side一夏
始業式から数日後の土曜日、
俺達ガンダムの力を持つ者達は第4アリーナに集まっていた。
「やれやれ・・・、なーんでこんな事になってんだよ?」
「一応見てたんスけど、更識姉がなんかやらかしたみたいッスよ?」
俺の真後ろの席でダリルとフォルテがよく分からないという風に話していた。
「まぁ、確かに事の発端は分かりませんが、
ガンダム同士の正式な勝負が見れますし、有意義な休みになるとは思いませんか?」
彼女達の隣に座した箒も苦笑し、ダリル達を宥めていた。
「申し訳ありません一夏様、この様な形になってしまいまして・・・。」
俺の右隣で、事の発端となってしまったセシリアは、
全く悪びれた様子もなく平謝りしていた。
「楽しみを作ってくれたのは嬉しいのだが、
少し根回しが面倒だったのがあれだったな。」
「まぁまぁ、一夏♪良いじゃない、今から面白い物見れるんだし♪」
まぁ、楽しいものを見れるのは純粋に楽しみなんだがな、
それまでに踏んできた手順が面倒だったな。
「どうしてこうなったよ・・・。」
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noside
時は遡り、始業式が行われた日の昼休み、
簪は彼女の実姉、更識楯無の下を訪れてた。
当の楯無は簪自ら会いに来てくれた事に非常に喜んでいたそうだ。
だが、簪の口から飛び出したのは、周囲で見守っていた生徒達も驚愕に値する言葉であった。
「お姉ちゃん、貴女に決闘を申し込む!」
『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
「えぇぇぇっ!?」
偶々近くを通り掛かったフォルテも、
簪の発言に驚愕し、飲んでいたフルーツ牛乳を噴き出しそうになったと後に語っている。
宣戦布告を突き付けられた楯無は暫し硬直した後、
簪が背を向け、歩き去って行った直後に倒れこんでしまったのだ。
「わぁぁっ!?更識さん!?」
「衛生兵!!早く飛んできて!!」
そんな楯無に教室中が驚き、一気に喧騒に包まれたのであった。
「これは・・・、なんか面白そうッスね~。」
そんな様子を観察していたフォルテは、
何やら黒い笑みを浮かべながらその場を去って行った。
その後、その日の内にその噂は学園中に伝播し、
決闘は何時、何処のアリーナで行われるか等、様々な憶測が飛び交った。
しかし、翌朝、掲示板に貼り出されていたのは、
『この度の決闘を、専用機を持つ者以外の観戦を禁ずる。』
と、生徒会長名義の事項であった。
一般生徒は抗議の声をあげていたが、
専用機持ちと、真耶、そしてナターシャは、
一夏の考えを悟り、何も言うことは無かった。
一夏は、暗に内通者の存在を彼等に告げ、
余計なデータを録られるのを防ぎたかったのだ。
かくして、生徒会主導で日程が組まれ、
四日間の準備期間を経た後、決闘と相成ったのであった。
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side一夏
って事があって・・・、
俺は理事長や他の教員に根回しをしてたんだよなぁ・・・。
まったく・・・、簪に何を吹き込んだのかは知らんが、
何故にこんな早く決闘に持ち込んだんだよ・・・。
まぁ、これはこれで良いかも知れん、
あの思い上がっている楯無に、実の妹から突き付けられる敗北を刻むのも悪くは無かろう。
もっとも、互いに分かり合えるのなら、それも良かろう。
どう転んでも、この戦いは見応えがありそうだ。
「兄貴、簪は勝てるでしょうか?」
俺の前の席に座っていたラウラが、心配そうな顔で俺に尋ねてくる。
友人想いな事は良いことだが、信じてやれよ。
「さぁな、簪の力量なら勝つことも出来るだろうが、
楯無も、意地と言うものがあるだろう、簡単には決着は着かんよ。」
「そんな・・・、簪、大丈夫かなぁ・・・。」
鈴も心配そうな顔で簪が待機しているピットの方を向き、
不安そうな声で呟いていた。
「だが、蚊帳の外にいる俺達がとやかく言おうと、
戦うのはアリーナの中にいる本人達だ、
俺達は、ここで仲間の力を信じてやることしか出来ねぇさ。」
「はい・・・。」
「うん・・・。」
ラウラと鈴は、今だ不安そうな表情をしたまま、
アリーナの方へと向いた。
さて、簪、楯無、お前達はどういう風な戦いをするんだろうなぁ・・・?
この俺を楽しませ、血湧き肉踊る戦いを見せてくれ!
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一夏達が客席で世間話をしていた頃、
二つあるピットの片側、簪がスタンバイしている方に、
セコンドを務める秋良がやって来た。
「簪、もうすぐ始まる時間だよ、準備はできてるかい?」
「今、終わったところ、何時でも行ける。」
秋良に尋ねられ、簪はスポーツドリンクが入ったペットボトルを置き、
カタパルトに向けて歩いていく。
その瞳は戦意に満ち溢れ、正に決戦に赴く戦士そのものであった。
「簪、戦いを止めろ、って言うつもりは無いけど、
ひとつ、教えてくれないかな?」
簪を呼び止め、秋良は彼女に問い掛ける。
彼女は立ち止まるが、彼に背を向けたまま、
いや、アリーナで向かい合う楯無に意識を向けたまま、
彼の問いに耳を傾ける。
「どうして、今この時期に、楯無と戦おうと思ったんだい?
確かに俺達は、向こうで修行して、前より強くはなった、でも、それだけだよ?
力を使う者の心が負の感情で占められているなら、それはただの暴力だ、
簪が楯無に向けようとしてるのは、それなんじゃないかな?」
「確かに・・・、そうかもしれないね・・・。」
秋良が語った言葉を、簪は静かに肯定した。
彼女とて、ただ負の感情をぶつけるのは、暴力なのだと理解しているのだ。
「でもね、私はずっと、お姉ちゃんの後ろに隠れて怯える事しか出来なかった、
力とかそんなんじゃなくて、心が弱かったから・・・。」
彼女はゆっくりと、だが、秋良にハッキリと聞こえる声で、
自嘲するかの様に呟く。
「お姉ちゃんがあぁなったのも、私が弱かったせいなんだ、
だから、この力と心で、お姉ちゃんに見せ付けるの、
私はお姉ちゃんの影に隠れない、お姉ちゃんの隣に立ってるってね。」
「・・・、そっか、分かった、それなら俺は何も言わない、
だから、見せ付けてきなよ、簪の成長をさ。」
簪の決意、そして想いに触れ、
秋良は微笑みながらも簪を送り出す。
「うん!行ってきます。」
「行ってらっしゃい、頑張ってね。」
秋良と言葉を交わした後、
簪はアウトフレームDを展開し、カタパルトに入った。
(アウトフレーム・・・、私に力を貸して・・・、
お姉ちゃんに、私の力を示す為にも!!)
彼女の強き意志に呼応するかの様に、アウトフレームの装甲が鈍く光る。
『進路クリアー!アウトフレームD、発進どうぞ!!』
一夏に依頼され、簪側のアナウンスを務める真耶の声が響き、
簪は決然たる意志を籠め、前を向く。
「更識簪、アウトフレームD、行くよ!!」
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side雅人
「あぁ・・・、どうしよう・・・、
遂に来ちゃったわよ・・・。」
「・・・、オイ、何やってんだお前は。」
楯無のセコンドとして、
簪や秋良がいるピットの反対側のピットに入るやいなや、
地面に踞り、地面に指でのを書いている楯無を見付けた。
やれやれ・・・、相当ヘコんでやがるな・・・、
そんだけ簪に挑戦状叩き付けられたのが悲しいのか・・・。
「だって・・・、簪ちゃんと喧嘩なんてしたこと無いのに・・・、
いきなり戦えなんて・・・。」
「あ~・・・、ソイツは・・・。」
御愁傷様とは口が裂けても言えない、
余計にダメージを与えかねないからな。
「簪ちゃん・・・、なんでぇ~・・・。」
もうダメだこの残姉さん・・・、流石に手の施し様がねぇよ・・・。
まぁ、最後まで付き合うと勝手に決めた身だ、
なんとかしてみせようか!
「なぁ楯無?お前は簪の事が好きだよな?」
「当たり前よ・・・、姉が妹の事、嫌いになるはず無いじゃない・・・。」
「なら、なんで簪と向き合うのが怖いんだよ?
普段あんだけストーキングしてるくせによ?」
そこがイマイチ分からんのだよなぁ、
普段はあれだけストーキングしてるくせに、肝心の所でヘタレてるんだから余計にな。
「だって・・・、簪ちゃんがどう思ってるのか、分からなくて・・・。」
そういう事か・・・。
嫌いでは無いだろうが、苦手ではあるだろうな。
今はどうなのかは知らないけど。
姉が嫌いな妹なんていねぇよ、
とは言ってやりたいが、周りに姉嫌いな姉妹、姉弟しかいないからこれまた口が裂けても言えない。
「だったら、それを聞き出す為に、手合わせするって考えられないか?」
「え・・・?」
「ほらさ、簪も昔のままじゃない、お前の想像の中の存在とはもう違う、
けどさ、今の簪に向き合ってやらねぇと、アイツを傷付けてる事にならないか?」
過去をいくら見たって、思ったって意味が無い、
今を、今ある存在を見つめ、想う方こそ、俺は有意義だと思ってる。
「私・・・、ちゃんと向き合えるかな・・・?」
「あぁ、きっと出来る、お前達は姉妹だろ?自信持てよ!」
コイツならきっと出来る、何故かは分からないが、
俺にはそんな気がしてならないんだ。
「うん・・・、私、やってみるわ・・・!
今までちゃんと簪ちゃんを見てあげられなかった、御詫びも籠めて!」
「そうだ、その意気だ、お前は簪の事を誰よりも大切に思ってる、
だから、絶対に伝わると信じろ!」
「うん!よしっ!やるわよ!!」
やる気になったのか、彼女は立ち上がり、両手を高く挙げて叫んでいた。
豪快だが、戦いに赴く前にはこれぐらいがちょうど良いだろう。
「じゃあ雅人!私、行くね!」
「行ってこい、お前の気持ち、ぶつけて来いよ。」
楯無がブルーフレームを展開し、カタパルトに入ったのを見届け、
俺はモニターの前まで移動する。
願わくは、あの姉妹に明るい未来が訪れて欲しいと、心の中で思いながらも・・・。
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side簪
私とお姉ちゃんは、ほぼ同じタイミングでアリーナの中に飛び出した。
一夏から私達が向こうの世界に行っている間の出来事は全部教えてもらったから、
お姉ちゃんの機体がガンダムになっているけど、驚きはしなかった。
私だって、ガンダムの力を持ち、修行した身なんだ、
絶対に負けない!
「簪ちゃん・・・。」
「お姉ちゃん、覚悟は、良い?」
ビームライフルの銃口を、青いフレームを持つ機体に向かう。
「えぇ、出来てるわ・・・、でもね・・・。」
お姉ちゃんは武器を構えず、何故か目を伏せていた。
「簪ちゃん、貴女の事、ちゃんと見てあげられなくて、ごめんなさい。」
「・・・ッ!!」
何時もはちゃらんぽらんなお姉ちゃんの目は、
真っ直ぐに私を見据えていた。
その強い瞳に怯えたこともあった、
でも、今のお姉ちゃんの瞳には、後悔と、懺悔の色があった。
「こんな時に、こんな事を言うのは可笑しいってことぐらい、分かってるわ・・・、
でもね・・・、やっぱり言っておかないと苦しいの。」
私だって、苦しいんだよ・・・、
お姉ちゃんにちゃんと見てもらえて無くて、怖かったから・・・。
お姉ちゃんも、ちゃんと分かってくれたんだ・・・。
「私だって、お姉ちゃんにどうでも良いと思われてると思って、
怖かったの・・・。ずっと、私の事、ちゃんと見て欲しかった・・・!」
「うん・・・、だから、今までちゃんと見てあげられなかった分、
今日、ここで簪ちゃんの成長をじっくりたっぷりこの目に焼き付ける!!」
私の気概を見てとったのか、
お姉ちゃんは右手に装備されているハンドガンの銃口を向けてくる。
『試合開始五秒前!!5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、試合開始!!』
ファイルス先生のアナウンスと同時に、私達は飛び出す。
「更識簪!アストレイアウトフレームD!行くよ!!」
「更識楯無!ブルーフレームセカンドGショートレンジアサルト!!行くわよ!!」
初めての姉妹喧嘩の幕が、たった今開かれた・・・。
sideout
次回予告
遂に始まった姉妹喧嘩!
簪の新たな力が雄叫びをあげる!!
次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
姉妹喧嘩 中編
お楽しみに!