<<無法地帯ベガキ樹海E20東エリア―ペド/ハルト>>
一方、こちらはベガキ樹海E20の東エリアにいるペドとハルト。特攻部隊Rが散った地点からはかなり離れてしまった。数分間追い続けた魔戦士が、彼らの数メートル前で足を止める。息を切らしながらペドが言う。
「やっと観念したか…ゼェゼェ」
【魔軍・魔界テイガス国直轄第三暗黒騎士団団員 バルコイ】
「こんだけ光戦士二人を遠ざければ俺の任務は完了だわ」
そう言いながら魔戦士バルコイは長剣を腰から抜いて構える。彼のすぐ後ろにはE21エリアの密林が広がっている。ここから先はそう簡単には進む事はできないが、一度入られると逃がしてしまう可能性が高い。ハルトはバルコイをじっくりと見ると、ペドの方を向いて頷く。
「…私に任せろ」
「おっけ! 武運を祈る!」
ペドはそう言うと体の向きをクルッと変えると、一目散に走り出した。バルコイも資料は持っていない。ならばここはハルトに任せてペドが他の加勢に向かうのが最も効率的。ハルトは静かに槍を持って構える。
「さぁ、やろうか」
「一人に戻られたか…まぁしゃあねえな。お前をここに足止めできりゃそれでいい」
バルコイは長剣に魔力を込め、ハルトに向かって走り出した。対するハルトも槍に魔力を纏わせ、
「ふん!」
攻撃を受け止めた。長剣と槍のぶつかる音が響き渡る。
*****
<<無法地帯ベガキ樹海E20北部―レインVSビワンガル>>
「もう見切ったぜ、そのブーメランの軌道」
レインはそう言いながら大きく息を吐いた。彼は未だに無傷。だが対するビワンガルもまた無傷である。攻撃すれば自動的に反撃してくるブーメランを使用するビワンガルは、レインを近づけないように延々と投げ続けていたのだ。二人の距離は8メートル程。
「確かにこの攻撃パターンじゃ決着はつかねえ。もう毒も切れた。変えるか」
ビワンガルは手に取ったブーメランを見て言った。確かに先程まで刃に付着していた毒も度重なる攻撃で乾燥、飛び散って無くなっている。
(毒…? だとするとあのブーメランの攻撃を食らったライドは無事か?)
そう思ったレインであったが今は目の前の敵に集中するしかない。ビワンガルは二つのブーメランに魔力を纏わせると、それを手元でクルクルと回転させて勢いをつける。ニヤリと笑みを浮かべる魔戦士を見てレインも身構える。
「ウォーミングアップは終わりだ。避けれるもんならせいぜい避けてみろ!」
そう言ってタイミングを変えて投げられた二つのブーメランは、先程よりもかなり加速した状態でレインに襲い掛かる。
(速い!)
一つ目を横によけてかわしたレインであったが、そのブーメランが纏った魔力が一瞬光ったのを目に捉えていた。ビワンガルが唱える。
「バーニングバード!!!!」
「!?」
刹那、かわしたはずのブーメランが発火しながらその場で高速回転しレインに命中する。何度も何度も斬りつける火炎攻撃。その攻撃が終わったかと思えば、
「バーニングバード!」
「ぐお」
遅れて投げられた二つ目のブーメランが背後から襲い掛かる。血をまき散らしながら後退するレイン。これこそが武器としてのブーメランの真骨頂。予め魔力を纏わせて投げる事で、好きなタイミングで魔法を発動させて軌道を変更できる。その読めない軌道、攻撃のバリエーションの数によって不可避の攻撃と化す。
服が焦げ付いたレインは、ふらふらとその場に立ち尽くす。そこへ走ってくるのは二つのブーメランを両手に持ったビワンガル。大きく引いた両腕を素早く前へ出す。
「カオスエッジ!!」
「!!?」
避けようとしたレインの腹部を二つのブーメランで素早く切り裂いた。それはまるで双剣を使用しているかのような攻撃。だが、レインは倒れずビワンガルを睨みつける。それに恐怖を感じたビワンガルは素早くバックステップで後退するが、
「螺旋打ち」
レインの波打つ二本の鞭が彼を捉え、後方へ吹っ飛ばす。その威力は相変わらず絶大。木へ衝突したビワンガルはその場に倒れ込む。ポタポタと血を垂らしながらも歩き出すレイン。彼が負っているダメージは決して小さくない。三度も攻撃をもろに受けている。しかしその気迫は一層増すばかり。なんとか立ち上がる魔戦士ビワンガル。
「がはっ…今のは効いたぜ…」
「それはこっちのセリフでもある」
特攻部隊R隊長レインはそう言うと鞭を振り回す。ビワンガルもブーメランに魔力を集める。どちらもダメージを負っている。さらに鞭とブーメランという遠距離攻撃同士の対決。どちらかが仕掛けなければ長期戦となっていく事が予想される。
「デュアルカッター!」
動いたのはビワンガル。二つのブーメランは左右それぞれへ力強く投げた。一瞬丸腰となった魔戦士。その隙をレインは見逃さなかった。
「スパークショット!!」
「!?」
素早く繰り出された右鞭の一撃がビワンガルの腹部へ直撃。大きく後ろへ吹き飛ばす。だが同時に左右から勢いよく向かってくる二つのブーメラン。左腕で持った鞭を力強く地面に叩きつけるレイン。
「ふっ」
その勢いに乗じて空中へ跳躍。ブーメランの攻撃をかわす事に成功する。彼が着地するのと同時に、立ち上がったビワンガルの手元にブーメランが戻る。ビワンガルは理解していた。目の前にいる光戦士レインが自分では敵わない程の実力者であることを。しかしこのまま負けるわけにはいかない。
(恐らくこいつが今いる光戦士の中で一番強い。だとすればこいつさえ俺ができるだけ長く抑え込めれば飛躍的に任務の成功率は上がる)
だがそれさえもレインは把握していた。自分が特攻部隊Rの中で一番強い。さらに最も広い範囲のサーチを行える。こんなただの魔戦士に時間を取られるわけにはいかない。早く決着をつけてみんなの所へ戻らねばならない。ここに勝敗を分ける意識の差があったことは確かだろう。勝負を急ぐ者、長期戦を望む者。
「そろそろ決めるぞ」
そう言って鞭を構えたレイン。まだ勝負を終わらせたくないビワンガルはブーメランをクルクルと回転させ、大きく真上へジャンプする。大きな隙。だがレインは攻撃するなら、ビワンガルがブーメランを手から離している時の方がより確実だと考えていた。
「アストロン」
ビワンガルは空中で足元に防御魔法を唱え、その上に両足を着地させて滞空する。常に攻撃の機会を伺うレインは身構えたままだ。魔戦士はそこからブーメランを素早くレインに向けて放つ。
「バーニングバード!!!!!!」
「!?」
火花を散らしつつ向かってくるブーメランは、重力も相まって驚異的なスピードでレインを襲う。何度も身体を斬りつける刃。一つのブーメランの攻撃が終わるかと思えば、瞬時にもう一つのブーメランの攻撃が始まる。それと同時に攻撃を終えたブーメランはビワンガルの元へ戻り、再び魔力を纏って放たれる。
「バーニングバードォォ!」
「ぐあああああ」
まるで無限に続く火刃の雨。レインが移動しても上空から止まる事なく降り続く。反射的にブーメランを鞭で弾き飛ばすが、空中で高速回転してさらに強い威力でレインに襲い掛かる。攻撃を加えれば反撃するブーメラン。まさに不可避。
「避けれねえだろ! これは火の雨! このまま死ね」
(こうなったら…)
レインは鞭による反撃を止め、目を閉じて大きく息を吐く。集中。不思議そうにそれを見つめるビワンガルであるが、攻撃を止める事はない。このままダメージを与え続ければ倒せる。そんな甘い考えが彼の脳裏をよぎっていた。それがビワンガルの集中力を欠かせる要因になったのは間違いない。攻撃を終えて戻って来たブーメランに魔力を纏わせ、地上にいるレインに向けて放った時―――
「いくぞ」
「?」
―――目を見開いたレインの身体を紫色のオーラが覆った。テンションアップである。瞬時に両手の鞭に大量の魔力を纏わせた彼は、向かってくる一つのブーメランとその後ろで放たれたブーメランを見据えて両腕を引く。ちょうどビワンガルが丸腰となる瞬間だ。
「双竜打ち!」
レインの右鞭が放った竜の如く一撃は目の前のブーメランへ直撃。
「な…」
テンションアップをし、腕力を一時的に大幅に上げたレインの超威力の一撃を受けたブーメランは粉々に粉砕。さらに左鞭はもう片方のブーメランに見事に命中し、これまた反撃する暇もなく破壊し散らす。これで二つのブーメランは機能することなく地面に落下した。さらに、
「え」
「お前はほんと馬鹿かよ」
ビワンガルの防御魔法の足場が自然消滅。防御魔法は基本的に唱える時に使用した魔力量に応じて一定時間で消滅する。空中を武器を持たず、落下するビワンガルはレインの恰好の的。大きくしならせた二本の鞭に魔力を纏わせると、何もできないビワンガルへ向けて放つ。
「疾風迅雷!!!!!!」
「ぐああ!?」
電撃を帯びた鞭がビワンガルへ命中する。それは右鞭と左鞭が交互に、終わる事なく襲い掛かる連撃。レインの異名の元となった、彼の得意技である。
「さっきのが雨? 笑わせんじゃねえ、小雨だろ。これが『鉄の雨』だッ」
一撃一撃が重い。ドドドドッと肉を打つ鈍い音が響く。血を吐き、目は白目、武器も壊されて完全なる敗北。地面へ倒れたビワンガル。鉄の雨は止んだ。恐らく彼の息はもうないだろう。鞭を腰へ装着したレインは、思わずその場に跪く。勝ったもののレインも相当なダメージを負っている。
(魔物との戦いの疲労も、サーチし続けてた疲労もだいぶ溜まってる。少し休んだら行くか)
携帯していた水筒の水をガブガブと飲むレイン。これで残る魔戦士は、ステルス使用者を含めて4人。