けんぷファー ~もう一つの物語~   作:真夜

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一章『はじまり』後編

        *

 

    ~春佳 side~

 

「はぁ…はぁ……」

 

 疲れた…非常に疲れた。運動神経には自信があるが最近、運動してないから体力的にキツい。それに高校に入って、これといってやりたいことなかったので帰宅部に入部した。なので運動という二文字には毎週、一回ある体育の授業以外にあまり関わりがなかった。

 やはり、疲れという追っ手にすぐ捕まった。息とふくらはぎが限界を向かえそうなので、少し歩くことにした。

 

「はぁ…はぁ……っ、今何時だ?」

 

 いつも左ポケットに入れている携帯で時間を確認しようとする。

(あ、あれ……?)

 左には何も入っていなかった。おかしいなと思い、右のポケット、後ろポケットと順番に探していくが無かった。

 

「……携帯がない!!」

 

 家を出るときにいつものようにポケットにいれたはずなのに、ガムのごみしか入っていなかった。

 まさかどこかに落としたのか?と辺りを見渡すが何もない。

(…それとも鞄の中かっ!?)

 急いで鞄を開けて、中身を確認する。教科書に筆箱、眼鏡。それとノートしか入っていなかった。その後裏ポケットも探すがやはり、ガムや鏡、ヘヤピンなどしかなく携帯は無かった。

 

「……やっぱり無い!!」

 

 どこかに落としたらしいので、ここまで来る間にいつ携帯を使ったのかを思い出す。

(家を出て…そのあと、角を右に曲がって……また走って…)

 

「あっ!分かった!!」

 

 どこで最後に携帯を使ったかを思い出した嬉しさで、大声を出してしまった。そこまで大声を出した気はなかったが結構周りに響いた。ほんの少し恥ずかしくなり、周りを見渡す。

(良かった…。誰もいなかったぁ……)

 これが朝ではなく昼前だったら誰かしらいて、注目の的になったなと思う。そして、ここら辺はお喋りが大好きなおばちゃんの巣窟だ…。良いネタにされて笑い者にされるだろう。

 

「さあ、問題はここからだな…」

 

 そう、家を遅刻しそうな時間に出たため来た道を戻って探していると一時間目の授業に完璧に間に合わないのだ。だが、落とした物が筆箱だとか教科書とは違うので、急いで取りに行くことにした。実際、教科書も駄目な部類だが…。

 

 俺はまたしても走る――

 

「はぁ…はぁ……確かこの辺で…」

 

 最後に使ったのはこの辺だろうという目星を付けた所に着いた。辺りを探すと案外、携帯はすぐに見つかった。

 

「良かったぁ…下水道のとこに落ちてなくて」

 

 携帯が見つかり安心したが落とした衝撃で画面が少し割れていた。また修理に出さなくてはいけないのかと落胆しながら、放課後の予定を編成する。

 

「学校終わったら即携帯ショップに行くことにして、今は学校に急ぐか…」

 

 時間は分からないが急がないといけないと思い、またまた走る。

 

「なんかマラソン気分だよ、ホント…」

 

 疲れているせいでゆっくりではあるがなんとかさっきの場所まで戻ってくることが出来た。

 ホント近いようで遠いよな~…近道無いかな、とぼんやりと考えるがここ最近に新しい道が出来たという話は聞いていない。

 少し休憩ついでに滝のように流れる汗を手で拭った。

 

…ン、バン、バン――

 

 遠くから爆竹のような、銃声のような音が響いてきた。

 

「ん?こんな朝早くから、何やってんだ??」

 

 また、鴿でも追っ払ってるんかな…と呆れながら、当人のことを思い出す。

 毎週、一回は聞こえてくる鳩を追っ払うための爆竹の破裂音。いい加減近所迷惑だし、誰か文句をつけないかなと思っているが今のところ変化はない。

 昔、話したことがあるが正直あのおじさんは少し変わっている。どう変わってるかというと、まず人の話を聞かないのである。そして、おじさんの若かった頃の自慢話が始まるともう終わりなのだ。1時間は帰してくれない。だから俺はあのおじさんと関わるのが面倒なので、そんなことは絶対しない。

 お金をあげるから、と言われても勘弁だ。まあ、1万なら考えてしまうかも知れないが…

 しょうがないので、いつも通り横を通りすぎようと速歩きで行こうとすると、女の子の姿が見えた――

 

       *

 

    ~ナツル side~

 

「はぁ…はぁ……くそっ」

 

 俺は全速力で走る。別に体育で50メートル走のタイムを測っている訳ではない。もしタイムを測っているなら、こんなに死ぬ気で走ったりしない。

 

「…ヤバい、追い付かれる……」

 

 後ろを向くと狂犬みたいに怒鳴りながら追いかけてくる女がいる。

 俺こと瀬能ナツルは、今日最大級の驚き…いや、事件と言ってもいい。朝起きたら、女になっていた。

「あなたは“ケンプファー”に選ばれました。その姿で敵と戦って勝って下さい」と言われた。それも内臓を出したぬいぐるみ――通称ハラキリトラに。

 もう何がどうなっているのか、理解出来ない。突然百円を渡されて、『これで世界を救うように』と命じられた気分だった…。

(おっと、こんなこと考えてる場合じゃない。今は逃げなくては…)

 

「おい、待たないとてめえの身体を蜂の巣にすんぞ!」

 

 拳銃を持った女が叫びながら、ものすごいスピードで追いかけてくる。

 

(いや、そんなこと言われたって待ったら絶対俺のこと撃つだろ…。)

 どうせ止まった瞬間に蜂の巣確定だ。どうなフラグだっつうの。

 

「嫌…だっ!」

 

 さっきからだんだんと腕輪の輝きが強くなり、点滅する間隔が狭まってきている。これがハラキリトラが言っていた変身の合図的なものではないかと思うが、どう変身すればいいのか分からない。

 それは曲がりかどを曲がった瞬間に起こった。腕輪は点滅状態から常時発光に変わった。そして、青白い光が身体全体を包みこむ。

 

「何だ…?何が起こって…」

 

 小さな輝きが広がり、全身洗い流されるような感触があった。そして、ふいに光がおさまった。

 自分の身体を見ると男には無いはずのもの、いわゆる双丘があった。

 

「うわっ、やっぱり女の姿になっちまった…」

 

 朝と今で本日二回目だが、やはりショックの大きさは変わらなかった。

 

「はっ……あははははっ!」

 

 後ろから馬鹿笑いが聞こえた。いつの間にか追い付いていた女は銃をゆっくりと向けながら、爆笑していた。

 

「こりゃあいい、やっぱりお前もケンプファーだったか!」

 

「おまっ、ケンプファーを知っているのか!?」

 

「知っているも何もあたしも、お前もケンプファーになっているじゃねえか」

 

 俺を指さして笑う。よく見ると、彼女の腕にも俺と同じ契約腕輪が付いていた。

 

「ちょっと、待て!何でお前と戦うんだ?」

 

「…はっ、あたしがケンプファーでケンプファーが前にいるからに決まってるだろ」

 

 彼女は今にもトリガーを引くのではないかという勢いで質問に答える。

(初耳だよ…)

 ハラキリトラはただ敵と戦えとしか教えてくれなかったし、まさか人間と戦うなんて思ってなかった。それに戦うと言っても向こうは銃を持っているが、こちらは何も持っていない。武器が無いからって、手加減して素手で相手してくれるようには見えない。むしろ、げらげら笑って「死ねばーか」と言われたのち、蜂の巣にされるのが落ちだ。

 

「なんだ?逃げないのか??」

 

「え?見逃してくれんの?」

 

「バーカ…誰が逃がすなんて言ったんだよっ!」

 

 放たれた弾は顔の直ぐ横に着弾した。

 

「うわっ、ちょっと待てって!」

 

「はっ、誰が待つかよ」

 

 女は口元を不敵に吊り上げ、また引き金を引いた――

 

       *

 

    ~春佳 side~

 

 女の子に声をかけようと思ったその時、急に右の袖の中が赤く輝いた。

 

「えっ!? な、なんだ!?」

 

 袖口をガバッと開くと、そこには赤く輝いている腕輪が付いていた。形は見たこともなく、不思議なデザインをしている。

 

「何これ…付いてるの気付かなかった。てか、付けた覚えがないんですけど……」

 

 不思議な腕輪を触る。

(あれ?これ継ぎ目がなくね?)

 継ぎ目がないどころか完全に腕にフィットしていた。

 赤い光は点滅し、どんどん光が強くなっていく。そして、点滅から常時発光に変わった。腕から順に光に包まれていく。

 

「な、何が起こってんだ!?うわっ…」

 

 赤い光は身体全体を包む。制服が粒子となって身体から離れる。そして辺りに散らばった粒子が身体の回りに集まり、再構築が始まった。

 やっと光が収まり目を開けると、女になっていた。

 胸はペッタンこから膨らみ、双丘が…制服はうちの学校の女子のに変わっていた。

 

「うわっ、変身するってこれのことか。 すげぇ…」

 

 普通なら驚くところなのだが、ついつい変身したことに関心してしまった。だって、あり得ないことじゃないですか。

 二度目ということもあり、驚きは半分で残りは関心+その他だった。

(変身することはしょうがないとして…何で今変身したんだ?)

 

「…って、しょうがなくないことだな…」

 

 女の子に変身出来るなんて知ったら、クラスの奴ら驚いてぶっ倒れるんだろなと思ったが、あいつらは神経が図太い奴らばっかだから逆にこっちが危ないかもしれない。

 どこかの店に売られたり、地下研究施設に送られたりする可能性だってある。唯一驚く人がいるとしたら、担任教師ぐらいだろう…それ以外はない。

 

「なんだか、あいつが言ってたようにあんま気にしないもんなんだな。」

 

 女に変身した姿を見る。

 下を見ると丁度良いぐらいな胸が見えた。触ってみたい気もするが流石に自分の身体?なのでやめといた。自分の身体を見て興奮なんかしたくないし、そんな変態にはなりたくない。

 ガラガラと近くから壁の壊れるというか、崩れる音が聞こえてきた。

 

「なんだっ!?」

 

 俺は音がした方へ走った。

 途中に何故か鞄が落ちていたが、交番に行ってる場合じゃないので無視。というか、鞄を無くすとか、そこまで抜けてる人はいないであろうと思いたい。

 角を曲がるとうちの学校らしき女の子が三人いた。

 ようく見ると、拳銃を片手に持った女子と女をかばうようにしながら左手を前に出している女子がいた。ここまででおかしな点は1つだけなのだが、拳銃を持った女子側の壁を見るとおかしな点が増えた。

 壁が崩れていた。それも粉々に…

 これはヤバいと思い、俺はすぐさま壁に隠れた。あんなのに絡まれたらどんな痛い目に合うか分かったもんじゃない。

 

「てめえ…ツァウバーか……発動ア――無しとは……」

 

 遠いせいで向こうの会話が全部聞こえない。話は飛び飛びだが、どうやら言い争いレベルの感じではないらしい。

 しばらく様子を見ていると、突然拳銃を持っている女は手を振った。

 

「…っ!?」

 

 手を振ると同時に銃はかき消すように消えた。

 見間違いかっと思ったが、もう銃は持っていないのでさっきのは本当なのだろう。

 女が立ち去った後にまた一人どこかに走っていった。残された女の子はしばらくぽつんと立っていたが、 何かを思い出したのか「あっ!」と大きな声を出していきなりどこかに走りだして行った。

 この状況に唖然としていると、また腕輪が光だした。だが光は点滅ではなく、辺りに発光した。

 

「…っ」

 

 光が収まり、また自分の身体を見ると男に戻っていた。

 

「…なんだったんだ?」

 

 なんで変身してそして急に元に戻ったのか考えたが全く検討が付かなかった。

 

「あっ、やべっ!」

 

 左のポケットに手を突っ込んで目的の物を取り出す。携帯の画面を見るが何も写っていない。

 

「はぁ…そうだった……ホント今日は付いてないな……」

 

 先程、落として壊れたらしいということを思い出した。

(しゃーない…走っても遅刻決定だろうから疲れたし歩こう)

 しょうがないので俺は再び学校に向かって歩き出した。

 しばらく歩くと後ろからぱたぱたと走る音が聞こえてきた。

 

「春佳さ~ん、おはようございます!」

 

 名前を呼ばれたので後ろを振り向くと、沙倉楓がパタパタと必至に走ってこちらに来た。

 

「ん?あ、おはよう沙倉さん」

 

「春佳さんはまた遅刻ですか~?」と沙倉さんは、走ったせいで薄く蒸気した顔の汗をハンカチで拭きながら聞いてきた。

 

「い、いや~…あはは……」

 

(はい…またですいません)

 彼女はクスクスと笑う。どうやら、俺の遅刻回数は女子部にも広がっているらしい…いや、本当に恥ずかしいばかりだ。

 

「…うん、またやっちまった」

 

「どうしたんですか?顔色悪いですよ??」

 

「あ、ううん大丈夫だよ。ただ眠いだけ」

 

 朝の出来事はまだ全然俺の心の傷として顕在している。だけど彼女にそんなことは言えないし、説明も出来ないので欠伸をしてごまかすことにした。

 朝起きた時のことを思いだすがやはり女の子になっていたのはショックが大きい。そして、黒歴史についても問題がありそれらが頭の中で渦のようにぐるぐると回っている。

 

「もうお互い遅刻組だからゆっくり行かない?」

 

「あ、はい。わたしはそれでかまいませんよ」

 

 そんな提案を沙倉さんは快く了承してくれた。つまり、一緒に学校に行けることになったというところだ。ホント言ってみなきゃ分かんないもんだな。

 沙倉さんと昨日、男子側で起きた面白いことや女子側で起きたこととなどをお互いに話した。

そんな中ふと、沙倉さんの胸を見た。沙倉さんの胸も確かに大きく、形もいいが女の自分も負けず劣らずのものだった。

(どちらの方が柔らかいのだろう…っていかんいかん、何を考えているんだ。 ごめんなさい、沙倉さん)と心の中で謝っておく。

 次は本物の欠伸をしそうになったが頑張って噛みしめる程度に我慢した。

 

「確かに眠いですね、私も昨日は夜更かししちゃいました」

 

 沙倉さんは俺の欠伸に気付き、クスクスと笑いながら小さく欠伸をする。

(うわっ、欠伸を噛み締めている姿可愛いな…)

 いちいちドキッとしてしまう。そりゃそうだ、星鐵学院の2代美少女なのだから。可愛いと言う人はいても、不細工だと言う人はいない。いたとしたら、ファンクラブの奴らに消されて、東京湾に沈められ藻屑になるだろう。

 

「夜中まで何かしてたん?」

 

「いえ、何かしてたといいますか…」

 

 彼女はさんは少し顔を赤らめた。

 沙倉さん…そういう表情で男どもは惚れてしまうんですよ?と言いたかったがやめて、ただ見るだけにした。いわゆる目の保養ってやつだ。あ、因みに俺は沙倉さん推しって訳じゃない。

 

「ん?どうしたの??」

 

「いや、ちょっと…また昨日借りた臓物アニマルの映画を見ていまして…」

 

「へぇ~どんなの見てたの?」

 

 沙倉さんの表情が華やいだあと「えーっとてすね――」と一息入れて、こほんと言って話を続ける。俺はそれを待つことに徹した。

 

「舞台は未来、第17臓物船団が新たな地を求めて宇宙を旅するんですけど、そこにいきなりモツラという超時空生命体が襲ってきて、戦うんです!その時にですね銀河の妖精と超時空シンデレラの――」

 

(ヤバい…やってしもた……当分この話だな…)

 その後、沙倉さんは火が着いたかのように臓物映画の素晴らしさを伝えてくる。今、俺が彼女に「貰ったぬいぐるみが喋ったよ」と言ったら驚くだろなと思ったが信じてくれないだろう。

 もし皆喋るなら、沙倉家はハンパないことになっているだろう。何せ聞いた話によると…沙倉さんは大の臓物アニマル好き、もはや愛好家と名乗っても良いレベルまで達しているらしい。

 普通ならここで引かれるはずだが、ウチの男子共は一味も二味も違う。「素晴らしいです!沙倉さん」だとか「僕を沙倉さんの臓物アニマルのコレクションに加えて下さい」とか。後者に関しては、それは死人だろ…と思うがあえてつっこまない。そんなのがわんさかいるから、一人一人につっこんでいたら切りがない。

 

「あ、そう言えば…春佳さんにあげたジュウサツイタチさんは元気にしてますか?」

 

「うん、めっちゃ元気にしてるよ~いつか喋るじゃないかってぐらいにね~」

 

(今は喋るようになっちゃったけど…)

 

「そうですか!ありがとうございます。親としては嬉しい限りです」

 

 沙倉さんは余程嬉しかったのか、満面の笑みを溢した。

(うわっ、まぶしすぎる…)

 あまりの神々しさに目を細める。この笑顔で何人射殺されたんだろうと考えた。

 多分ざっと数えて、100人はいるのではないだろうか…何故なら、沙倉さんを信仰しているのは2年生だけではない。全学年だ。一年生に関してはメチャクチャ可愛い先輩がいるという噂を聞き付けて入ってくるやつばかりだ。

 

「あ、臓物アニマルのグッズはまだたくさんあるんで他のもどうですか?」

 

 沙倉さんはごそっとバッグから何かを出した。

 

「え?なにそれ??」

 

「これはですねー、おととい発売された新商品の臓物ペンシルです」

 

「す…すごい、デザインだね」

 

 笑わないわけにはいかず、頑張って笑顔を作るが上手く出来なかった。頬がピクピクと引きずる。

 

「この内蔵の形をしたグリップがですね、シリコンで出来ていてぷにぷにしてるんですよ?」

 

 触ってみて下さいと言わんばかりに、臓物ペンシルを向けてくる。

 

「あ、ホントだ。造りがリアルだね」

 

 臓物アニマル――またの名を内蔵など出したグロテスクの塊。そのぬいぐるみシリーズの愛好家の沙倉さんは、ぬいぐるみ以外も色んな物を持っているらしい。会社が潰れないのはこういった熱烈のファンがいるおかげだ。

 

「そうなんです。そこも私の気に入っている部分の一つなんです」

 

沙倉さんは良かったらこれもいかがですか?と目をキラキラさせて聞いてきた。

 

「はは、大切な物は1つぐらいが丁度良いんで他は大丈夫ですよ」

 

 俺はやんわりと断った。これ以上増えたら、部屋がホラーになってしまう。

 チラリと彼女の横顔を覗き見ると、どうやら沙倉さんは「そうですか」と気にしていないようだった。よっぽど臓物アニマルを大切にしているらしい。

 丁度話が切れたのでどう違う話に切り換えるか考えていると前から大声を出して走ってくる大人がいた。

 

「こらー!お前らー、男女の一緒の当校は規則違反だぞ!!」

 

 結構遠いのに何を言っているのかよく分かった。そして上下翠に縦に白のラインの入ったジャージを着ている男がこちらに向かって来ているのが目に入る。

 あれはどこからどう見ても“あいつ”だ。

(……!?)

 

「ヤバいっ!沙倉さん逃げて!!」

 

「はい?春佳さんどうしたんですか??」

 

 沙倉さんは、ぼーっとしていたのか状況を理解していなかった。急いがないとあいつに捕まってしまう。

 

「先生に見つかっちゃったんだって! だから、ここは何とかするから逃げて!」

 

「え…でも、春佳さんが……」

 

 沙倉さんは悩んでいた。どうやら捕まると悲惨なことになることを知っているらしい。

 

「沙倉さん早く!」

 

「あ、はい」

 

 彼女の背中を押してあげる。彼女はチラチラとこちらを気にして見てくるが少しずつ遠くなっていく。

 俺は彼女の姿が見えなくなるのを確認すると、これからどう逃げようか逃げ道を考えることにした――

 

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