ドラゴンクエスト ―AKIRA―   作:軍艦ryn

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第一章【旅立ち】
第一話 「突然で申し訳ない」


 

 

 

「あと少しでつくかな…?」

 

 砂漠をギシギシと歩む小さな馬車。そこに乗っている男が小さくつぶやいた。日除けのためのカーテンを手でどけ、外を見渡す。だが辺り一面砂漠。馬車の主である年老いた老人がしわがれ声で返答する。

 

「もう…20分ほどだと思いますよー」

「20分ですか。そりゃどうも」

 

 男はカーテンを閉め、中のソファに再び腰かける。馬車の中にはこの男のみ。男は黒髪で、長さはミディアムといったところか。頭部に白い鉢巻のようなものをしている。この暑い中、白い立派なマントを着用。マントの背中部分には『X』の文字がある。両腰には、長めの剣が一本ずつ計二本。馬に乗っている老人の声がする。

 

「お兄さん、何度も聞いてるけどさ」

「はい。何ですか?」

 

「あんな村へ行って、何があるんだい? 見たところ、あんた軍の人だろう? あんな村に行く価値があるとはわしゃ思えないが…」

 

 この質問に、男はしばらく黙り込んだ。ザッザッと馬が砂の上を歩く音だけが数秒間響き渡る。白い鉢巻を両手でぐっと引き締め、閉じていた目を見開いたのと同時に口を開いた。

 

「僕にもまだ未知数ですよ。『エルド村に凄い青年が四人いる』ってその情報しかないんですよ。けど僕の勘が言ってます。…良い兵士になりそうだって」

「その噂なら聞いたことあるが…。あ、…あんたもしかしてスカウトマンか!?」

 

 男はクスクスと笑った。そして老人に言い放つ。

 

「まぁそんな感じです。僕、ほんと強欲なんですよね。そんな噂聞いたら軍に入れたくなってしまって」

 

 

 

********

 

 

 

「盗賊が出たぞー!」

 

 ここはライトレイ王国領エルド村。大陸北部の無法地帯と南部のライトレイ王国領土を分かつ城壁に接している小さな村だ。大陸の最東端に位置し、海とも接している。村人は合計70人ほど。若者はみな都市へ旅立つため、高齢化が進み、村人の大半が30歳を超えている。北部の無法地帯との間にある城壁は高さ10メートルほど。そして一つある門は、つい最近壊れてしまい、そこから計六人の武器を持った盗賊が村へ侵入してきたのだ。盗賊の中で一番体の大きい無精ヒゲを生やし、斧を持った男が村を見渡して言う。

 

「ここだな? 一昨日俺様の可愛い部下達をボコボコにしやがった奴らがいるのは!」

「そうです、ここですここです!」

 

 巨漢の男の隣にいる全身包帯ぐるぐる巻きの細身の男が応答する。村人は、盗賊たちと少し距離をとって凝視している。盗賊におびえている様子は皆無。盗賊六人の内、ケガをしている細身の男以外の五人は剣やら斧やらを持っている。なのにまったくおびえない村人の様子に違和感を感じた巨漢の男。

 

「なんで誰も怯えてねえ! 俺様の怒りは頂点だっ! 皆殺しにされたくなかったら金品全て差し出せ! さぁ、早く」

 

 盗賊親分がそう叫んだところで、村人は動こうともしない。その様子をみて、巨漢の男は斧を振り上げ、村人の方へ歩き出した。それに続いて四人の盗賊も武器を掲げ、進む。

 その時、村人の中から四人の青年が現れ、盗賊たちの前に立ちはだかる。青年たちは各々武器を持っている。彼らを視界に入れ、盗賊たちは歩を止める。それと同時に村人たちは安堵と喜びの表情を見せる。

 

「あ! あいつらです! 俺らをボコボコにしたの!」

 

 包帯ぐるぐる巻きの男が青年たちを指さして叫んだ。

 それに反応して巨漢の男が青年四人に向けて言う。

 

「なるほどな。おい、お前ら。武器を置け。そうすればまだ優しく殺してやる!」

 

「それはこっちのセリフだ。殺されたくなければ武器を置け」

「は?」

 

 盗賊に言い放ったのは四人の青年の一人。黒髪で黒目、色白で長剣を手にもっている。名をライド。ライドの返事に、巨漢の男の怒りは爆発する。盗賊団のリーダーであるこの巨漢の男の名はクルセイド。城壁の向こう側の無法地帯で暴れまわっている男だ。ちなみにこの盗賊団の団員は計30人ほど。ライドの隣に立っている、赤髪で赤目、槍を持った青年ザムザが口を開く。

 

「クルセイドさんよォ。ライドが言った通りにしてくれ。そうすれば無事に帰れるぜ?」

 

 ザムザの言葉にクルセイドは怒り狂う。クルセイドの後ろの盗賊四人も武器を強く握りしめた。そしてクルセイドが斧を空へ掲げ、叫ぶ。

 

「野郎ども、この村ぶち壊すぞ!」

「おおおおおお!」

 

 そう叫んだクルセイドの右肩にドスッと一本の矢が突き刺さる。放ったのは青髪で青目、弓を持つ青年。その名もバイス。クルセイドは肩を抑えてバイスをにらみつける。

 

「理解したよ。君たちクルセイド盗賊団の活動も今日をもって終わりのようだ」

「くっそ…!!」

 

「じゃ、始めるぞー」

 

 茶髪で太刀を持つ青年、アキラがそう言うと四人の青年達は一斉に盗賊たちに襲い掛かる。アキラはクルセイドの斧の一撃を軽々とジャンプしてかわし、顔面を斬りつける。ライドは長剣で後ろの盗賊を薙ぎ払い、ザムザは背後から盗賊に槍を突き刺す。そして溢れた盗賊をバイスが弓矢で狙い撃つ。

 

 

 

 たった二分程度の出来事であった。四人の青年達の素早い動きと立ち回り、陣形の上手さに盗賊達は文字通り手も足も出なかった。アキラ達は盗賊達を縄で縛り付け、身動きをとれないようにした。傷だらけのクルセイドは涙を流しながら懇願する。

 

「す、すまなかった…。逃がしてくれ! 牢獄だけには行きたくねえ」

 

「今更遅いって。これまでどれだけの罪を重ねてきた?」

 

 懇願するクルセイドを一蹴するかのような一言を浴びせるアキラ。その言葉に対して、クルセイドは何も言い返すことができない様子。続けてザムザが言う。

 

「俺が聞いたときに素直に帰ってりゃ良かったのにな! 残念だぜ」

「本当はぶっ殺してやりてぇが、アキラとバイスが生きて罪を償わせるってうるせぇから死んでねぇんだぞ。感謝しやがれ」

 

 ライドがクルセイドを睨みつけながら言い放つ。そこにエルド村の村長が現れる。

 

「いつもありがとな、お前たち。これで盗賊団は全部捕まえたことになるな」

 

「それじゃ、あとは村長さん。お願いしますね」

「うむ」

 

 バイスが村長にお辞儀をする。アキラ達四人は、数年前からこのエルド村の用心棒として活躍していた。かつては城壁の向こう側の無法地帯にはいくつも盗賊団が存在していたが、それも今日で全て捕まえたことになる。彼らは全員17歳。この村で一番若い四人である。

 村長はライトレイ王国へ通報。翌日にはライトレイ王国から使いの者が来て、盗賊達を監獄へ輸送していく。それまでクルセイド達は、村の地下牢へ一時的に収監されることとなる。

 ライドが欠伸をしながらアキラに言う。

 

「長かったけど、これで無法地帯の盗賊は全部消したな」

「うん。ほんと長かったけど、今考えてみると短くも感じるし、変な気分だよ」

 

「…ってことは、アキラとライドはもう行くんだね?」

 

 バイスが二人に問う。その後ろでザムザが静かにアキラとライドを見つめる。アキラとライドは目を合わせ、ほぼ同時に頷いた。

 

「うん。明日にでも出発しようかって今ライドと話してたんだ」

 

 ライトレイ王国の主要な軍隊として『特攻部隊』と『護衛部隊』というものが存在する。特攻部隊は王国の主力となる攻撃軍である。護衛部隊はその名の通り、王国や国境の警備、護衛が主な任務である。この二種類の部隊がライトレイ王国の戦力の大半を占めている。そして、特筆すべきはこれらの部隊に入ることはそう簡単にできることではないということ。特に特攻部隊に入隊するための入隊試験は、毎年10倍以上の倍率を誇る。つまり特攻部隊というのは、ライトレイ王国の精鋭が集う軍隊なのである。そしてその特攻部隊にはアルファベット順にランクが付けられており、Aが最も低く、Zが最も高くなっている。特攻部隊Zは特攻部隊の中で最も危険な任務を任される部隊となる。

 アキラとライドは特攻部隊になるために、この村を出発しようとしている。元々無法地帯の盗賊を全て捕まえてから出発すると決めていた。アキラが言う。

 

「特攻部隊…。父さんと約束したんだ。必ず特攻部隊Zになって、最前線に立ってこの戦争を終わらせるって!」

 

「俺は、アキラについていく。この大陸を自由に動ければ、少しでも記憶を取り戻すことに近づける気がするしな」

 

 ライドには生まれてから7歳までの記憶が一切ない。記憶喪失である。7歳の時に、無法地帯を放浪していた所でアキラとザムザとバイスと出会い、エルド村に住むことになったのだ。アキラ達も両親がいなかったため、四人でずっと訓練しながら生活してきた。そして、記憶の手がかりを少しでも得る可能性を高めるために特攻部隊に入隊しようと考えた。ザムザが口を開く。

 

「いってこい。俺とバイスは暫く様子を見るぜ。この村にも、まだ用心棒が必要かもしれないしよ!」

 

「ザムザと同意見だ。僕らはここでアキラ達を心から応援してる。さぁ、明日出発ならもう家へ戻ろう」

 

 

 

 バイスの提案で四人は村の入り口にある小さな小屋へ戻る。ここは四人がずっと使ってきた家だ。ボロボロで雨漏りもするほど屋根に隙間があいている。四つのベッドが壁沿いに並び、中央に横長の机が一つ。四人がひと段落ついて、休んでいた時、ドアを誰かがノックした。

 

(村長…? いや、村長ならノックなんかしないで勝手に入ってくるはず)

 

 四人は目を見合わせた。通常ではない。妙な違和感が四人を襲っていた。エルド村の人ならノックしないで入ってくるだろう、と考えていたのだ。アキラが立ち上がり、ドアを開けるとそこには白いマントを着て、白い鉢巻をした黒髪の男が立っていた。

 

「どうも。はじめまして。君達、アキラくん、ライドくん、ザムザくん、バイスくんかな?」

 

(怪しすぎる…。何だこいつは)

「さぁ? どうだろ。ってかあんたがまず名乗―――」

「突然で申し訳ないんだけど、特攻部隊に入らない?」

 

 ライドの言葉を遮って男が質問を投げかけた。その言葉を聞いて、全員動きがピタリと止まり、男を凝視する。特攻部隊? どういうことなのか四人は理解できていなかった。この男が何者なのか、それが気になりアキラが問う。

 

「特攻部隊…。どういう事ですか?」

 

 それを聞いて男はしばらく黙り込んだ。続く数秒の沈黙。四人の顔を順に眺める。良い表情をしている。まるで才能の原石。これからの未来が詰まっているだろう。よし。

 

「僕は特攻部隊X隊長のクロス。君達の活躍を聞いて、特攻部隊に入れるためにここに来たんだ。ぜひ、君達の力が欲しい。もう一回言うよ? 突然で申し訳ないんだけど、特攻部隊に入らない?」

 

 クロスのその言葉を受けて、アキラとライドが静かに手を挙げた。特攻部隊Xということは特攻部隊の中でもトップクラスの実力者。元々こっちから行こうと思っていたのだ。そんな人の誘いを断る理由だとあるはずもない。

 

「入りたいです!」

「入る!」

 

 アキラとライドはほぼ同時に挙手しながらクロスに言った。

 

 

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