ドラゴンクエスト ―AKIRA―   作:軍艦ryn

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<<登場人物紹介>>
  ユース・ゲイル
性別:男  年齢:19歳  性格:正義感が強い、優しい
武器:槍  特技:召喚魔法
 特攻部隊M隊員。2年前に特攻部隊に入隊。簡単な召喚魔法を使用可能。
 ザンとは入隊試験の時から仲が良いらしい。



第二十三話 「殺す気にもならん」

 

 

 受けたダメージはかなり大きい。深呼吸をすることで意識を安定させ立つ事はできていたが、アキラの限界は近かった。対する魔戦士ベイカーブとの距離は五メートル程。両足に込められた力を解放し、猛スピードで走り出す。

 

「疾風突き!」

「ふんっ」

 

 正面から斬りこんだアキラの太刀は、難なくベイカーブの鉄杖によって受け止められた。だがすぐにアキラは太刀を引き、再びベイカーブに向かって連続して振り下ろす。

 

「うおおおおおおお!」

 

 杖で受け止めつつも、少しずつ後退していくベイカーブ。まるで最後の力を振り絞るかの様に何度も何度も太刀を振り下ろすアキラだったが、狙いは別の所にあった。後退していくベイカーブは、ついに広間の壁まであと数メートルの所まで追いつめられていた。全ての単調な斬撃を杖で防御しつつも、左手に魔力が溜まっていた。それを放とうとする魔戦士の様子をみて、アキラも攻撃を中断し素早く三メートル程後退し距離をとる。

 

「うぜぇな、ドルマ!」

 

 ベイカーブの左手から放たれた小さな黒い闇の雷を軽々と横に避けてかわしたアキラ。それと同時に太刀を地面と水平に構え走り出そうとしたが、

 

「ドルクマ!!」

「!?」

 

 鉄杖の先端から放たれたのは、先程よりも大きい闇の雷。アキラは不意打ちであったため避けることもできず、雷は胸部に直撃する。同時に全身を激しい闇の電撃が襲う。ただでさえ限界が近かったアキラの体はもうボロボロになっていた。悲鳴を忘れ、白目を剥きながら前向きに倒れかけたアキラであったが、太刀を持たない左手を地面についてなんとか踏ん張る。

 

「さっきのドルマは囮で、こっちのドルクマが本命だぜ?」

「ガハッ……ハァ…ハァ…」

 

 血が喉に詰まり、咳をすれば吐血。肩と頭部と胸部からそれぞれ出血をした非常な危険な状態ではあったが、アキラは決して諦めてなどいなかった。今ならまだベイカーブは魔力を溜めていない。今しかない。そう直感したアキラは太刀を再び水平に構え、高速で走り出した。それを見てベイカーブは杖を先程のように大きく振り払ったが、手応えは皆無。

 

「疾風払い!!」

「なっ?!」

 

 大きくしゃがんで杖の攻撃をかわしつつ、ベイカーブの右脚を太刀で斬りつけた。足を斬りつけられたことによってベイカーブは体勢を大きく崩していた。アキラは斬りつけたまま止まることなく、ベイカーブの背後にある壁に向かって走り続ける。そしてまるで『走り幅跳び』の要領で、壁の手前で大きく跳躍した。アキラの異常なまでに発達した脚力は、空中で容易に身体の向きをグルリと回転させ、両足を折り畳むことを可能にするほどの滞空時間を彼に与えていた。空中で身体の向きを180度変え、ベイカーブの背中を見る形となったアキラの両足は壁にしっかりと接地していた。

 

「…は?」

 

 ここまできてやっと振り返ったベイカーブは、アキラがこっちを向いている事に驚きを隠せなかった。それも無理はない。なぜなら彼の足をアキラが斬りつけ走り去った瞬間から、彼が振り返るまではたったの二秒間しかなかったからだ。

 

 初めて自分の限界を感じたアキラはその恐怖から、ずっと眠っていたかつて無いほどの自分の身体能力を引き出すことに成功していた。この時、彼は至って冷静で集中していた。太刀を真横に構えたまま、壁に接地し折り畳んだ両足に力を込め、まるで水泳の『蹴伸び』のように壁を思いっきり蹴り、地面と平行に真っ直ぐベイカーブに向かって空中を直進した。

 

 

「―――疾風一閃!!!!」

「?!!」

 

 構えられた太刀は、ベイカーブの首を真横に強く斬りつける。この時のアキラのスピードは時速100キロを軽く超えていた。ベイカーブを数メートル通過した地面に勢いよく着地したアキラはゆっくりと太刀を鞘に納める。それと同時に殺人十三人衆の一人ベイカーブは首筋から血を噴水のように噴出しながらその場にドサリと倒れた。

 

「ハッ…ハッ……勝った…!」

 

 通常の人間の数倍成長したその脚力のため、スピードが自慢であったアキラだったが、そんな彼でも初めてこれほどまでのスピードを体感していた。壁を蹴って高速で相手に近づくという新たな技を手に入れた彼は今、達成感に満ち溢れていた。だが、体力の限界もすぐそこまできていた。酷使により疲労がたまったアキラの両足には、もう力を入れることすら困難になっていた。スッと彼の足から力が抜ける。

 

 

「大丈夫かッ!?」

 

 倒れかけたアキラを素早く何者かが駆け寄り、両手で支える。虚ろな視界でアキラがとらえたその人物は、特攻部隊X隊長のクロスであった。特攻部隊M以外の特攻部隊Hと特攻部隊Xも数分前にバーク遺跡に遅れて到着していた。

 

「クロス…さん」

「アキラくん、君はよくやった。しばらく休んでおくんだ。後は僕達に任せて!」

 

 

 クロスはそう言うとアキラを広間の壁際に寄りかからせる。数人の隊員達を連れてクロスが先に進もうとしたその時、進む先にある二つの道の左側の道から勢いよく一人の男が吹っ飛ばされてきた。

 

「ぐああっ!」

 

 その男はユース・ゲイル。全身斬りつけられ、血だらけの状態である。思わずクロスは二本の長剣を抜き、身構えた。飛ばされてきたユースを追って現れたのは殺人十三人衆随一の実力を誇るシルギスの姿。ユースは戦闘の末、シルギスに敗北していたのだ。つい立ち上がろうとしたアキラであったが、両足に力が全く入らない。

 

「ユースさん!」

「ぐっ…」

 

「おいおい~…ベイカーブ殺されてんじゃねぇかよ。…っとお前は特攻部隊Xのクロス!!」

 

 シルギスはクロスの姿を見て即座に鉈を構える。軽傷のシルギスは、まだ戦う気満々の様子である。だが、その後ろにいる数人の特攻部隊Xの隊員達を見てすぐに戦意は喪失。鉈をしまうと、ブツブツと詠唱を開始する。その様子を見てクロスはすぐにシルギスに向かって走り出す。だが、

 

「そこのガキ、ベイカーブの敵はいずれ必ず討つ! じゃあな」

「待てッ!」

 

 

 クロスの走りも空しく、シルギスは唱えた移動魔法によってどこかへ姿を消した。長剣をしまい、ユースの元に駆け寄ったクロスは彼に問う。

 

「魔軍はどっちにいるんだい?」

「…おそらく、その先の右側の道の奥にいると思われます…」

「わかった! ユースくん、君もしっかり休んでおくんだよ」

 

 クロスはそう言うと隊員達を連れて、元々シルギス達が出てきた右側の道へと入って行った。広間に残ったのはアキラとユース、そしてベイカーブの亡骸のみ。二人共傷だらけで、動くことすらままならない様子。なんて声を掛ければいいか分からないアキラよりも先に、ユースが口を開いた。

 

「アキラ、やっぱお前強え。一人で殺人十三人衆を倒したとなればかなりの快挙だ! こういうチャンスで決めれねぇから俺はダメなんだな…」

「ユースさん…。たぶん俺が戦ったやつよりも、ユースさんが戦ったやつの方が明らかに強かったですよ。俺もギリギリでした…お互い頑張りましょ」

「ハハ、優しいな。そだな、頑張ろう」

 

 二人は笑いながら、体力回復のためにこの広間で休むことにした。

 

 

 

*****

 

 

 一方、ここはバーク遺跡最深部となる地下四階。唯一最深部まで辿り着いたカイラスとライドは少し傷を負った状態で、魔界五天王の一人であるエルバンドウと対面していた。笑うエルバンドウ。

 

「フハハハ! なんだ、手も足も出ないじゃないか。殺す気にもならん、帰れ」

 

 そう言われて何も言い返せない二人。エルバンドウの手には黒い大剣がある。目の前にいる強大な存在に、立ち向かうことすらできなかったカイラスはポケットの中に入れていたピンバッチを力強く押した。これによって他の部隊にもここに敵の親玉がいることを知らせるのだ。その様子をじっくりと見ていたエルバンドウに向かって、素早く走り出したライド。右手に長剣、左手に魔力を集結させていた。

 

「メラゾーマ!」

「ふんっ!」

 

 放たれた炎球を、エルバンドウは大剣で真っ二つに割って消滅させる。だがその隙に背後に回ったライドの姿を彼は瞬間的に見つけることができていなかった。ライドの剣は炎魔法を纏った状態で、振り払われる。

 

「火炎斬り―――!? ぐあっ」

「ライドって言ったか? お前なかなかの魔力を持ってるな」

 

 だが、エルバンドウに刃が届く前にライドは別の何かに横から激突され、吹っ飛ばされる。同時に攻撃しようとしたカイラスであったが、背後のライドのことなど全く気にしないエルバンドウに隙など存在していなかったため動けなかった。部屋の壁に衝突し、地面に落下したライドはエルバンドウの背後に隠れていた生物の存在に気付いた。

 

(…ドラゴンだと…?)

 

 エルバンドウの後ろにいたのは巨大な金色の鱗を持つ二足歩行のグレイトドラゴンと呼ばれる魔物。ドラゴン系の上位種とされる、強力な魔物である。

 

「この『グレイト』は俺のペットだ。お前らごときグレイトで十分かもな」

 

 カイラスは極めて冷静であった。彼の魔感からして、エルバンドウに対する勝ち目は無い。ここで戦闘をした所で無駄死にとなる。ならばエルバンドウの言葉通りに静かに撤退するべきではなかろうか。だが、エルバンドウをこのまま放置しておくわけにもいかない。その葛藤の中で、とにかく応援が来るまでの時間稼ぎをするつもりであった。そのカイラスとライドの前に突然小さな魔法陣が出現し、シルギスが目の前に現れる。

 

「エルバ様、特攻部隊Xも遺跡に侵入を確認しました。さらにベイカーブも光軍にやられたようで、いかがなさいますか?」

 

 シルギスはカイラス達のことなど全く気にせず、エルバンドウに向かって跪いて言った。エルバンドウはカイラスとライドをチラッと見てから、右手に一瞬で大量の魔力を集めて言う。

 

「そんな大事になってんなら、撤退するしかねえな。いくぞ!」

「はっ!」

 

 

 カイラスが口を開く間もなく、エルバンドウが唱えた移動魔法によって二人は消滅した。逃げられた。その思いがライドを苦しめようとしていたが、カイラスは逆に喜んでいた。それを見てライドはイラつきを隠せなかった。

 

「なんで喜んでんだよ…? 逃げられたんだぞ?」

 

「…任務内容を考えろ、ライド。敵全員の殲滅が目的じゃねえ。敵の計画を無しにしたのも立派な成功だ。それと、いい加減敬語を使え」

「たしかにそーだけどよ…あ! たしかにそー…っすね…?」

 

 特攻部隊M隊長カイラスは、ライドが敬語を使ったのを確認してから任務終了の報告をするために通信機を手に取った。

 

 

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