デート・ア・ライフ ~ CONTINUE TO LIFE ~   作:真夜

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第2話『真っ暗な空間――転移の扉にて』

 

 それは突然、俺の前に現れた。いや、正確に言うなら、俺が『リターン!!』と叫んだ時にだ。

 その瞬間、目の前がぐにゃりと歪んだ。最初は目の錯覚かと思って、瞬きや目を擦ってみるなどしてみたが何も変わらなかった。

 こういうのをゲームかなんかで『次元の裂け目』とか『カオスゲート』なんて呼んで使っていたけど、実物を見るとそれとは比べものにならないくらいドス黒い色で混沌としていた。

 

「なんだこれは!?」

 

 俺の疑問に答えるようにチリンと鈴の音が響いた。そして男でも女でもない中性的な声が聞こえてきた。

 

『それは転移の扉だ。 さあ、入りたまえ』

 

「…転移の、扉……?」

 

“転移の扉”は宙に浮かぶように、俺と突然現れた少女との間に存在していた。

(扉というより、黒くて四角い穴だな…)

 

『なにをしている。悠長に考えている暇はないのだぞ』

 

「いや、これ…なんか異界に繋がってそうな勢いなんだけど……」

 

 俺は黒い穴を指してそう言った。

 斬撃が迫ってきていて、俺の命が危ないってのはよーく分かっているのだがツッコまないわけにはいけなかったのだ。

 よく見ると転移の扉の模様は複雑で竜に見えなくもなく、古代文字に似たものがビッシリと書かれていた。

 

「なんかヤバそうな気が…」

 

 鈴はハッと鼻で人を馬鹿にするように笑うと、

 

『なにを馬鹿なことを――ここは既に異界ではないか。そんなことすら忘れたのか、ムツキよ』

 

 と当たり前のことを言ってきた。

 俺は既に定着しつつある片言な呼び方を聞きながら答えた。

 

「忘れてなんかいないって。 ただアレだ――」

 

『早くしないと斬撃で身体が真っ二つになるだろうな。 そしたら、ワタシはその惨劇をぼーっと上から眺めることになるのか…。いや、つまらんことだ』

 

「あー、分かったよ。入れば良いんだろっ!」

 

 最後の言葉はカチンときたが、こいつの言っていることは正論なのだ。もうすぐそこまで死神は迫ってきている。

 扉はずっと開いている状態なので、あとは覚悟を決めるだけ。

(……よし、行くか…)

 口の中に溜まった生唾をごくりと呑むと、俺はヘッドスライディングの要領で転移の扉へと飛び込んだ――

 

 

             *

 

 

 

 髪を結ぶリボンを白から黒へと。口には棒の付いたキャンディを。そして、最後に真紅の軍服をシャツの上から羽織るように着ると準備完了。

 クルリと口の中で棒付きキャンディを回すと、少女は艦橋に入って行った。

 

「――今の状況は?」

 

 頑丈そうな鉄の扉が開くと同時にそう口にした。その言葉を合図に空気がピリッとしたものに変わった。

 

「司令」

 

 先ほどまで艦長席の隣に控えていた男が、こちらを向くなり敬礼した。それはさながら軍での挨拶かのように。

 それをいつものことのように男を一瞥だけくれると、すれ違い様に脛につま先で蹴りを入れた。

 

「おうっ!」

 

「変な挨拶はいいから、早く状況を説明なさい」

 

 横を通り過ぎると、少女は艦長席へと腰を降ろした。

 

「はっ!」

 

 男は苦悶、というより恍惚とした表情を浮かべていたが、キリッとした顔に戻る。

 

「はっ。空間震が発生したにも関わらず、精霊は確認できませんでした。しかし、その後精霊は出現。それと同時に攻撃が始まりました」

 

「空間震が先に出た、ということ?」

 

「いえ、正確に言うなら――」

 

 男はどこか歯切れが悪いように話を続ける。

 

「先の空間震には精霊ではなく、“少年”と思しき人影を確認。そしてその後、近くに精霊が現れたことによる空間震を確認。つまり、合計二回です」

 

「…そう。 で、ASTの動きは?」

 

「どちらも攻撃、というところです」

 

 ASTとは、対精霊部隊(アンチ・スピリット・チーム)の頭文字を取った呼び方だ。

 陸上自衛隊の特殊部隊であるこの部隊は、精霊を武力によって殲滅する事を目的として設立された。

 ここに所属する戦闘員は皆、身体に機械の鎧を纏っていて、その力を利用して精霊と戦う現代の魔術師(ウィザード)である。

 しかし、人間以上怪物未満の武力を持ってしても精霊に太刀打ち出来ないのが、現状だった。それくらい、人間と精霊とでは力の差が桁違いなのだ。

 そんなことより、今は引っかかることがあった。

 精霊ではないという少年。なのに彼の出現と共に現れた第一回目の空間震。

 

「……………」

 

 考えても仕方がない。とりあえず、現状を把握することにした。

 

「――映像出して」

 

 艦橋に設置された大型モニターが起動した。そして、リアルタイム映像が映し出された。

 繁華街から通りを二つくらい隔てた広めの道路に少年が一人と、それに向かい合うかのように精霊が立っていた。その上をASTは飛んでいる。

 当たり前だが辺りの建物は半倒壊を越えて崩れ去ったものから、ごっそり抉られたように破壊されているものばかりだった。

 もう現実とは思えない光景だ。だがこれはもう慣れているのか、誰とて驚いた声は上げない。

 

「一触しょ――一触即発ね」

 

「……………」

 

 何も言わず足を上げると、ブーツの踵で男の足を踏みつぶした。

 

「ぐぎぃ!」

 

 男が、この上なく幸せそうな顔を無視すると、ずっと見ていた男の子から視線をずらした。

 画面の端には、その場にいる人の魔力反応が映し出されていた。そこには精霊でもなく機械のスーツを着た人間でもない反応が出ていた。

 それを確認した男は、

 

「どうなさいますか?」

 

 と尋ねてきた。恐らくこの精霊のことではなくて、この少年のことだろう。

 それに答えるように少女は口を開けた。

 

「わたしも見ているだけというのは、飽きてきたところよ」

 

「と、言うことは」

 

「動くわよ」

 

 その言葉に、艦橋にいたクルーたちの息を呑むのが聞こえた。

 

「戦闘が収束次第、その男を捕獲するわ。いい?」

 

 

ウゥーーー

 

 

 そう言った瞬間、艦橋にアラームがなった。それは異常事態が発生したときに鳴るものだった。

 一瞬にして、クルーたちに緊張が走った。

 

「何が起こったの?」

 

「高エネルギー反応確認。 映します!」

 

 画像がズームされていく。男の子と精霊の間に何か黒いものがあった。

 突然現れたそれは、精霊が使う力とも魔術師(ウィザード)が使う武器でもなかった。それはただそこに存在している。

 黒い扉みたいなものの正体を確認していると、少年に動きがあった。

 その中に飛び込んで行ったのだ。それと同時にまたアラームが鳴り響いた。

 

 

ウゥーーー

 

 

「なっ…少年、ロストしました!!」

 

 その言葉に動揺するかのように、艦橋がざわついた。

 それを正すように、

 

「追うのよ!!」

 

 艦長席に腰かけていた少女は立ち上がるとそう叫んだ――

 

 

           *

 

 

 俺が(顔面からだったけど、大丈夫なのか…?)と疑問に感じたのは、暗く何処までも続くんじゃないかと思う転移の扉に入ったあとだった。

 

「……………」

 

 中は不思議な感じだった。下へと落ちている感じはするのに、なかなか地面には着かない。それどころか、出口すら見えてこない。

 だから、どんな感じ?と言われそうなのだが、俺もよく分からないので説明ができないのだ。

 そんな時、チリンと短い鈴の音が鳴った。また皇様が喋りだすぞ。

 

『まず状況を確認しておこうか、ムツキよ』

 

「…いいけど、そんな時間あるのか?」

 

『ムツキが出る場所を指定しなければ大丈夫だ。そこは安心してたまえ』

 

「分かった」

 

 別に暗いところが嫌いってわけじゃない。いきなり外に出されないか心配だっただけだ。

 でも、だとすると出るところは――

 

『おっと、何も考えなくていいぞ。無心でいてくれ』

 

「お、おう」

 

 なんて無理難題を。人は考えるなと言われれば、逆に考えてしまうというのに。

 

『――まずReturn:転移についてだが、これは魂を消費させて発動させるAcceleration:加速とは違うということをまず理解してほしい』

 

 学校の教師みたいな口振りでそう言った。

 これが運動能力とかの自分で分かることならいいけど、与えられた能力のことは何一つ分からないので、俺は黙って聞くことにした。

 

『今現在、魂は相当磨り減ってしまっている。 そこで回復しなければならないのだが、ここは前いた現実世界とは違って、食べ物を食べたぐらいでは元通りにはならん』

 

「じゃあ、どうすれば……」

 

『そこで女の子というわけだ』

 

「ん……?」

 

 どういうことだ?という意味を含めて疑問の声をあげた。

 だって、消耗した魂を回復させるために女の子が必要だとか意味が分からん。萌えパワーだとか言うんじゃないだろうな。

 

『だから、女の子だ。男と反対の性別で、柔らかい生物だ。 それすらも忘れてしまったのか?』

 

 女の子ってアレだろ?俺だってそのぐらいは分かる。馬鹿にするな。

『世界には、女の子と男の子がいる』なんてことは、相当な引きこもりでも知ってるぞ。むしろ、今は第三勢力並みにその中間がいるってことも知ってるはずだ。

 

「…柔らかいかどうかは知らないけど、女の子ぐらい知ってるわ。 それがどうしたんだ?」

 

『――何…?今知らないと言ったのか?』

 

「……んまあ…」

 

『それじゃあ、付き合ったことは?』

 

 鈴は何故かグイグイと聞いてくる。さっきまでの落ち着いた感じと大違いだった。

 

「…うるさいなあ。付き合ったことねえよ、悪かったな」

 

『…なっ……!?』

 

 声は耳元から聞こえてくるだけなのに、驚いているのが分かった。

 そんなに重要なことだったんだろうか。もしそうなら、俺にとって致命的かもしれない。

 なにせ俺は――

 

『…この世界での生き残る手段は、女の子との会話だぞ。それも好感度が良ければ回復するし、反対に悪かったら削られる……。大丈夫なのか?』

 

 

 “フラれた記録二桁ホルダー”で

 

 “付き合ったことない歴、歳の数”

 

 

「…終わった……」

 

 心配だとか不安だとか関係無しに終わったんじゃないのか、と思った。

 

 

       *

 

 

 落ちる先が明るくなるのには、そう時間はかからなかった。

 ぶわぁっと何かを突き抜ける感覚のあと、黒く暗い世界が弾けるように蒼く色のある世界へと変わった。

 

「うわっぷ!」

 

 開いていた口の中に風が入ってきた。そして、身体へとぶつかってくる。

 それは痛いなんてもんじゃなかった。臓器という臓器は後ろへと引っ張られる感覚はするし、皮膚は皮膚で波打つ。

 そして――

 風に煽られた鈴が耳であらぶっていた。

 もう暴れるという言葉は生温いくらいで、風の抵抗をもろに受けた丸い鈴は…

(って、丸くないし!!なんでだ!?)

 球体にあるはずのない角が肌に突き刺さってくる。

 触ってみると細長くて、所々出っ張りがあった。

 

『こら、やめないか。くすぐったいぞ』

 

「ん゛ん~~~!!(そんなの知らねーよ!!)」

 

『何を言っているのか分からんが、落ちているぞムツキよ。早くフライと言わぬか』

 

 鈴の声だけは不思議とちゃんと聞こえてくる。この風の音しか聞こえない中どうやって話しているんだか。

 

『心に直接話かけているのだよ。便利だろう?』

 

「ああぁぁぁぁー!!(そんなことはどおでもいいんだよー!!)」

 

『いや、それにしても…最初に戻るとはとんでもない負荷がかかるぞ。 まあそんなに歩いておらぬから、これが最良の場所だったのかもしれぬが……』

 

 鈴だったものは風に煽られ、俺の耳や首にぶつかり続けている。平らな部分より、たまに当たる角のようなものの方が痛かった。

 

『――それでは、フライと叫ぶといい。今回は多目に見て、ビルの屋上にでも降ろしてやろう』

 

「うあぁぁぁー!(上から目線うぜえー!)」

 

『ぬ? 何を叫んでいるのかさっぱりだが、早く言わないとまたさっきと同じ地上に落ちてしまうぞ』

 

 俺は腕で顔を覆い隠すようにすると、目を開けて下を見た。

 眼下に広がる景色は着実に俺が地上へと落ちていることを知らせてくる。

 さっきまで遠くに見えていた、高層ビルの屋上も目と鼻の先だ。

 

「フ、フフフ…フライっ!!」

 

 ぐわぁっと下に引っ張られた感覚がした。でも実際はそんなことなくて、落下していた俺の身体が宙に止まっただけのこと。

 一種の車の急ブレーキと同じことだ。突然止まれば、進行方向に身体がもっていかれる。今もそんな状況だった。

 

『ほら、言わんことない。早く言わないからだ』

 

「はあ、はぁ……大丈夫か?とか、そう言う言葉は…かけられないのか……?」

 

『かけられないことはない。ただ言わないだけだ』

 

「……まあ、いいや。とりあえず、屋上に降ろしてくれ」

 

 ここがどこか分からないがとりあえず、屋上へと降りることが出来た。それさえなんとか出来ればそうそう“死ぬ”なんて事にならないはすだ。

 降りた建物はここいらでは大きいらしく、街並みが一望できた。とは言ったものの、最初俺が降りたところの近くだ。

 無論、下を見下ろせば瓦礫の山の嵐。原型を留めて綺麗な建造物なんか見当たらなかった。

(やっぱり、スゴイ惨状だな……戦闘地帯みたいだ…)

 仮想空間と言っても、リアル――現実そのものにしか見えない。

 そんな時、チリンとまた鈴の音が聞こえた。

 

『そんなことより、ムツキよ。 そろそろ来るぞ。returnの副作用が』

 

「は…? 副作用って、言ってる意味が分から――っ!?」

 

 頭が突然痛み出した。それはまるで脳本体を握り潰されているような感じだった。

 

「いててててて!!」

 

『副作用だから痛くて当たり前だ。むしろ今よりもっと遡った場合はもっとすごいだろう』

 

「……なんだ、そりゃ…」

 

『もうしばらくすれば、痛みも引いてくるはずだ。辛抱したまえ』

 

「…分かった……」

 

 アクセラレーションを使うと俺の魂が削られて、リターンを使うと消耗しないが何らかの副作用があるってか。便利のようで使えない能力だな。

 鈴が言うことは本当なのか、しばらくすると頭痛が治まってきた。

(あ、本当だ…痛みが……)

 

『ワタシは嘘はつかん。どれも本当のことだ』

 

 じゃあ、最初のアイ・キャン・フライはなんだったんだよ、と文句を言いたいけど、こいつのことだからシカトされて終わるに決まっている。だから、俺はそんなことより違うことに頭を使うことにした。

 

「さっき鈴じゃなかったみたいだけど、なんでだ?」

 

『それはアレだ。飛ぶと言ったら翼だろう? だから、翼になっていたのだ』

 

「……………」

 

 そして、続けるように、

 

『鈴は音色が良い音だろう? 風鈴と悩んだのだが、耳にはサイズが合わなくてな。諦めてこっちにしたのだ』

 

 上がりも下がりもしないイントネーションで鈴はそう言った。

 耳に風鈴なんて聞いたことがないけど、もし存在したらうるさいんだろうな。因みに鈴もないけど、これは許容範囲ってことにしとく。

 

「んで、なんで耳なんだ? ブレスレッドとかネックレスとか色々あっただろ」

 

『それは愚問というやつだ。 念写をするとワタシが疲れるからだ。 耳なら話かけても聞こえるだろう?』

 

「……………」

 

 なんだ、私情か。もっと重要な意味があるのかと思ってたけど、そんな理由か。考えて損した。

 

『どうした。気になるものでも見つけたのか?』

 

「いや…なんでも。 それより、ここからどうやって下りるんだ?」

 

『……………』

 

「…おい、まさかのこういうときだけ黙るのパターンのやつか?」

 

 鈴はうんともすんとも言わない。

(ここからは、自分で進めて行けってやつか…?)

 プロローグで基本操作だけ教えて、あとはあまり出てこないキャラぐらい使えないな。これならパートナーで悪魔とかいた方が役に立つんじゃないか。

 そう思っていると、耳元でチリンと鈴の音が聴こえた。鈴が喋る合図だ。

 

『…攻略本によると――』

 

 鈴は変な事を口にした。この世界の攻略本があるというのか。流石、この世界の創造主。神様だ。

 それがあれば二度死にはないだろう。助かった。

 鈴はブツブツと呟いている。

 

『ほう。この裏道を通って行くと隠しアイテムが手に入るのか…。――ん?何々…そこの扉でコマンド入力だと? 面倒くさいな……』

 

「裏道?扉…? そんなのどこにあるんだ??」

 

 俺は屋上を見渡した。大きな給水棟が目に入った。そして、企業用の大型室外機との間に扉を発見した。

 近づいてドアノブを回したけど、開かなかった。当然のように、鍵はかかっていたようだ。

 

「分かった。扉でコマンド入力をするんだな? …で、そのコマンドは――」

 

『…↑←↓→Aだと……。これは難しいな…』

 

「それを言えばいいのか?」

 

『……………』

 

 返答は無い。でも、開けゴマみたいな感じで、口で言えば空くかもしれない。

 そうと決まれば俺は口を開けた。

 

「上、左、下、右、エー……」

 

 

シーーーーン

 

 

 という言葉がピッタリだと思った。扉はピクリともしないし、鍵が開いたような音すらも聞こえない。

 俺はすぐさま鈴に文句をつけた。

 

「開かないぞ。 その攻略本あってんのか?」

 

『む、何の話だ?』

 

 念写ではなく声が直接耳元から聞こえてきた。

 

「だから、扉が開かないんだって」

 

『…そんなことをワタシに一々言ったところで、何も出来んぞ。この仮想世界は、自立プログラムが働いているからな』

 

「お前、さっき攻略本がどうのこうの言ってたじゃんか。 それをやっても無理だったぞ」

 

『……………』

 

「おい、またシカトか?」

 

『……なんて言ったのだ?』

 

「そりゃあ、上、左、下、右、エーだ。 あ、もしかして、どこか間違ってる感じか?」

 

『…ん?もう一度言ってくれないか?』

 

「だから、上、左、下、右、エーだって。次はちゃんと聞き取れたか?」

 

『……ふっ……』

 

 一瞬だけど、鈴の笑い声が聞こえた。それも笑いを堪えているのか、耳元から連続的にクスクスと馬鹿にした笑い声が聞こえてくる。

 流石にだんだん恥ずかしくなってくる。「アイ・キャン・フライ!!」と叫んだ時も相当恥ずかしかったけど、今回のは次元が違った。

 自分でも頬が赤くなっていくのが分かった。

 

「う、うるさい!! お前が紛らわしいことをブツブツ言ってるからいけないいんだ!」

 

『ほほう。自ら招いたことをワタシの責任にするとは、流石下界人だな』

 

「下界、下界って、お前はまた――…ん?」

 

 身体がふわりと浮かんだ感じがした。そんなわけはないだろ、と足元に目を向けると屋上の床から足が離れていた。

 

「お、おい、俺浮いてるぞ!?」

 

『そのようだな』

 

 なんら変わりない感じに鈴はそう言いった。

 驚いてもなけりゃ、パニックにもなっていない。むしろ淡々と事実を口にしているかのように喋っていた。

 

「お前が浮かばせているのか? それになんかどんどん上へと向かっている気がするんだけど……」

 

『それは勘違いではないだろう。そして、ワタシはなにもしていないぞ』

 

「え……。大丈夫なのか…?」

 

『まあ、身を流れに任せてみようか。もしかしたら、第二勢力の一つにご対面出来るやもしれぬ』

 

「はい? 第二勢力……?」

 

 またも鈴の口から知らない単語が出てきた。それも身を流れに任せてみようか、という創造主の言葉に一抹の不安を感じたのは俺だけだろうか――

 

 

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