デート・ア・ライフ ~ CONTINUE TO LIFE ~   作:真夜

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第3話『謎の飛行船――ラタトスクにて』

 俺こと、宇隆睦月は乗艦して早々に手足を縛られた。

 宇宙船に同乗したということに感動する前にだ。因みに宇宙船っていうのは、体験した感じがそれに似たものだったからだ。ビルの上から垂直に飛行物体に移動させられたら、そんなイメージの一つや二つは浮かぶだろう。

 そして、俺は今畳三畳ぐらいしかない部屋に転がされていた。

 壁はお決まりの白。中にいる人の精神状態をじわりじわりと崩すためだ、と昔テレビで言っていた気がするけど、本当なんだろうか。因みに俺は信じていない派。

 ここにはベットが1つと大型モニターが一台あるだけだった。その他には何もなく、ガランとしている。

(くそ…何とかして取れないかな……。やっぱ縄脱けの術か…?)

 手首を捻っても引っ張っても、結ばれたロープはほどけなかった。

 何故、部屋に監禁してるくせに手足を縛っているんだ?と疑問に思っている人がいるかもしれないから、一応説明しておこう。

 

 

 少し遡ること1時間前――

 

 

「ようこそ、ラタトスクへ」

 

 光学迷彩で隠れていたのか突然目の前に扉が現れた。そこを通って乗艦した俺を待っていたのは、近所のオモチャ屋のおじさんだった。心なしか凛とした空気を出している。

 いつも身に着けていたアニメのキャラデザイン付きエプロンはどこかへ行ったのか、今はピシッとした軍服を着ていた。

 

「なんで、斉藤さんが……ここに?」

 

 と疑問を口にしたあと、ハッとあることに気付いた。そう俺の悪友“佐藤神也”だ。あいつも顔はそっくりだが性格が全く違うという奴に会った。それも神様の息子と来た。でも、どちらも性格が普通ではない、という所は同じだったが。

 

「…何のことでしょう?私は名前は神無月です。 それに貴方と会ったのは今日が初めてですが……」

 

「……………」

 

「どこかでお会いしましたか?」

 

「い、いや――したというか…」

 

 そんな時、チリンと耳元で控え目な鈴の音が聞こえてきた。なんで小さくしたのか理由は分からないが、鈴が喋り出す。

 

『言っていることは本当だ。 ムツキは似たような人物と接触してるかもしれないが、向こうは全くの初見だ』

 

(…じゃあ、やっぱりお前の息子と同じ原理か? ――って、俺の声は届かないんだっけか…)

 そうなのだ。鈴は念話で楽々俺に話しかけられるのに、俺は出来ない。問いかけても返ってこないのだ。

 俺は神無月に聞こえないように、声を押さえて鈴に話しかける。

 

「アレと同じってことか?」

 

 いくら小声だとしても独り言は不味い。だから、言葉短めに――でも、相手に伝わるように言葉を選んで話す。

 

『人の息子をアレ呼ばわりするとは…。 まあいい。そんな感じだと理解してほしい』

 

「そんなのか…。なんかめんどくさいな」

 

 二人も元知り合いと会うとなるともっと出てきそうな気がしてくる。

 例えば、そう喫茶店のお姉さんとか。

 

「……おや、もう到着したようだね」

 

「うわっ!?」

 

「…そんなに驚かなくても。君は初対面の人にはそういう態度をとるのかね」

 

「いや、そんなことはないですけど……」

 

 言われて俺は壁に張り付いていることに気付いた。

 普通ならここまで驚かなけど、この背後にいきなり現れた女性がこれもまた知り合いだったからだ。

 この人は――

 

「喫茶店のお姉さん……」

 

 そう俺が学校帰りによく通っていた喫茶店で働くお姉さん。そして、何度も俺の心の傷を癒してくれた人だ。

 その女性が今、仮想世界――地獄にいた。

 でも、これも全くの別人のようでこっちのお姉さんは妙に眠そうな顔をしていた。

 彼女は長く伸びた前髪を鬱陶しそうに掻き上げると、また俺の方を見た。

(昨日、オールでもしたのか…? ゲームオールとか……)

 ゲームオールっていうのは、一晩寝ずにゲームをすることだ。この人は大のギャルゲー好きで、よく止められなくなって寝ずに一ルートをクリアしてしまうらしい。だから、そう思っただけだ。

 

「……ん? 私は喫茶店なんかで働いたことはないよ。」

 

 と斉藤さん、じゃなかった。神無月と同じような返しが来た。

 

「あ、そうですよね」

 

「そうだとも。私の名前は村雨令音だ。ずっとこのラタトスクで解析官をやっている」

 

「そうなんですか。 俺的には、クマの刺繍がされたエプロンを付けて、紅茶を注いでいる方が似合ってそうですけどね」

 

「ん?」

 

「いえ、こちらの話です」

 

 因みに喫茶店のお姉さんこと村雨は、自主制作のエプロンではなくて、軍服みたいなのを着用していた。でも、こちらもクマは好きらしく軍服のポケットに入れていた。微妙に顔を出しているあたりがなんとも可愛らしい。

 

「それより、君。 身体に何も異常はありませんか?」

 

 とさっきまで黙っていた神無月が訊いてきた。

 

「え、俺ですか? それなら大丈夫ですけど……」

 

「ないですけど?」

 

「大丈夫ですか…?その隈」

 

 聞き直してくる村雨に、さっきから気になっていた分厚い隈を指差した。

 

「私のことは気にしなくても大丈夫だ。いつものこと」

 

「そ、そうなんですか……」

 

『……おい、ムツキよ。そんな世間話なんかしてないで、さっさと探さぬか』

 

 今度は黙っていた鈴が話しかけてきた。念話ということもありこっちと会話がダブる。

 

「もうこれほど寝てないかね」

 

 村雨はそう言うと指を三本立てた。なんだ三日か。俺なんて最高四日だぞ。

 でも、起きていたという記録はあっても記憶があるのは最初の二日だけ。あとは覚えていない。神也曰く、ゾンビみたいだった、とのこと。よく分からん。

 

「なんだ、三日ですか。俺なんて――」

 

「いや、三十日……だった、かな」

 

「……………」

 

『私の話を無視をするでない。 まず四と三十では天と地ほどの差がある。さっさと負けを認めて、こっちの話を訊くのだ』

 

 鈴――いや、中身は神か。俺は声を潜めると話し掛ける。

 

「はいはい、なんですか?何を探せって?」

 

『そんなの決まっているではないか。女の子だ。 下界人は本当に理解力と学習能力が低いな。だから、争い事が絶えないのだ』

 

(…おいおい、話が脱線してんぞ)

 

「んで、その俺の女神様とやらはどこにいるんだ?」

 

『……虫酸が走るから女の子といってほしい』

 

「…女の子はどこにいるんだ?」

 

 面倒くさい奴だ。消費した俺の命を回復させてくれる女の子――だから、女神。それでいいじゃねえか。

 神様とやらは“女神”という単語が嫌いなんだろうか。

 そんなことを考えていると、

 

「おい、君。人の話を聞いているのか?」

 

 と神無月が聞いてきた。

 そんなの鈴のせいで聞いてなんかいなかったが、二人の雰囲気的にちゃんと耳に入っていたことにした。

 

「え? あ、はい。ちゃんと聞いてますよ」

 

(…何の話だ?)

 

『ムツキの名前の話だ。それすらも聞いていなかったのか』

 

 チリンと控え目な鈴の音が聴こえてきたあとに声が心に響く。

 俺のせいじゃなくて、お前のせいだろ。

 

「…うるせぇ」

 

「ん?」

 

「あ、いや…なんでもないです。 俺の名前は睦月。宇隆睦月です」

 

「“陸”って漢字の左側を“目”に換えて、お月様の月です」と付け加えるように宙に指で字を書きながら説明した。

上手く伝わったのか神無月も村雨も頷いた。

 

「それで、さっきの話ですが――」

 

 神無月が話を戻す前置きをした。でも、さっきとはいつ話しだろう。途中からマジで聞いてなかったから、振り返されも困る。

 そんなことにあたふたしていると、鈴がまた喋り始めた。

 

『…これは冷静に、そして考えて答えを出した方がいいかもしれないな』

 

 いつもより数倍増しの落ち着いた声でそう言った。

 俺はごくりと生唾を呑み込むと、鈴に聞き直した。

 

「…ど、どういうことだ?」

 

『手短に説明すると、危険アラームが鳴っている、というわけだ』

 

「……………」

 

 意味分からん。危険アラームとかなんだよ。あの学校にある赤い鉄の箱のボタンを押すと鳴り出すみたいなやつか…?

 

『そんな軽いものではない。これはルート分岐というやつだ』

 

「√? あ、もしかして…ギャルゲーとかによくあるルートの分岐点の話か? 間違った方を選ぶと好感度がガタ落ちするとかいうやつ」

 

 俺はこういうことに詳しくはなかったのだが、悪友の神也が無類のギャルゲー好きでよくその話を聞かされたから覚えたのだ。あんま役に立たない豆知識だな、なんて思っていたがこんなところで使えるなんて。

 

「つか、なんで選択肢があるんだよ……」

 

『ムツキよ、そんな細かいことを気にしていると若禿になるぞ。』

 

「うるせえ。それより、どんな選択肢があるんだよ」

 

『①「俺はこの世界を制服する宇宙人だ。」②「ぼ、僕は……生きててすいません!!。」③「天使かな♪てへっ。」だ』

 

「……………」

 

 駄目だ。細かいことを気にし過ぎて禿るより、こいつにツッコミし過ぎて頭がやられてしまいそうだ。

(なんだよ、その選択肢。どれも終わってんじゃねーか)

 真ん中なんか自虐的過ぎるだろ。“ヒ〇シです…”で有名な芸人よりレベルが高いぞ。

 そんな俺の心情を時間が待ってくれるわけはなく、

 

「あなたは何者ですか? 答えようによっては――」

 

 なんだかまた鈴と会話している間に話が進んでしまったらしい。まあ、当たり前だが。

(と、とりあえず……危ない臭いがするんだけど…)

 

「…ん?どうかしたのか。すごい汗だが。 もし体調が悪いのなら、私が診るが」

 

「あ、いえ大丈夫です……お気遣いありがとうございます…」

 

 汗が止まらなくなっていた。額からは流れるように垂れてくるし、背中なんてもうびっしょりだった。それもこういう時に限って制服だったり。Yシャツがくっ付いて気持ちが悪いくてしょうがない。

 

「「「……………」」」

 

『おい、いつまで男と見つめ合っているつもりだ。早く答えぬか。 それとも、ムツキはそっちの気があるのか?』

 

 アニメで言うならチクタク時計と針の音が聴こえてくる頃だろう。だが、現実では聴こえてくるわけがない。

そんな時、電子的な軽快な音と共に扉がスライドした。

 

「まだ尋問終わってないのね。それとも見た目によらず口が堅いのかしら」

 

「司令」

 

 そこから現れたのは、“司令”なんて呼ばれるには少し可愛すぎる女の子で、真紅の軍服を肩掛けにしていた。そして、大きな黒色のリボンで二つに括られている髪。小柄な体躯。どんぐりのようなくりくりとした瞳。口には棒付きキャンディ咥える、特徴がありまくりの少女だった。

 

「……司令?」

 

「そう私がこのラタトスク司令官――五河琴里(いつかことり)よ。覚えておきなさい」

 

「あ、ああ分かった。」

 

 いきなりの登場で状況を把握できないが、とりあえずこの娘がここで一番偉い人らしい。雰囲気的に神無月かと思っていた。

 自分の事を五河琴里(いつかことり)と呼ぶ少女が口を開けた。

 

「ところで、質問はどこまで進んだの?」

 

「はい、この少年の名前は宇隆睦月までしか――ひぃっ」

 

 ガスッという音が聞こえたあと、神無月が悲鳴を上げた。どうやら、爪先を踏まれたらしい。それも踵で。

 

「も、申し訳ありません。今何者かと聞いているところですので――うへぇっ」

 

「私が直接訊くからいいわ」

 

 そう言うと暴力的な少女は俺の方を向いた。何故か分からないけど、俺は曲がった背筋を伸ばした。

 

「ふぅ~ん。良い心がけね。」

 

「どうもっす」

 

「でも、今はそんなことはどうでもいいわ。 私が知りたいのは、貴方がなんであんなところにいたのかと、どうやって消えてビルの上に移動したのかよ」

 

「……………」

 

(なんだこの威圧感は……)

 自分より小柄な体躯――ましてや、女の子なのに迫力がすごかった。例えるなら、普通のアリとオオクロアリだ。因みに俺は前者。分かる人なら理解出来るだろう。

 

『何故、喩がアリなのだ。ムツキはやはり馬鹿だな』

 

 揺らしてもないのに耳元で鈴の音が響いた。それと同時に、声も聞こえてくる。

 

「馬鹿じゃねえよ。アリしか浮かばなかったんだよ。ただそれだけだ」

 

『まあ、そんなことはどうでもいい。 それよりムツキよ。何か感じないか?』

 

「は? 何を??」

 

『何をって、そんなの身体のことだ』

 

 意味が分からん、そう言い返そうかと思った瞬間、身体がポッと暖かくなった。上手く言葉に表せないけど、何かが満たされていくような感じだ。

(なんだこれ……)

 

『やっと分かったか。それは減った魂が回復している、ということだ』

 

「これが魂が回復している…のか」

 

「さっきから睦月は、何の話をしているの?」

 

 ハッと気付く頃には、目の前に五河の小さな顔があった。覗き込むように俺の目を見ている。

 微妙に眉毛が吊り上っていた。

(ヤバいヤバい。また話を聞いてなかった。えと、確か……)

 

「な、なんでもないよ。 それより、俺の話だったよね」

 

「そうよ」

 

「え、えと……」

 

『変な返答をするではないぞ。この少女は精霊。お前を唯一回復させることができる人物なのだからな』

 

「は? この娘が精霊って、どういう意味――あ……」

 

「「「「……………………」」」」

 

 ついにやってしまった。大きな声で鈴に声をかけてしまった。周りはそんな俺も見つめて止まっている。目の前の少女に関しては、さっきより目つきが鋭くなっている。

 

『あまり悪印象を与えない方がいいのだがな。 ほら、少し回復した魂が削られてさっきより少なくなっているぞ』

 

 喋り続ける鈴とは大違いに空気が凍っていた。これだったら本当の空気が冷たい方が耐えられる気がする。

 俺はこの場の空気を返るために、喋り出した。

 

「俺が精霊――いや、天使かな。 あはは」

 

『……うむ、アラームがうるさいな。これはやはり取り外そう』

 

 微かにアラームの音が聞こえてくる中、鈴がそうつぶやいた。

 そのあと俺は少女の合図により、急に現れた男たちに取り押さえられたのだった――

 

 

 話は戻るが、最初に言った通り、俺は捕まった。大事なことだから、もう一度言おう。捕まっ――

 

『ムツキよ、しつこいぞ。そう何度も何度も言うでない。そんなこと一回言えば、理解出来る』

 

「うるさい。俺だってそんなの分かってるさ。 てか、だったらそれやめろよ」

 

 それ、というのは念話のことだ。

 

『念話のことか? もしそうなら諦めることだな。世の中には仕方のないことと、どうしようもないことの二種類――』

 

「……………」

 

(どっちも同じ意味じゃねえーか)

 

『微妙に違うのだよ、ムツキ』

 

 心のツッコミに答えるように、鈴は念話でそう言ってきた。

 なんかラタトスクとかいう機関に話を聞かれたくないらしい。いや、存在を知られたくないだっけな?よく分からないけど、俺と二人の時は普通に会話して、誰かいると念話になるらしい。

 なんとも面倒くさい話だ。俺はそんなの使えないから、普通に話している。なので、端から見ると独り言をブツブツと言っている変質者にしか見えない。どんな羞恥プレイなんだろう。答えられる人がいたら、教えてくほしい。

 そして、その次に問題なのがこれだ。

 俺の考えていることや心の声が鈴には駄々漏れだっていうことだ。

 だから――

 

『さっきからうるさいぞ。何も考えるな、と言っただろうに』

 

「俺に無我の境地に立て、ってか?」

 

 某テニス漫画じゃないから、そんなのなれるわけがない。お寺の坊さんでも無にはなれないぞ。

 

『主人公になればよかろう』

 

「…いや、マジで無理だから……」

 

「それなら、でもいいぞ。そこは譲渡してやってもいい」

 

(…そういう問題でもないけど……つか、やたらと詳しいな)

 一瞬、神様でもアニメを見るんだろうか、と思ったけど、ゲームしているんだ。十分観ている可能性は高い。

 そんなことより、

 

「それより、なんでいきなり捕まらなきゃいけないんだ。俺、なんかした?」

 

 いつまでもそんな話をしてる気もないので、さっさと違う話題に変えた。

 

『それは、推測するに…ムツキが“天使”という単語を口にしたからだろうな』

 

「“天使”ってそんなにヤバい言葉なのか?」

 

一種のタブーみたいな感じなんだろうか。某魔法使いで言うところの例のあの人。

 

「……………」

 

『それはそうだ。精霊とはこの世界を破滅させる者。人間にはとても倒すことは出来ない脅威なのだ。 その中でも精霊が呼び出す“天使”と呼ばれる武器を出した時は、太刀打ち出来ない。圧倒的な力に絶望するしかない』

 

「…なんだそりゃ。お前が創った世界だろ?それはバランスが悪すぎるだろ」

 

『そうかもしれないが、ここは一応地獄だ。どうしようもないことがあってもおかしくない。 ――がしかし、私はここまで創っていない。ほとんど自己プログラムだろう』

 

 おいおい、いいかげんなやつだな。

 

「じゃあ、これからもお前が創ったのに知らない世界でやってけと?」

 

『そういうことだな。頑張ってくれ』

 

 仮想世界――通称、地獄。精霊と天使。創った本人がよく分かっていない世界。自己プログラム。

 二度死なずに俺はここで生きていけるのだろうか、そんな不安を感じずにはいられなかった。

 

「この世界でやっていけるか不安だわ…」

 

『大丈夫だ。私がついている』

 

 と言ったあと、鈴は続けるように

 

『安心しろ。この私が生み出した、選択肢感知マシーンがあれば絶対上手くいくはずだ』

 

 

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