ドラゴンクエスト ―AKIRA―   作:軍艦ryn

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<<登場人物紹介>>
  スピンスケイル
性別:男  年齢:19歳  所属:魔連合国
武器:金槌  特技:槌技
 殺人十三人衆の一人。通称スピすけ。
 2年前(12217年)にアキラと戦闘し敗北している(第18話参照)。
 魔界五天王を目指して日々鍛錬を積んでいる、魔界で期待の新人。


第五十五話 「俺はまだ負けてない」

 

 

「覚悟しろ」

 

 レインはそう言い終えた瞬間、二本の鞭を振り回す。振り回す事で常時攻撃を仕掛ける事が可能となる。その隣でライドは長剣を抜こうとしたが、レインに止められる。

 

「こいつは俺一人で十分だ」

 

 ビワンガルはそれを聞くとピクリと眉間にしわを寄せる。両手に持つブーメランは金属製であり、何やら特殊な仕掛けが施されている様子だ。

 

「よく言うぜ…やって見ろよ!」

 

 そう叫びながら投げた魔力を纏った二つのブーメランは、レインとライドへそれぞれ向かって進む。ビワンガルは資料を持っていない。つまりあまり人数をかける意味はないのである。レインが一人で対応する事で、余ったライドは他のもっと人手が必要な場所へ赴く事ができる。それを理解したライドは、向かってくるブーメランを見据えて長剣を抜いた。

 

「ダークマッシャー!」

 

 闇の雷を纏った一撃でブーメランを弾く。しかし、

 

「あ、それ無駄に触らない方がいいぜ?」

「!!?」

 

 弾いたブーメランは空中で高速回転し、再度向きを変えて素早くライドの肩を切り裂いた。傷は浅いが、その理解不能な攻撃にライドは困惑する。ブーメランはビワンガルの方へと戻っていく。それを見たレインは向かって来たもう一つのブーメランをしゃがんでかわす。

 

「ほう…」

 

 かわされたブーメランはクルクルと弧を描いてビワンガルの手元へ戻る。

 

「これラギ帝国からの盗品でよ。『追尾飛来器』っていうらしい。投げられたブーメランに一定以上のダメージが加えられるとその攻撃対象に追尾する機能が発動するんだ。すげーだろ」

「毎回かわさなきゃならねえのか。面倒だな」

 

 立ち上がったレインは鞭を強く握りしめる。その後ろで長剣をしまったライドが言う。

 

「じゃあ後は頼んだ」

「おう、そっちも頼んだぜライド」

 

 ライドは振り返ると、ビワンガルと対峙するレインを残して先程のE20北東エリアへと走り出す。これが最も効率的な方法である。敵を見つけて資料を持っていなければ一人は他の場所の加勢へ向かう。それはもちろんレインがこの魔戦士に負けないと信頼する事が前提となっているが、今の特攻部隊Rは全員が全員の事を信頼しきっていた。

 走りながらふと目を瞑って集中してみるライド。周囲の気配を感じ取れるが試しているのだ。以前、魔感を初めて視認できた時(第48話参照)からずっと練習をしていた彼は少しだけ魔感を使用できるようになっている。

 

(魔感『サーチ』)

「…できた」

 

 目を開けても感覚的に感じ取れる。力の調整は出来ないが、自分を中心とした半径50メートル程の魔感オーラ反応を察知できる。現在は反応はないが、サーチを使えた事に喜びを隠せなかった。疲労が溜まるためすぐにサーチを解除する。その時、

 

「?」

 

 ガクン、とライドの右膝に力が入らなくなりその場に跪く。魔感を使用した事に疲労であろうか?いや違う。腕を動かそうにも痺れている様子で上手く動かない。目を見開いたまま、言葉も発するのも難しい。何が起きた。次第に左足にも力が入らなくなり、地面にそのまま倒れる。

 

(何だこれは…。疲労の蓄積? いや、違う。これは―――)

 

 毒。ほんの30秒程度で解答を導けたライドは優秀である。思い当たるのは、先程の魔戦士ビワンガルのブーメランによる一撃。動く事はできないが痛みは全くないのは、この毒が麻痺性の毒であることを示している。つまり命に別状はない。しかし身体が全く動かない。

 

(口に力が入らねえから声も出せない…くっそ何もできねえじゃねえか)

 

 麻痺性の毒は、つまりは麻酔に似た様なもの。一定時間が経てば毒は抜け、動けるようになる。逆に言えばしばらくライドはこの場から動けない。一刻を争うこの状況で動けないジレンマを抱えつつライドは地面にただ伏す事しかできない。とにかく今は身体を休めて毒を早く抜くしかない。

 

 

*****

 

<<無法地帯ベガキ樹海E20北東エリア―アキラVSスピすけ>>

 

 一方、ここは特攻部隊Rが散った地点。アキラが対峙しているのは殺人十三人衆の一人スピンスケイル。

 

「明流・疾風突き!」

 

 スピすけに物凄い速度で迫ったアキラは太刀を振り払う。―――だが、太刀はスピすけの金槌の持ち手部分で容易に受け止められた。刃と金属がぶつかり合う音だけが鋭く響く。スピすけはそのまま金槌でアキラを太刀ごと振り払う。

 

「ふんっ」

 

 地面に背を擦らせながら倒れるアキラ。すぐに起き上がって落ちた太刀を拾い上げるが、スピすけが立ち上がったばかりのアキラに向かって駆け、

 

「シールドブレイク!!」

「ぐっ?!」

 

 魔力を纏った金槌で殴り飛ばす。攻撃はアキラの左肩へ直撃し、地面を転がりながらも上手く受け身をとって瞬時に体勢を立て直した。太刀を構え、少し体勢を低くしながらスピすけを迎え撃つアキラ。だがスピすけはその構えを見ると、すぐにアキラの足の動きに集中していた。

 

「明流・疾風払い!」

 

 アキラの太刀がスピすけの足を一瞬で斬りつけた。少し体勢を崩しかけたスピすけの背後へ回ったアキラは、再び太刀を構えて素早く走り出す。

 

「明流・疾風突き!」

「ふんっ」

 

 しかし振り下ろされた太刀は、振り返ったスピすけの金槌の持ち手部分で再び受け止められた。そして先程と同様、ハンマーでアキラと太刀をまとめて吹っ飛ばす。そして言う。

 

「おいおい、さっきからその直線的に進む速攻技ばっかだがそれしかできねえ訳じゃないだろ、アキラ? 俺は前回の敗北から学んで、とにかく反射神経を鍛えぬいた。もう俺にその技は効かねえぞ!」

 

 アキラはゆっくりと立ち上がる。『疾風突き』はアキラは昔から得意技としてきた直線的に進むスピード技である。二度もこれを容易に防がれた事が、アキラに与えた精神的影響はかなり大きい。もちろんこれまでも防がれてきた事はあった。しかし、自分なりにこの1年間脚力を中心に鍛え、この得意技にも磨きをかけてきたつもりである。アキラの頭には焦りしかなかった。

 

(くそ…それなら…)

 

 アキラは以前、スピすけの攻撃後の大きな隙をついて勝利している。確かに今でもスピすけが金槌を一振りした後の隙はかなり大きい。それを思い出したアキラは自分から攻撃を仕掛けるのではなく、相手の攻撃を避けてカウンターを狙う事に専念しようとしていた。じっと停止し、太刀を構えてスピすけの動きを伺うアキラ。

 

「…だろうな。こう言うとそうすると思ってたよ。予想通りだ」

「!」

 

 スピすけはそう言った。どうやらアキラの行動を読んでいたようである。スピすけもアキラと同様動かない。二人の距離は約3メートル程で保たれている。どちらかが仕掛ければ攻撃可能な距離。だが防がれれば反撃必須。しばらく沈黙が続くかのように思われたが、スピすけは金槌の先端を真っ直ぐアキラの方へ向ける。

 

(何をするつもりだ? ハンマーを俺に向けても何も起きない。ハンマーが伸びる? いや、そんな機能があるようには見えない。だがあの武器はただのハンマーではない事は確かだろう。もしくはわざと隙を作っているのか? 明らかにあの体勢だと俺のスピードで後ろに回り込める程の隙がある。だが、それは恐らく罠。俺を誘い込み、反撃してくるだろう。さっきまでのスピすけの反応速度は異常だ。…どうすればいい?)

 

 アキラが脳内で試行錯誤している時に、スピすけは金槌の持ち手部分に隠されたスイッチを手探りで探していた。スピすけの目はアキラの足を、アキラの目はスピすけのハンマーを見ている。互いに過度の警戒をしていたために下手に動く事はできず、二人の距離も変わらず、ただ静寂のみが続いていく。

 アキラが考えていた通り、スピすけの反射神経は異常に発達していた。以前の敗北から、反射神経を中心に2年間鍛えたスピすけの目は常人のそれを軽く超越したのだ。その時、スピすけは手探りで持ち手部分にあるスイッチを探り当てた。その瞬間のスピすけの口元の緩みを、アキラは見逃さなかった。

 

(行ける!)

 

 消えた。ほんの一瞬の気の緩みが、スピすけがアキラを視界に捉える事を困難にしていた。反射的に身構え、背後を見る。しかしそこにアキラはいない。そのまま周囲を見渡してもどこにも姿は見えない。

 

(上か)

 

 スピすけが空を見上げ、金槌を構える。アキラを見失ってから上を見上げるまでの一連の動作はたった1秒の中で行われていた。アキラはスピすけの頭上5メートル程の空中で唱えた防御魔法アストロンを蹴って、太刀を地面に向けて高速で落下する。それは焦るスピすけが反応できるものではなかった。不可避。

 

「明流・降下神聖!!!!」

「ぐあああ」

 

 光属性の強力な一撃は、スピすけの首から右胸にかけて斬りつけた。だが、スピすけは倒れない。踏ん張ったまま右手に持った金槌を、

 

「ドラムクラッシュ!!」

「!!?」

 

 空中で停止しているアキラの頭部に直撃させる。アキラはスピすけから見て左方向へ一瞬で吹っ飛ばされた。木に肩をぶつけ、そのまま地面に落下し倒れる。頭部へのかなりの衝撃によりアキラの視界と意識は朦朧としており、とても立ち上がれる状態ではないほどに身体が負ったダメージも大きかった。しかしアキラはふらふらと立ち上がる。ゆっくりと歩み寄るスピすけは、さっきと同様にアキラに金槌の先端を真っ直ぐ向ける。

 

「…どうやらお前は…ハァハァ…何も成長してねえようだな。何だが残念だぜ」

 

 息を切らしながらそう言うスピすけは、じっとアキラを見つめていた。金槌を持つ右手の指は持ち手部分のスイッチの上にある。なんとか持っていた太刀を強く握りしめるも、まだ視界がはっきりとしないアキラ。頭部からつたってくる血が、頬まで届く。頭の中で何度も何度もスピすけの言葉を反芻するアキラ。戦闘による敗北がもたらすものは一つ。

 

「敗北が俺を強くした。お前は以前俺に勝ったにも関わらず俺を生かした…だが、俺はそんな甘い事はしねえ!」

 

 スピすけは狙いを定める。アキラの頭…いや、腹部へ。金槌の持ち手部分にあるスイッチを指で強く押し、叫ぶ。

 

「じゃあな!」

 

 カチッと音を立てた金槌の先端部分に空いた直径10センチ程の穴から発射したのは砲弾。真っ直ぐ、そして素早くアキラの腹部へ直撃する。

 

「!!!!」

 

 爆発。アキラは声を発する間もなく背後の木と共に吹っ飛ばされ、さらに後ろに木の幹に衝突し地面にうつ伏せに倒れる。その威力はまさに大砲の一発と同等もしくはそれ以上。それを至近距離で受けて無事で済むはずがない。これこそがスピすけの金槌に搭載された奥の手。一発のリロードには5分間のインターバルが必要であるが、リロードを終えればスイッチを強く押すだけで先端から砲弾を発射できる。

 倒れて動かないアキラを放置し、スタスタと歩き始めたスピすけ。向かうのは殺人十三人衆の一人ドロテアへの加勢。だがその時、

 

「…待ちやがれ…負けたやつは死ぬんだろ? なら俺はまだ負けてない!!」

 

 血だらけで立ったアキラ。このままだとスピすけはパルシッドと魔戦士の戦闘へ加勢するだろう。つまりここでアキラがスピすけを逃がせば仲間が危険に晒される。ライドも言っていたように、一人が一人ずつに対応する役割分担。ここでアキラが負けてはいけない。仲間のため、任務のためにも。

 

「…随分とタフなんだな。いくぞ」

 

 力を振り絞って立ち上がったアキラを見て微笑むスピすけ。彼もまた金槌を構える。二人の戦いはまだ終わらない。

 

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