂乃果!…泣かないでよ!あなたがそんなのだったら…私たちまで…」
絵里がそこまで言って涙で言葉が途切れる。
「…ごめんなさい…決して穂乃果のせいと言ってるんじゃないの…私たち全員、あなたと同じ気持ちなの…!!」
絶望を感じているのは穂乃果だけではない。希も、にこも、真姫も、凛も、花陽もみんな、完全に彼の力に屈していた。海未もことりだって、本当は今、何も出来ないことを知っている。
ただ…ほんの少し残ったプライドで認めたくなかったのだ。自分たちの負けを。
だが、穂乃果が言わずとも絶対に誰かが泣き出し、絶望の言葉を吐いただろう。
そのようなプライドは、彼の前では通じないのだ。
「ごめんなさい…みんな…リーダーの私が…こんなので…!!!!」
穂乃果は、あまりに弱い自分が嫌いになりそうになった。
本当は、自分がみんなを励まさなければならないのに。
みんなを、希望へと導かなければならないのに。
「あああああああああああああ!!!!」
彼女達は抱き合った。
ゴジラは顔色一つ変えず、軽蔑にも捉えられる眼差しを少女達に向けた後、虚空に炎の拳を作り出した。
おそらく、彼女達を精神ごと粉々に叩き潰そうとしているのだろう。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ゴジラは拳を振り上げた。
降り下ろされる拳。
彼女達は、目を瞑った。
脳裏に流れる、今までの希望に溢れた物語。
時にぶつかり合ったけれど、かけがえのない物語。
みんな、大好きだよ。
そして
さよなら、私たちの青春。
その時、暗闇を三本の雷が貫いた。
さて、それは希望なのか、それとも絶望なのか。
うーん…我ながらμ’sが絶望しかしてないwしかもあの怪獣フラグまで立ててしまったし。
ラブライバーとしては辛い展開ですが、予告通りちゃんと終わらせたいと思ってますのでお許しを。m(_ _)m