ドラゴンクエスト ―AKIRA―   作:軍艦ryn

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第五十四話 「やられた」

 

 

 辺りは静かだ。その沈黙が彼らの緊張感をさらに高めていく。敵との距離はおよそ900メートル。レインが魔感サーチで捉えている五人の魔戦士達は、先程からずっと同じ速度で真っ直ぐE20エリアの北東側へ向かってくる。特攻部隊Rはそれよりも少し遅い速度で先を進んでいるため、だんだん魔戦士との距離が狭まってくる。

 

「敵の歩くスピードは変わらない。つまり、まだ俺達の存在に気付いていないってことだ」

 

 もし敵にこちらの存在が気付かれた場合、距離があまり離れすぎているといくらこちらの人数の方が多いとはいえ逃がしてしまう可能性が高くなる。レインは、敵との距離が500メートル以下であれば敵がバラバラに逃げ散った場合でも対応できると考えていた。つまり、敵の中に500メートル以上の魔感サーチを使える者がいた場合逃げられてしまう可能性が高い。パルシッドが問う。

 

「もしバラバラに敵が散った場合、誰が奪われたアタッシュケースを持ってるかはわかんないよな?」

「わからないが、聞いてる話だとアタッシュケースは相当の重量がある。俺達の存在に気付かれ逃げられた時でも、俺とペドがサーチで感知した敵の中で動きが遅いやつを優先的に追えばいいだろう」

 

 レインはそう答えながらも集中し続けている。敵との距離は750メートル。まだ敵のスピードは変わらない。特攻部隊Rの中でサーチを扱えるのはレインとペドのみ。もし敵が散らばった場合、二人が指示を出したとしても対応できるのは敵5人が3つ以下のグループに分かれた場合のみ。500メートル以上の魔感使いなどそうそういるものではない。恐らくは対応可能な状況となるだろうと考えていた。

 

「そろそろバレるかもしれない…いいか? いつでも走れる準備はしといてくれ」

 

 それを聞くと全員が戦闘準備を整える。敵が特攻部隊Rの存在に気付いて動きを変えた瞬間にこっちから一気に襲い掛かる予定である。敵との距離は残り600メートル。現在特攻部隊RはE20エリアの北東エリアにいた。敵との距離に合わせてレインはサーチ範囲を狭めていたため、体力の消費を最低限に抑えられている。敵は5人。こちらは6人。数では勝っている。十分対応可能だ。

 とは言っても、特攻部隊Rは連続任務となる。数十分前まで大量の魔物達と激闘を繰り広げていた彼らには相当の疲労が溜まっている。さらにそこから走り続けているため、最高のパフォーマンスが出来るかと言われると微妙な所である。しかしこれは昇隊のチャンス。間違いなく、全力を出さねばいけない状況となるだろう。それは全員わかっていた。残り450メートルを過ぎた時―――

 

「なっ!!!?」

「!」

 

 レインが声を上げた。敵に気付かれてるかもしれない程の声の大きさであったが、彼が驚いたのも無理はなかった。ここに一つ大きな誤算があった。しかし今は考えている暇などない。魔戦士達が動きを突如変えたのである。レインは足を止め、アキラ達の方を向いて腰の二本の鞭を手に取った。戦闘態勢である。アキラ達もすぐに後ろを向き、武器を構える。

 

「散ったぞ! 三方向だ! 2人が真っ直ぐこっちに! 1人はE20エリア北方向へ! あと1人はE20エリア東方向へ! 俺は北に行く、ペドは東へ向かえ!」

「了解」

(魔感『サーチ』)

 

 レインの命令に応じてサーチを発動したペドは、即座に体勢を変えて東方向へ走り出した。立っている位置で近かったハルトが眼鏡を指で直すとペドの後に続いて東方向へ向かう。魔感の使えるレインとペドはバラけて、動いている敵を追うべきなのである。北方向へ向かうレインについていくのはライド。アキラとパルシッドはその場に残って、真っ直ぐこちらに向かってくる2人の魔戦士を迎撃する構えである。

 

「くっそ…やられた!」

 

 北方向へ走るレインがそう叫んだ。隣を走るライドが問う。

 

「おいさっきのどういうことだ!? 北方向に1人、東方向に1人、真っ直ぐが2人…合計4人しかいないことになってたが、言い間違いか!?」

「いや言い間違いじゃねえ。俺が初めに感知していたのは確かに『5人』。だが、ついさっき突然『4人』になったんだ」

「突然『4人』だと? 1人消えたってことか?」

「魔感サーチ上だとな。実際には5人存在しているはずだ。今もな」

「は? どういうことだ?」

 

 魔感による探索技術サーチから逃れるための隠密技術『ステルス』というものが存在する。人間は誰しもが常に一定の魔感オーラを身体から発している。魔感に対して敏感になり、訓練することで自分の周囲の範囲の魔感オーラ反応を感知する事ができる技がサーチだ。しかし他人に感知されないように自分の魔感オーラの放出を止める事ができる隠密技術ステルスを使われると、魔感オーラが発されていないためサーチでは感知できなくなってしまう。ステルスは超高度な技術であり、使用できる者は各国家に数人程度しかいないとされている。

 

「敵が俺達の存在に気付いた450メートル時点で『ステルス』を使って気配を消したヤツが1人いた。俺はもうそいつを感知できない」

「ステルス…」

 

 ライドも名前だけは聞いたことがあった(第48話参照)。これがレインの大きな誤算であった。まさか敵の中にステルスを使える者がいるなど考えもしなかったことである。特攻部隊Rは魔感に頼り過ぎた。さらにレインには嫌な予感が胸を過る。ステルスを使える者はかなりの実力者であろう。そんな敵がいることが、感知できない事に加えて恐怖であった。

 

(さらに…感知できた4人の魔戦士の走行速度が全てほぼ同じ。つまりこの4人は奪われた資料を持っている可能性が少ない…恐らくステルス使用者が持っているだろうな)

 

 最低目標である資料を持っている者の足止めさえ達成できるか危うい状況。しかし資料は相当重い。そんなすぐにはこの場を離れる事はできない上に、必ずE20エリア北東を通過しなければ魔界へは行けない。まだ可能性は全然残っている。とにかく今は、

 

「ライド。絶対に誰一人逃がさねえぞ」

「ああ、もちろんだ」

 

 二人が追う一人の魔戦士を逃がさない事に専念するのみである。

 

 

*****

 

<<無法地帯ベガキ樹海E20東部―ペド/ハルト>>

 

「くそっ! はええ」

 

 ペドが汗を拭い、走りながら言う。彼がサーチで捉えている一人の魔戦士は、恐ろしい速さでE20エリアの東へ向かっていく。E21はかなり密集した森林地帯。そこまで行くと逃がす可能性が高くなる。敵との距離はおよそ200メートル。こちらも全速力で走っているが、なかなか追いつけない。するとハルトが言う。

 

「いやでもE21はとても進んでいけるような場所じゃないと聞いている…敵の目的は何だ?」

「知らん! どっちにしろ追いつくしかねえぞ」

 

 ペドの正論が、思考を巡らすハルトの頭をすっきりとさせる。単純明快。ただ追い付いて倒すのみ。

 

 

*****

 

<<無法地帯ベガキ樹海E20北東エリア―アキラ/パルシッド>>

 

 一方、ここは特攻部隊Rが散った地点。アキラとパルシッドが武器を構えて立つ。魔感が使えない二人には敵との距離がわからない。与えられた情報は、魔戦士二人がこちらに向かってきているということのみ。

 

「来るぞ!」

 

 草をガサガサと掻き分ける音がアキラとパルシッドの方向へ近づいてくる。アキラは太刀を構えたが、彼に手で、待て、と合図したパルシッド。彼の右手にはかなりの量の魔力。ブツブツと呟きながら詠唱を開始する。どうやら完全詠唱するつもりらしい。完全詠唱をした魔法は術者の最高威力を発揮する事ができ、無詠唱時の数倍の威力を誇る。しかし発動のタイミングが難しいのが難点である。近づいてくる足音。アキラ達のほんの数メートル先。木々の合間からわずかに視界に二人の魔戦士が映った瞬間にパルシッドの詠唱は完成した。

 

「イオナズン!!」

 

 腕から放たれた爆発は、現れた二人の敵と共に周囲の木々をも巻き込んで大きな爆発を引き起こした。自分は強い、と理解し自信を手に入れたパルシッドは非常に冷静に攻撃を成功させた。

 

「ぐああ!」

「くそ」

 

 魔戦士二人の悲鳴と爆音が響き、爆発の煙が晴れるか晴れないかの内にパルシッドは右側の敵に向かって走り出していた。彼の目の前にいた敵は、爆発によってダメージを負っていたがなんとか立っていた。手には大きめの斧。ペッと血を吐き出してパルシッドを睨みつける。

 

 【魔軍・殺人十三人衆 ドロテア】

「爆発で挨拶かァ? ったく礼儀の悪い奴だなァ」

「…さ、さあ! かかってこい!」

 

 少し怯えながらも気を引き締めて叫んだパルシッド。もう以前までの彼ではない。新しい自分になると決めた。もう、逃げない。

 一方、もう片方の敵と対峙したアキラは太刀を構えて敵を見つめる。その敵は初めて会う魔戦士ではなかった。目の前にいるのは以前アキラが勝利した(第18話参照)相手。

 

 【魔軍・殺人十三人衆 スピンスケイル】

「よう、2年前(12217年)は世話んなったな。ちょうど良い、あの時のリベンジしてやるよ。俺は強くなったんだ」

 

 スピンスケイル、通称スピすけはそう言いながら鉄製のハンマーを取り出した。以前は木製であったが、金属製に変わっている。大きさは以前と変わらないが、ある機能が搭載されているのだがそれはまた後の話である。さらにスピすけの体格が良くなっている事にアキラは気付いた。

 

「…スピすけ。覚えてるよ。だが悪いな、また俺が勝つ」

 

 以前はアキラの圧勝。だが油断は禁物。アキラは太刀を強く握りしめ、スピすけの動きに集中する。

 

 

*****

 

<<無法地帯ベガキ樹海E20北部―レイン/ライド>>

 

 一方、E20エリア北部のレインとライド。レインがサーチで捉えている敵との距離は10メートル程。生い茂る木々が視界を邪魔しているものの、レインは魔戦士を視界にとらえた。両手の鞭を後ろに引き、

 

「ギガウィップ!」

 

 素早く前へ動かし鞭を大きくしならせる。前へ突き出された時のみ長さが増す特殊なゴムでできた鞭の先端は鋼鉄。先端部分がレインの目の前10メートルの木々全てを切断し薙ぎ倒す。

 

 【魔軍・魔界テイガス国直轄第三暗黒騎士団団長 ビワンガル】

「チッ。しゃあねえ」

 

 舌打ちしながら音に気付いた敵が振り返ってレインとライドを見据える。レインが問う。

 

「魔戦士だな? お前は資料を持っていないみたいだが、残念だがここまでだ」

 

 ビワンガルはそれを聞くと背中に装備してあった二つのブーメランを両手に持つ。そしてまるで我慢していたかのように、突然笑いだす。

 

「ハハハッ! なんだお前ら俺達をハメたつもりか? お前らがベガキ樹海で待ち伏せしてる事なんざずっと前からわかってたぜ? ライトレイ軍に入れた俺達のスパイがいるからな。それにお前達のだと思われる血も地面に垂れていた。その血がある方にわざと進んでやったのさ。ハメられたのはお前達の方だぜ?」

 

 血が垂れていたというミス。さらに明かされた魔軍からのスパイの存在。そんな事などレインとライドは気にしていなかった。鞭を構えるレイン。

 

「覚悟しろ」

 

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