~春佳 side~
目的の物をポケットから探し当てると鍵穴へと差し込んだ。ガチャリと開錠した音が聴こえる。
ドアノブを握ると玄関の扉を勢いよく開けて、俺は家へと入った。ロンファーを雑に脱ぎ捨てると、ドスドスと地響きが聞こえるのではないかというぐらい、荒く階段を駆け上がった。
二階の一番奥にある左の扉が母さん――咲希の部屋で、その向かい側が俺の部屋だ。
「……………」
バン!
自分の部屋に入るなり、開口一番に叫んだ。
「ジュウサツ野郎…どこにいんだ!」
「はいはい…帰ってきて早々、どうしたんですか?」
特に驚いたような様子はない。まるで俺がこうなることを分かっていたかのような返事だった。それが癪に障るがもう限界は突破しているのでこれ以上変わりようがない。
声がした方に顔を向けると、机の上にちょこんと座るようにジュウサツイタチはいた。
朝と変わらぬ感じにもっそりとした動きで立ち上がると、それにも負けない口調で訊いてきた。
「何か面白いことにでもなったんですか? それとも巻き込まれましたか?」
「こんなこと面白くもなんともないし、むしろジューサーにでも入れられた感じだ!」
「…ん?」
ジュウサツイタチは耳の形をした部分に手を持ってくると、斜めに首を傾けた。どこかで見たことのあるそのポーズは、ただ俺の怒りを煽らせるだけだった。
「『ん?』じゃねーよ!可愛くも何ともねえ。 そんなことよりお前、俺に説明しなさすぎだ!」
「あぁーそのことでしたか。私も春佳さんが学校に向かったあと思い出したんですよ」
「…はぁ!?、なんだそりゃ……」
呆れるなんて通り越して、笑える。なんてことにはならなかったが、ここまでくると怒る気も失せてきたりする。
(ぬいぐるみなのに物忘れとかあんだね。…うん、八つ当たりしていいかな?別にいいよね。このくらい……)
今日の出来事の復讐をする為に、ぬいぐるみが座っている机へと足を延ばした。
ジュウサツイタチは俺の急激な様子の変化を感じ取ったのか、顔色を伺うように訊いてきた。
「は、ハルカさん?」
「…なんだい?ジュウサツくん」
「えっとですね、「なんだね?エジソン君」みたいな訊き方について思うところもありますが、まずその…右手に握りしめている物は……なんです…か?」
「…ん?右手には何も持ってないよ?」
ゆっくりと右手に持っていた物を左手に持ち変えた。この際利き腕じゃなくても、何とか出来るかもしれない。どんなことにでもチャレンジャー精神は必要だと思うんだ。
俺は一歩一歩、確実に――いや、着実にジュウサツイタチに近付いていく。
「…っ!!」
「あ!!逃げんな!」
「逃げんな!ってそんなの無理ですよっ!。 わたしは逃げさせていただきます!!」
ジュウサツイタチが立ち上がって逃亡をし始めた。ぬいぐるみのくせに意外と逃げ足は速かった。もう机の右端にある本棚あたりから、隣のタンスの近くまで移動していた。すかさず左手に持っていた物を獲物めがけてダーツの要領で投てきした。
手から離れたそれは真っ直ぐにジュウサツイタチのいる所へと向かっていく。
「ひぃ…!」
「ちっ、外したか」
投げたそれ(カッター)は的をハズレ、ドスッという音を立てて壁に突き刺さった。そして重力に負けて床へと落ちた。
壁には綺麗に刺さったおかげか、縦に切れ目が入っていた。俺はその光景を眺めると、
「あーあ…壁に穴空いちゃった……」
「……………」
ジュウサツイタチはガクガクと足を震わせ、床もとい机に座り込んだ。
「もうどーしてくれんだし…母さんにバレたら怒られんじゃん」
「…わ、わたしのせいです…か?」
「もちです♪」
「……………」
俺の言ったことに驚いたのか、ジュウサツイタチは口を金魚みたいにパクパクさせていた。
(ん?ここに入れたら100点って言いたいのか?)
俺は床に落ちているカッターを拾うと少し後ろにさがった。
「さあ、レッツシューティングだなー。 次は外さないぞー(棒読み)」
持ち手を後ろに引いて、投げるモーションに入った。あとは前に押し出す感じにカッターから指を離すだけだ。これは豆知識だが、ダーツを投げる時は腰を使って投げてはいけないらしい。それをすると早くはなるが狙いが定まらないとのこと。
俺は昔TVでやっていたダーツ選手権を思い出した。
「え~と、確か……肘を肩の高さで固定して、まっすぐ手前に、ダーツを引きつける……からの――」
「あ、あの…春佳さん? 僭越ながら、ダーツの練習をするならちゃんとした所でやった方が……」
「…腕を振り子のようにして、自然に投げる……」
狙いはあのパクパクしているぬいぐるみの口だ。閉じたり開いてるしてるから、難易度は高め。それは某エアーマシンゲームのポイントストライクの100点みたいな感じだった。
(この辺かな――)
「そ…れっ」
「たっただいまーーー♪ 春佳ー、帰って着たよ~」
足元――つまり、一階から女性の声が響いてきた。
「…誰ですか?」
ジュウサツイタチの質問の声に紛れて二階へと進軍してくる足音が聞こえて来る。
「ちっ…帰ってきたか……あれは俺の――」
ジュウサツイタチに誰が帰って来たのか説明し終わる前にバンと勢いよく部屋のドアが開けられた。
「たっだいまーって言ってんじゃん!」
「あーはいはい、おかえり」
「むう、今日も春佳は冷たい……」
まるで子供のようにいじけて走ってきたせいか、薄く朱に染まった頬を膨らませて、ぶーぶー文句を言っている。
そんな様子には馴れたので、気にせず、相手にせず話を振った。
「それより……いつも言ってるけど、それ…いつかぶっ壊れるからね?」
(毎回も言ってんのにやるんだよねこれ…)
俺は部屋に入って来た女性の後ろの扉を指差す。ドアはぎいぎいと悲鳴にも似た音を出しながら、閉まった。
彼女は少し驚いた顔をするとまっ平に近い胸を突き上げて、ポンッと勢いよく胸を叩いた。
「えっ?…大丈夫! わたしは…壊れましぇーん!!」
(いや、あんたじゃねーし)
「…ていうか、武田○也みたいな感じで言うな!」
幸せが飛んで逃げていくんじゃないかというぐらい、大きなため息をついた。
「あーあー、ため息はついちゃいけないんだよ! 幸せが逃げちゃうからねっ!!」
このスッゴい昔の流行語とやらを改造して叫んだこの女の人の名前は南咲希。つまりは俺の母親なのだが、何故かウチに遊びに来た友達は皆こう言う…「誰だ…この綺麗な人は……お前の彼女さんなのか?」と。
「俺の母親だっつーの!」と説明するのだが基本友達は俺の言葉を信じてはくれない。
別に俺が嘘つきで誰からも信用されていないとか、そういうことではない。ただただ、咲希の顔が童顔過ぎるのだ。それに加えてのこの身長の低さ。確か去年勝手に測ったら158センチだった気がする。
髪は絹のようにさらさら、声は歳をくったみたいな感じではなく高い。そして、このテンション…異常に高いのだ。肌艶もまだ生きていて、俗で言う“砂漠肌”では到底ない。
等々の以上のステータスをまとめると、20代前半~中盤ぐらいという見た目になる。
(皆、騙されている…こいつは――)
「あはは、ごめんねっ♪ …でも、何を考えてるの……かな?」
ギクッ
「あたしの…年齢のこと……だったりして~。ってそんなこと春佳が考えるわけないよねー」
ギクギクッ
「あははー、何言ってるのさ、母さん」
俺は昔していたあるバイトで会得した営業スマイルを「今すぐしろ」と頬に命令を下した。あまり使わない筋肉を酷使しているせいか、肌がピクピクと震える。
それを咲希(母)に悟られないようにするので、精一杯だった。
(母さんって、たまに勘が鋭いんだよな…)
すると何かに気が付いたのか、突然「あっ!」と彼女は叫んだ。
顔面に張り付けた愛想笑いがバレたのではないかと思うと、変なところから汗が出てきた。表情に出そうな動揺を筋肉総動員で押さえつけると、咲希(母)に訊いた。
「な、なに?……どうした?」
「『なに?……どうした?』じゃないよ…。これは緊急事態ね…」
「…は?」
「どうして……」
と口にした後、何故か口ごもる。もにょもにょと唇が動いているから何かを言っているが、それがあまりのも小さい声なので聞き取れなかった。聞き直しちゃいけない空気ほど人は訊きたがる、その言葉通りに俺は続きを促した。
「どうして?」
俺が訊いて何秒かした後、咲希(母)は俺の瞳をじっと見た。大きくてぱっちりとした瞳が俺の顔を鏡のように映し出している。
何がそんなに深刻な――というかいつも陽気で人一倍明るいこの人を真面目な表情に帰るんだろう、考え込んでしまいそうになる。
そんなとき、咲希(母)が口を開けた。
「…母さんのこと“咲希”って名前で読んでくれないの!?」
「……………」
「あんた、マジで黙ろうか…」と文句を言ってやりたくなったが、このやりとりは毎度毎度のことだったり。なので、そろそろこのやり取りはしたくはないので、我慢して苦笑い。
「…ところで、夕飯は何?」
気合いで話をねじ曲げることにした。
「えーっと、今日わね…作ったことないけどチキンオムライスかな♪」
「『作ったことないって…』って…それ大丈夫なの?」
咲希(母)は「大丈夫任せといてっ!」と平らな胸を頑張って張って、敬礼をした。
どうやら話をそらすことには成功したらしい。今はごはんモードになったみたいで、笑顔は爛々と無邪気な子供みたいに輝いていた。
(はあ…精神年齢いくつだよ…)と心の中でツッコム。まぁこういう人だから、家が明るいのかな。
そう、うちには俺と咲希(母)の二人しかいない。なんで父親がいないのか分からない。何度か訊いたことがあったが、「朝起きたら蒸発してたのよね~」とか「隠してたけど…あなたはあたしの本当の子供じゃないのよ――」とか何故かはぶらかされて、話はそこで終了。
(まあ、もうどっちでもいいけど…。 まあ、いるかいないかぐらいは知りたいけどな)
いつもと変わらない笑顔を浮かべている小さな母さんを眺める。ずっと見ていると変な事を口走りそうなので、俺は背を向けた。
「とりあえず腹へったから休憩したら、飯早く作ってな~」
咲希(母)「はーい♪」と言って、トコトコと部屋から出て行く。
今まで俺と咲希のやり取りを見て聞いていたジュウサツイタチは、いなくなると同時にまた喋り始めた。
「春佳さんのご両親は随分若いですね。 何歳なんですか?」
「…逆に何歳に見える?」
質問に質問で返す、というのはどうかとは思うが、このぐらいは許容範囲だ。俺は気にせずジュウサツイタチに訊いた。
しばらく「ん~…」と唸ったと思ったら、おもむろに後ろから剣らしき物を出してきた。
「考えていますから待ってくださいね」
「……………」
「あっ、いや、落ち着いてください!」
「何が?今のは上手かったから、褒美に座布団の代わりに――」
「いや、カッターだったら座布団が欲しいです!」
真剣に考えるから“真剣”…バラバラにしていいかな?
「まあ、バラバラにしたら話聞けなくなるから、やめとくか…」
ジュウサツイタチは「バラバラっ!?」とある言葉に反応して驚愕しているみたいだが、如何せんぬいぐるみだから、表情が分からん。いやホント残念。
「ところで――」
下に居る咲希(母)に話声が聞こえたらマズイので、俺は部屋の扉を閉めた。そして、ジュウサツイタチに向き直った。
「ケンプファーのことは三郷雫っていう先輩に大まかのことは聞いたんだけどさ、まだ分かんないことがあるんだよ」
「あ、仲間が出来たんですね。それは良かったです。…ですが、分からないこととは?」
「えーっとな、『あなたはどんな武器が使えるの?』って聞かれたんだけど、考えても分からなくて。 俺は何が使えるんだ?」
「…え?まだ一回も発動してないんですか?」
「お、おう」
「…敵と朝会ったのに?」
「会ったな。 つか、そいつとはたぶん図書館でも会ったかもしんない」
(ん?“会ったのに?”って何で知ってんだ?)
ジュウサツイタチは俺が疑問に思ったことが分かったのか「それはあなたのメッセンジャーですから」と言い、口元を歪ませた。
布と綿と魂?だけのくせになかなか良い笑顔をお持ちなもんで。これが人間なら含み笑いとでもいうのだろうか。くしゃくしゃに潰れた口元を俺は眺めた。
「なんだそりゃ…。お得な機能だこと」
「…確かにこれもお得な機能ですね」
「え?」
訊いていて、ジュウサツイタチの“これも”という言葉が引っかかった。
普通ならここは「確かにお得な機能ですね」で充分なはずだ。なのにわざわざ“これは”を使うということは他にもなにか隠してるかもしれない。
「“これも”ってことは他にも何かあんのか?」
「はい、あると言えばありますが、ないと言えばないですね」
「………?」
(…あるのにないってどういうこと?)
ジュウサツイタチは意味深に笑っている。言っていることの意味がいまいち分からず、頭の上に疑問符を浮かべていると一階から「ご飯出来たわよー♪降りてきてー」と声が聞こえてきた。どうやら晩御飯の用意が出来たみたいだ。
「呼ばれてますよ?」
「…あ、ああ。聞こえてる……。 飯行ってくるけど、あとでその事詳しく話せよな。」
さっさと下に降りないとドアがまた犠牲になりかねないので、一時考えるのをやめて、俺は夕飯を食べに行くことにした――
*
~ジュウサツイタチ side~
「三郷雫…ですか」
暗い部屋の中で唯一明るい天窓の下に立っている。端から見ると内蔵を出したぬいぐるみがステージでスポットライトでも浴びてるような感じで、それは異様な雰囲気を醸し出していた。
(いや、これは驚きですね…)
ジュウサツイタチは頭の中に入ってくる情報を整理した。
三郷雫――
一年生の時にケンプファーになった。武器はシュヴェアトで双剣使い。大きさは小さく短剣よりちょっと長いぐらい。柄には鎖がついていて、それを使うことで自在にコントロールすることが出来る。
今まで倒してきた敵の数――
「今現在いるケンプファーの中で圧倒的ですね…」
ジュウサツイタチは雫の戦歴と他のケンプファーの戦歴を比べて、驚きの声をあげた。
そう…これが春佳に「あると言えばありますが、ないと言えばないですね」と言ったもう1つの機能だ。これはケンプファーの戦歴や能力が完璧ではないがだいたい分かる。だが条件があって、名前が分からないと能力を見れない。そして、今現在いるケンプファーのデータはあるのだが、人物は特定出来ないというデメリットがある。
つまり、使える条件が限られている。ということでもある。
「春佳さんはとんでもない人を味方にしましたね…」
ジュウサツイタチは口元を上に上げて含み笑いをした。
(これだと赤の圧勝で終わりそうですね…)
データによると雫が出てくる前、雫はまだ中学三年生の時…いわゆる約三年前は赤も青も同じ撃破数で競り合っていた。どちらも倒されては倒してという感じだったが、そこに入学してきた三郷雫が戦局を一気に変えた。
だんだんと赤が伸び始めた。青はいきなり現れた強敵に次々に倒されていくが、黙って見ているわけはなく複数で一人ずつ倒していくということをし始めた。
最初に強襲をかけたのは、どうやら雫と仲の良い先輩だったらしい。
らしい、というのはこれがデータであるため、確かな保証がない。書き換えようと思えば変えられるものだからだ。
因みに作戦は上手くいって、青側は勝つことが出来た。力量差はあったものの、数で有利な青側が勝つのは誰が見ても一目瞭然だった。だが、勝敗が決した後にあることが起きた。
戦闘終了後、突然現れた雫に青は全滅させられたのだ。
「……………」
ジュウサツイタチはその時の戦闘記録を読み取っていく。
(はあ…流石に残っていませんか……)
戦闘記録どころか、どういう風に戦ったのかという情報すらなかった。
「それすらも分かりませんか…」
「…何が?」
後ろというか、頭上から声が聞こえた。先ほど聞こえた、女性の声とは違う低い声だった。
身体の向きを変えると、そこにはいつの間にか食事から帰って来たのか春佳がいた。食べ終わったばかりなのか、もごもごと口が動いている。
「いえ、こっちの話です。それより、食べ歩きはお行儀が悪いですよ?」
「別にバレなきゃ大丈夫だ。…ってか、俺に隠れてなんかしてたのか?」
「いいえ、なんもしてないですよ? ただぼーっと座ってました、はい」
「……………」
「…どうかしましたか? もしかして、わたしの可愛い顔に何かついてます?」
「いや…なにも……。 んでも、何か怪しいんだよなー」
春佳は疑うような重くジトっとした目で見てきた。そんな視線を受け流すようにスルーして、ジュウサツイタチは話題変えた。
「それより、チキンオムライスでしたっけ? それは美味しかったですか?」
「……………」
そして、「下に降りてから随分と時間が経っていますが」と付け加えた。
ジュウサツイタチは壁にかけてある時計を見た。今の時刻は夜の8時半過ぎ。そして春佳が下の階に降りたのは、7時15分ぐらい。夕飯にしては随分と時間がかかっている。
しばらく沈黙していた春佳が口を開いた。
「…あれは“普通の”チキンオムライスじゃない……」
「…え?」
「だから、あれは“普通の”チキンオムライスじゃなかったんだ……」
「えーと、それはどういうことなんですか?」
ジュウサツイタチは俯いて手をワナワナさせている春佳に、質問を投げかけた。
自分が床に立っているせいか、伏せる表情がよく見て取れた。それは予想外のモノをま直で見てきた人の顔だった。
春佳は惨劇でも思い出すかのようにゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「…まず形がおかしかったんだ……」
「そうなんですか。それでどんな風に違ったんですか?」
「――なあ、お前はチキンオムライスと聞いてどんな形を思い浮かべる?」
「質問に質問ですか…まあいいですけど……。形というと、丸かったりオムレツみたいな感じですね」
実物は見たことはないが、頭にデータとして入っていた。丸い形をしていて、チキンライスの上に薄く焼いた半熟卵をのせてあるのだ。この他にもオムレツみたいなレモンを薄く伸ばしたみたいな形のモノもあった。
これはメッセンジャーとして目覚めたときから入っているものだが、どうしてこんなものが入っているのかは謎。
「そんなもんだろうな…。でも、アレは違ったんだ――」
息継ぎのためなのか、惨劇を思い出しているのか分からないが、春佳は一拍置いてから話を続けた。
「アレは…そう、簡単に説明するなら、チキンオムライスの皮を被った鳥肉だ!」
「……………」
ここはあえての沈黙を選んで、何も喋らず春佳の次の言葉を待った。でなければ、口を滑らして「…意味が分かりませんが」と言ってしまいそうだからだ。
数分の間、黙って惨劇の有様を聞いているとなんとなく想像が出来てきた。
どうやら春佳が夕食として口にしたものは、薄く焼いた半熟卵で覆うように隠した、赤く彩られたライスに手羽先が入っているものだったらしい。
「それで、なんで手羽先なんてものが入っていたんですか?」
「…自分が鳥肉の中で手羽先が一番好物だからだそうだ」
「「……………」」
「――まあ、それ以外は案外普通そうじゃないですか。春佳さんがげっそりしてるから、もっとヤバいものなんじゃないか、ってビクビクしてましたよ」
「…いや、それだけじゃ……」
春佳は思い出すだけでも辛いのか、「うっぷ…」とゲップをした。
「まだあるんですか?」
「…赤いのはトマトケチャップのせいだと思ってたんだ……でも、実際は違っててよく分かんない味がした」
「何を入れたのか、確認しなかったんですか?」
「したさ……でも、分かんない♪って…。 それに残そうにも母さん、何回も『おいしいかな?』って聞いてくんだぜ?食うしかねえじゃん」
「あはは、それは災難でしたね」
人の不幸は蜜の味という言葉どうりに笑う、ジュウサツイタチ。そんなぬいぐるみに体裁加えたそうな目で見てくるが、身体というか主にお腹が言うことを聞いてくれてないのか、「…はぁ」とため息をはいて机の椅子に座った。
「それはそうと――」
ジュウサツイタチは「さっきの話何ですが…」と春佳に自分は変身すると何が使えるのかを伝えるために話をきりだした――