長々と謝辞を前書きに書くわけにいかないので、どうぞ↓へっ!!
~春佳 side~
「はぁ…ホントついてない……」
(やっぱり、正月のおみくじで出るはずのない大凶を引いたからかな…)
俺は今、図書館の中にあるトイレにいる。
これはお腹が痛くてここから出られないだとか、昼休みの食事ををトイレで済ますトイレ族でもないと言ってこく。それにまず今は昼休みが終わり授業がとっくに始まっている時間だ。
「…はあ」
もう何度目になるのか分からないため息をついた。こう何度もため息をついていると幸運が逃げ行く、という迷信なんて考え泣くなってくる。
何で俺がこんな所にずっと居るかというと…未だに変身が解けていないからだ。だから、教室に戻るわけにも家に帰るわけでもなく、個室トイレ中で元に戻るのを待っているのだ。
「あぁ~…いつになったら元に戻るんだよ~……」
(――っ、あの時は一瞬で戻ったじゃんかよー…)
俺はこのどうしようもなくヤバい状況に頭を抱えた。因みに今いる場所がその頭を抱えたくなる理由の4分の3を占めていた。何故ならここはトイレはトイレでも女子トイレなのだ。
「じゃあ、なんで男子トイレの方に入らなかったの?」と疑問に思うかもしれないが、最初は普通に男子トイレに入ったのだ。でも、運が悪いことに男子生徒がいた。そこまでは俺としてはマシな方だったのだが、まさかのトイレ中の男子生徒と鉢合わせをしてしまった。
当然と言うべく、俺と目があった相手はあわあわとしだした。それはもうすごい慌てっぷりだった。お化け屋敷で一緒に入った奴が怖がっていると自分は怖くなくなってしまう、とはよく言ったものだ。俺は冷静になに慌ててんの?と訝しんでしまった。しかし、場所と今の姿を踏まえて思案するとすぐにあることに思い至った。
(…あ、今の俺って女の子なんだっけか)
「ごめん、間違えたみたい」と謝るが変身してるときは、声も女の子特有の高い声に変わるみたいなので全然説得力が無かった。むしろ、この状況ならもっと驚く筈だが、身体は女の子でも中身は男の子だから何ともない。いつも通りの風景にその環境。“恥ずかしがって焦る”という変化すら起きなかった。
男子トイレに来れば一日一回は誰かと出会う。それか連れションとかいって誘われたりして一緒に来たりするから、先に誰が居ようとなんてことはない。だが、実際はそんな感じになるわけもなく、小便をしていた男子は数秒間フリーズした後、手も洗わず何かを叫びながら走り去ってしまった。
そんな男子の通称――社会の窓が開いていたのに気付いた俺は「社会の窓が全開だぞ~!」と伝えたが届いたかどうかは謎だ。あとから考えてみれば、男子トイレで女子と鉢合わすことも見られることも、はたまた「そこ空いてるよ」と教えられることも大分恥ずかしいことかもしれない。
「まあ、いいか。もう会わないだろうし」
俺としてはそんなことはどうでもよく、個室に入ろとドアノブを回した。壊れているのかドアノブが回らない。隣の方でいいか、一つ横にずれるとドアノブに手をかけた。鍵が付いてないことに疑問に思いつつ開けると、モップやらホースやらゴム手袋etc。掃除道具がしまってあった。どうやらそこは掃除用具置き場らしい。
ならば他を探すしかない、ということになるわけだが、図書館のトイレには個室は一つしか無かった。
「…ありえねえ……なんで一つしか完備されてないんだよ。 古本の臭いでトイレに行きたくなる奴がいるってことを知らないのか?」
文句をトイレに行ったところで意味はない。これで男子トイレで隠れて時間をつぶすという計画が不可能となっわけだ。
そこで俺はしょうがなく女子トイレへと何も考えずに足を踏み入れるわけなのだが…入ってから問題が発生したことに気付き今の状況に至っている。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい……)
もし今元の姿に戻ったら男の姿でこの女子トイレから出ないといけなくなる。当然男子が女子トイレから出てくることはまずあり得ないことであり、あり得るならトイレの修理屋か盗撮犯しかいない。だが、俺は一高校生で修理屋ではない。だから、見付かった場合は確実に盗撮犯決定だ。変態または勇者というレッテルを張られるだけで済めばいいが、世の中そんなに甘くない。
それだけはこれからの未来のため何としても避けたい。拳をぎゅっと握ると立ち上がった。
「――んねっ、きゃはは」
遠くから俺の人生終わりを告げる死神の声が聞こえてきた。女子生徒たちは会話に花が咲いたのか、きゃあきゃあと騒いでいる。それがだんだんとだが大きくなっていることに俺は気が付いた。
(こっちには…来るな、来るなよ、来ないで下さいよ? お願いだから来んなよっ!?)
そんな時災難は続いてやってきた。神様は俺を完膚無きまでに追い詰めたいらしい。時に神様は「試練だ」というテンプレを行使して虐めてくることがある。ドSなのか、お前は!!と文句を言ってやりたい。
死神の団体の接近と同時に誰かさんの3分タイマーのように腕輪が点滅し始めた。ピコピコと赤く発光している。
「――――っ!?」
なんでこのタイミングなんだよっ!?と叫びたいが叫べない。ここでそんなヘタをこく奴がいたらそれは縞の海パン一丁のあいつと同じだ。終わりがやって来ちまう。
点滅する速さは時間とともに速くなっていくようで、腕輪が常時赤く発光しているまで来てしまった。このままいくとこの光が身体を包んで俺の性別を女の子から男の子へと変えてしまう。本当ならここは喜ぶところなのだが状況が状況。英語で言うなら――
(…って!!そんな冷静に考えてる場合じゃない!! なんとか、止まってくれ!お願いだっ!)
ここで止まらないとこの変身時に輝く光を目にした女子生徒が不思議に思い、様子を見にトイレへと足を踏み入れるかもしれない。そうなったら俺の人生は終了の鐘が鳴ってしまう。
身体にぎゅっと力を入れた。イメージとしては溢れる力を抑え込む感じだったが、何も変化は起きず腕輪は未だに赤く光っている。
「ちょっと、あたしトイレ行ってくるね」
「うん、分かったー」
死神の団体様は俺の願いとは全くの反対に、その内の一体が断崖絶壁の崖下へと突き落とそうと近づいてきた。
(お前らはどーしても俺の人生を終わらせたいのかっ!!)
こんな短時間なのに色々なことを考えすぎて、胃がきりきりと痛みだした。そして額からタラリと汗が流れ落ちていく。
「くそっ!」
個室トイレの中に立て籠るか、又は覚悟を決めて個室トイレから出るか。これは二択問題だ。テストなら「じゃあ、こっちで」と安易に選べるが今はそんな決め事ではない。
俺は覚悟を決めて後者を選ぶことにした。手を伸ばすと掛けていた鍵を外した。
「きゃっ」
急にドアを開けて出たせいで、女の子とぶつかりそうになった。バランスを崩したのかその娘はよろめいた。俺は咄嗟に手を前へと伸ばすと女の子を支えた。
手を出した場所が悪かったのか、抱きかかえるような形になってしまった。
「あ、ごめん。 …大丈夫??」
「…あ、はい」
助けた女の子とバッチリと目が合う。驚いているのか心ここにあらずって感じだ。
俺の方はというとぶつかりそうになったことの驚きは30%。残りの70%は腰の辺りなのに両手に伝わる柔らかな感触と鼻を甘く擽る匂い。もし今が男だったらニヤけていたかもしれない。
「…あ、ありがとうございます……」
「いや、こっちこそごめんね…って!?」
右手の腕輪を見ると赤い光が膨らみ初めていた。急いで右手を隠すとそのまま下がって行く。そして、彼女が見えなくなった瞬間俺は猛ダッシュで走り出した。
変身して強化された脚力が呻る。どんどんトイレから離れていった。そんな時、「あ、あのっ!」っと後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきたりもしたが、俺は無視して走り続けた。
階段ダッシュをする野球部も驚きの速さで二階へと上がると、俺は変わらない速さで生徒会室に向かってまた走る。
生徒会室のドアを閉めるのと光が身体を包んだのは同じだった。変身が解け、女から男へと戻る。
「っ……危なかったぁ…」
視線を落として身体を見ると、ろくに手入れをしていないせいか型崩れしている見慣れた男物の制服があった。そして変身後のように厚くない胸板に、スースーしないズボン。いつもの俺だ。
はあ、と安堵した。ぎりぎり――むしろ危機一髪だったからか、いつもよりため息が長かった。疲れたから近くの椅子に腰を降ろそうとした瞬間、後ろから人の気配を感じた。
(…まっ…まさか!?……誰かにバレた?)
「南君、何が危なかったのかしら?」
振り返る前に向こうから俺に話しかけてきた。それも相手は俺の名前を知っている。ここから予測される最悪の結論は――
おそるおそる身体の向きを変えていく。その娘は他とは二回り以上豪勢で威厳ある椅子に座っていた。
「なんだ…先輩か……」
そこには生徒会長の三郷雫がいた。仕事の途中なのか何かの資料を片手にこっちを見ていた。
さっきとは別格に違う書類の大きなため息が出た。ため息をつくと幸せが逃げるとはよく言うが、こうも早く訪れるとは思っていなかった。
「いきなり生徒会室に入ってきて、ため息つくなんていいご身分ね。 暇なら仕事を手伝って欲しいぐらいだわ」
そう言うと雫先輩は視線をまた資料へと戻した。彼女の横には生徒会へと提出された紙が山のように積まれていた。噂によると彼女は毎日膨大の量の案件を処理しているらしく、その中にはこの星鐵学院の書類も含まれていて内容の判断も一任されているらしい。どれだけの権力と能力を手にしてんだ、と思うかもしれないが彼女は普通に、真面目に生徒たちのために動いている。
そんな生徒会長でもこの量を(恐らく)毎日やっていたら、流石に頭に血が上って怒るかもしれない。
「いや、違うんですって! 変身が解けるまでトイレに居ようと思ってたけど…元に戻りそうな時に女の子が来て――」
「つまり…南君は、私に『俺は変態なんです』と告白しに来たの?」
「いやいや、違うんだって!それには海より深い理由がっ!」
雫先輩に事の経緯の何故男子の方ではなく、“女子トイレに居たのか”諸々の理由を説明すると「そんなことは分かっていたわ」と簡単に返された。思わず俺の思考が停止してしまったぐらいだ。
分かってたならそう言って欲しい。必至に弁解した自分が馬鹿みたいに思えてくる。それもそんな俺に「どうしたの?」と訊いてくるところが白々しい。
「それは先に言って下さいよ…」
ため息交じりで文句を言った。一気に緊張の糸が切れて、椅子に座り込んだ。
雫先輩は不適に笑うと「南君が必至に弁解しようとしていたから」と言った。こっちとしてはこれからの学校生活がかかっていたからいい迷惑だ。まあ、分かってくれたようだから首の皮一枚って感じだ。
「それより…あなた、何人に見つかったの?」
「え?」
「何人に女子生徒に変身時の姿を見られたのかしら?」
「……………。」
「黙っても無駄よ。諦めて教えなさい?」
「……そんなこと言ったっけ?」
「それは苦しい言い訳ね。あなたがさっき私に説明してくれたじゃない。 女の子とぶつかりそうになって――って」
雫先輩は少し間を開けてから「嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさい」と付けたした。
(ここで“4人に見つかりました”なんて言った暁にはヤバそうだな…)
俺は口の中に溜まりに溜まった唾を呑み込むと、檸檬から汁を搾りだすように頭から言葉を搾り出した。
「ふ、二人…かな?」
今、俺が口にした数を疑っているのかじっと見つめられた。どこまでも透き通っていて、綺麗な瞳だった。そんな目で覗き込まれたら速攻ゲロリそうだ。
最初は俺も負けじと対抗してじっと見つめ返していたが、気迫に負けてつい俺は目線をそらしてしまった。
「……………。」
「…二人以上のようね」
「…はい、間違いありません」
彼女にずっと見つめられると目線をそらしてしまうらしい。いや、それを言うなら女の子と目が合うと目を逸らしてしまうだ。
他にも理由があったりするが俺の沽券のために弁解だけさせて欲しい。この目の前に座る女の子、「あなたの嘘はお見通しよ」とばかりにあの目で睨んでくるんだ。心を見透かされてる気がして怖かったんだ俺は。
もうバレてしまった以上はしょうがない。これ以上は俺はチキンハートが耐えられない。さっさと自白してゲロることにした。
「…4人には確実に見られたかな」
そんな俺の言葉に雫先輩は呆れて、軽くため息をついた。
「あなたのせいでケンプファーの存在が露呈されるかもしれないわね。そんなことにならないといいけど」
「それより俺達がなれる“ケンプファー”ってのはなんなんだ?」
最初っから気になっていたことを俺は訊いた。
昼休みの戦いを思い出す。雫先輩が倒そうとしていたのは、どう見ても人間だった。敵は二人組でどちらもうちの学校の制服を着ていて、女子生徒だった。
「ぬいぐるみから敵は青だって聞いたぞ? でも、相手が人間だなんて聞いていない」
俺は自分でも驚くぐらい声に感情が籠っていた。それに気付き落ち着くことに専念するが、人間を倒したら人殺しもいいところなので、なかなかそうもいかない。
「ちょっと、落ち着いてくれないかしら。回りに聞こえてしまうわ」
「そんなこと言われたって――」
雫先輩は俺の発言を遮るように手を上げると、なだめるかのように静かにこう言った。
「南君が思うことは、ごもっともな意見よ。私もそれについては納得がいってないわ」
「じゃあ、なんで…」
「理由は言えないわね。それ以外のケンプファーのことは教えてあげられるけど」
「……………。」
どうやら俺が欲しい答えはくれないらしい。ムスッとした顔をしていたのか、「あら、不満だったかしら?」と訊いてきた。そして続けるように「ケンプファーのことについて少しでも知っておけば、今日みたいなことにはならないと思うけど、どうする?」と問いかけてきた。
俺はまた黙って考えた。雫先輩の言うことは確かに正しい。
本当に戦うしかないなら相手を。そして、変身の仕方や戻り方。雫先輩の短剣やあいつが手に持っていた拳銃みたいな武器の出し方だって知らなくてはならない。
俺は何も知らない。知らなくてはならないことは山程ある、というのに。
決心を決めると俺はぎゅっと閉じていた口を開けた。
「…じゃあ、教えてくれ。ケンプファーのことを……」
そんな俺の一言に雫先輩は短く「いいわよ」と言うと不敵に笑った。
「でも、それには――条件があるわ」
「…へ?」
シリアス展開の急な終了につい変な声を出してしまった。こういう時の女の子の条件と言えば、アレだったりするが雫先輩は至って真面目(いつも通り)の表情をしていた。
(…何を考えてんだ? こういう時言いそうなことというと――)
色々浮かんだのを訊いてみることにした。
「…『ギャグで私を笑わせてごらんなさい』とかのムチャ振りとか、『私の奴隷になりなさい』とかは……ない…、よな?」
「あっ」と言葉を言い終わる頃には、そうなるかもしれないという恐怖に苛まれた。言わなきゃ良かったと後悔。
「…あなたは――、いえ…あなたたちは私をどういう目で見ているの?」
「サディスト女王様」
苦虫を噛み潰したような顔をした。なんてことにはならなかったが、眉がピクリと反応した。
「…予想はついていたけど、キャラの押し付けはやめて欲しいわね。 それと即答も控えてほしいところだわ」
「…んー…どうだろな。皆は今まで通りでドS女王様で行くと思うぞ」
「じゃあ、南君は違うって分かってくれたようね」
「……どーだかね。それより、条件ってなんだよ」
雫先輩に見つめられて、その目を見ていると吸い込われそうになったので、俺は目線と一緒に急いで話を戻した。
「あなたが知っているケンプファーについての情報を教えて欲しいの」
「…俺が知っている情報?」
「そうよ」
(俺が知ってる情報ねぇ…そんなに知らないしさっき初めて聞いたことが沢山あったからなぁー)
俺は脳を総動員して、朝にジュウサツイタチが教えてくれたことを思い出す。
「あまり知らなそうね」
「うるさい。今思い出してんだ。少し待ってくれ」
敵は青だということ。そして全員倒せ。だけだった。あとは学校が終わって帰って来たら、続きを話すとの約束だったのを思い出した。
「朝は色々あって青を全員倒せとしか聞いてないけど、『帰って来たら話しますよ』って言ってた」
「やっぱり全員倒せしか言わないわよね。 ――そうね、私が直接聞いてみようかしら」
「誰に?」
「あなたのぬいぐるみよ。 だから、南君の家にお邪魔しようかしら」
「…うえいっ!?」
驚き過ぎて変な声になる。もう「…へ?」がレベル30ならこれは78ぐらいが丁度いいくらいだろう。値が中途半端なのはそれほど度肝を抜いたって気持ち分だ。
「南君が聞くより、私が直接聞いた方がてっとり早いわ」
「でも、…男の家だぞ!?」
「それがどうしたの?」
(う~ん…そんなにさぞ普通でしょ?とばかりに言われるとちょっと傷付くな……)
女の子が男の子の家に行きたいとか…理由がアレしか思い付かない。雫先輩でもそんなことを考えることがあるのだろうか…
ちらっと女帝さながらの威圧感を放っている(俺フィルター)女の子を見た。
「うん。それはないな」
「南君は何を考えてたのかしら」
雫先輩の俺へと向ける目がとてもキツい。その視線だけで気が弱い人なら死んでしまうんではなだろうか。
「いや、何でもないです、はい。 …それでいつ来るんですか?」
「今日よ」
「今日っ!? それは急すぎないか?」
「私は気になった時に調べる口なの。勉強と同じでケンプファーのことだってそうよ。 それともお家にご両親でもいるの?」
「いや、母親は基本的に帰ってくるの遅いからいないけど……部屋とか片付けてないからさ」
「別に気にしないわよ?私は南君の彼女ではないんだし、そこまで気にしなくて」
「いや、雫先輩は気にしなくても俺は気にすんだよ。それに――」
雫先輩は「…それに?」と俺に続きを早く言え、と急かしてきた。
(くっ…女の子を家にあげるのは初めてだ、なんて口が裂けても言いたくねえ……)
そんなこと口にした暁には、それをネタに弄られるか脅迫されそうだ。それでなくても、東田に馬鹿にされているのに。あいつも女子との関わりなんてほとんどないくせにだ。
なのでそれとなくお茶を濁すような――いや、それとにたような理由を考える。
「…それは――」
カラカラと控えめな音を立てながら生徒会室のドアが開いた。ここを訪れるということは生徒会役員の生徒かもしれない。俺は緊張した面持ちで顔を向けた。
雫先輩は訪問者を確認するやいなや挨拶をした。
「あら、楓が生徒会室に来るなんて珍しいわね」
「そうですか? 結構雫ちゃんの手伝いで来ていると思いますけど」
「それは手伝いをお願いしてるからよ。今日は何もしてないわ」
「そうですね。そういうことなら今日は珍しいかもです」
生徒会室の扉を開けて現れたのは沙倉楓だった。
沙倉さんは俺に見向きもせずに横を通りすぎ雫先輩の元に歩いていくと、胸に手を当てて高鳴る胸を押さえているかのように熱心に話始めた。いつもと雰囲気が全く違った。
「そんなことより雫ちゃん! 探している人がいるんですけど、どの学年にも見当たらないんです!」
「そう。 ――それはどんな人?」
「えと…背が高くて、髪を上で結んでいるカッコいい人です!」
「楓、少し落ち着きなさい。その人は男の子なの?それとも女の子?」
慣れた手付きで様子がおかしい沙倉さんをなだめた。俺もこんな一気に話す彼女を見たのは始めてで、状況がいまいち把握できずにいた。でも、翌々考えてみればこれも普通なのかもしれない。いくら皆に平等に接して、笑顔を向けるあの沙倉さんだとしても特に親しい友人に向ける笑顔があったっておかしくない。
俺は少し驚いたがこれが心を許した人にだけ見せる素顔なのか、と処理した。あいつに自慢するわけじゃないがこれ見れたって幸運?
女の子っぽく小さく深呼吸すると、落ち着いたのかゆっくりと口を開けた。
「……ふぅ、女の子です」
沙倉さんが「女の子です」と言った瞬間、雫先輩が俺のことをチラッと見てきた。
俺は『いやいや俺じゃないからねっ!』と手をブンブン振って猛烈に人違いアピール。じゃなきゃ、一瞬見えた目つきは消されるフラグのものだった。
雫先輩の視線に気がついたのか、後ろを振り返った。パチリと視線が合う。
「あ、春佳さん!」
沙倉さんは『そこに居たの気付きませんでした』と言いたげな驚き方をした。
「…こんちわ、沙倉さん」
とりあえず、気付かれていなかったことに心の傷を負わされたが特に気にしてない程を装うことにした。俺を見る雫先輩の目が疑いの目だということも男のプライドにかけてスルーした。男には譲れないものがあるのですよ。
「南君、バレバレよ?」
女の子にはそれを破滅的に壊す権利が与えられているのかもしれない。クールタイム無しで俺は答えた。
「…エ?ナンノコトデスカ」
「隠す方がみっともないわよ。楓なら笑って流してくれるわ」
「…それが辛いからスルーパスしたんだよ。わざわざボールを戻してくんな」
ぼそぼそと言葉のキャッチボール宜し、文句を言っていると沙倉さんはそんな俺たち二人を交互に見た。そして、どこか不思議そうな顔をした。
「??」
「……………。」
なんで不思議そうな表情しているのか分かった。俺がこんな所にいるからだろう。説明は雫先輩がしてくれるらしい。
「南君とは色々あってさっき知り合ったのよ。それで少しお話をしていただけ。 生徒会室に部外者がいるのはそういうこと」
疑問符を浮かべている沙倉さんに説明した。すると、納得したのか両手を合わせて雫先輩の元に駆け寄る。
「……?」
(なに沙倉さんはニコニコしてるんだ?)
俺は何がなんだか事態が飲み込めず頭を傾ける。
沙倉さんは雫先輩の耳元に顔を近付けると、こそこそと何かを喋り始める。んん、沙倉さんに限ってそんなことはないかもしれないが、俺の事を話しているのかな。時たま雫先輩も沙倉さんもこっちを見てくる。
(はっ! …まさか寝癖のことか!!)
急いで頭に手を上へとのばした。
フロントよーし、サイドよーし、トップよーしと順に確認したとこで、
「違うわね。楓の早とちりよ?」
「えーっ!違うのー? 絶対そうだと思ったのに~」
「………?」
(…何の話をしてるんだ?)
急に開始されたガールズトークは盛り上がっているのか、沙倉さんが「きゃー、きゃー」言っている。
俺はついて行けず途方にくれる。とりあえず、俺に寝癖が付いていて「あの髪型ファッションなのかな?」という感じの話題ではなさそうだ。少し安心したが問題が解決したわけではない、とだけ言っておく。俺が置いてきぼりなのは変わりないのだ。
だが、その中に入れるのは“チャラ男”という進化した人間か、爆弾を隠し持っているテロリストのどちらかのみ。当然俺はどちらにも当てはまらない部類にいたりする。それを皆は草食系男子と言うが俺はけしてそれではない。女の子にはがっつり興味があるが、ただ話しかけられないだけだ。
因みに雫先輩は別。話しかけられるタイプという稀なケース。
俺は特にやることがなく、ぼーっと仲良く談話している女の子二人組を眺めた。
(沙倉さんも雫先輩も綺麗だよな~。これで二人とも彼氏がいないっていうんだからホントに不思議だな…)
そう星鐵二代美少女の名を持っている彼女らには彼氏がいない。彼氏の座を狙う男どもは沢山いるが、すべて返り討ちにあっているらしい。玉砕という言葉道理の目に合うらしい。
今では玉砕したくない奴らが流したまことしやかな噂が流れていて、沙倉さんの場合は『楓を落とせば東大だって受かる』という。そして、雫先輩はどんな男も近寄らせないオーラを張っているので『近付くと死ぬのではないか』ともっぱらの噂だ。
でも、そんなSなオーラが好きな奴は何処にでもいるらしく、そんな噂が流れていても神風特攻隊をするやつが絶えないらしい。あるゲームのラスボスが張る、ドリームオーラ並みに破るの難しいんではないかと思う。あ、雑魚では破れないってことね。
(でも、二人の場合は違うんだよな~)と考えているうちに話はどうやら終わったらしい。
沙倉さんは俺の方を向いた。
「どんな話してたの?」
訊くのは礼儀かな、という考えから実行して質問してみた。
沙倉さんは「それは…春佳さんには内緒ですっ」と言うと雫先輩の方を向いて微笑んだ。
「……??」
そんな何か含んだような沙倉さんの目を特に気にしてない風に躱すと「そんなことより――」と雫先輩は話を振ってきた。俺は別に問いただす気はないので、それに乗っかった。
「そんなことより?」
「そんなことよりとはなんですか?」
俺と沙倉さんは揃って雫先輩に質問した。
「探している女の子がどうしたの?」
「…あっ、そうでした! 雫ちゃんも春佳さんも身長が高くて、声がハスキーで…カッコいい人見かけませんでした?」
「見てないわね」と雫先輩は即答した。「先輩…もう少し考えようよ」と言いたいがそれを言うのは野暮だ。雫先輩の頭はいわゆるスーパーコンピュータ――略してスパコン並みなのだ。大抵のことはすぐ分かるはずだ。俺の低スペックパソコンとは天地の差。
時間をかけて考えてみても誰も思い当たる人はいない。
「ん~…ごめん、見てないかな」
「そうですか…」
沙倉さんはがっかりしたのか肩を落とした。もう誰が見ても分かるぐらい見るからにしょんぼりとしている。
そんな沙倉さんを見兼ねたのか雫先輩はある提案を出した。
「それじゃあ、三人でその人を探してみましょうか」
「えっ! 雫ちゃん、本当に!?」
「ええ、もちろんよ」
「ありがとう!雫ちゃん、春佳さん」
「あ、うん…」
うんともすんとも言ってないのに話しが勝手に進んでしまい、沙倉さんの人探しを手伝うことになった。
でも、ここで断れる奴いたら勇者かなんかになれるぞ。クソゲーかなんかの。