インフィニット・ストラトス・アストレイ   作:ichika

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星を見る者

noside

 

「くそっ・・・!!サイクロプスを使うなんて・・・!!アイツには血も涙も無いのか・・・!?」

 

アクタイオン社ブリーフィングルームにて、

秋良は拳を握り締め、テーブルを殴り付けていた。

 

大量殺戮兵器であるサイクロプスを何の躊躇いも無く使用した事への憤りもあるだろう。

 

しかし、本当に彼が憤っている理由は、

一夏にも良心が残っているものと、心の何処かでごくわずかに抱いていた希望を打ち砕かれた事である。

 

たった一押しするだけで、

何百もの命を平然と奪うような兵器を、

最も近くにいた人物が使うなどとは思いたくなかったのだ。

 

しかし、そんな僅かな希望は無惨にも打ち砕かれ、

彼の心を満たすのは虚しさ、そして、一夏への憤怒だった。

 

「あの野郎・・・!!ここまでイカれてやがったか・・・!!」

 

「こんなの・・・、こんなのって・・・!!」

 

雅人は怒りを堪えた様な声で呻き、

楯無は口許を押さえながらも震えていた。

 

当然だ、彼等に見せ付けられたのは、

人間が身体の内側から弾け飛ぶ場面や、機体の誘爆に巻き込まれ、火だるまになるところという場面だ、

平静でいられる訳もない。

 

「俺が・・・!!アイツを止められなかったばっかりに!こんなことに・・・!!」

 

悔しさと怒りのあまりに、秋良は何度も何度もテーブルを殴り付ける。

その拳にはうっすらと血が滲んでいた。

 

彼が纏う触れれば切れそうな雰囲気に、

誰もが何も言うことが出来なかった。

 

「そんな所で八つ当たりしても、

貴方の鬱憤は晴らせないんじゃないの?」

 

そんな時だった、突然現れたエリカが秋良に問い掛ける。

 

「それほどの怒りを何もしないまま抑えて、

貴方は敗北を認めるというのね?」

 

「・・・っ!!」

 

彼女の言葉は棘となり、彼の心に突き刺さっていく。

 

秋良は何も言うことが出来ずに、

ただ拳を握り締めるだけしか出来なかった。

 

「残念ね・・・、貴方なら一夏を止められると思っていたのに・・・、見当違いだったみたいね。」

 

突き放す様に言いながら、

エリカは彼等に背を向け、立ち去ろうとした。

 

「・・・、どうすればいいんです!?

俺はアイツを止めたい!だけど俺には力が無いんだ!!

どうすることも出来ないでしょう!?」

 

堪えていた物を吐き出すかの様に叫びながらも、

秋良はエリカに詰め寄った。

 

彼とてこの様な行いを平然とやってのける一夏の暴挙を止めたいとは思っている。

 

しかし、彼が戦うための剣は、

既に折られ、戦う術を失っているのだ・・・。

 

「漸くその気になったわね、

良いわ、私に着いてきなさい。」

 

秋良の言葉に、エリカは呆れたような表情を見せながらも、秋良達を先導するかの様に歩き始めた。

 

「え・・・?」

 

「何してるの?置いてくわよ。」

 

あまりの状況転換に着いていけない彼は、

馬鹿みたいに口を開け、立ち尽くしていた。

 

そんな彼を叱る様に、エリカは声をかける。

 

「は、はい・・・!!」

 

そこで我に返った秋良達は、

急ぎ足で彼女の後を追うのであった・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

エリカ主任に連れられ、

俺達はアクタイオン社の地下最深部まで来ていた。

 

ここは俺も立ち入った事は一度も無く、

謎に包まれていた区画だ。

 

そんな場所に一体何の用があるんだろうか・・・?

 

そう思っている内にも、

俺達は分厚い隔壁の前に立っていた。

 

「開けるわよ、離れてなさい。」

 

エリカ主任に言われた通りに、

俺達は隔壁から少し距離を取る。

 

少し待っていると、隔壁が音を立てて開いていく。

 

隔壁が完全に開ききった時、

俺は何かに吸い寄せられる様に、その中へと歩みを進めた。

 

何かが俺を呼んでいる、そんな気がしたんだ。

 

内部は暗く、どういう風になっているのかは把握出来なかった。

 

目を凝らそうとしたその時、

照明が着けられたのか、周囲が一気に明るくなった。

 

あまりに唐突だった為、俺は思わず光から目を背けた。

 

徐々に目が慣れてきた時に、

ゆっくりと前を見てみると、そこには一機の純白の機体が鎮座していた。

 

何処と無くストライク系に近いフレームを持ち、

背中に特徴的なリングを背負っている機体と言えばあの機体しか思い浮かばない・・・。

 

「・・・、スターゲイザー・・・、ですか・・・。」

 

スターゲイザー・・・、星を見る者と言う名を与えられた機体。

 

本来の用途は無人外宇宙探査機だけど、

装備されているヴォワチュール・リュミエールの能力、機能によって戦闘能力も確保されている。

 

つまりは純粋な戦闘用機に転換する事も現実的には可能なんだ。

 

「これを、俺に・・・?」

 

「戦うための剣が欲しいんでしょう?

なら、遠慮せずに受け取りなさい?」

 

俺はまだ躊躇っていたのだろう、

躊躇っていないのなら、何も言わずに機体に乗り込んだ筈だから・・・。

 

それを見透かされたのか、

エリカ主任は俺に渡そうとしてくれている。

 

申し訳無いやら、ありがたいやらで胸がいっぱいになりそうだ。

 

「スターゲイザー・・・、俺は何処までやれるかな・・・?

俺はアイツを止めたい・・・。」

 

だけど、大義名分は向こうにある、

いくら向こうが世界征服を企んでいようとも、

民衆を味方に着けたのはあっちだ。

 

どうあがいた所で、それだけは変わることは無い、

ただ、それでも俺は、その先に待っている未来を、

何の抵抗も無く受け入れたくはない。

 

だったら、その意志を通すためには戦うしかないのは理解している。

 

なら、俺がやることは一つじゃないか。

 

「俺はアイツを倒す、正誤なんてもうどうでも良い、

俺は俺が出来る事をやるしかないんだよね。」

 

そうだ、俺は俺が正しいと思うことをすればいい。

 

一夏も、所詮は自分が正しいと思うことを貫いているだけに過ぎないんだ。

 

善悪、正誤なんて、勝者がいくらでも塗り替えられる、

ただそれだけがこの世の理なんだろう・・・。

 

だったら、四の五の言わずに俺は戦えば良い、

戦士にはそれしか出来ないからね。

 

「俺と行こう、スターゲイザー・・・、

俺達の希望の星を掴みに、ね。」

 

スターゲイザーの装甲に手を触れると、

機体が淡く発行し、ブレスレットに変形した。

 

どうやら、俺の事を認めてくれたみたいだ。

 

もう割り切った、たとえ兄だったとしても、

世界に害を為すなら、俺はそれを打ち払うだけだ。

 

ガンダムチームの目的は、誰にも縛られず、

世界の敵を討つこと。

 

俺が討とうとするのは世界に仇なす敵だ。

 

もうそれで良い、俺は頭が良くない、

なら、何も考えずに敵を討つ。

 

何も俺はガンダムチームの掟に反する事はしていない、それでいいじゃないか。

 

「行こう、皆、アイツを倒して、世界を救おう。」

 

「当然だろ、俺も戦うぜ。」

 

「私もよ、このまま見てられないからね。」

 

「私も行く、秋良一人に全部を背負わせるなんてさせないから。」

 

雅人、楯無、そして簪は我が意を得たりという風に笑い、戦意を示してくれる。

 

俺の心に暖かな感情が宿っていく、そんな時だった。

 

「アタシは・・・、もう、戦いたくない・・・っ!!」

 

唐突に鈴が叫んだ。

 

普段は物静かで、他に流されがちな鈴の叫びとあって、俺達は驚いてしまった。

 

「もうイヤよ・・・、どうして一夏と戦わなくちゃいけないの・・・?私達、ずっと一緒にいたのにどうして・・・?」

 

『・・・。』

 

鈴の言葉に、俺達は何も言えなくなって押し黙った。

 

鈴にとっては、敵味方の概念なんて無い、

知人、親、そして昔からずっと一緒にいる友人という括りだけなんだろう。

 

それは俺にだって痛いほど分かる、

鈴は昔、アイツの事を実の兄同然に慕っていた、

だからこそ、余計にそう思うんだと理解できる。

 

彼女の意志は汲んでやりたい、

だけど、このまま放置しておいて良い問題でも当然ない。

 

俺が出来る事と言えば、嘘を吐いてでも鈴を丸め込む、それだけだった・・・。

 

「分かってる、アイツをぶん殴って、一緒に帰ってくるさ、約束する。」

 

「約束よ・・・!?絶対に絶対よ・・・!?」

 

「約束する、俺達が鈴との約束を破った事、あったっけ?」

 

俺が頭を撫でながら聞くと、

鈴は昔と同じ様に勢いよく首を横に振る。

 

「だから、鈴はここで待っててくれ、

もう戦う必要なんてないから・・・。」

 

彼女の腕に着けられていたネブラブリッツの待機形態であるブレスレットを受け取り、

俺はスターゲイザーの腕部を展開、粉々に破壊した。

 

俺だって、もうISの世が戻らない事は理解している、

だからこそ、ガンダムを持つことで、鈴が要らない事に巻き込まれない為に、俺はネブラブリッツを破壊した。

 

これで良いんだ・・・、鈴にまで泥を被らせる訳にはいかないから・・・。

 

sideout

 

noside

 

アラスカより離脱した一夏達は、

彼が逃がした空母の内の一隻に着艦していた。

 

当然、予告したわけでもなんでもないため、

空母のクルー達は出迎えの為に大慌てで甲板に上がった。

 

自身達をISの支配より脱却させてくれた英雄に対する礼を尽くす、その一心で彼等は動いていた。

 

艦長であるトダカも、艦の航行を副官に任せ、

自ら直々に一夏達の前に姿を現した。

 

「突然の要請を受け入れて貰い、感謝します。」

 

黒髪の青年、織斑一夏はストライクノワールの頭部装甲を解除、素顔を曝してクルー達に礼を述べる。

 

「英雄織斑一夏殿、我等を救って頂き、誠に感謝します。」

 

トダカ以下十数名のクルーは、

一夏達に最敬礼しながらも答えた。

 

一夏の指示が無ければ、

トダカらとてサイクロプスの餌食となっていたのかも知れないと考えれば、彼の指示は自分達への救いの手だと思い込むのも無理はない。

 

「不躾な頼みだとは理解しているが、

私達を日本まで送ってはもらえないでしょうか?

先程の戦闘で移動手段を奪われてしまったものでしてね。」

 

「勿論です、我々が皆様をお送りします、

こんなところでは寛げないでしょう、

部屋を用意させますので、こちらへ。」

 

一夏の頼みを即座に了解したトダカは、

彼等の部屋を用意させようと部下に指示を出そうとした。

 

しかし、それよりも早く一夏が動き、

彼の言葉を制した。

 

「この場所で構いません、この者達の素顔を曝させる訳にもいかないものでしてね、

それに、機体のエネルギーが回復次第発艦させてもらうつもりでいるのでね。」

 

彼は自身の後ろに控える者達を指しながらトダカに説明していく。

 

トダカは彼の思惑を察する事は出来なかったが、

一夏の後ろに控えている者達の顔がフルフェイスヘルメットで覆われている事から、

人相を割られたくないのだと理解した。

 

「了解しました、不都合がございましたらなんなりとお申し付けを、それでは失礼します。」

 

これ以上言及しても利益にはならないと判断した彼は、

一夏達に向けて再び最敬礼をした後、艦内へと戻っていった。

 

甲板から人気が無くなった事を確認し、

一夏以外のメンバーはヘルメットを脱いだ。

 

「ふぅ・・・、空母の甲板で遊覧ってのも悪くねぇもんだな、アタシは好きだぜ、こういうの。」

 

「私はまぁまぁッスかね~、と言っても、

すぐにまた移動ッスよね?」

 

ヘルメットを脱いだダリルは、

海を眺めながらも楽し気に言い、

フォルテはめんどくさそうにやれやれと言った風に尋ねる。

 

「そうだな、機体のエネルギーが回復次第、

日本に向けて飛ぶ、ここに寄ったのも、回復中に少しでも移動できれば良いと思ったからだな。」

 

「実に合理的な判断だな、で?日本に着いたらどうするんだ?」

 

一夏の説明を肯定的に受け取った箒だが、

何故か何かを期待する様な口調で彼に問いかける。

 

「お前達の望み、それを俺が直々に叶えてやろう、

そうだろう?ダリル、フォルテ、箒?」

 

箒の言葉を受け、彼は口許を歪めて笑う。

 

その笑みにはただ、何処までも純粋な狂喜だけがあった。

 

「当然だぜ、アタシはその為にお前に手を貸した、

それぐらいしてもらわねぇと骨折り損だ。」

 

「ありがたいッスね~、最後に一度ぐらいはやってみたかったんスよ。」

 

「すまない一夏、こんな大切な時に我が儘を聞いてもらってな・・・。」

 

彼の答えに、ダリルは嬉しそうに、

フォルテは安心した様に、そして、箒は何処か申し訳なさそうな表情を見せる。

 

「セシリア、シャル、お前達の望みも・・・、

いや、聞くまでもないな・・・?」

 

「はい、私の望みはたったひとつだけですわ。」

 

「僕もだよ、一夏なら分かるでしょ?」

 

「・・・、分かった。」

 

一夏の問いに躊躇いなく答えたセシリアとシャルロットに、ただ一言短く呟いた後、彼は全員を見渡す。

 

「エネルギーも回復するまでまだ時間はある、

準備はしておいてくれ、

あの二人も、向こうで合流する手筈だ。」

 

彼の指示に、彼女達は力強く頷き、

次の行動に備えるべく、それぞれ身体を休める。

 

その様子は、まさに戦の時を待つ戦士そのものであった。

 

 

それから二時間後、<タケミカヅチ>のクルーが一夏達の様子を伺いにやって来たが、

そこにはもう、彼等の姿は無かった・・・。

 

sideout




次回予告

一夏に向けられた刃は、
何を願い振られるのか・・・。

次回インフイニット・ストラトス・アストレイ
凶暴索餌

お楽しみに
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