noside
臨海学校から戻った翌日、
一夏は理事長からの直々の呼び出しを受けていた。
「休みだってのになんだよ・・・、めんどくさい限りだ・・・。」
一夏はボヤきながらも理事長室に向かって歩いていた。
「仕方ありませんわ。」
「そうそう、一夏は会長だからね。」
彼の隣を歩いているセシリアとシャルロットがしょうがないと言うが、
それでも一夏の気は晴れない。
「まあ良いさ、さっさと済ませてカフェに行こう、
ここ数日、甘い物を喰えて無いんだ。」
「はい♪」
「うん♪」
彼にとって、甘い物は活力源なのであり、
臨海学校の最中は満足に糖分を摂取出来なかったのだ。
よって、今日はその分を取り返すべく、
セシリアとシャルロットを誘って一緒に甘い物を食べる約束をしているのである。
「さてと、着いたぞ。」
歩いている内に、三人は理事長室の前に辿り着いた。
「分かっているとは思うが、くれぐれも粗相が無いようにな。」
「はい。」
「勿論だよ。」
二人が頷いたのを確認し、
一夏は部屋の扉をノックする。
『どうぞ。』
中からの返事を聞き、
一夏はドアノブを回して扉を開き、
部屋の中に入る。
「失礼します。第2生徒会長織斑一夏、入ります。」
「第2生徒会役員、セシリア・オルコット、入りますわ。」
「同じく第2生徒会役員、シャルロット・デュノア、入ります。」
一夏に続き、セシリアとシャルロットも理事長室に入る。
広々とした部屋の中央には向かい合わせになったソファーと、
部屋の最奥にある執務机に座する好好爺が目に写った。
「ご苦労様です、ささ、そこにかけてください。」
「それでは失礼します。」
ソファーへの着席を勧められた一夏達は、
遠慮するのも気が引けたのかソファーに腰掛ける。
「私がIS学園の真理事長、轡木十蔵です、
噂はかねがね聞いていますよ、織斑会長?」
「ありがとうございます、やはり貴方がそうでしたか、
用務員とは思えない覇気を感じた物ですから。」
「ほっほっほっ、それはどうも。」
和やかな、だが、どちらも互いを探る様な調子で話す。
「ところで、私を今日ここに呼んだ理由はなんですか?」
一夏が笑みを消し、
事の本題を尋ねる。
「ほっほっほっ、やはり君の願いを叶えて正解ですね。」
一夏の質問に、十蔵は更に笑みを深くした。
「実は君に頼みたい事があります、
話は彼女から聞いてください。」
十蔵はそう言って扉の方を指し、誰かに入室を許可する。
一夏達が扉の方を向くと、茶髪を背中で三つ編みにしている眼鏡の少女が入ってきた。
「失礼します。第1生徒会書記、布仏虚です、
呼び出して申し訳ありません、織斑第2生徒会長。」
「初めまして、織斑一夏です、
布仏虚・・・、対暗部用暗部組織、更識家当主、更識楯無の側近である貴女が、
この俺に何の用事でしょうか?」
頭を下げる虚を見た一夏は、
自分も立ち上がらないのは失礼だと判断し、
ソファーから立ち上がり、虚に一礼する。
「!?・・・、よくご存知ですね・・・。」
「生徒会長として当然の事ですよ、
それに俺は普通の環境にいませんから、少しでも情報を仕入れませんとね。」
虚の動揺に気をよくしたのか、
一夏は深い笑みを浮かべ、あること無いことを話す。
「とまあ、こんな雑談は置いときまして、
俺を呼び出すからには、相当重要な事柄だとお見受けしますが?」
一夏は軽い咳払いと共に話題を変える。
流石に彼も面倒な事柄に長時間関わりたくないのだ。
「・・・、非常に頼みにくい事なのですが・・・。」
「な、なんですか?」
虚のじめっとした雰囲気を察し、
一夏の表情がひきつる。
あ、ヤバイ、なんか凄くめんどくさそう。
という色が丸見えである。
「お嬢様の代わりに仕事をしてください!!」
「はあぁッ!!?何言ってんの貴女は!!?」
土下座しかねない勢いで頭を下げる虚の言葉に、
一夏は仰天し、一瞬タメ語になってしまう。
「あー、えっと、布仏先輩?落ち着いてください。」
シャルロットが顔をひきつらせながらも虚を宥める。
こう言う時に彼女の性格は存分に活かされる。
「理由をお話頂けまして?」
「勿論です、と言うより、貴殿方もご存知の事だと思います。」
虚の言葉に、一夏達は思い当たる節がなく、
首を傾げた。
「・・・、簪様の「あー、わかりました、ストーカーですね?」そうです。」
虚の言葉に被せる様に、
一夏がうんざりした様に話す。
「以前まではきちんと仕事をされていたのですが、
簪様がIS学園にご入学されて以来、仕事を放り出されてストーカー行為を行い続けているのです・・・。」
虚が頭が痛そうに言い、
それを聞いた一夏も頭を抱える。
何やってんだあのアホは・・・、
という空気が理事長室に充満する。
「もう私では手の施しようが無いんです・・・、
いくら言っても仕事してくれないし・・・。」
「虚さん、愚痴になってますよ?」
虚のじめっとした雰囲気に、
一夏が顔をひきつらせながら言う。
「楯無君の有能さは私を始め、業界の人間は周知の事、
ですが、ここまで執務放棄が酷いとなると、代役を充てる以外無くなるのですよ。」
十蔵は彼女を信頼していた自分の思慮の浅さを自嘲するように言い、
やれやれといった風に首を横に振る。
「つまり、生徒会長を俺一人に絞り、
表の仕事も裏の仕事もさせるつもりですか?」
「そうとって頂いて構いません、
実質その通りなのですから、白々しく弁明はしません。」
十蔵は目を伏せ、肯定の言葉を発する。
「これまで、IS学園への外敵は現れていませんが、
恐らく、一夏君や秋良君を拉致しようとする輩がいるでしょう、
勿論まっすぐ突っ込んで来るだけでは勝ち目はありません、
そこで用いて来るのは・・・。」
「スパイとして生徒を送り込んで内部の様子を探らせる・・・、
なるほど、クソジジィがやりそうな手ですね。」
十蔵の推測に自分の推測を重ね合わせ、
一夏は軽く悪態をつく。
「ええ、貴方に任せたいのはスパイの確保、もしくは殺害、
そして侵入者の消去です、証拠の隠滅は私の方で責任を持ちましょう。」
つまり、学園を守る為に敵対者は消せと言っている様な物である。
「一つお聞かせ願いたい、もし攻めて来たのが国家の特殊部隊であった場合、
私はどう対処すべきでしょうか?」
「先程言った通り、消去してください、IS学園はどの国家にも属さず、
どの国家にも干渉されないという規定があります。
それを破って来るのは彼方です、こちらは正当防衛に他なりません。」
「そして、相手は規則を破る行為を行っているため、
こちらの行いを明るみに出せない。もし出しても自分達が不利になる・・・、
という事ですか、上手い事出来ていますね。」
一夏は十蔵の言葉に感心し、
自分達の正当性を認識する。
「はい、なるべく人目につかない場所での遂行を御願いします、
御引き受けしてくださいませんか?」
十蔵が目を伏せ、虚がそれに合わせて一夏に向けて頭を下げる。
「・・・。」
彼は自身の後ろに立っているセシリアとシャルロットを見る。
二人とも彼と目が合うと、微笑んで頷き返した。
その様子は、彼と運命を共にするという覚悟が現れている。。
「分かりました、御引き受けしましょう。」
一夏は二人の反応を見た後、
十蔵に向き直り、背筋を正す。
「織斑一夏第2生徒会長、任務を遂行します。」
一夏は一礼した後セシリアとシャルロットを引き連れ、
理事長室から去った。
「はははっ!これが俺の運命か!」
廊下を歩きながら、一夏は右手で顔を覆いながらも高らかに笑った。
愉快、痛快だと言いたげなその表情は、何を物語るのか・・・。
「お前達はこれで良いんだな?今更待ったは聞かねぇぜ?」
「愚問ですわよ一夏様。」
「僕達に戻れる道なんて無いんだから。」
自身の言葉に、強い意思を以て返してくる二人に、
一夏は口許を愉悦に歪める。
「良いぜ、三人で歩いて行こうぜ、血塗られた道をな。」
「はい♪」
「うん♪」
一夏の言葉に、セシリアとシャルロットは頷く。
彼は満足に頷き、
二人を連れて歩く。
sideout
side一夏
理事長室から戻った俺達はカフェでデザートを食べた後、
新しく設けられた生徒会にやって来た。
「ほぉ、なかなか良い部屋だな、広さも悪くない。」
当然と言えばそうか、どうせ書類とかで埋まるんだろうがな。
「御苦労様です、織斑生徒会長。」
「虚さん、お疲れ様です。」
虚さんがミカン箱に入った大量の書類を担いで持ってきた。
と言うより、なんだこの量は!?
「申し訳ありません、楯無会長が今年の四月から溜め込んだ書類です。」
「はぁ!?四月って、絶対期限切れの奴もあるでしょ!?」
何やってんだよ、あの残姉さんは・・・。
せめてこれぐらいやれよ・・・。
「一応、期限が間近な書類だけを持ってきましたので、
サインとハンコを御願いします。」
「分かりました、セシリア、シャル、手伝ってくれ。」
「分かりましたわ。」
「うわぁ・・・、スゴい量だね・・・。」
会話をする暇さえ惜しい、さっさと始めよう。
「げっ!?これ期限明日までじゃねぇか!?
ええい!!もう内容なんて見てる暇はねぇ!!」
署名欄に名前を書き、そのままの流れでセシリアにハンコを押してもらい、
シャルが書類を整理するという流れをつくる。
もう読める範囲なら殴り書きで良い!!
早さを求めるぞ!!
そんな事を考えつつ作業を行い始めて、
どれぐらいの時間が経ったのだろう。
手も痺れて来た時だった、
俺の携帯に着信が入った。
「はい、こちら織斑。」
『轡木です、就任早々申し訳ありませんが、
害虫退治をよろしくお願いします。』
「数はどのぐらいですか?」
『少なくとも十二人、
監視の人間も居ると思われます、くれぐれも抜かりの無いようにお願いします。』
「分かりました。」
やれやれ、面倒な事になったな。
そう思いつつ、俺は席を立った。
「?どちらに?」
「理事長からの出動要請です、
どうやら、害虫を駆除して欲しいそうです。」
「そうですか・・・、すみません・・・、
本来なら私達が・・・。」
あーあー、この人の悪い癖がでてるよ。
そう思いつつ俺は虚さんの言葉を制する。
「気負い過ぎですよ、貴女が例えどんな家の出でも、
一人の人間だと言うことを忘れないで頂きたい。」
「一夏君・・・。」
いまだに申し訳無さそうな顔をする虚さんに一礼し、
俺達は生徒会室を後にした。
やれやれ、めんどくせぇな・・・。
sideout
noside
IS学園敷地内の森林を音を立てずに進む影があった。
無論、真っ当な客人ではないだろう、
現に、彼等は警備が薄い海から侵入して来たのだ。
「こちらチームA、目標ポイントに到着した、
これより壁をよじ登り、織斑一夏を確保する。」
『こちらチームB、了解した、
我々はこれより織斑秋良を確保する、抵抗された場合は殺害もやむを得ん。』
彼等は互いに連絡を取り合いながら進んでいく。
その動きに無駄はなく、迅速かつ的確だった。
素人ではない、軍隊で鍛えられた動き、
つまり、プロだ。
四、五名でチームを編成し、
彼等は各々の任務についている。
実働部隊はAとB、Cは監視、
Dは逃走用のゴムボートの周辺監視を任されている。
彼等の任務、それは先程の会話から推察出来るであろう、
織斑兄弟の捕縛である。
世界でただ二人の男性IS操縦者、
彼等はその二人を拉致する為に送り込まれたのだ。
楽な仕事を請け負ったと、構成員の一人は語ったらしい。
確かに、20人近い数の軍人を揃え、
尚且つ相手は専用機を持っているとはいえ、ただの学生。
寝込みを襲えば間違いなく成功できるであろう。
しかし、それには一つの大前提が付きまとう、
相手が襲撃を予想せず、油断しているという大前提が・・・。
『な、なんだあれは!?ギャァァ!!』
『こちらチームC!!警告も無しに撃ってきた!!う、ウワァァァァ!!』
「どうした!?」
監視を受け持っていたチームから、
悲鳴が混ざった通信が届く。
「どうした!?おい!応答しろ!!」
「分隊長!!一体何が!?」
チームAの構成員が慌てふためく中、
また新たな通信が入った。
『や、やめてくれ!助け・・・、がぁぁぁぁ!!』
『あ、悪魔だ・・・!に、にげろ!!』
『助けてくれ!助けてくれ!ギャァァァァ・・・!!』
『クックックックッ・・・、ハーッハッハッハッハッハッハ!!』
銃声と悲鳴、断末魔、そして高笑いが聞こえて来る。
それを聞いた瞬間、チームAの分隊長を務めている男の背筋を、
一気に冷たい物がかけ上がった。
そして理解した、自分達が踏み入れてはならない領域に足を踏み入れてしまったことを。
「全部隊!撤退しろ!!相手をしては不味い!!」
本能で引き際を悟った男達は、覆面で隠した顔に冷や汗を滝の様に流しながらも、
侵入して来たポイントまで走って戻った。
もう少しで逃げ切れる、そう思った時だった。
「ご苦労さん、よく逃げて来れたな。」
鉄格子を越え浜に出たが、
既にそこには仲間だった者達の死体と、
月明かりに照らされた黒い機体がいた。
「お生憎様、アンタ達もこうなってもらう、
言っとくが援軍は来ないぞ?アンタ達を運んできた船は、もう海の底だ。」
黒い機体が指差す方向からは煙が上がり、
その方向から蒼い機体が姿を現す。
「終わりましたわ。」
「ご苦労、さて、他の部隊も、俺の女に殺されてるだろうな、
アンタ達も、すぐに仲間に会わせてやるよ!」
黒い機体がホルスターから拳銃の様な物を抜き取り、
的確に男達の脚を狙い撃つ。
「ギャァァ!!」
「ガァァっ!!」
全員が砂浜に倒れ、
逃げる事すら不可能になった。
「や、やめろ!やめてくれ!!」
「命乞いか?情けねぇな。」
黒い機体はゆっくりと歩みを進める。
それはさながら、絶対的な死が近付いて来る様でもあった。
「俺達に喧嘩を吹っ掛けに来た以上、
殺られる覚悟もあるだろう?だから・・・。」
黒い機体は、右手の拳銃をホルスターに戻し、
背後の翼の様なモノから刀剣状のモノを取り出し、
天に向け掲げる。
「その断末の悲鳴、俺に聞かせてくれよ。」
目許は見えないが、口許を三日月型に吊り上げた後、
黒い機体は刀を振り下ろした。
「あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
sideout
side一夏
最後の一人の断末の叫びを聞き、
俺はサーモカメラに依る索敵を行う。
生き残りがいたら不味いからな。
熱紋反応無し、辺りに敵はいないか・・・。
一息つき、俺は自分の身体を見る。
ISの補整映像で一片のノイズもなく綺麗に見える。
俺の全身が、侵入者の血でまみれているのが。
後ろに立つセシリアは今回、
敵の母艦を破壊する任務を任せていた為、目立った血は無いが、
彼女も人を殺めた事に変わりは無い。
「一夏、こっちも全部終わったよ。」
校舎の方からリヴァイヴを纏ったシャルが飛来してきた。
無論、彼女も返り血で濡れていた。
あれは間違いなく至近距離でショットガンをぶっ放したな。
「お疲れさん、これでめでたく、俺達は闇の住人の仲間入りだ、怖いか?」
セシリアとシャルの頬に触れ、心を蝕む様な聞き方をしてみる。
「後悔も、恐怖もありません、ですが、私は・・・、
私は、人を殺める事が、愉しかった・・・。」
セシリアが震えながら、そして笑顔で語った。
その瞳には涙が浮かんでいた。
「僕も・・・、罪悪感なんてなかった・・・、
ただ、人を殺す事が気持ち良かった・・・。」
シャルも、その美しい瞳に涙を浮かべていたが、
顔は笑っていた。
神の采配で決められた俺の本質に近付き過ぎたが故に、
彼女達も俺と同じ、人斬りに変質してしまったのだろう。
だが、一向に構わない、寧ろ俺の女でいるなら、
それぐらいの事はやってのけてくれねぇとな。
「それで良い、学園を守る為だ、俺達が修羅になれば良いじゃねぇか、
それとも、怖じ気づいたか?」
俺は二人の涙を拭いながら、挑発的な笑みをむける。
この程度で壊れる様な女じゃない事は、
俺が一番知っている。
「いいえ、これで覚悟が決まりましたわ、
一夏様に着いていく事がどれ程辛い道程か。」
「それでも、喜びの方が大きいから、
僕達は一夏に着いていくよ。」
二人は覚悟を決めたのか、凄惨な場所でも微笑んで見せた。
その姿はまるで、告死天使の様でもあった。
「そうかい、それは男冥利に尽きるな。」
知らず知らずの内に、
俺は口許に笑みを浮かべていた。
最近、知らん間に笑ってるよな俺?
悪いとは思わんが、自重すべきかね?
まあ、後戻りする気はこれっぽっちも無いんだがな。
「さてと、さっさとシャワーを浴びて寝ようぜ?」
「うん・・・。」
「はい・・・。」
二人を戻し、俺は寮に戻ろうと歩みを進める。
(お前達の断末の叫び、永遠に覚えていてやる。)
届きもしない言葉を斬った奴等に向ける。
俺は俺のやるべき事をこれからもやるだけさ。
sideout
次回予告
何時も通り仕事をしていた一夏だが、
そこであるものを見つける。
次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 残姉さん日記
お楽しみに!