レン・カーダー
性別:女 年齢:18歳 所属:ライトレイ王国
武器:杖 特技:補助・回復魔法
特攻部隊I隊員。1年前(12217年)に特攻部隊に入隊。
美人だがインドア派で歴女。ペド主催の合コンでアキラと意気投合した。
―――一方、ここは金奏城地下5階の仮想対戦部屋の一つ。二流部隊になればこのフロアも自由に行き来が可能となり、3つある仮想対戦部屋を予約することで1時間単位で貸切る事ができる。ちなみに外から見えないようにガラスを曇らせる事もでき、今ライドとパルシッドとハルトの3人がいる部屋のガラスは曇っている。パルシッドが口を開く。
「まず、自分を成長させたいって思ったら現在の自分の分析を正確することが大事だと思うよ。ライドができる事を全て整理して教えてほしい!」
「自分を正確に分析…か」
今までしたことがあまりなかった作業だ。7歳の時に無法地帯でアキラ達に拾われ、以来10年間エルド村で彼らと自己流の修行を続けたライド。詠唱という概念を知らずに強力な魔法を無詠唱で使い、見様見真似ではあるが、様になっていた剣技を使って特攻部隊に入隊した。そして入隊後は魔法の詠唱について学び、魔力操作技術、防御魔法も使えるようになった。さらに最近ライドは、暇な時に図書館に行って魔法関連の書籍に目を通す事でいくつかの魔法も使えるようになっている。
「…この長剣での剣技。それと火炎・爆発・闇属性魔法と防御魔法アストロン・強化魔法バイキルト、くらいだな」
そう言いながら指を折るライドを見つめ、ハルトは静かに頷く。
「基本は抑えているといった所かな? 近接・遠距離攻撃・防御に強化まで」
「うん。特攻部隊2年目にしては上出来だと思う」
それに同調するパルシッド。どうやら2人が予想していたよりもライドが使用できる魔法の数は多かったようだ。技のレパートリーに問題はない様子。
「レパートリーはある。だとするとライドが伸ばすべき点は3つに絞れるね。『剣技』と『魔力操作技術』そして『魔感』。剣技は誰か強い剣士に教えを乞うしかないかな」
「私達2人は剣使ったことないからね」
「教えを…?」
「うん。自己流で磨くのもいいと思うけど、剣の道のプロに教えてもらえば何か得られるはず」
事実、特攻部隊隊員の中でも一流部隊や司令部の強者に師事する者も存在する。強くなるためには良い近道となるが、ライドには思い当たる人間がいない。しかしやがてある者の弟子となることになるのだが、それはまだ先の話である。そしてパルシッドが続ける。
「となると残るのは、魔力操作技術と魔感。どっちも聞いたことあるんじゃない?」
「ああ。魔力操作技術ってのは身体や武器に魔力を纏わせるテクニックのことだろ? 魔感ってのはまだいまいちよくわかってねえけど」
「そう。まず『魔力操作技術』について。たぶんこれまでで基礎は誰かに教わってるでしょ? だってライド剣に火纏わせたり、闇纏わせたりできてたもんね」
「ああ」
「俺が教えたいのはその応用編さ。恐らくこれまでライドは魔力を主に『攻撃』にしか使ってなかったはず。けど魔力操作技術を極めれば極める程、強くなるのは実は『防御』の方なんだ。二流部隊の上位部隊や、一流部隊の人達はみんなこれをマスターしてる」
いつになく真剣な表情でパルシッドの言葉を一語一句飲み込むライド。
「だから強い人っていうのは、本当にタフなんだ。例えばこのナイフ」
パルシッドの横のハルトが腰から一本のナイフを取り出す。何の変哲もないただの刃物である。ハルトはゆっくりとライドに近寄ると、彼の右腕を左手で掴む。
「普通に刺せば、普通に刺さる」
「!?」
素早くハルトはライドの右腕をナイフで斬りつけた。ポタポタと滴り落ちる血。ここは仮想対戦部屋であるため外に出ればすべての傷は元通りになるので全く問題無い。ライドは疑問に満ちた目でハルトとパルシッドを睨む。すると今度はハルトはパルシッドの右腕を掴み、ナイフを振り上げる。
「え」
全く同じ力加減で振り下ろされたナイフは、パルシッドの右腕に刺さる事なく彼の皮膚を貫通せず動きを止める。先端が軽く突き刺さり血は出ているものの、明らかにパルシッドはナイフの斬撃を『目に見えない何か』でガードできていた。驚くライド。
「今ハルトは全く同じ力でナイフを振り下ろした。けど俺とライドには明らかな防御力の差があっただろう? まるで目に見えない何かにガードされたみたいな…これはただの魔力さ」
「どういうことだ…?」
「たぶんさっきライドもナイフが振り下ろされた瞬間に『反射的に』微量の魔力で皮膚をガードしてたはずだ。けどそれはまるで服を一枚多く着た程度の防御力の増加。それに対して、俺は『意識的に』ナイフが刺さるであろう場所のみに魔力を瞬時に集結させてガードしたんだ。わかるか?」
目をパチパチと瞬きさせるライドが言う。
「そんなことができんのかよ…」
彼の頭をうごめく感情は敬意。そして感動であった。パルシッドは光軍トップクラスの魔力操作技術を持つため、普通の特攻部隊隊員にはここまで極端な瞬時のガードはできない。しかし戦闘の最中にこの集中魔力によるガードをすることで、相手からのダメージを軽減できるのだ。これこそが魔力操作技術の応用。
「やり方は慣れれば簡単だ。まるで武器に纏わせるように、攻撃を受けるであろう箇所に魔力を集中させるんだ。そして、さっきのように俺が集中魔力でガードしているのを突き破るためには…」
ハルトはパルシッドに合図をされると、再びパルシッドの右腕にナイフを振り下ろす。
「!」
しかし今度の一撃は彼の皮膚を軽々と突き破り、ナイフが右腕を貫通した。再び驚くライド。するとハルトが続ける。
「攻撃側のナイフに、パルシッドがガードに使用している魔力量よりも多くの魔力を集中させて攻撃すれば、パルシッドのガードを破ることができる」
「まぁそりゃそうか」
頷くライド。試しに右腕のある一カ所だけに魔力を集中させてみると、意外にも簡単にできた。しかし魔力を集中させることはどんな人間にとっても疲労が溜まる行為であるため、ちょうど攻撃を受けるタイミングで魔力を集中させなければいけない難易度の高いテクニックである。これを習得するにはかなりの時間を要するだろう。
「この魔力操作技術を習得すれば、多くの攻撃を軽減できる。といってもこれは上の世界にいけば全員が当たり前に使えるもの。もはや無意識に魔力を集中させて防御できるような奴らもゴロゴロいる。あくまでこれは『一流になるための基礎』だと思って早く習得してくれ」
額から落ちる汗を拭い、ライドはさらに興味を示す。それを見てパルシッドは続ける。
「次は『魔感』だね。これは全ての人間が発しているオーラ、及びそれを感じ取る類の能力の総称かな。これも得手不得手あるけど、修行すれば誰でもある程度のレベルまでなら使えるようになるよ。魔感はほんとに奥が深いんだけど、簡単に言えば『強さ』であったり『気配』を感じ取れるものなんだ」
ライドが知ってる範囲だと、クロスとペドとタイガーが魔感の扱いに長けていると感じていた。タイガーは以前(第26話参照)魔感による探索技術で周囲の魔感を探知し、敵の位置を把握していた。クロスも魔感による力量の見極めによって、アキラ達をスカウトしている。
「これは基本的に相手と自分の力量の差を見極める時に使うことが多いんだ。人間が常に発している魔感には、その者の強さや意志の強さなどが反映される。つまり魔感を見ればその者がどれくらいの実力を持っているのかおおまかにわかる。それによって、勝てる相手か・逃げるべき相手かなどの判断ができるってわけ」
「サーチってのは…?」
「『サーチ』は魔感による探索技術のこと。個人差はあるけど自分の数メートルから数百メートル周囲の魔感を探知できるんだ。サーチをする時はかなり意識を集中させなきゃいけないから長い時間はできないんだけど、使える人は戦場でかなり有利に立ち回れる! まぁこのサーチから逃れるための『ステルス』って技術もあるんだけどこれは高度過ぎて俺にもさっぱりわからない…」
これまで何度か耳にしてきた魔感という単語の概念をようやく理解してきたライド。しかしまだその魔感が全く使えない彼にとっては未知の世界の話である。パルシッドが続ける。
「ライド。まずは目を瞑ってみて」
「ああ」
言われた通り目を瞑る。
「次に脱力しつつ、自分の脳の中心に意識を集中させるイメージで」
「……」
「できたら目に力を入れながら俺をじっと見つめてみて」
「!?」
目を開けたライドの瞳に映っていたのは、モワモワとした白い湯気のような煙を纏ったパルシッドの姿であった。この煙の正体こそが魔感である。この量や色の禍々しさなどで性格や強さなどがわかる。パッと横にいるハルトに目を移すと、パルシッドよりも多くのオーラを纏っていた。
「ハルトの方が…多い…?」
「見えたか」
これはパルシッドよりハルトの方が実力が上ということをおおまかに示している。もちろん、その時の状況や互いの精神状態・相性などもあるので単純にどちらが強い、などと確定はできないが目安にはなる。ふと集中が途切れるとパッタリと魔感が見えなくなる。
「あれ、見えなくなった」
「数秒見えた? 初めてにしては上出来だと思うよ。誰だって、意識を集中させなきゃ魔感は見えない。まぁたまに意識しなくても、圧倒的な実力差が存在すると魔感による威圧・敗北感を感じることもあるんだけどね」
「……」
ライドは以前(第23話)本気を出していない魔界五天王の一人エルバンドウを前にしてそのような状況に陥っていたことを思い出す。パルシッドとハルトが目を合わせ、頷き合う。
「うん。これくらいで十分かな。あとは、これをアキラにも教えてあげてね。ペドにはもう教えてあるし、魔力操作技術の応用も魔感も使いこなせて来てる」
「ああ、わかった。感謝する」
ライドにとってこの時間はとてつもなく大きな意義を持つ時間となった。一流部隊、そして特攻部隊Zへと昇隊していくためには必須のスキル。それを学べたことはかなり大きい。こうして再び、さらに気を引き締めて修行を再開していくことになるアキラとライドであった。