デート・ア・ライフ ~ CONTINUE TO LIFE ~ 作:真夜
10月24日――今日は俺の17回目の誕生日。そして、記念すべきフラれ10回目。
それは友達の間で記録というより、貫禄として見られていた。
流石に二桁突入は自分でも驚いた。もし一年に一回のペースで告白してたら、7歳の頃からしてたことになる。その歳といえば小学1年生だ。今じゃどうか知らないけど俺の世代はそんな早くからませてはなかっただろう。
あと覚えてることは、その記録更新日に俺は死んだということだった――
『付き合ってください!』
『…ごめんなさい!!』
出逢ってから5分でそんな言葉を俺は口にしていた。当然目の前の女の子は突拍子もない告白に驚いて、即返答してきた。答えはノーだった。
あ、別に友達同士のノリでとかで告白したわけではない。ましてや、エイプリルフールという嘘を付いて良い日でもない。
『ちょっと…あの、まだあなたのことがどんな人なのか分からないから……』
そう言うと女の子は踵を返して走っていってしまった。
俺の口から出たのは『あっ…ちょっ!』という言葉だけ。それぐらい一瞬の出来事だった。
『おう、記録更新だな♪睦月。今日も清々しいぐらいのフラれっぷりに告り方だよ』
人を小バカに笑う声が聞こえてきたな、と思ったら物影から誰かが現れた。
見なくても声だけで分かっている。この鼻に付くような声、そして俺のことをやたらと馬鹿にしくる奴。佐藤神也だろう。
振り返ると、やっぱりそうだった。そいつは壁に寄りかかりながらこう言った。
『記録更新っと。これでフラれた回数が10回目だな。二桁突入とかカッコ良すぎるぜ』
『…うるせー。つか、見てたのかよ。趣味わりーぞ、お前』
『師匠は嫌だけど、兄貴って呼んでいいか!?』
『どっちも変わんねーじゃん。つか、人の話フルスルーすんな』
こいつは小学校からのマブダチ――いや、悪友とでも腐れ縁とでもいうべきか。
とりあえず、十数年の長い付き合いだ。だから俺のフラれ記録を知っていて、メモまでして忘れないように残しているのだ。
『そのメモ帳貸してみ。重いだろうから持ってやるよ』
『嫌だっつーの。その手は二度とくわねえ。 このメモ帳だって高いんだぞ?いくらしたと思ってんだ』
『知らんわ。牛革のメモ帳に変な記録を書いてるのが悪い』
『だって、牛革の手帳とかカッコいいじゃねえか。それに大人っぽい』
『…書いてある内容は子供だけどね。 つか、それにこれのどこがカッコいいんだよ』
“これ”というのはフラれた回数のことだ。普通ならやべえな、と引くはずなのにこいつときたら、逆に興奮して『カックいーー!!』と叫び飛ばしてきた。
確かそれは高校の入学式の朝のホームルームの出来事だったと記憶している。そこから俺はボルト並みに新記録をどんどん叩き出していくわけだけど、それはまたの機会に。
『カッコいいじゃねーか。ビリビリくるぜ。 …俺はお前みたいになりたくないけど』
『おい、ちょい待て…。最後なんて言った?』
『……なんも』
『……………』
『さっ、早く学校に行こーぜ。お前の記録更新に付き合ってて遅れました、なんて洒落にならん』
『…だらっしゃーーー!!!!』
ビリッ!!と盛大な音をたててメモ帳が綺麗に縦に切り裂かれた。それを地面に叩きつけると踏みつけた。
これで作業終了。牛革は今日も硬かったぜ。
『…引きちぎるのは、ホント一苦労だな。指がいてーよ』
『三代目様、が……』
『御臨終なさったな。ざまーみろ』
神也は金魚みたいに――いや、鯉みたいに口をぱくつかせていた。餌でも欲しいんだろうか、と思ってしまう。さっそく訊いてみることにした。
『エサでもほしいのか?』
『欲しくねーわ!つか、弁償しろやこらあー』
『うわ、怖っ!!』
神也がすごい形相で迫ってきた。
俺は背を向けると走り出した。これは戦略的撤退ってやつだ。消して怖いわけではない。
こいつは走ればなんでも忘れる馬鹿だ。鳥の三歩歩けば忘れるってやつと同じと言ってもいい。だから、こうなると俺はいつも走り出すことにしている。
『待てやこらー!お宝本見せねーぞ、おらぁー!!』
『あ、それはキツいな…』
交差点の信号機が赤を示していた。そして、神也の持つお宝本が見れないのは辛いので俺は足を止めた。
こいつの持ってる本はどれも特上物なのだ。通常では手に入らない物で初回限定版なる期間限定版並のレア度だ。
その中でも一番のお気に入りは『おかえりなさいアナタ… ~愛理の破壊力編~』で、あれはハンパなかった。可愛い過ぎて心が震えた。
“編”というのはいくつかある種類のことで、この他にも妹の破壊力編やエプロンの破壊力編などがある。因みになんで全部破壊力なのかは俺も神也も知らない。ただ俺たちの間では、『可愛いければ、なんでもいい』という結論に至り討論は終着駅を迎えている。ネットではまだ続いているらしいがそれはそれだ。
『ちょっ!?いきなり止まんなよ!!』
ドンッ!
『おっとっと……』
急には止まれないのは人間も車と同じようだ。
後ろから走ってきた神也がぶつかってきた。俺はその反動で二、三歩歩かされたが神也は丁度交差点で止まれたみたいだ。
(え…?今、交差点って言ったか――)
『お前、何してんだ!こっちこい!!』
『は?何が――』
必死にそう叫ぶ神也は、危機迫る顔をしていた。その時、聴こえたのは他にもあった。
ブーーーーーー
そう鈍い音を出すトラックのクラクションだった。
身体が死を迎えそうなときは、時間がすごく長く感じることがあると聞いたことがあったけど、それをまさか自身が体験するとは思ってなかった。
スローモーションで景色が動く中、俺は違うことを考えていた。小学校の頃もこんなことがあったけど、その時の相手はこいつじゃなくて幼馴染みの女の子だった。
今日と同じような追いかけ、追いかけられをしてるなか交差点で止まった。そして、目の前に迫る車。
忘れていたけど、今思い出した。
足に力を込めると歯を噛み締めて一歩前へと踏み出した――
次に目を開けた時には、違う景色が広がっていた。
畳み何畳分あるんだ?と疑問に思ってしまう広さに、天井には大きなシャンデリアが備え付けてある部屋だった。
実物で見るのは始めてだけれど、これこそが一番の知れものだろうと確信するぐらいのものだった。灯りが反射しキラキラと輝いている。
『……………』
ここはどこだ、なんて言葉は出なかった。何故ならシャンデリアがある豪勢な部屋には似合わない看板で「こちら天国と地獄の別れ道」と書かれていたからだ。
それを眺めていると部屋のドアが開いた。現れたのは変な服を着た中年ぐらいの男だった。
(流石、夢だ。色々と記憶が狂ってる……)
「死んだとか意味分かんないけど、閻魔大王とかじゃないんだな」
夢とは自分の見てきたもの――つまり、記憶がグチャグチャに混ざりあったものを寝ている時に見るという。
シャンデリアのついた豪華な部屋に、古代ギリシャ神話に出てくる神が着ていそうな服を纏った中年男性。これは夢以外ありえないだろう。
夢で冷静に状況判断というのも、おかしなもんだがこれも夢。気にしないことにした。
『ようこそ、いらっしゃいました。ここは地獄と天国の境目――ゲートです』
中年男はゆっくりとお辞儀をすると顔をあげた。まだ話は終わっていないのか、また口を開けた。
『今回、貴方が死んだということでここに到着したのですが、覚えていますか?』
『は?』
『ですから、10月24日の8時14分頃貴方は交差点でトラックにひかれて死んだんですよ。覚えていませんか?』
『いやいや、俺は死んでないから』
『いえいえ、死んだのだからここにいるんですよ。それも特別な死に方をしないとここには来れません』
『……………』
『覚えてないのですか?』
いや、覚えているもいないも俺は死んでいないはず。これも夢で現実は、まだ家のベットか学校の机で熟睡中のどちらかのはず。
死んだ記憶すらないし、身体が痛いとかもなかった。
『覚えていないのでしたら、私が説明致します。 …貴方は交差点で自殺したんです』
『いや、してない…というか、死んですらいないと――』
『いや、悲惨でした。私は見ていませんが電車と同じくらいだったとか』
『人の話まるで聞いてないし。まるで神也みたいだ』
人の話をよくフルスルーする佐藤神也の事を思い出した。
無視するタイミングすら同じときた。これはあいつがモデルなのかもしれない。
中年男は目を丸くしていた。なんだか驚いているようだ。
『シンヤ様をご存じなのですか!?』
『ご存じも何も、俺の友達だし。つか、朝も――』
朝も――なんだったんだろうか。この後が思い出せない。覚えているのは顔とぼんやりとだが顔だけ。それはまるで記憶を失ったかのような感じだった。
『思い出せないようですね。それは死んだ人の証拠です』
『…死んだ…証拠……?』
『はい、だから私は先ほど訊いたのです。死人は記憶を失いますから』
そして続けるようにこう言った。
『まあ、ここにいる時点で貴方が既に死んでいるのですが』
中年男が言っていることが本当なのか分からないけど、確かに何も覚えていなかった。かろうじで自分の名前は思い出せた。
宇隆睦月。よく女の子の名前として間違えられたのを覚えている。でも、それ以外が出てこない。自分が生まれ育った家も住む町も。そして、家族・友人も。その中でも佐藤神也を覚えているのは謎だが。
『……………』
『では、貴方は死因が“自殺”となっていますので、こちらに進んでください』
クリップに挟んだ一枚の紙を見るとそう言った。片手は一つの看板の方に向いていて「地獄行き」と書かれていた。
『ふざけんな、俺は死んだとしても自殺はない!地獄なんか行ってたまるか』
『そうですか、でも皇子が貴方は自殺だと言ってますが…』
ガチャリという音がしたあと扉が開いた。
現れたのは小学校からの悪友もとい腐れ縁の佐藤神也だった。でも、これも中年男と同じような古代ギリシャ神話みたいな白い服を着ていた。そして、白い羽が背中から生えていた。
そいつは面倒くさそうな顔をしたあと、ぶつくさと話し始めた。
『あーそうそう。たぶん自殺だったと思う。ねみい』
『おはようございます、皇子。 自殺ですね、分かりました』
『はあ!?何言ってんだよ神也!俺が自殺する奴なんかに見えるか?』
『は?誰ですかお前は。会ったのは今日が始めてなんですけど。ウケる』
ケラケラと笑い人形のように笑い始めた。姿も性格も異様だった。まるで別人で俺の知っている神也じゃなかった。
俺は睨み付けるように見た。そして訊いた。
『…お前は、誰なんだ?』
との俺の質問にさっきから横に立っていた執事みたいな男が代わりに答えた。
神也に似た男は、ソファーみたいなイスでだらけていた。
『こちらは我天界の――』
(わが、てんかい…?)
“てんかい”ってあの天界だろうか。思いつく限りの言葉を頭から捻り出してみたけど、当てはまりそうなのはこれしかなかった。
『皇子、サトウ シンヤ様です』
『……………』
その後は、この天界の成り立ちから国皇の素晴らしさなどの云々を永遠と語られた。
とりあえず、その中で理解できたのは佐藤神也がこの天界の皇子だということ。
すまん。俺の理解力を全力疾走して越えてった。マジで意味分からん。こいつが皇子?サラリーマン家庭の息子だぞ。昔王族だった、とか言われても信じられん。
神也は足を組もうとしたけど、組めなかった。膝の上に足を乗っける形になった。
『――それにこちらの手違いだったとしても貴方の行き先は変えられません』
『は!? ちょ、それはどういうことだよ!』
『自殺認定してしまいましたから』
そう言うと一枚の紙を取り出して、見せてきた。日本語でも英語でもない字でズラズラと言葉が書いてあった。
『…読めないんだけど』
『それは天界で使われてる字ですから。下界の人間が読めるわけがありません』
『じゃあ、なんで見せてきたんだよ!?』
『それではこれから貴方にはある世界に落ちて――いや行ってもらいます』
『シカトですか!?スルーですか!?つか、落ちるってなんだよ!普通に降ろせるでしょうが』
俺の全力の叫びが届いたのか…はあ、とため息をついた。そして、とてつもなく面倒くさそうな顔をした。
つきたいのはこっちなんですが!!とツッコム前に、ここまで表情に出せるのか、と逆に驚いてしまった。でも今はそれどころじゃない。俺が違う世界に落ちる――
(…違う世界……?)
『違う世界って……は? 意味が……』
『うるさい人ですね、人間は。あーはいはい、行ってらっしゃーい』
そう言った瞬間バコッと何か扉が開いた音がした。後ろを振り返り、来た方を見ると頑丈そうな扉は閉じたまま。
じゃあ、さっき聞こえた音はなんだったんだろう、と疑問に思った。
『今の音はなんだったんだ…?』
『下ですよ』
さっきの神也似な皇子でもその執事でもない、中性的な声が聞こえてきた。俺は言う通りに足下に目を向けた。
(…なんもねえじゃん)
『はい、今はですが。これから起きます』
『これから?』
と言った瞬間に重力とは反対方向に身体が引っ張られた。ふわりと浮かんだ足が宙を蹴った。
(なっ、なにが起こって!?)
『さあ、行きましょうか。Continue to Life ですよ』
逆バンジーをやったことはないけど、世界○みえという番組をよく見てたから何となく想像は出来ていた。でも、それは考えているほど甘いものではなかった。
身体中の臓器という臓器が下へ下へと片寄る感覚に続き、風がビシビシと顔に当たって痛かった。
『ほほう、粘りますね。別に失禁――いや、失神してもいいんですよ?』
『っ~~~~!!』
もう声にならなかった。口を開けば風が容量を超えても入ろうとしてくる。もう閉じるのすら一苦労だった。
『そうですか。じゃあ、頑張ってください。もう少しで着きますよ』
服や髪がバサバサと暴れるなか、目を少し開けるとまぶしいぐらいの蒼い世界が見えた。
(どこだよ…ここ!?それに――)
下を眺めると見たことがない高層ビルが建ち並ぶ都市があった。まだ遠くてそこまで確認出来ないけど、外装も今まで見てきたものと違った。ガラス張りの窓ではなく機械的な感じだった。
そして、一番重要なこと――俺は今真っ逆さまに落ちていた。
『っ~~~~!!』
(落ちてる落ちてる落ちてる落ちてるってーーー!!)
いっそのことそう叫んだらどれ程楽なんだろうか。体験したことのない速さで落ちていく。
『あ、忘れてました。そろそろフライと言ってください。アイキャン、フライ!!と』
なんでこんなときに揚げ物の話なんかをしてるんだ、と思ったが違ったみたいだ。どこかから聞こえてきた声は、アイキャン、フライ――つまり、私は翔べる!!と口にしろと言ってきたのだ。
なら俺がやることはただ一つ…
『アイ、キャン…フラーイ!!!』