「別にいいや」、という方は後半からどうぞです。
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~春佳 side~
「あ、沙倉さんがいる・・・けど、あれヤバくね?」
そろそろ眠くなってきた俺はボーっと一階を眺めていた。そんな時、眠気を一気に吹き飛ばすものが目に飛び込んできた。知り合いを見つけた、と思った瞬間、手を伸ばして触れた本棚がグラリと傾いた。そのまま重さも加わって勢いを増した棚が本をばら撒きながら倒れた。
巻き込まれそうにあった女子生徒――目付きが射殺さんとするかの如く鋭く、片手に拳銃を装備しているので殺人犯(仮)としておく。殺人は犯してないだろ、というツッコみは無しな方向で。もう一人は綺麗な顔をしているけど、動きが可愛くないから残念少女(仮)とする。
その二人組が沙倉さんの存在に気が付いた。ここから少し距離があるせいで声までは聞こえないが友好的とは言えない雰囲気だった。
「おいおいおい、絶対的ピンチじゃないのか?あれ。 雫先輩は気付いてない感じか?」
きょろきょろと辺りを見渡したがどこにもいない。なんですぐ見つかんねんだよ、なんて文句を一つでもつきたい所だが、戦いの最中に簡単に見つかるような場所に隠れているわけがない。FPSでそんなところにいたら、即バンだ。
そうこう心の中で文句を垂れている間も時間は進むわけで、どんどんと状況は悪化の道を進んでしまったらしい。殺人犯(仮)が沙倉さんを今にも撃ちそうな勢いで銃口を向けていた。
「あいつホントに撃つんじゃないだろうな!?」
そんなもんをくらったらトマトを握り潰したみたいな惨劇になる。おお・・・考えるだけで怖い。むしろ、美人が減るのは国家問題だ。ストライキが起きちまう。沙倉さんびいきのナツル辺りに。
カメラのズーム機能並みにトリガーにかけた指が絞られて行くのが見えた。
イメージ:バーン→当たる→ビチャッ→倒れるからの図書館の悲劇。
「あいつがいるのか!!」
行くとこ向かうところで事件が起きる、通称死神の名探偵。
「って、そんな場合じゃなかった!! 間に合うか!?」
こんな時でも頭の中がスッキリとしているせいか、いつもより余計なことを考えてしまった。
(・・・顔を隠して行こう)
そんなことを考えたのはなんでかなんて分からない。頭の中で誰かがそう言った。それが誰かだなんて考える余裕はもうなかった。運が味方してくれているのか、机の上にはマフラー。そして、マスク(使用済み)。
この二つのどちらを手に取るかなんて決まっている。むんず、と黒いマフラーを掴むと俺は走り出した。
「やめろお前ら!沙倉さんは関係ないんだ!!」
そう叫ぶと同時に着地。そして転んだ。そりゃ二階から一階へと繋がるふき抜けから飛び降りたら、着地に失敗するもんだろう。むしろ、転ぶだけですんだことに感謝。
向こうで「誰だっ!」と叫んでいる人がいるが、今本棚に激突して俺は倒れている。それも天地が逆なのですぐには出ていけない状況だった。
そんな俺の状態を彼女らが知るわけもなく、「三森すずこみたいな声しやがって」どうのこうのと変ないちゃもんをつけられた。俺は急いで立ち上がると姿を現した。
(あ、マフラー付けてない・・・)
急いで首やら顔に巻きつけると、「てめえ、何のようだ?」と訊いてきた殺人犯(仮)に俺は答えた。
「…沙倉さんは関係ない」
短くそう口にすると二人に目を向けた。俺のこれからどうしようか、という脳内会議中みたいに向こうも何かを話し合っている。片方は拳銃を片手に罵倒。もう片方は熱弁。よく分からない状況だ。TVで言うところのショートコントを見ている気分になる。
そんな時、殺人犯(仮)と残念少女が転がるように何かを避けた。「くそっ!嵌められた!!」と聞こえてきたことから雫先輩の短剣が飛んできたらしい。沙倉さんがピンチってのに気付くの遅いと文句を言ってやりたい。言えないけど。
弾丸で短剣を弾き落とすという神業に驚きつつ、床でクネクネとトカゲの尻尾みたいに動く短剣を眺めていると
「てめえも陰険野郎の仲間か?」
と殺人犯(仮)が訊いてきた。
「……………」
ここでの“陰険野郎”というのは恐らく雫先輩のことだろう。仲間か、と聞かれても俺はよく分からない。敵とか味方とか今日初めて知ったことだ。それも数十分前に得た情報。だから、誰が仲間だとか言われても納得しづらいし、訊かれたって答えようがない。
「…沈黙か。 じゃあ、肯定ってことでいいんだな?」
質問に答えなかったせいで進んではいけない方向に分岐した気がする。
昔、ある奴がギャルゲーについて語っていたのを思い出した。
『ルート分岐でミスすると、バットエンドになるから気を付けろよ』
そんなどうでもいい昔話を思い出していると、俺に向けられていた拳銃がキラリと輝いた。流石に二回目の沈黙はマズかったのかトリガーを引く力が強まっていた。
(これもマズい!!)
沙倉さんのときも危険なオーラを纏っていたが今回もそれと同じものだった。
彼女を助けに来たのに誰かさんのせいで沙倉さんは気を失ってしまっていて、助けようにも銃口は俺に向いている。
このまま雫先輩の助けを待つより、逃げた方がいいと判断すると身体の向きを変えて俺は走り出した。
「はっ!!逃がすかよ。 今更、尻尾巻いて逃げようたって、そうはさせねえ」
後ろから叫び声と銃弾が来る。後ろを振り向かなくても迫ってきていることが分かった。
このままだと当たるっ!そう思ったとき横から雫先輩の声が聞こえてきた。
「その勢いのまま、上にジャンプしなさい。そうすれば躱せるわよ」
「えっ!?」
声のした方を向くといつの間に近くにきていたのか本棚の影に隠れるように雫先輩がいた。信じなさい、とでもいう目をしていた。
(そんなので避けられるか分からないけど、一か八かでやってやらあ!!)
今までどこに、とか色々訊きたいことは山ほどあるが今は雫先輩の言うことを信じることにした。
「間に合ええええっ!!」
俺は力強く地面を蹴った。
「なっ!?」という驚きの声が聞こえたときには、俺は一階の天井に着きそうなぐらい飛んでいた。
「何だよこれ…」
たかが思いっきり飛んだだけで、数十メートルもある高さの天井まで行くなんて俺が驚きたいぐらいだ。そんなことを考えたのも束の間、立て続けに攻撃してきた。一、二、三とどんどん迫ってくる。
(おいおいおい、空中でどう避けろって言うんだよ!!)
勢いで壁に当たりそうになるのを逆に逆手に取ると、次は天井を思いっきり手で押した。これまたさっきにも劣らない速さで下へと落ちていく。その間にも俺を狙った弾が身体の近くを通過していった。
「うわっ、こわ!!」
死にものぐるいで避けると俺はまた走り出す。
どこへ――いや、どこに逃げて隠れるか。そればっか考えながら俺は必死に足を動かす。また一発、二発と俺を狙って飛んでくる。それを右や左、飛んでしゃがんでと避けていく。
本棚と壁と床を犠牲に俺は段々この身体のことも分かってきた。
(よし、これなら逃げられる!!)
ロビーへと飛び込んだ。同時に奥へと隠れる。そんなときカチリという音と共に鐘の音が響いてきた。
「……昼休み終了の…チャイム?」
俺は身体の向きを変えるとロビーの先を覗いた。昼休みが終わったからといって戦いが終わるとは思えない。
(それで、先輩はどこだ?)
まだ隠れているだろう雫先輩を探す。殺人犯(仮)と同じようにまだ戦う気があるかもしれない。
「ここからじゃ、あんま見えないな……」
「何きょろきょろしているの?」
「っ!?」
少し移動して様子を見ようとした瞬間、誰かに声をかけられた。後ろに人が来た気配がしなかった。
敵か?と警戒しながら俺はゆっくりと立ち上がった。ドキドキしながら後ろを振り返る。
「いや、ちょっと人探しをですね……って先輩っ!?」
目の前には雫先輩が立っていた。
いつの間に!?、という感じに俺は驚いた。だけどその瞬間、ぽっとひらめいた。近づいた気配無しの背後=瞬間移動の方程式が。
前々から生徒会長はおかしいと思っていた。高校生にそぐわないぐらい抜群にキレる頭や運動能力にしても。それより教師はさて置き、校長すらも掌の上で踊らされている、と彼女についてまとめた情報誌に書いてあった通り色々凄過ぎる。
「やっぱり瞬間移動が出来たのか……だから家の場所が…」
「そんなこと出来ないわ。 それより最後のはどういうことかしら」
「んや、なんでも」
家の場所が、というのはあることの見返りに東田からやらされた仕事のことだ。
あいつ曰く――「特別任務だ。S級だから、気を付けろ――いや…気付かれるなよ? お前からの吉報を待っているやつらがいるんだ」なんて言っていた。
「そ、それよりまだやるのか? 沙倉さんを助けないと――」
「それなら大丈夫よ。楓のことは悪いようにはしないはずよ」
「でも、さっき沙倉さんのことを撃とうとしていたぞ? あの赤髪の方の奴が」
「それも大丈夫。もう片方の子が楓の熱烈なファンだから。 それより――」
さっきの俺の話をそこまで気にしていないのか、変わらない表情を向けると雫先輩は腕時計へと視線を落とした。そして、右手を振ると手に持っていた短剣がかき消すように無くなった。同時に体が俺と同じに赤く光る。
命拾いしたというべきだろうが、話を途中で切られると聞きたくなるのが俺の性。
「…それより?」
「教室に戻らないといけないわ」
それを聞いて俺はガクッと転びそうになった。
「戦いはどうすんだ?」
変身を解いた雫先輩に俺は、率直な質問をした。沙倉さんはあの残念少女がなんとかしてくれるとして、もう一人の方は好戦的に見えた。そんな簡単に終わりそうにないと思う。
それに上から見ていた感じでは、相手は二人組なのにこっちが優勢だった気がする。倒していいのか分からないがもう一押しで勝てただろうに。どうすんだろう。
「私は一応優等生で通っているの。だから、授業遅刻は出来ないわ」
「あ、確かに…生徒会長が遅刻はマズイわな」
「それじゃ、またね南君。」
「……あ、はい」
雫先輩は身をひるがえすと裏口へと歩いていった。その後ろ姿はとても凛としていてドキッとした。
(なんだこれ?)
誰でも一回は憧れる凛とした姿なのに誰にも自分の一定の距離の中には入れず、他人とも深く関わらないと何故だかそう感じさせるものがあった。言いたくはないが俺の予想は的外ればかり。だけど、今回ばかりは――
キーンコーンカーンコーン
「あ、やべ……授業始まっちった」
考えごとをしていたせいか時間が思ったより経っていたらしい。俺は急いで裏口へと向かった――