デート・ア・ライフ ~ CONTINUE TO LIFE ~   作:真夜

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第4話『失敗――白き牢屋にて』

 百歩――いや、二百歩ぐらいは譲って創作者がその世界の在り方を理解してないことを許すことにしよう。でも、あの選択肢は無理だ。なんだよそのギャルゲーみたいな三択は。それもロクなのがないどころか、自虐的なものばかりじゃないか。

 確かに生き物は一分一秒でさえ選択しているからと言っても過言ではないけど、そんなのが機械で判断出来るのか?

 その答えは――

 

「否、分からないだろ…だ」

 

『何をぶつぶつとくだらないご託を並べているのか知らないが、ワタシのことが信じられないとでも言うのか?』

 

「ああ、そんなの当たり前。即解決即答だ。 神様なんてな、お腹が痛くてその時に祈ったぐらいで、基本信じてないぞ」

 

 これは小さい頃の話で、俺は腹痛によく悩まされていた。それは今までやらかしたことに対する天罰か呪いだと思っていた子供のころの俺は神様とやらにお願いをしていた。

「なんでも親の言うこと聞きますから――」とか「潰してしまってごめんなさい」と天へと召された虫への懺悔とか。ホント純粋無垢だったんだと思う。いや、今が純粋ではないということではない。断じて違う。

 まあ今となってはただの便秘でした、と分かるわけで、神様がいるなんて信じてないわけだ。

 

『熱烈な信者が近くにいたら問題視される発言だぞ、ムツキよ』

 

「うるさいな。人それぞれ多種多様だ。それを言うなら、神様は俺一人にそんな構ってていいのか?」

 

『それは大丈夫だ。なんせ、我は暇だから――んん゛っ、息子の手違いに責任を持つのは親の責任だからな。少しくらいは許されるだろう』

 

「……………」

 

 なんてやつだ。今、普通にポロっと口にしやがった。それも不自然なくらい咳き込んだあと妥当っぽい言い訳にしやがった。

 そんな時、

 

『……誰か来たようだな』

 

 と鈴が言った。とは言っても念話だけど。

 俺が聞き返すよりピピっという電子音が部屋に響くと、ゆっくりとドアが開いた。

 

「また質問攻めですか? 俺、もう同じことを何度も訊かれ過ぎて、耳がタコに――」

 

「…どっちを向いてるのよ」

 

「え? あ、あー…そっちか」

 

 見渡す限り、というか四方八方同じ色でドアの形のようなラインはたくさんあるのだけど、どれがドアの溝だなんて分からないから俺は向く方向を間違えてしまったようだ。

 後ろを振り返ると一人の少女が立っていた。五河琴里だ。

 初めて会った時と同じように、少女は真紅の軍服を肩に掛けて黒のリボンを威圧的に揺らしていた。微妙に上から見下ろすように睨みつけているが、身長が身長なのでなかなか攻撃的には見えない。

 むしろ――

 

「ぷっ」

 

 笑う気なんてなかったがそんな少女を眺めていると口元が緩んでしまった。だって、相手より強く見せようと意地を張って背伸びしている、なんて見てて面白いじゃないか。良い意味で。

 しまった!!、と思うより早く、五河琴里の表情が曇っていくのが見ていて分かった。

 

「ち、違うんだ!! 馬鹿にして笑ったんじゃなくて――いたっ!?」

 

「馬鹿にしたんじゃなかったら、どうして笑ったのかしら? 答えようによっては――」

 

「だから痛いって!俺が答える前から蹴ってんじゃん!! た、ただ“可愛いな”って思って笑っちゃっただけだって!!」

 

「ッ!?」

 

 脛を手で守ったら次は顔が蹴られそうなので、俺は転がるように後ろに下がった。手が結ばれているので壁に寄り掛かるようにして立ち上がった。

 なんとかしてこの状況を打破しないとさっきから肩をわなわなと震わしている少女に殺されかねないかもしれない。そんな危機感を感じてしまうくらい纏うオーラがヤバいのだ。そして、俺の頭の中に直接流れてくるサイレンが危険ですよ、と否が応でも伝えてくる。

 そんなとき、

 

『何をしてるんだ。もっと気の利いた言葉で会話を盛り上げようとは思わないのか?』

 

 子馬鹿にしているような、呆れているようなよくわからない感じなトーンで鈴が話しかけてきた。その声に交じって、何かのBGMみたいな音が聴こえてくる。おい、こら「俺を手伝う」という仕事をしろよオッサン。神様のくせに職務放棄か。

 

『オッサンとはなんだ。それに我とてずっとお前の面倒を見ているわけにはいかないのだ』

 

「…さっきと言ってることが違くないか?暇だって言ってたじゃん……」

 

『さっきまでは暇だった。今は下界のゲームというものをやっている。 勘違いしないでほしい』

 

 それを暇人だと世の中では言うんだよ、なんてツッコミを心の中で入れた。これは聞き取れていなかったのか、鈴の反応はなかった。

 

「何をしているんだい。睨めっこでもして遊んでいたのかい?」

 

「え?」

 

 顔を横に向けると喫茶店のお姉さんこと――じゃなかった。令音さんが立っていた。

 

「遊んでないわ。ちょっと不意を突かれて驚いただけ」

 

 そう五河琴里が返すと、二人の視線が俺に向いた。一つは紅く燃えるような瞳。もう一つは隈の中でこっそりと見つめる青い瞳。でも、こっちはなんか濁っていた。前者のようにぎらぎらとした光とは大違いだ。

 そんなことを考えながら二人を見ていると、女の子をジッと見つめていると災いが訪れる、という名言を残した親友兼悪友の神也の言うとおりになった。

 

「何か言いたそうな顔ね」

 

「いや、別に」

 

「そう、人生の最後なのに何も言い残す言葉は無いのね。情けで訊くぐらいしてあげようかと思ったのに」

 

「えっ!?俺死ぬの!?」

 

「死ぬ、という言葉には語弊あるわね。洗いざらい吐いてもらうために拷問するから、精神が壊れる――ってところかしら。 …あ、でもそれだと社会的に死ぬって言ってもいいのかしら」

 

 五河琴里は腕を組むと考え込んでしまった。口に咥えていた棒付きキャンディがピコピコと揺れている。

(冗談とかじゃなくて、ホントに今の俺ってピンチ?)

 

『ピンチだな』

 

 チリーンと鈴の音が聴こえたあと、短くそう言った。

 

「ま、待ってくれ!!訊きたいことがあるのなら何でも話す!! だから、その選択は考え直してくれ――いや、ください!!」

 

 言うや否や、俺は頭を下げた。嘘か真かどうかなんてそんなことは分からないが、もし神が言っていた二度目の死の行く末が本当なら絶対に死にたくない。

 俺の必死の懇願が功をそうしたのか、それとも土下座擬きが良かったのか、拷問だけは無しにしてくれた。

 その代り、当たり前というよりこれしか選択肢が無いだろ、というべきものが少女の口から出てきた。

 

「あなたはなんなの? 何者?」

 

『ムツキ、己自身の事を訊かれても、むやみやたらと驚くではないぞ』

 

 そんなことを言われても時既に遅し。「え……?」と驚いた後だった。そんな状況を見ていたのか、鈴は心の底から呆れるように深いため息と『愚かだ』と口にした。

 そんな文句を言われたって、質問される瞬間にその返答を言われてみろ、誰だって少しは驚くはずだ。ただ俺の場合はそれが声に出て表情に滲み出てしまっただけ。

(あ、それだと尚更ダメじゃん……)

 

『今更、後悔しても遅い。警戒アラートがさっきから鳴りっぱなしで耳がおかしくなってきたぞ』

 

「…へいへい、ごめんなさいね」

 

 一様、俺は謝った。でも、今は神様の容態より俺の身の安全の方が大事だ。

 俺が「あなたは何者?」という質問に驚いたせいで、少女は何かを悟ったらしく表情が険しくなった。そして、また質問してくる。

 

「……あなたは精霊なの?」

 

「……………」

 

 精霊――それは絶大な戦闘力を持っていてこの仮想世界を脅かしている存在。そして、可愛い女の子。

 

『おい、ムツキよ。注釈に勝手な自分の意見を入れるではない。キモイぞ』

 

 神――それはヲタクで暇人でこの仮想世界(地獄)の創造主たる者だがこの世界の事をあまり理解していない使えない、いや、役立たずなオッサン。そして、ギャルゲー好き。

 

『さっきよりムツキ主観ではないか。さっきの方がまだマシだぞ。 それに――』

 

 などと文句を俺の頭の中でぐちぐちと言っているがスルーすることにした。俺はコホンと一つを付くと口を開いた。

 

「ああ、俺は精霊やー。怖いでー、強いでー。最強の無敵や~。 いたっ!」

 

 棒読み&エセ関西人風に言ったせいか。物凄い勢いで蹴り倒された。当たりどころが悪かったのか鼻血が出た。

 

「あんたふざけるのもいい加減にしなさい? ここは地上何万メートルだと思っているの?落としたらカエル爆弾のようにぺしゃんこよ」

 

「はい、心からすいませんでした」

 

 本当にパラシュート無しのスカイダイビングをさせられそうなので、間髪入れずに謝った。それも土下座で。

 

「ふう、それでいいのよそれで。 んで、あんたは精霊ってことで片づけていいのかしら」

 

「い、いや!待ってくれ。俺は正真正銘の人間だ!!精霊なんかじゃない」

 

 俺は叫ぶように五河琴里にそう言った。

 精霊みたいな力は持っているけど、あんな破壊的な力とは似ても似つかない移動と回避にしか使えない能力だ。一緒にされても困る。まあ、自分の事を人間だ、ということ自体今の俺は少し違っているかもしれないが。

 

「そうか。では、空に突然現れたり地上から消えたりと奇妙なことをしたことについてはどうなるのかね」

 

 さっきまで無言を突き通していた令音さんが唐突に口を開いた。

 訊いてくることといえば、ジャストミートに俺が訊かれたくはないことばかり。

 

「精霊のように顕現してみせたり、空間震を起こしてみたり。 君を精霊ではないかと疑うのもしょうがないことさ」

 

「う……」

 

 確かに彼女が言っていることは正論だ。人間離れしていたらそれに属する“精霊”のカテゴリに入れられるのも致し方ないことだ。でも、ここは仮想世界。神が造りし世界。

 そんなことを説明できるわけない。ここに住む人たちに「ここは仮想世界。現実ではありません」なんて口にしたところで、おかしな目で見られるのは当然俺だ。場合によっては、厨二病という分類に仕分けされてしまうかもしれない。あの蓮〇さんみたいに。角刈りこえーよ

 そんなことを考えていたせいで、ただ時間だけが過ぎていた。

 鈴に助けを求めるが、『そろそろ何か言わないと、不振がられるぞ。それにここで失敗すればムツキはここから出られずに消えるかもしれない。気を付けよ』とのこと。何も役に立たない。

 あとがなくなった俺はもうありのままを言うことにした。俺の前に佇む令音さんと五河琴里を交互に見た。

 

「まず、これから俺が言うことに対して絶対に驚いたり大きな声を出さないでくれよ?」

 

「何よ。変な前置きなんかしないでさっさと説明しなさい」

 

「招致した」

 

 怒られながらもそれぞれ了承したことを確認すると俺はゆっくりと口を開いた。

 

「俺、これでも人間なんだ」

 

「……………」

 

「あ、いや待ってくれ!蹴る体勢に入る前に――」

 

 神から頂いた能力について説明を入れようとすると、もう靴の裏が俺の顔数センチまで近づいていた。

 

「だ、だから!少し落ち着けって!! アクセラレーションっ!!」

 

 そう叫ぶと同時にギュッと濃縮されたように世界の色が変わって行く。より鮮やかに。そしてより濃く。

 こういう時は説明するより、実際に目にした方がより理解できる。俺は加速する世界の中でスローモーションで俺に近づいてくる足から少し離れた位置にずれると「終了」と口にした。

 アクセラレーションが終わると共に急加速した蹴りが俺の真横に突き刺さる。バシッと当たったら痛そうな音と微風が俺の耳を襲う。

 

「なっ!?」

 

 俺の顔面へとめり込むはずだったものが外れたことに驚いたのか、五河琴里は目を瞬かせた。その隣に並ぶ令音さんも同じような顔をしている。

 

「これが一つ目。 んで、もう一つが――」

 

 今度は心の中でリターンと叫ぶ。これは加速と違ってただの転移。つまりは場所移動だ。

 俺は頭で五河琴里の後ろ辺りに移動するイメージをする。あとは勝手に俺の魂が削られて転移完了ってやつだ。

転移するときに手と足を縛っていた金属状の手錠は置いてきたので、さっきまで俺がいたところにはそれだけが残された。

 

「消えた!?」

 

 二度も自分の前で幾何学なことが起きたせいか、少女は驚いていたが俺に頭を撫でられていることに気が付くとすぐ調子を取り戻した。

 

「おっとっと。 これで人間だけど少し違うって分かってくれた?」

 

 鋭く鋭角に突き出してきた溝内を狙う肘をよろめきながら躱すと少女に問うた。

 

『……これではもっと精霊と疑われてもおかしくないぞ』

 

「え? あ、確かに……」

 

チリーンと静かに鈴の音が聴こえたあと、的確なツッコみを俺は入れられた――

 

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