けんぷファー ~もう一つの物語~   作:真夜

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序章『日常の終わり』

    ~春佳 side~

 

「ん?誰これ…」

 

 朝起きていつもしている寝癖チェックをしようとすると、鏡の中には見馴れた男の姿ではなく、女の姿が写っていることに気付いた。金色の髪の毛に唇は薄いピンク色、肌は白くキメが細かい。目はずっと見ていると吸い込まれそうなぐらい澄んでいる。歳は同い年か一歳年上というところだろうか…しかもハーフっぽいときた。

 これでは欠点無しと言っても申し分ないくらいだ。

「私、雑誌の専属モデルなの」と言っても誰も疑わないぐらい。むしろ、渋谷の竹下通りを歩いたら一日で何回スカウトされるのだろうかと疑問に思う。

 自分は平均よりは良いと思っているが中のちょい上なだけなので顔の出来が大違いだ。ホント羨ましすぎる。これだけ可愛いとさぞモテるであろう。

 もしそうなら毎日モテ期みたいな感じだろう。

 

「あれ?俺って女の子だったっけ?? …ってんなわけねーだろって」

 

 つい自分でボケてツッコムという一人漫才をしてしまうことに苦笑する。そんなキャラで今まで生きていないので、こんなとこ誰かに見られたら恥ずかしい。

 

「何言ってんだか、俺は…」

 

 そんな訳はないか。俺は十五年間男で生きてきたんだから。第一にまず性転換をした覚えはないしこれからもする予定はない。

 目あにをとるため目をこすると、女の子も同じ仕草をした。あ、マネされた…と思ったが可愛いので許す。(少しえこひいきかな?)と思うが俺も男の端くれだ、致し方ない。可愛いくて自分のタイプの女の子のイタズラだったら、笑って許してやるさ。

(まぁ、そんな絡みは今までなかったけど…)と考えた辺りで自分の人生に萎えた。

 頭をポリポリ掻いた。またマネしてるか気になったので、ちょっと顔を上げた。

すると、そこ目にしたものは衝撃的なものだった。噂に訊く、殺人的な女の子の上目遣い。それをこの娘はしていた。

 

「これが伝説の上目遣いなのか……」

 

 俺の学校は一応女子はいるが教室も違うし校舎も別だ。男子の中では上目遣いなんて伝説と化している。

 目が合い一気に心臓の心拍数が上がる。正直、可愛い過ぎる…俺の好み補正が入ってるとしても、これはヤバい。

 

「あれ?そういえば…なんかおかしくないか??」

 

 前には女の子、そして行動をマネされる俺。だんだんと眠気が消えてきた。

 この状況は何かがおかしい…俺に姉や妹はいないし、悲しいが生きてきてこのかた、カノジョという人すら出来たことがない。

 考えた結果、ある結論にたどり着いた。

 

「あ、そうか!これは夢だ。だから、こんなに可愛いくてスタイル抜群の女の子が前にいるんだ」

 

 自分で納得することは悲しいが納得する他ない。

(夢で女の子に会うなんて、俺どんだけ欲求不満なんだよってね)

 今度は心の中で自分にツッコんだ。

 というか、夢なら現実と一緒だなんてダメだ、と思う訳で緊張しながら女の子に声をかけてみた。

 

「はは、キミ可愛いね。 えと…名前はなんていうの?」

 

 と冗談を言ってみたが返答はない。緊張のせいで声が裏返ってしまったような気もするが、良かった気付いていないらしい。

(俺の声ってこんなに高かったかな? …ん~やっぱり緊張してたからだろうか…)

 前の女の子も何かあったの首を斜めに傾けて「あれ?」という顔をしている。

 その表情を見て、声が裏返ったのバレたかな?と思うがまあいいや。せっかくの可愛い子とのふれ合う夢なんだし、楽しまなくては損だ。因みに俺はけして痛い子ではない、とだけ先に言っておこう。

 返答は返ってきてないが、気にしない。向こうも緊張しているのだろう、ちょっと笑顔がぎこちない。

 次はどうしようか悩んだあげく、夢なら大丈夫だろうという考えののち触れてみることにした。

 そーっと手を伸ばす。ぴたりと前に伸ばした手が肩ではなく、硬くて冷たい物にぶつかった。

 

「ん? あぁそっか、鏡か…」

 

(…………)

 冷静に考えると、ある一つの疑問が浮かんだ。まあ当たり前だが、鏡はこちら側を写しているだけだ。鏡の世界なんてものはない。

ー思考停止ー

「…えぇっ!?女っ!?」

 脳がフリーズした。数分…いや数十分だろうか、すごく時間が経った気がした。

 

「うわわぁっ!?」

 

 この事態に驚き腰を抜かした。盛大に後ろに転けたせいで、頭を棚の角にぶつけた。

 

「痛ってぇ~…」

 

 痛みがするところに手を伸ばしてみると、棚の角にぶつけたところが熱を帯び盛大に腫れていた。

 

「夢なのにぶつけたとこが痛いし、たん瘤までできてやがる…」

 

 …もう一度自分が言ったことを心の中で繰り返してみる。夢なのにぶつけたところが痛い――

 夢は傷みを感じない。感じるのは現実だけだ。焦りと共に心拍数がまた上がる。心臓がせり上がって来てるんじゃないかってほど、バクバクしている。

 

「…っ、まさか!?」

 

 痛みがこれは夢ではなく現実である、と伝えてくる。

 背中に冷や汗が一筋流れた。急いで部屋を見渡したが女の子の姿を見付けることは出来なかった。

 

「はぁ~…なんだし。スッゲー夢見てたな~こっちが現実か」

 

(これが現実でさっきのが夢か。ややこし過ぎるぜ、夢野郎)と夢に文句を言うがうんともすんともない。というか、夢で起きた間隔を味わうとか、変な気分だ。

 俺は床から起き上がって、いつもしている寝癖チェックをしようと鏡が置いてある棚に近付く。

 

「ふぁ~あ、眠いぃ…」

 

 夢でも同じことしたな、とデジャブを感じながら、大きめなあくびからの寝癖を確認すると、今日も盛大にあっちこっちにはねていた。

 暴れ馬並みのはねを直そうと思い、手で押し潰しながら、手櫛をする。

 

「あれ?こんなに髪長かったかなぁ…」

 

 昨日美容院に行き、半年以上放置したせいで伸びに伸びた髪を切ってもらったので短いはずだ。だが手櫛をしてみると長く感じる。いや、むしろ切る前より長い気がしなくもない。

『髪は短いと伸びるのが早い』とか『夜まで起きていると伸びが早い』ってどっかで聞いたことがある。そして昨日は3時まで徹夜をしていた。何をしていたかは内緒だ。けど、まさか実話だとは思わなかった。やっぱそんなもんなんかと納得する。

 

「あ、そういえば…」

 

 俺はふと髭が伸びてきたから剃らなくちゃいけないことを思いだした。髪から顔に視線を下ろすと

そこには自分とは違う顔とご対面した。いや、“女の子”が写っていた。

 

「…誰デスか、アナタ?」

 

 彼女もこの事態を把握出来ていないのか、目が点だ。口も少し開いている。

 驚きつつも視線をずらして胸のあたりを見ると付いてるはずのない二つの丘も鏡に写っていた。

 

「……………」

 

 ハッとあることに思い至り鏡から視線を外す。

 

急いで自分の身体を確認――

 

 やはりそこには丘があった。確認のため二つの丘――通称“むね”とか人によっては“夢の島”と言ったりする物を恐る恐る服の上から触ってみた。

 

「っ!?」

 

 効果音が出るならふにゃんが適切。100点満点だ、と思うぐらい柔らかかった。今年初の驚きかもしれない。いや、もはや人生最大の驚きだろう。

 

「…はぁあ!?、なんじゃこりゃ!?」

 

(これが…夢にまでみた、神から女性が授かった産物か……)

 人はパニックに陥ると意味不明な考えや行動をとってしまうらしい。俺が良い例だ。

 さっきの衝撃的な感触で意識が飛びそうになったのをなんとか耐えた。まだ、確認してないものがあるのだ。

 ふと思い、恐る恐る下の方に触れてみる。

(ない…やはりない。男ならあるはずのものが……)

 形あるものが忽然となくなっていた。それはもう…刈り取られた雑草のように根刮ぎだ。平らしか感じない。

 

「なんで無いんだよ……てか、俺……女!?」

 

 状況が全く理解出来ない。目を瞑りとりあえず、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。今は冷静になることだけに努めろ。

 

「俺は南春佳で歴とした男だ!」

 

 自分の記憶を探り、絶対男だったことを再確認する。そして、目を開けた。

 身体は全く変わらず女だった。顔より少し下を見るとさっきから夢にまでみた物たちがぶら下がっている。

(これを俺はさっきまで触っていたのか…)

 鼻の中がカッと熱くなるのを感じ、これが鼻血だ、と気が付くころには遅かった。手で押さえようとするが…

 

「あっ…ヤバい……」

 

 上がってきた濁流は止まることを知らなかった。ぶふぁっと噴水並みに鼻血が飛び散り、意識が遠ざかっていく。

 こんなこと…もはや、自分の身体?で興奮し俺は死に絶えるのか、とぼんやり考える。

(……それって、ただのへんた――)

 そして、意識は完全に消えていった。

 

 

       *

 

 

 ~ジュウサツイタチ side~

 

「あんなに驚かなくたってねぇ」

 

 ぬいぐるみの口に相当する部分が笑みなのか、微妙に動いた。

(それにしてもこれはまた面白い人ですねぇ…)

 

「…ん?」

 

 ふと、右腕を見ると血が付いていた。

 

「あ、私にも鼻血が――」

 

 先ほど部屋中に盛大ぶちまかれた血の一部だろう。当人は大の字のなってぶっ倒れている。

 

「ティッシュ、ティッシュ……」

 

 拭くものを探した近くにない。しょうがないので近くに掛けてあった服で血を拭く。

 

「春佳さ~ん、大丈夫ですかぁ?」

 

 床に人生最大の衝撃を受けて気絶している男に向かって名前を呼ぶが反応は無い。

 そんなに驚かなくても、と思うが、最終的にしょうがないか…という結論にたどり着いたので考えるのをやめた。

 

「それより、これからどう起こしましょうかねぇ…」

 

 ぬいぐるみはゆっくりと立ち上がって、自分が居るところから下を見た。人間から見ればそんな大したことのない高さの棚でも、ぬいぐるみからしたら半端ない高さである。

 

「…はい、降りるのは無理に近いですね。」

 

 高さを確認して一秒とせず結論が出た。こんな高さから降りて起こしに行くのは無理。なので、諦めることにした。

(さあ、困りましたねぇ…学校とやらに遅刻しちゃいそうですし)

 学校もそうだが、今の現状やらも説明しなければいけないので、何とかして起こすしかない。

 とりあえず、声が届かないだろうと分かっていても、呼んでみることにした。

 

「ねぇ、春佳さん…南春佳さ~ん。 学校遅刻しちゃいますよ~、起きなくていいんですかー??」

 

 …起きない、それどころかピクリとも反応しない。このままではどうにかして下に降りるという選択肢しかなくなってしまいそうだ。

 私は考えた結果、プランB『物でも当てて起こそう』を実行することにした。

 投げる物がないか辺りを見渡す。

 

「えーっと、私が持てそうな物わ…」

 

 厚さ10㎝ぐらいの広辞苑を見つけた。持ち上げるために近付く。

 

「よい…しょっ」

 

 持ち上がらない…。もう一度力を入れて持ち上げようとするが、持ち上がらない…

 というか、手が広辞苑と棚との溝に入らない……。

 

「私ならいけると思いましたが、やはり無理がありましたか…」

 

 広辞苑を持ち上げることは出来なかったので、押して落とすことにした。

 

「んっ…」

 

 腕に力を込めて思いっきり広辞苑を押す。ずるずると少しずつだが前に動いていく。落ちるとドスッと鈍い音をあげた。

 落ちた音で起きるかなと期待を募らせたが変化はなかった。まだ起きそうもない。

 

「はぁ…諦めるしかないようですね」

 

 プランB…いや、プランCが駄目だったので、他のプランを考えることにした。だが、時計を見ると8時10分。時間もないのでプランAの『どうにかして降りる』しかなくなってしまった。

 

「…さぁ、どう降りましょうか」

 

 ぬいぐるみは辺りを見渡した――

 

 




こんな感じで話は始まります。
これからも赤い“何か”が噴き出す予想です。天気予報で言うなら、「夕立が降る可能性があります」みたいな感じですねw
(・・・何か違う感じがしますが、そこは触れないでくださいw)

前回みたく、投稿1話1万弱でもいいのですが、見直し&手直しが大変なため
これから投稿していくお話は1話を前半と後半に分けていこうと考えています。

読み難いと思った方は、すいませんでしたm(_ _)m
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