【魔法】
魔法とは、魔力を消費して唱えることのできる魔術である。どんな魔法にも必ず詠唱と魔力消費が存在する。魔法は大きく分けて、属性魔法(メラ系・ヒャド系など)/防御魔法(アストロン・バーハ系など)/強化魔法(バイキルト・スカラ系など)/補助魔法(ラリホー系・クモノなど)/回復魔法(ホイミ系・キアリー系など)/移動魔法(ルーラなど)/召喚魔法/特殊魔法の全8種類に分類できる。消費する魔力量や術者の技量によって、同じ魔法でも威力に差が生まれる。詠唱を短縮し唱える事ができる魔法も存在するが、詠唱を短縮すればするほど威力は減少し、無詠唱の場合は完全詠唱の場合の半分以下の威力になる。魔法ごと、術者の相性などで修得のしやすさ、魔法の扱いやすさや威力も変動する。
アキラ達が特攻部隊Mに入隊してから、任務依頼がないまま一か月が経過していた。その間ずっと一緒にいたアキラ達三人とカイラス、ザン、ユースの三人はすっかり打ち解けて仲良くなっていた。現在19時過ぎ。毎日の鍛練を終え、部屋に戻ってきたアキラ達。シスキーがカイラスに話しかける。
「たいちょー! そーいや都市カボル出身なんすよね? 俺もそこで育ったんですよー」
「……驚いた。非常に驚いたぞ。あの街には五年前まで住んでいた。汚かったから嫌いだ」
「そんなこと言わないでくださいよ~! たしかに汚かったし治安悪かったけど、あの街のおかげで俺はここまで強くなれたんですから」
ここ最近ラギ帝国と魔連合国どちらにも目立った動きは無く、絶妙な均衡が保たれていた。そのため特攻部隊全体においても任務自体ほぼ存在しなかったのだ。部屋においてあるテレビには基本的に大陸情勢の情報しか放送されないため最近は全くつけていなかったが、ユースがふとテレビをつける。
「「…続いて30分程前に入ってきた情報を再びお伝えします。帝王デアディン率いるラギ帝国に動きがありました! 現在イビイ砂漠を侵攻中、特攻部隊Q・W・Zの三部隊と護衛部隊H・Xの二部隊の合計五部隊が応戦のため駆けつけています! …繰り返します」」
「え、まじかよ? ラギ軍が攻めてきてるってか」
ユースは思わず声を上げた。他の五人もテレビの画面に釘付けになっている。
「だがとりあえずそこまで大きな戦いじゃなさそうだぞ、ユース。他の部隊に応援を求めるようなことをしてない」
「まぁそうだけどさ…どっかの軍が動けば同時に他の軍も動き出す可能性が高い。そんだけ緊迫した状況だったんだぜ?」
「そうだな。俺らもいつでも出れるように身構えといた方がいいかもな」
ザンはそう言うと、自分の部屋の前に置いてあった斧を手に取る。照明の光で鋭利な刃部分を照らし、切れ味を確かめる。ユースも椅子の横にかけてあった槍を掴んだ。カイラスは無言で窓の覗き込み、大陸の様子を伺う。ラギ軍がどれほどの勢力で攻めてきているかはわからない。アキラとライドとシスキーも、突如漂った緊張感の中で心構えはできていた。その時、城内に放送がかかる。
「「特攻部隊H・M・Xの三部隊は至急、北塔一階ロビーに集合してください」」
「…俺らのことじゃん」
シスキーがそう言い終える前に、全員武器を持って部屋を出ていた。高鳴る鼓動を抑え、駆け足でロビーに到着した特攻部隊M。まだ同時に呼び出された特攻部隊Hと特攻部隊Xの姿は無く、目の前にいるのはパラオではなく特攻司令官グラナドウ・ゴウメクバード。彼は何も言わずに隊長の証である白いマントをつけたカイラスに通信機を渡す。それを受け取ると、腰回りに装備したカイラス。
「特攻部隊Mだな? ついさっき、バーク遺跡近辺に魔軍の集団が入っていったという情報が入った! 恐らく進撃の準備だろう。やがて特攻部隊HとXも行くはずだが、至急向かってくれ! ただ無理はするな」
「…了解! いくぞ」
カイラスの掛け声と共に、特攻部隊Mは金奏城を出発した。もちろんランニングでの移動となる。アキラ達ももう慣れたものだが、以前の特攻部隊Gの時よりもスピードは段違いに早いことに驚いていた。バーク遺跡というのは、大陸東部中央エリアに広がるバーク砂漠の南に存在する古代から存在する地下遺跡である。もう既に踏破された遺跡であり、全容は掴めているものの、内部は複雑であり迷ってしまう可能性が非常に高い。
「たぶん、ラギ軍と俺らが戦闘を始めたのを知って、金奏城のなるべく近くで軍を待機させようとしてんだろうな」
ライドはそう分析した。走りながらカイラスもその意見に頷き同意する意志を見せた。ザンがアキラ達の様子を見て言う。
「てかよ、お前らついてこれんのな! 正直なめてたぜ」
「一応、毎日トレーニングしてるんで大丈夫ですよ」
「やるなぁ」
アキラの返答にザンが呟いた。このスピードならバーク遺跡まであと30分程度で到着するだろう。ユースが口を開く。
「ま、お前ら今年の合格者の上位者だもんな。期待してんぞ」
「任せてくだせえ、ユースさーん!」
ユースに返事をしたのはシスキー。そんなシスキーに苦笑いのユース。辺り一面はすっかり砂漠であるが、夜であるため少し肌寒い。やがて護衛部隊の拠点である銅爽城が見えてきていた。その時、カイラスの右手には魔力が集まっていた。それを不思議そうに見つめるアキラとライドとシスキー。ブツブツと唱える詠唱を終えたカイラスがそれを頭上に放つ。
「…ピオリム!!」
カイラスが唱えた魔法は、隊員全員に降りかかった。
(!?)
アキラ、ライド、シスキーの三人はすぐに異変に気付いた。明らかに同じ力で動く足の速さが速くなっている。カイラスは依然無言のままだが、その代わりにユースが言う。
「いっつも隊長はこれをかけてくれるんだ。一定時間体の素早さを上げる強化魔法だよ。修得は困難だって言われてて、詠唱にも時間がかかるんだ」
「強化魔法…」
思わずライドはポカンと口を開けてしまっていた。聞けば聞くほど新しい魔法に関する情報が増えていく。自分はまだまだ魔法のほんの一部程度しか知らないのだ、ということを思い知らされていた。先ほどまでと比べると数割増しのスピードになった彼らは、真っ直ぐにバーク遺跡へと向かっていた。
*****
同刻。ここはバーク遺跡地下4階の最深部。遺跡内部は全て石でできている。地下4階までの4フロアが存在する遺跡の最も奥に存在する一つの部屋に、魔界リビロ国の軍勢は待機していた。ここにいるのは総勢30人程の魔戦士達。二メートル程の身長を持つ一人の魔人が黒大剣を地面に突き刺し立ち上がる。
「予定としては明日、銅爽城を叩き潰すつもりだが…遺跡に入る時に光軍にみられた可能性がある。もしかすると光軍が攻めてくるかもしれん……その場合は全員殺すぞ」
「はっ」
魔界リビロ国国王のエルバンドウ。魔界五天王の中でも最も強いと言われるこの男の声に対する返事は、素早くそして短い返事であった。するとエルバンドウの横にいた魔戦士が話しかける。
「エルバ様、光軍が我々の動きに気づいて出兵しているとの情報が入りました。この遺跡に来るのも時間の問題かと…。どうしますか?」
「あぁ、あいつの情報か。俺はここで待機してるから、お前らが何とか処理してくれ」
「了解しました」
この魔戦士は赤い髑髏が刻まれたマントを装着していた。恐らくここにいる魔戦士の中でエルバンドウの次の実力者と思われる。ギザギザとしたノコギリのような刃を持つ長い鉈を装備しているこの魔人が下がろうとした時、エルバンドウが呼び止める。
「まて、シルギス! 良い事を思いついた」
*****
「これがバーク遺跡……!」
アキラの目の前にあるのは、高さ三メートル程の石造りの門。くぐればすぐに地下へとつながる階段が長々と続いている。だが特攻部隊Mは門をくぐらずに足を止めていた。先頭にいる隊長カイラスが中の様子を伺っているのだ。無言で振り返り、OKサインを出すと全員が静かに門をくぐる。
「空気が冷てーなー」
「ほんとだ」
シスキーとザンがそう言うと、カイラスが睨みつけた。喋るな、そういう意味の合図であろう。二人は顔を見合わせて黙り込む。階段の終わりが見えた。遺跡の内部の要所要所には、探索者用に壁にランプがかけられているため暗闇ではない。だが薄暗いというのは間違いないだろう。最後の段を降りようと足を上げたカイラスの動きがピクリと止まった。それと同時に後ろの五人も動きを止める。足を段の上に戻すカイラス。
「罠があるな…」
それは勘ではなかった。彼の目にははっきりと仕掛けられた魔法の罠が見えていた。しかし、アキラ達五人には全く理解できない直感であった。ザンとユースは不思議そうに隊長を見つめるアキラ達に言う。
「隊長は魔感を使えるんだ」
「まぁ城に帰ったら教えてあげるよ」
罠があることはわかった。だが、この道を通らねば先には進めない。カイラスは様々な方法を思考した。スッと振り返り、ユースに何か指示するカイラス。ユースは両手を合わせ、なかなかの量の魔力を集結させた。
「ふっ!」
「え!?」
ユースの両手の間にあった魔力は一瞬にして一本の短剣へと変化した。召喚魔法である。召喚魔法とは、魔力によって物質を作り出す魔法のこと。消費する魔力量は比較的多く、修得は極めて困難だという。ユースはそれを彼らの前の道に真っ直ぐ投げた。投げられた短剣は、数メートル程進んだ所で突如爆発を起こした。
(…成る程。物体の通過によって起動する爆発魔法が仕掛けられていたか。だがこれで罠は解除できた)
「これでもう罠はないってことですか?」
「ああ」
ザンがそう返事をすると、カイラスを筆頭に全員が階段を降りた。だがカイラスの思考は止まってはいなかった。
(…恐らく今の罠は俺らにダメージを与えることが目的ではない。爆発音による侵入者が来た、という合図か? だとすればこっちが明らかに不利。いや、どちらにしろ今の爆発によって俺らの存在はバレたはず。だとするならば…)
「…相手はもう身構えてる。あまり深入りすると相手のツボだ。だが、援軍が来る前に俺らで敵の戦力を半分以下にはしておきたい。急ぐぞ!!」
前には延々と一本の道が続いているだけである。全員の意志が統一され、足を加速させようとした時、彼らは『そこを踏んだ』。最初に気づいたのはアキラ。バキッという音が鋭く耳を突いていた。次にカイラス、ユース、ライド、ザン、シスキーの順に異変に気付く。シスキーが気付いた時には既に彼らの足元の地面は崩壊していた。
(落とし穴!!?)
「うおっ」
そこにかかる重量によって起動する罠、落とし穴。先頭のカイラスから最後にいたザンまでをしっかり覆うその罠のサイズは、長さにして五メートル。横幅は壁と壁の間である三メートル程であった。これは魔法によるものではないため、カイラスでも視認できるものではなかった。思考を巡らせていたことによる注意力の欠如、それこそが普段ならばかかるはずもない罠にかかってしまった一番の要因であった。
落ちる六人。下を見ると十メートル程の深さであったが、落とし穴の底には明らかに異常とも思える毒素を大量に含んだヘドロのような液体が溜まっていた。浸かれば確実に命に関わる。そう思わせる程に不快な色であった。落下している時間は一秒にも満たない小さな細い時間。アキラ達は思わず目をつぶり、死を覚悟していた。
「アストロン!!!!」
全身が固い地面のようなものに叩きつけられた。目を開ければ、六人全員が沼の数十センチ上空にある透明な壁によって支えられていた。アストロンを唱えたのは特攻部隊M隊長カイラス。彼は落ちる最中、防御魔法を下方向に唱えることによって毒沼の寸前に防御壁を創ることに成功したのだ。さらには通常よりも多くの魔力を消費することで壁のサイズを巨大化し六人全員を受け止めた。
(これが、三流部隊トップクラスの隊長の実力…!!)
「すっげえ…」
「…非常に絶妙。こういう咄嗟の対応もできるようになれなきゃ、上の部隊には行けないぞ」
カイラスはそう言うと、ふぅ、と息を吐いた。