side雅人
何の冗談だ・・・!?
俺は目の前の光景を信じることが出来ずに、
動くことも、瞬きをすることすら忘れて茫然としてしまう。
混乱している思考も、何処かに冷静な部分が残っているのか、
周囲を探って、少しでも多くの情報を捉えようとしている。
俺と同じく、一夏、セシリア、そしてシャルロット以外は、
全員絶句し、何も出来ずに棒立ちになっていた。
布仏本音、彼女は俺達と同じクラスに所属する生徒の一人で、
そののんびりとした風体からのほほんさんと言うあだ名で親しまれている。
他にも、確か彼女は楯無や簪の従者だった筈だ・・・。
そんな彼女が裏切者だと・・・?
どう考えても辻褄が合わないだろ・・・!!
「待ってくれ一夏!!彼女が本当に裏切者なのか!?」
感情論ながらも、彼に食いつく位の平常心を取り戻した俺は、
声を張り上げた。
一夏の事を信じていない訳ではない、
信じているからこそ、クラスメイトに濡れ衣を着させる様な事はさせたくないんだ!
「あぁ、亡國企業の宣戦布告の数時間前、
日本政府に情報をリークしようとしたところを、俺が確保した、
証拠の映像も残してある、これでも濡れ衣と思うか?」
焦る俺とは対照的に、アイツは淡々とした口調で、
映像を見せてきた。
そこには一夏が何処かの部屋でコンソールを弄り、
何か作業をしている映像だった。
暫くの後、彼はコンソールから離れ、部屋から出ていく。
それからすぐ後に、周囲を警戒しながら本音が入ってきた。
そして、一夏が操作していたコンソールに着き、
操作を開始する。
表示される角度が切り替わり、背後からモニターを写し出す。
モニターにはデータの復元率を示すであろう数字が表示され、
次にデータをリークするシークエンスに移ろうとした直後、
銃声が響き、本音が崩れた。
「この証拠は俺が集めた、撃ったのも、この俺だ。」
「なっ・・・!?」
お前が・・・、撃ったのか・・・!?一夏!?
「これがどういうことか理解できるか?
日本政府は、俺達を敵と認定し、この戦いにおいての戦力を少しでも確保したいのさ、
俺達からISを奪ってでもな。」
「兄さん・・・!?」
笑みも怒りもなく、ただ能面の様な無表情をその顔に貼り付けたまま、
彼は淡々と事実を語る。
一夏、お前は、誰だ・・・!?
sideout
noside
一夏の発言に、会議室内はなんとも言えぬ静寂に包まれた。
彼がそこまで内偵していた事と、
彼にまとわりつく異様な雰囲気に、何も言えなかったのだ。
「ここで何か異論がある者は、言ってみろ。」
静かに、なんの抑揚も無い声で、一夏は全員を見渡しながら問う。
「なんで・・・、なんで本音が・・・!?」
簪は目の前の状況を呑み込む事が出来ず、
混乱のあまり声を張り上げた。
「本人に直接聞けばいい、おい、喋れよ、裏切者。」
一夏は本音の髪を引っ張り、顔を上げさせる。
暴行はされていないため、顔には傷一つ無い。
「どうした?主が聞いているぞ?答えるのが従者の義務ではないのか?」
「だ・・・、まれ・・・。」
一夏に髪を掴まれているからなのか、
本音は痛みを堪えながら声を絞り出した。
「本音・・・、なんで・・・!?」
簪が今にも泣き出しそうな顔で、
本音に詰め寄った。
信じたくない、どうか否定してくれと言わんばかりの表情で・・・。
「コイツは・・・!この男は・・・!
私達暗部の仕事を奪った・・・!!いくら汚れ仕事でも!私は誇りを持っていたのに!!」
『・・・!!』
だが、簪が期待していた言葉は聞こえず、
代わりに一夏に対する怨みの言葉が飛び出した。
本音の言葉に、セシリアとシャルロット、そして、彼等の裏の仕事を知っていた楯無以外のメンバーが、
一夏と本音を驚愕の目で交互に見る。
楯無は彼の仕事の内容を知っていたが、
無闇矢鱈に言い回っても良くない内容であるために、
自身の胸の内に隠していたのだ。
「ほう?命より誇りを重んじるか、
それも良いだろう、同じ闇の存在として敬意を表しよう。」
今まで何処までも冷たい無表情を浮かべていた一夏の表情が、
見る者震わせる笑みへと変わった。
その整った表情に笑みを浮かべれば、
大抵の者は好印象を抱くだろう。
だが、今一夏が浮かべた笑みには、
見る者全てに恐怖を抱かせる。
「だが、俺を売ろうとした罪は重い、
お前の命で償ってもらおうか・・・?」
何処か狂喜を滲ませる声で、
彼は制服の裏に常時仕込んでいる拳銃を抜き取る。
同時にセシリアとシャルロットも、
スカートの中から拳銃を抜き取り、本音の頭に突き付ける。
「待ってくれ兄さん!!アンタ、自分が何をしようとしてるのか分かってるのか!?」
血相を変えた秋良が、一夏の肩を掴んで彼を揺さぶる。
「アンタ!!人殺しをする気なのか!?」
「そうだ、それ以外にどうやって落とし前をつける?
コイツを生かしておけば、間違いなく俺の首を狙うだろう、
そんな不安定要素、残しておく必要も無いだろう?」
「だけど・・・!!」
一夏の言うことに、秋良は言葉に詰まる。
それも当然の事であると言えるだろう、
彼の言っている事は、無情な現実を表しているのだから・・・。
「それに、俺は既に何百もの人間を殺めている、
後は何人殺しても、大した差は無い。」
『・・・!?」
平然と、今日の天気を報せるのと全く変わらない口調で、
彼は自身が隠していた裏の顔を明かした。
「楯無はこの事を知っていたが、
俺と敵対することにメリットを見出ださなかった、あぁ、実に賢明な判断だよ。」
「・・・。」
一夏に銃口で指され、楯無は非常に苦い顔をする。
「何故だ・・・!?何故アンタがそんなことを・・・!?」
「何故も何も、俺はコイツの代わりを務めたに過ぎん、
コイツが俺に喧嘩吹っ掛けたのも、俺の殺しに納得いかなかったからだそうだ。」
冷静さを欠いた秋良に対し、
一夏はただ平淡な声で事実を告げるだけだった。
「お前も納得がいかないなら、俺を殺してでも止めると良い、
だが・・・。」
一夏は本音の頭に突き付けていた銃口を離し、
秋良の眼前に突き付ける。
「その時はお前も裏切り者と見なし、排除する。」
「なっ・・・!?」
冷たく言い放たれた言葉に、
秋良は信じられないという風に目を見開く。
周囲も息を呑み、迂闊に動くことが出来ない。
動けば撃たれると、全員が直感的に感じているのだろう、
一夏からは尋常でない殺気が滲み出ている。
「箒、ラウラ、一つ頼まれてほしい、
鈴を外に連れていってやれ。」
「了解だ、盟主。」
「わ、分かりました。」
一夏の頼みを承け、箒とラウラはいまだにフリーズしている鈴を連れ、
会議室から出ていった。
「さぁ、処断開始だ、裏切者の末路、見届けてやれ!!」
宣言と同時に、一夏は秋良に突き付けていた銃口を本音に戻し、
本音の頭に銃口を突き付けていたセシリアとシャルロットと共に引き金を引いた。
sideout
side秋良
耳をつんざく銃声が室内に響き渡り、
十四発の銃弾が本音の頭に撃ち込まれた。
血が飛び散り、周囲に付着する。
その凄惨さに、山田先生は口元を手で抑え、
簪は悲鳴をあげた。
俺や雅人、そして暗部の人間である楯無すら、
顔を背けていた。
銃声が止んだ後の本音の顔は、さながらスポンジボブの様に穴だらけで、
最早顔と呼べる物では無くなっていた。
当然、一発で即死という距離から十四発も穿たれたんだ、
絶命している事は火を見るより明らかだ。
「裏切者への制裁は終了した、裏切者は決して赦さない、
我ら同志十四人の中から、もし裏切者が出た場合、こうなることを胆に銘じておけ。」
兄さんは、人を殺した高揚も恐怖も無く、
何時もと変わらない表情で、胸元のホルスターに拳銃を戻した。
それが逆に恐怖を煽る。
ここで笑うなり、恐れるなりしてくれれば、こんな感情は抱かなかった・・・!!
「一夏・・・!!お前は・・・!!お前って奴は・・・!!」
恐怖で青ざめた表情で、
雅人は兄さんの肩を掴む。
「お前は何がしたいんだ!?俺達の目の前でこんな事をして!!」
「ただの見せしめさ、裏切ればこうなると言うな?
それに、コイツが生きていれば、こうなっていたのはお前かも知れんぞ?雅人?」
兄さんが言っている事は、正しい・・・、
だけど、心の何処かで、必死に否定しようとする自分がいるのが分かる。
恐怖で逆に、冷静になれたのかもね・・・。
「・・・!!」
絶句する雅人を他所に、兄さんは簪に近付いていく。
「簪、本音が殺されて憎いよなぁ?」
「一夏・・・っ!!」
「その憎しみ、亡國企業にぶつけると良い、
アイツラがいなければ、本音は死ぬことは無かったんだ、
憎いだろ、憎め、そして戦え!!」
お得意の話術で、兄さんは簪の憎しみを駆り立てようとしている。
何故だ・・・!!
何故ここまでする必要があるんだ!?
兄さん・・・!!アンタ一体、どうしちまったんだ・・・!?
sideout
noside
処刑を終わらせた一夏達は荷物を纏め、
物資搬入口の方へと向かう。
正門から出れば、何かと襲撃され易いと踏み、
アクタイオンからの出迎えも搬入口の方に回させたのだ。
「全員集まったな?事態は一刻を争う、
用意が出来た奴から乗り込んで行け。」
「一夏!!」
一夏が全員に指示を出している最中、
血相を変えた千冬がやって来て、一夏に詰め寄る。
「お前、何をしようとしているんだ!?」
「何をだと?亡國と篠ノ之 束を粛清するだけだ、
俺達は国家の指揮には従わない、自らメロディを奏でるだけさ。」
自分に問い質す千冬に、
彼はさも当然と言った風に告げる。
彼にとって、亡國と篠ノ之 束は既に殲滅の対象、
世界がどう動こうとも、自分だけで破壊し尽くす心積もりだ。
それだけに、自分を止めようとする千冬に、
僅かながらの苛立ちを募らせた。
「当然、アンタにも従う気は無い、
友人を止めるか否かを決めかねてる様なアンタの下にいるようじゃ、
いざという時に出遅れる、そんな無様は晒したくない、それだけだ。」
話は終わりとばかりに、彼は千冬に背を向け、
用意されたリムジンに乗り込もうとする。
「お前は、昔馴染みを殺す事になるかも知れんのだぞ!?
それでも戦おうと言うのか!?」
友人と弟が戦おうとするのに堪えられず、
千冬は一夏の肩を掴み、問い質す。
「要らん情を戦いに持ち込めば、間違いなく死ぬぞ、
俺はそんなくだらん物で、大切な物を喪いたく無いのでな。」
「・・・っ!!」
一夏の据わった眼を、そして、その奥で光る仄暗い炎を見た千冬は、
思わず彼の肩を掴んでいた手を離した。
「アンタもいい加減に決めた方が良い、
でないと、死ぬぞ。」
今度こそ話は終わりとばかりに、
一夏はリムジンに乗り込み、その直後にリムジンは発進した。
一人取り残された千冬は、
数台のリムジンが走り去っていった方向を眺めることしか出来なかった・・・。
「一夏・・・、束・・・、お前達は変わってしまったんだな・・・、
私はどうすれば・・・。」
携帯端末を取り出し、電話帳を開く。
「やはり、私は・・・、裏切る事は出来ない・・・、
赦せ・・・。」
覚悟を決めたかの如く、
ある名前でカーソルを止め、ボタンを押した。
sideout
次回予告
アクタイオンに移った一夏の前に、
戦争の行方を左右する兵器がその姿を現す。
次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
流星
お楽しみに。