前史見てるだけで妄想が捗りますわ~
暗闇。
何処までも続く、暗闇。
そこを、九つの光が駆けていく。
「ここは前と変わらないわね…」
絵里がそう言い周りを見渡していると、やがて前方にもやのような光が見えてきた。
「あ、出口だ!」
穂乃果が光を指差すと、その横でにこはため息をついた。
「は~、やっと出られるわね。ずっと同じ景色で退屈してた所よ」
ゴジラの精神に入ってから、彼女達は時間の感覚が無くなるほど殺風景な空間の中を進んでいた。
海未が厳しい表情のまま注意を促す。
「注意した方が良いですよ。何が来るか分からないんですから」
もやは近づいていく程に大きくなる。
それにつれて、メンバー達の緊張も高まっていく。
「…何が来ても、動揺してはダメなのよね」
真姫はメンバー達にそう呼びかけて、小美人に言われたことを確認する。
ここがゴジラの精神世界である以上、この空間の支配権は彼にある。少しでも油断すれば、彼の精神に取り込まれてしまう。それを防ぐには、目や脳に入ってくる如何なる情報にも考えを巡らせてはならない。
仲間を信じて突っ切るしかないのだ。
まもなくして、九人は鈍い光に包まれる。
数秒後、何も見えず、何も聞こえない時間が訪れた。
隣のメンバーの安否もわからない。
それでも、彼女達は出来るだけ心を落ち着け、静かにみずからの感覚が戻って来るのを待つ。
更に数刻経った後。
どこからか、不快な喧騒が耳をつついて来る。
「………!!」
「……………!!」
「……………………!!」
明らかに彼女達自身のものではない、呪文めいた呻き。
聞くに堪えないいくつもの罵り、怒声が脳を圧迫する。
視界が、黒から一面血のような赤色に染まっていく。
それにつれ、お互いの姿も見えてくる。
そして、遂にこの空間の全体像が明らかになった時、彼女達は思わず悲鳴を上げそうになった。
メンバーは九人全員いたが、その遥か下には赤色の肉塊が無限にひしめき合って蠢いている。
それらは人の形をしているものの、その背中には三列の剣山のような背ビレが生えていた。
彼らの顔には、目の位置に大きな穴が空き、裂けた口には鋭く不揃いな歯が生え揃っている。
そんな彼らが彼女達の方向に一斉に手を伸ばしている様は、九人には実におぞましい光景だった。
「ひっ…」
何人かが顔をひきつらせる。
「惑わされてはなりません!」
それを見た海未が一喝。
「これはゴジラが私たちに見せている幻想…
私たちを排除する為の罠です!
真姫が言っていたように、此処で気を取られればあっちの思う壺ですよ!」
その言葉で、メンバー達はここがゴジラの精神世界であることを思い出す。
その時、前方から黒く大きな塊が現れた。
塊がオレンジ色の光と煙を見せたかと思うと、彼女達のすぐ側を光弾が掠めていく。
「…言わんこっちゃないわね」
にこが舌打ちするのと同時に、サイレンのような音が鳴り響いた。
その塊の正体は、航空母艦であった。
あまりにも朽ち果てていて、いつ、どこで造られたものかは解らなかったが。
これもまた、まぜこぜになったゴジラの記憶の一片なのだろうか。
「…このまま、突っ切るしかないようね…!」
真姫がそれを睨んで憎々しげに呟く間にも、彼女達より上方には爆撃機が母艦から飛び立ち、横からは機関銃を装備したヘリコプター部隊が、彼女達を取り囲もうとする。
花陽は、凛と顔を見合せながら手を繋ぐ。
「普通は、こんな状況なら生き残ることは出来ない…
でも…!」
「今ここなら、みんながいると思うだけで、乗り切ることができる!!」
凛は、彼女の手を握り返してそれに答える。
絆。
それが、ゴジラには持ち得ない、μ'sの最大の武器。
この空間なら、それを余すことなく活かせる。
「さあ、みんな行くよ…
自分達の、力を信じて!」
穂乃果の言葉と共に、μ'sは彗星となった。
ヘリコプター部隊が機銃掃射するが、間に合わない。
砲台を一斉に向けて来た母艦に、真正面から体当たりする。
そのままμ'sは母艦を貫く。
綺麗に九つの穴が空いた。
母艦は一気に膨張したかと思うと、軋んで悲鳴のような音を上げ、黒い液体を撒き散らして爆発した。
―――
「…ゴジラ、高度80km。中間圏を突破。熱圏に突入します」
オペレーターの一人が高らかに告げる。
その前のモニターには、空に一点紫の光が映されている。
ステンツ司令官と芹沢博士は、画面を怪訝な表情で見つめていた。
「…空を飛ぶとは…もはやアレを『ゴジラ』と呼んで良いのですかな、芹沢博士?」
「さあ、な…ただ分かるのは、彼は目的のためにはどんな姿にもなり得るということだ」
ステンツが、芹沢の言葉を察し、彼に視線を送る。
「目的とは…やはり」
「地上に灯る『光』の抹消だ。自らに苦痛を与えるモノを排除しようとする。生物にはあって当たり前の本能だ」
その時、グレアム博士が数枚の書類を持って指令室に入って来た。
「…芹沢博士。ゴジラの体内環境の解析結果が出ました」
彼女は机に書類を広げる。
そこには、ゴジラの全体図と体内環境の変化を示すグラフが描かれていた。
芹沢博士とステンツ司令官はそれを覗き込んで、彼女の説明を受ける。
「現在、ゴジラの体内では生体核融合炉の活動の活発化とそれに伴う体温上昇、そして背部の対外攻撃器官で急激な遺伝子変異が生じています。この先もゴジラは更なる戦略的進化を行う可能性があります」
「奴め…神にでもなるつもりか?」
「その可能性も否定出来ない状態だ。今空中を上昇しているのも、何かの前段階なのかも知れん」
「…不穏な予感がします。このまま上昇を続けて衛星軌道外に出てしまえば、ほとんど人類側の邪魔は入らなくなる」
「その後に奴がしそうなことと言えば…まぁ、大体予測はつきますな。
国連や大国達の反応はどうです?」
ステンツ司令官の質問に、グレアム博士は半笑いを浮かべた。
「予想通りでしょうが、世界のトップ層はとっくに核シェルターに避難済みですよ」
「人間、いつでも一番可愛いのは自分、か。
全世界の国民にこの事実は伝わっているのか?」
「伝わっていない訳が無いでしょう。
あれだけ派手にやっておいて、広まらないはずがありません」
芹沢博士に答えたグレアム博士は、ノートパソコンを取り出し画面を二人に見せた。
そこには大手動画サイトの視聴者数ランキングが映し出されていた。
予想通り、空を上昇する紫の光を撮影した動画が一位を奪っている。
「たった数時間で十億回再生…。当分この記録は破られんだろうな」
「更に、何処からか核シェルターの件が広まり、特に貧富の差が激しい地域では暴動が勃発しているようです。世界各地での混乱に伴い、治安状況は悪化を辿る一方…」
「どうせ自分が死ぬのなら…という訳か。人間の悲しい性です」
ステンツ司令官の言葉を聞いたグレアム博士は、別のページを開いた。
そこには、ゴジラを取り囲む巨大な光球が映されている。
「彼女達も、話題に上がっています。
最も、世界中の人々はほとんど信じていないようですが。
まさか彼女達が人類の運命を握っているなんて、夢にも思わないでしょう」
「彼女達の将来のためにはそれが好都合だ。
ただ、今はその切り札も、ゴジラに有効かどうかは分からないがな。
彼の精神を把握するまでには、我々の科学は追い付いていないのだから」
「で、その成功の確率はどれ程で?」
ステンツ司令官が聞くと、芹沢博士は首を横にふった。
「さぁな…それは計算で出せるものではない。
彼女達の心が本当にゴジラの心と対話し得るか、そしてそれに耐えうるかどうかが生命線だと小美人は言っていたがな」
心。
計算では導くことが未だに出来ない、人間の真髄。
果たして、彼女達や小美人が言うように、それはあの生物にも存在するのか。
それとも、心のように見えた何かを、勝手にそう呼んでいるだけなのか。
真相は、恐らくゴジラ自身にしか分からない。
ステンツ司令官は再びモニターに目を向けた。
相変わらず、紫の光が天に向かって上がっていく。
「絆…心…
あんな化け物相手に、結局そんな曖昧なモノに頼らざるを得なくなるとは」
目を細め、ステンツ司令官はその光に注視していた。
「まぁ、君達…誓ったからには、この地を守ってくれよ」
―――
彼は、閉じ籠っていた。
真っ暗で、光を見ることのない、自分だけの空間に。
もはや、自分が吐き出した光を見るのも、太陽や月を見るのも苦痛になっていた。
あらゆる光を見るだけで、『あの日』が何度も自らを駆け巡る。
あのせいで彼は孤独になり、全ての者が彼を拒絶するようになった。
だから、彼は決めた。
地にある、すべてのモノを壊してやろうと。
そうすれば、自らを苦しめる光も、自らを憎む蟻共もいなくなってくれる。
でも、現実はそうは行かなかった。
いくら潰しても蟻は湧き続け、幾度となく光を浴びせられた。
そして、その度あの蛾が現れて自分を海底に縛りつけた。
彼は余計に、自分以外の全てに対して怒りを溜め込んでいった。
そんな中、彼は偶然、地上に灯る多くの光を見た。
一瞬で彼は決断した。
「あそこを暗闇にしてやろう」と。
だから、彼はそこに向かった。
そして―
壊してやった。
殺してやった。
彼は清々した。
自分がやりたいと思っていたことを、全力でやり遂げているのだ。
これ程スッキリすることもないだろう。
だが、途中で自分を邪魔する者が現れた。
単純に殺したくなった。
彼らの目的は彼には理解出来ず、彼にとっては只の『殺戮対象』だった。
その中で、変わった者達がいた。
あの蛾に乗った、蟻共の中の九つだった。大した武器も持たず、図体も遥かに小さい。
なのにそれらはその身一つで自分に立ち向かってきたのだ。
不思議でたまらなかった。普通、丸腰のあれらは腰を抜かして逃げていくはずなのに。
その九つは、彼そのものに侵入した。
彼は不快だった。
自分の奥深くを覗かれた気がしたからだ。
恐らく、これは自分を殺すためにしていることなのだ。
そう判断した彼は、その蟻達を潰そうとした。
結局それは失敗したが、数刻前、自分が死にそうになった時にそれらは再び現れた。
今度はもっと巨大な光を抱いて、それらは彼に『眠ろう』と語りかけた。
無論、その場で抵抗することもしようと思えば出来た。
しかし、何故か身体はそれを受け入れようとした。
あれだけ憎んでいた光を、一瞬だけ受け入れたのだ。
彼は、長い間ずっと溜め込んでいた怒りや憎悪が消えた一時を迎えた。
それは、彼にとって本当に幸せなことだったのか。それは分からない。
だが、彼は安らかに生きることが出来る居場所をやっと見つけたのだ。
―しかし、それは別の蟻が放った一つの『光』で脆くも消え去った。
彼は眼を覚ました。
そして、蟻共の本質を思い出した。
コイツらは、群れる生き物だ。群れて、知恵を絞って、狡猾に獲物を仕留めるのだ、と。
目の前の蟻達は、最初からこれを狙っていたのだ。
彼は、ぶちギレた。
だから、彼は最後の手段に出た。
こうやって閉じ籠り、あの蟻達が再び隙間から中に入って来ないようにして―
次は、この大地に巣食う蟻共と光を、大地ごと全て焼き払うのだ。
二度と、同じ手には乗らない。
二度と、甘い誘惑に騙されない。
全てへの情けを絶ち、自らの目的をただ遂行する。
その達成を待つかのように、彼は待ち続ける。
自分の姿も見えない、真っ暗闇の中で。
「………ラ!!」
彼は、顔を歪めた。
自分を騙そうとした奴らが、またやって来た。
どれだけ彼が拒絶しても、奴らは構わずまっすぐに自分の中に潜り込んで来る。
彼は、不思議に感じた。
コイツらは、蟻の癖に、何故自分から死にに行くような真似をするのか、と。
そこまでして、自分に歯向かう理由はあるのか、と。
理解出来なかった。
ただただ、この小さな生き物の不可解さ、不快さに呻き、喚くことしか出来なかった。
永久に続く黒い空間に、苦悶の咆哮が響き渡った。
ウチのゴジラさん、マジでセンチメンタルな気がしますね(汗)
今は「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったんだ!」みたいな感じです(^^;
なるべく王の風格を出そうと初期は悪戦苦闘していたのですが、精神面ですら弱点がないとμ'sが勝てなくなってしまうので、今はバランス重視ですね。