*
~雫 side~
生徒会室に一人の女の子がいた。彼女は黒い革造りの椅子に腰掛け、窓から覗く空を見つめて口元を少し上げると妖艶に笑った。
机には何枚かの書類が置いてあった。一高校生が取り扱うレベルではないものから、今年の決算、それに何かの情報をまとめた資料。これは自分で作った物なのか、“彼女”にしか分からないように文字がびっしりと書かれていた。
外から視線を戻すとそこにある資料を手に取った。
「…次はどんな子がケンプファーになったのかしらね」
調べによると色は青ではなく、赤とのこと。ここまではこれまでと変わらなかった。敵を倒せば敵が。仲間がやられれば仲間が一定期間の間に追加される。まるで将棋盤の上で動く駒みたいな気分である。そこが気にくわないから、“いつかは”と思っている。
今回もいつもと変わらず追加されたのだけれど、女の子ではなく男の子だった。戦う存在のケンプファーは女の子しかなれないのだろうという自分の予測が外れた。では、男の子は女の子へと変身して戦うのだろうと考えを巡らせていく。
(今まではそんなことはなかったのにいったい何故…)
そんなことを考えていると廊下から足音が聴こえてきた。段々と大きくなっていく音が急に消えた。
ドアの向こうに人の気配を感じたあと、コンコンと控えめにドアをノックする音が静かな教室に響いた。
机の資料からドアの方に目を向けると、彼女は静かに口を開けた。
「入っていいわよ」
向こう側から「はい」と凛とした女の子の声が聞こえたあと、ゆっくりとドアが開いた。一人の少女――葛原とその後ろにキョロキョロ、おどおどと忙しない男の子が生徒会室へと入室してきた。資料通り女子生徒ではなく男子生徒だった。
「いらっしゃい、南くん。 適当にどうぞ、くつろいで頂戴」
「…は、はあ、どうも」
生徒会室に呼び出されたことがよっぽど気になるのか、入ってきてから寸分変わらずソワソワしている。椅子に座るでもなく壁にもたれるわけでもない。
そんな状況を眺める趣味はないので、さっさと本題を切り出すことにした。
「なんでここに呼ばれたか分かる?」
「…さあ? ここにに呼ばれる理由がさっぱりですね。むしろ、会長に呼ばれるとか俺何かしましたか?って聞きたいぐらいだ」
チラリと視線を落として彼の右腕に目を向けたが、長袖を着ているせいで契約の腕輪は見えない。それらしき形がうっすらと覗けるくらいだ。
(これじゃあ、まだこの子が新たなケンプファーと決まったわけではないわね)
見た目だけは素性が分からない、とはよく言ったものだ。会話の中で情報得るプランへと変えることにした。
「私は会長じゃなくて、三郷雫っていうちゃんとした名前があるんだけど」
「いや、それは全校生徒みんな知ってるって…。 まあ、なんていうか…雫先輩って呼ぶより会長の方がしっくりくるという感じなんだけど……」
(あら、雫先輩…ね。そうは呼ばれたことないわね)
基本、用事があって話かけてくる人は名前とかあだ名で呼んだりしない。それは会長であったり、生徒会長さんであったり、少し硬さが取れたとしても三郷さんが限界だった。これは小さい頃から同じことで私を下の名前で呼んでくれるのは、両親と楓だけだ。
補足はしたくないが例外もいて、雫様と呼び、群がってくる男子生徒たちがいたりもする。それについては基本無視と決めている。かまうと逆に増えるからだ。
雫先輩なんていう珍しい呼び方をする男子生徒をまじまじと見つめてしまった。それが原因なのか、目が合うと急にそわそわとしだした。
「えーっと…んで、その会長様が俺に何のようですか?」
「そうね、あなたには聞きたいことが幾つかあるの。 いいかしら?」
「それはやばいことか? 俺はなんもしてないぞ」
「そんな大したことではないわ。日常会話とでも思って気楽に答えてくれればいい」
「まあ、それなら…いいけど」
その言葉を待ってましたとばかりにふふ、と笑う。
南君の後ろに立っている葛原に目配せをした。するとその意味が分かったのか、彼女は生徒会室を出ていく。これで生徒会室には二人だけになった。
そわそわからきょろきょろへと変わった。葛原を廊下に出したことが気になるのか、「そんなに重要なことなのか?」と聞いてきた。
「ええ、あなたと二人で話したいことがあるの」
「ま、まさか…」
何か思い至ったのか耳を赤く染めると、さらにきょろきょろと目が泳ぎ始めた。風邪を引いたとかではない。だとすると思い当たるのは…
「まずあなたが考えてるようなことではないわね」
「それなら、説教確定か…。 思い当たる節がありすぎて見当がつかない……」
彼の落ち込み具合が見て分かった。私ってそんな風に見られているのかしら…とため息をつきたくなる。 この性格のせいか私と話をする生徒は、身構えるか緊張した面持ちでいるかのどちらかなのだ。それは生徒だけではなく教員の方も同じで、でもこれについては良いように使わせてもらっている。その方が話が良い方向に転がせるのだ。
「説教でもないわね。ただ訊きたいことがあってあなたをここに呼んだのよ」
「……?」
(この子起動哀楽がハッキリしてて、なに考えてるか一目で分かるわね)
頭の上が疑問符だらけの少し変わった男子生徒を笑ってしまった。だけど、その微妙な変化には親友の沙倉楓と家族以外はそう気付かないだろうというものだった。
「南君、最近あなたに変なことが起きなかった?」
情報が正しいという確信が出るまでケンプファーという名前を出さず、質問で揺さぶりをかける。単刀直入に「あなたケンプファーよね?」と聞くのが手っ取り早いがもし違った場合、学校中にケンプファーという存在が知れ渡る可能性がある。それだけはなんとしても避けたい。なので、なんとでも答えられる質問をした。それで彼の反応を見ることにした。
「…ん~変化ねぇ……」
何かを思い出したのか、動揺したように見えるがもっと動揺を得られなければ駄目だ。
もう少し際どい質問をして反応を煽ってみることにした。
「そう、例えば…女の子になって焦ったとか」
「えっ…?」
南君はあからさまな反応を示したあと、視線が泳ぎ始めた。こんなに挙動不審な態度をとられたら、誰だってこれは当たりだ、と思うだろう。
(あら、こんなにあからさまに反応したらバレバレじゃない)
彼の面白いぐらいの反応にまた笑ってしまう。
「あら、当たっちゃったのかしら?」
「…雫先輩は超能力者ですか?」
「いえ、あなたと同じ人間よ?」
「…………」
また南君は黙った。押し黙ったというより、何か考え事をしている感じ。今度はどんなことを考えているのかしら、とジっと見つめる。何かを疑うような目だった。
「…あなた意外と失礼なのね」
「だから、人の心読むなって!」
「南君が分かりやす過ぎなのよ。 ほら、また顔に書いてあるわ。そんなわけねえだろ、って」
「んなっ!?」
ついつい彼のコロコロところがる石のように変わる表情が気になり、またからかってしまった。
いけないけないと当初の目的を思い出すと、私は話を戻した。
「そんなことより、本題に戻るけど――」
ケンプファーについての話を切り出そうとしたその時、急に右手の腕輪が赤く光始めた。袖を捲って契約の腕輪を確認すると、腕輪は物凄い勢いで点滅していた。
近くにケンプファーがいると知らせているのだ。目の前にもいるが、この強い反応は敵だ。
「…えっ?…その…腕輪……」
赤く点滅する腕輪に気付いたのか、驚いた表情をすると右腕を指差してきた。すると今度は彼の左の手首辺りが赤く発光した。
そしてそのまま赤い光に包まれていく。光がおさまった頃には戦いの女の姿――ケンプファーへと変身した。
「うわっ!?またなんなんだ急にっ!!」
まだ彼はなり立てなのか自分の姿に驚いている。
目の前で男の子が女の子へと変わった。これで疑いから確固たるものへとなった。今までとは違う、男から女へ、と変身するケンプファーの存在がいるということが。
「あなたに今ここで説明してる暇はないみたいね…。少しここで待っててもらえないかしら」
席を立つとドアの方に歩き始める。南君は状況を把握しきれていないのか、光輝いている腕輪を握っている。
「ちょ…ちょっと待てって」
南君に腕を掴まれると引っ張られた。その勢いで彼と向き合う形になる。
少し南君の方が身長が大きいから見上げるような形になった。
「あら、あなた以外と強引なのね? 驚いたわ」
「…そっちに驚くのか?」
私は「ええ」とだけ答える。
変身するのはケンプファーだから当たり前だし、男だったら女に変身するのは普通なのかもしれない。だが、腕を引っ張られたのには驚いた。
「…じゃあ!俺が女に変身出来ることは内緒にしてくれ!!俺はまだ死にたくないし、地下研究施設行きは嫌だ!」
「あら、あなたケンプファーになると変身するって聞いてないの?」
「ん?…けんぷはー??」
「ケンプファーね。私たちケンプファーは変身すると性格が変化したり、姿形が多少変わったりするのよ」
個人差はあるみたいだけど、と言葉を付け足した。
「じゃあ、雫先輩も変身したらどう変わるん?」
「私はあなたみたいに姿は変わらないけど――」
見世物ではないが彼の場合は言葉より、実際に目にした方が理解が早いだろう。
契約の腕輪に力を込めると赤い発光が強くなり辺りを照らした。
「やっぱ、まぶしっ…」
「こんな感じかしら」
私は髪を右手で靡(なび)かせた。黒い髪の毛の間から銀色に輝く髪がさらさらと宙を流れる。
内側が銀色という見て分かる変化があるのはここだけなのだ。あとはこれと言って代わり映えしない。あえて言うなら、胸の弾力が変わるくらいかしらと口には出さないが数に入れておいた。
「…すごい、綺麗な銀髪……」
私の日に当たってキラキラと輝く銀色の髪をジッと見つめて、何回も、「スゲェ」と連呼している。たまに角度を変えては同じことを口にする。
「そうかしら?」
(そんなこと考えたことなかったわね…)
内側だけじゃなくて、だったら全部そうしてくれればいいのに、なんてことは考えたことはあったが“すごい”とは思わなかった。
口ではつっけんどんな言葉を口にしたが実際は少し嬉しかったりもした。そんな時、不意に手が伸びてきた。
「南君は何をしようとしてるのかしら?」
「あっいや、つい髪を触ってみたくなって…」
マジすんません、と一歩下がった。
(私…さっきから南君の行動に乱されてるわね)
(…はあ)とため息をつく。下――恐らく図書館にいるであろう敵と戦わなくては…でなければ先輩は…と考えたありで私は考えるのをやめた。戦闘中は如何なる考え事も命取りになるからだ。
「じゃあ、私は行くわね」
「何処に?」
「敵…のところよ」
「何っ!?遂に宇宙人が攻めてきたのか! なんてことだ」
「南君は何かを勘違いしてるわ」
「…へっ?……」
(ホントに何も聞かされてないようね…)
「まあ、いいわ。ついてきなさい。でも、一切手出しないことが約束よ」
「…おっ、おう……」
向きを変えるとドアを開けた。そして、下の階の図書館へと続く階段へと向かった――
*
~ナツル side~
俺はクラスまで自分を呼びに来た、三嶋紅音という女の子と彼女の要望により図書館にいる。
ここは校舎と独立している建物で、敷地内の男子部女子部の境界線上に建てられている。男女混合でしか出来ないものは全てこの建物にぶちこまれている。例えば生徒会室なんてそうだ。あれの運営には男女どちらも必用なので、この建物に加わった。
ここは一種の憩いの場だが、出入口は当たり前のように男子用と女子用がある。その上にガードマンによる出入りのチェックが行われていて、そうそう男子が女子部に行くのは無理だ。行く場合には学校からの許可カードまたは委員カードが必用となる。
紅音と俺は勉強用の幅の広い机に、向かい合わせになって話し合っていた。
「んで、以上のことをまとめると――
・ケンプファーの敵はケンプファーである。
・俺と紅音ちゃんは味方である。
・近くにケンプファーがいて、引きずられて変身するか、または相手が戦う気があると変身する。
・慣れれば自分の意思で元に戻ることが出来る。
・紅音の武器は『銃』(ゲヴエアー)で俺の武器は『魔法』(ツアウバー)でその他に『剣』(シヴユエアト)というものがある。
・武器の名前に使われている言葉はドイツ語である。
・一番重要であろう敵と戦う理由については何も知らなくて、ぬいぐるみに聞いても教えてくれない。
――か…」
「はい…大体そんな感じです」
(ん~紅音ちゃんのお蔭で色々と分かったけど…なんか引っかかるといえば引っかかるな……)
俺は聞いた内容をもう一度頭の中で整理することにした。
「あの……わたし喋り過ぎましたか?」
「え?」
「ごめんなさい、出しゃばっちゃいました。わたしが知ってることを言わなきゃって思ったらこんなに喋っちゃって……初対面なのに馴れ馴れし過ぎですよね?」
そう言うと紅音はまた泣きそうになり、目に涙を溜め始めた。そんな彼女を見て俺はあわてふためく。
「あ、そうじゃなくてちょっとさっきのことを頭ん中で整理してたんだ。こっちこそ、いきなり無言になってごめん」
「そうですか、良かった…です。 わたし男の子と話すことないから、緊張しちゃって」
「大丈夫。俺もそんなもんだし。 それに気にしてないから」
紅音は今のを聞いて、心底ほっとしたような表情をしている。とても朝に銃口を向けてきて罵ったり罵声を飛ばしたりしていた人と同一人物には見えなかった。
「それでですね、その……あの……」
もじもじそわそわ。視線は一点に合わずきょろきょろと挙動不審。
トイレに行きたいのだろうか。俺もここに来るとトイレが近くなってしまう性分なのでその気持ちはよく分かったりする。
行きたかったらどうぞ、と口にしようと思ったら、先に紅音が喋りだした。
「せ…瀬能さん!私の呼び方はこれから、あ…紅音って呼んで下さい」
「どうぞどうぞって、…へ?」
急だったことと言われたことが違ったせいで、間抜けな声が出てしまった。
「あ…やっぱり、失礼ですよね失礼ですよね。まだ知り合ったばかりですから下の名前で呼び会うのはおかしいですよね……でも、やっと仲間が出来て嬉しくて、もっと仲良くなりたいから下の名前で呼び会いましょうなんて言ったら、馴れ馴れし女の子だなって思っちゃいますよね。ごめんなさい忘れて下さいっ!!」
彼女はほぼ息継ぎ無しで、一気に喋りきっていた。途中、お蔭でそんなことないよ、という言葉すら挟む余裕がなかった。
机に顔を埋めてわあわあ泣き出す女の子は初めて見た。テレビや映画ではよく見るシーンだが目の前で繰り広げられるとすごいな…とついつい感動してしまった。だが、そろそろ周囲の生徒達がこの状況を変に思い注目し初めてきたので、この変にしておかないとヤバいかもしれない。
仕方ないので自分が唯一知っている解決策、「慰める」を実行することにした。
「いや、いいから、その、顔を上げて?えと、紅音ちゃん?」
下で呼んで良いのか分からなかったが、彼女がこうなったのはこれが原因な訳だからこう呼ぶしか手はなかった。
「うえぅ…今……なんて?」
「紅音ちゃんって。俺もどう呼ぼうか悩んでたから丁度良いよ。だから、俺のこともナツルでいいからね」
「分かりました…ナツルさん」
彼女は何とか泣き止んだ。作戦は成功だ。これで周りからめちゃくちゃ冷たい目で見られる刑には解放されるだろう。この世の中もそうだがこの星鐵学院で女子を泣かすと他の男子からひどい目で見られるのだ。俺もその場面に出くわしたら同じことをするだろう。
周りを見渡すと幸いここには勉学に励む生徒か、文学好きな女子生徒しかいなかった。
ちらりと壁にかけられた時計に目を向けた。時間的にそろそろ教室に戻らないといけない頃合いだった。
(そろそろ教室に戻るか…)
話も丁度良く、きりがいいので俺は席を立った。
「もう時間的にヤバいから帰ろうか。授業遅れてもヤバいだろうし」
俺は気にしないたちだが紅音は真面目そうな女の子だ。遅刻はしたくないだろう。
「あ、はい。わたし、ほとんど図書館にいるんです。何かをあったら話しかけて下さい」
「ありがとう……あ」
歩き出そうと向きを変えた瞬間に今朝、ハラキリトラに言われたことを思い出した。これは良いタイミングかもしれない。自分一人では流石に取り繕えない問題なのだ。
思い至れば吉日。さっそく紅音に訊いてみることにした。
「いきなりで悪いんだけど、ちょっといいかな?」
「なんでしょう……?」
「ちょっと付き合って欲しいだ」
「え…あの…付き合って……って……」
「うん」
(女の姿の時の服が欲しいんだ。いつどこで戦闘が起きるか分からないからな。)
なるべく外で変身して戦闘なんてことは避けたいが、今朝のことがあるのでどうなるか想像がつかない。
そんなことを考えていると、頬を朱く色付けした紅音が口を開けた。
「でも…ナツルさんと会ったのは今日が初めてで…その……」
(ん?…言葉足らずだったかな?)
もじもじしている紅音にさっきより詳しく「付き合って欲しい」内容について伝えることにした。
「いや買い物にね、付き合って欲しいんだ。 急遽、必要なものが出来ちゃってね…俺一人じゃ心細いんだ」
どちらかと言えば、どれが必要か見繕ってもらう感じなのだがそれは後で伝えればいいことだろう。放課後とかお店に向かう途中だとか。
彼女は意味が分からなかったのか初めきょとんとしたが、しばらくして意味が分かったのかがっくり肩を落とした。
照れた顔をしたかと思ったら驚いた顔して、そのあとショックな顔って…まるであいつみたいだな。
「いや、当たり前だけど俺…女物の服がないからさ、何買えばいいか分からなくて…。 出来れば紅音ちゃんに見繕ってもらえると助かる」
「そうですか…私で良ければ、お手伝いしますけど……」
「ありがとう、頼むよ。こういうこと頼めるの紅音ちゃんしかいないんだ」
「…わたしだけ?」
「そうそう、紅音ちゃんだけ」
「そうですか!じゃあ、頑張りますね!!」
(いつの間にか紅音は落胆から立ち直ってるけど、これでひとまず一安心だな)
これで数ある問題の中の一つが解決された。まだ、腐るほど残っているが今は見ないことにする。
「じゃあまたね、紅音ちゃん」
向きを変えて背を向ける。出口のゲートに向かって歩き出そうとした瞬間、突然視界の隅が青く光った。
まさか――と思い後ろを振り向く前に後頭部に固くて冷たいものがゴリッと音が出るぐらい押し当てられた。
「よー、クソ野郎。あたしをちゃん付けて呼ぶとは死にたいらしいな」
紅音はあのいがらっぽい声でそう言った。
俺は彼女を刺激しないようにゆっくりと両手を挙げた。これも同じように刺激しないようにゆっくりと振り返ると、そこには今朝の猛犬女バージョンの紅音が銃を突き付けていた。
「紅音ちゃん、か…ちっナメた口利きやがって。ちゃん付けで呼ばれるとか虫唾が走るぜ」
いきなり呼び捨てはダメだろと思ってのちゃん付けだったのだが、当人にとってはどうやら火に油を注ぐだけだったらしい。
トリガーを引いて、死神を吐き出されたら嫌だが苦情は言うことにした。
「お前が下の名前で呼べって言ったんじゃないか…」
「あたしがこの世で我慢出来ない2つのことに、あたしをちゃん付けで呼ぶことが入ってんだよ。だからなナツル。仲間には親しみを込めて、呼び捨てでお互いを呼び合うって相場で決まってんだ」
「…そんなこと決まってたのか?」
「文句があるのか?あるならハイと手を挙げろ。 そしたらどたまに鉛弾をプレゼントして、行きたい所まで吹っ飛ばしてやるぞ」
「いや、別に文句はねえけど、味方同士でも仲間とは限らないかもしれないだろ」
「あたしもそう思いてぇよ。けどな、あたしの頭の中でおめえと組めってささやくんだよ。だから、仲間だ。分かったか?」
「ずいぶん適当だな。」
そんなの勘じゃないか。それとも頭の中でささやくぐらいだから、何処かから電波でも受信してんのか?と思ったが口には出さない。拳銃に撃たれるのはごめん被る。
「勘ねぇ…」
と俺はポツリと呟いた。
(確かにそのぐらい信じないとやっていけないのかもしれないな…)
そんなことを考えていると不意に、その勘とやらが俺にも働いた。
「紅音。なんで俺たちは変身した?」
「あ?」
「お前が俺に教えてくれたことを思い出したんだ。自分で変身するやり方と釣られてなる場合、あと戦う気がある敵が近――」
図書館の中なのに、突風が吹いた。
「三種類なんだろ?」
何かが目の前を横切る。それは瞬きする暇もない一瞬の出来事だった。大きな音がして、目の前の机が鋭く抉られる。
(…何だったんだ!?)
その速さに紅音は反応し、銃を構えてトリガーを引く。
アメリカ製のガバメントそっくりなそれは物凄い速さで弾丸をいくつもはき出していた。だが、放たれた弾丸は全て何処かに消えていく。
「なんだ!? 今のは――」
「馬鹿!!伏せろナツルっ!」
そんな紅音の声が図書館に響いた――