デート・ア・ライフ ~ CONTINUE TO LIFE ~   作:真夜

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第7話『新境地(リスタート)――目覚めたら、にて』

「あんたよくあの状況から助かったわね。流石に私も驚いたわ」

 

「……はあ、はあ、はあ」

 

「まるで精霊だ、と驚かれても文句言えないわね、これじゃあ。 むしろ、新たな災厄――“精霊”として登録されそうだわ」

 

「はあ、はあ……」

 

「……………。」

 

 艦長席に踏ん反り返るように座っている少女(俺イメージ)が口の中でコロコロと棒付きキャンディを転がしながら蔑むような目を向けていた。まるで、下水道に湧く蛆虫を「……気持ち悪っ!!」と口にする子供のような目。純粋で穢れも偽りも冗談でもないその一言は、人間であれば少なからず心に傷を付けるやつだ。

 そんな目を俺は向けられている。五河琴里は変わらない真紅な瞳で見つめて、

 

「……息使いが気持ち悪い。 足を舐めさせてくれっ!!なんて叫んだら、即刻ここから落とすから」

 

 そう言ったくせに隣にいる神無月へと何かの指示を出した。その会話は今の俺にはうまく聞こえない。聞き取れたとしても途切れ途切れで何を言っているのか分からない。

 今も俺は荒い息使いで荒れ狂うように動く心臓を宥めている。もうこのフラクシナスへと帰還してから大分時間が経っているのにも関わらず鼓動が鳴り止まらない。

 これはアクセラレーションの長時間による使用とリターンの併用が大きな原因となっていた。長時間もの間、何十キロという長距離走をしても普通の人ではこうはなりやしない。

 だが、“普通の人間”というカテゴリーすら怪しいこの世界で、より一層に異質な存在であるムツキにとっては普通であり得る最大の事なのだった。

 俺は特殊な力を持っているんだ、なんて説明をしたところで意味を持たない。この世界には“精霊”という異質な存在が既に認知されている。それは一部の人類に限られているという秘匿事項らしいが、俺の前にいる人たちはそれを皆当然のように知っている。つまりは、どんなことを言おうが理解出来ないということだ。

 それでも俺は誤解を解こうと必死に口を動かした。

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれ…。なんか勘違いしてるかもしれないけど――」

 

 前置きをしたことを俺は後悔することになった。最後まで言葉を口にする前に目の前が真っ暗になった。そして、力が抜けて身体がグラリと傾いた。

「力の使い過ぎで俺は死んだのか?」そんな疑問が頭の中で浮かんでは消えていく。だが、それは頭の中に直接響いてきた声が否定してくれた。

 

『――今はゆっくり眠りなさい、ムツキ。 あなたは力を使いすぎたのです』

 

 優しげでどこか暖かい声が響いて来た。一度聞いたことがあるような言葉一つ一つに角がなく柔らかい話し方。考えても思い出せない。いや、自分には記憶が無いのだから分からないの方が合っているのかもしれない。

 そんなことを消えていく意識の中でぼんやりと考えていると、

 

『そうだぞ、ムツキ。ぐっすりと眠るといい。 その間に我はまた新作ゲームへと興じるとしよう。 そして、目覚めるのが遅いことを願っている』

 

 これは俺を手違いで俺を地獄へと落とした馬鹿な息子の親の声。そして暇つぶしで俺がこの世界で生きていけるように手を貸している――自分で違うゲームをしながら。俗で言う同時プレイ、はたまた同時進行だ。ゲーム片手にパソコンでギャルゲーに勤しむという感じだろう。因みに俺の方がギャルゲー。

 イラッとした気持ちもこの重く暗い意識の中では数秒も残ってはいなかった。すぐ掻き消えていく。しかし、そんな意識もすぐ覚醒することになる。

 

『あなたが仕事しないで人間界の娯楽に興じているから今回のようなことが起きたというのに、また“げいむ”していてこの人間を危険な目に合わせたというのですか? それもあなたが暇つぶしで作ったという仮想世界――ライブスに迷い込んでしまったというのに』

 

(……ライブス?なんだそりゃ。ここは地獄じゃないのか?)

 

『それについては我も考慮して、この世界で生きてクリアするための能力と選択を――』

 

 どこか焦りが混じる鈴(神)の声。それに『お黙りなさい』という凛々しい声。さっき聞こえてきた優しげな声の持ち主らしいが、今度は多分に棘のある口調だった。

 

『手違いをしたのはわたしたちなのですよ? 償いが足りない、と言っているわけではないのです。他に方法を模索したのですか?』

 

『それは……した。この方法でしか――』

 

 二人はどうやら会話しているらしい。もうここまでくると喧嘩という部類になるのだろうが、一方的に罵られているのだからそうカテゴライズすることも出来ない。もちろんというべきか、攻められているのは鈴の方。

 

『わたくしが女神の仕事を終えて、帰ってきたらこのようなことになっていてどれだけ驚いたことか……あなたにわたくしの心情がお分かりですか?』

 

『それはまあ……我も悪いとは思っている…』

 

『それにシンヤのこともそうです。 時期皇ともいうべき存在でありながら何もしていない、と。 この在り様はなんですか?シンヤ』

 

『いえ、母上。何もしていないわけでは――』

 

『解決策を考えているだけでは、何もしていないのと同じです。』

 

 ヒートアップした説教はついに今回の当事者のシンヤへと飛び火したらしい。それに反論はしたがピシャッと何もしていないのと同じ、と言い切られていた。

 その後も続く、恐らく神が恐れていたであろう女神の説教は激化していく一方。いつ終わるのか分からないその会話は今も俺の意識の中で繰り広げられている。

 

「……あんたらいい加減――」

 

 いい加減俺の意識の中で会話されるのにも限界が来ていた。この状況で寝ていろ、というのがおかしい。そう言うのなら俺の意識とのリンクを切ってから思う存分喧嘩してほしい。

 

「うるさい! 会話なら俺に届かないところでしてくれっ!!」

 

 そう叫び声を上げた瞬間。俺の意識は光ある場所へと連れ戻された。

 パチリと目を開けると見知らない天井が俺を最初にお出迎えをした。もう一度瞬きをして見間違えじゃないのかの確認作業に入るが、そこには変わらずの現実味のある自然な色合いの茶色い天井。

 横に顔を向けると窓から外の景色が覗けた。もう外は夕方なのか茜色に染まった地平線が子供は家に帰れ、と言っている。

(……ここはどこだ?)

 ここはどう考えてもどこかの家の一室。窓からの景色からして2階みたいだ。目覚めたら見覚えのない部屋にいて、布団で寝ているこの状況が把握出来ない。

 自分の頭が馬鹿だとかそんなことは関係ないはず、だと思う。ましてや、よく聞く酔っぱらちゃってなんちゃらというシチュエーションでもないはず。

 俺の感覚的には寝て起きて、と同じ一瞬の出来事。どうやら現実的には相当時間が経過しているらしい。俺は頭を抱えると記憶を漁ってみることにした。

 順を追うなら、やたらと目を奪われる時崎狂三という新たな精霊と知り合って――そして話して、現れた機械のアーマーを身に纏った空飛ぶ女の子とリアル鬼ごっこして、

 

「……んで、俺はぶっ倒れたのか。 でも…う~ん、ここはどこなんだろ? フラクシナスの一室なのか?」

 

 ちょんちょんと左耳にぶら下がる鈴を突っついてみた。チリンチリンと透き通った鈴の音が響く。

 

「おーい、鈴。ここはどこなんだーって、――ん?」

 

 鈴の反応が無い。というより、無線機で言うところの繋がっていない、と言う感じ。繋がっている時に感じる向こう側に誰かいるという気配すらない。神がくれた物だし故障なんて現実めいたものがあるわけないと思うけど、反応すらないと少し不安にもなる。

 状況確認ということで周りをきょろきょろ、そわそわしていると下から生活音が聞こえてきた。そして、近付いてくる――というか俺がいる二階へと上がって来る足音。

 

「――あら、あんた起きてたのね。 目覚めたのなら早く言いなさいよ」

 

 ドアが壊れんじゃないかと思うくらい、勢いよく開いたドアの向こうから現れたのは白が基調で襟と袖に青のラインがある制服を着ている五河琴里だった。黒のリボンで括った二つの紅の髪が元気に揺れていた。

 

「……あんた、どこを凝視してんのよ。わたしの顔はそこじゃないわよ。 それともあんたは“そこ”を人の顔だと認識しているのかしら」

 

 俺の向ける視線に気付いたのかスカートの裾を軽く摘み下へと引っ張る――なんてことはしないで、堂々と仁王立ちをしている。さっきと変わらずのハイソックスではなくニーソの部類であろう靴下と青いスカートの間を俺は眺め続ける。

 

「…いい加減、怒るわよ。それともこの足に踏んでもらいたいってことでいいのかしら。 目が気持ちが悪いからあんたが息絶えるまで踏み続けてあげるわ」

 

「……………。」

 

 そろそろ見つめ過ぎかもしれない。語弊が少しある視線を穴が開かない程度、眺めたあと俺は視線を五河琴里に向けた。そして、疑問を叩きつけた。

 

「ここの学校はニーソありなのか?」

 

 結構真面目な顔で俺は訊いたのだが、五河琴里の視線は厳しい。というより、痛い。因みに俺の世界では高校生ならありだった。でも、それを履いているのは極一部でほとんどの生徒はスクールソックスだったし、男子の目線を浴びてまで履きたい、という女子生徒はいなかったようだ。私服に着ている人はいたが。

 

「「……………。」」

 

 しょうがない、その握り絞めている拳が飛んで来る前に話を本題へと戻すことにした。

 

「さっき目覚めたんだけど、ここはフラクシナス?とかいう艦なのか? それにしては普通の街並みが見えるんだけど」

 

 窓の外に視線をずらしたあとまた五河琴里に向けた。今回は例の領域ではなく顔に。

 五河琴里はどこか気にくわないような表情をした後、「まあ今回は不問でいいわ」という不穏な呟きをすると、出会った時と同じように凛とした空気を纏う表情に切り替えた。

 

「ここは空中艦フラクシナスじゃないわ。地上よ。 そして、ここがあんたの部屋でここがこれから生活する家――」

 

 なんかまだ話は途中ぽかったが俺は遮る形で口を開けた。気になるワードとおかしなものを部屋の片隅にある机の上に発見したからだ。

 

「ちょ、ちょっと待って。 俺が生活する家って何?それにその机に置いてある男子用の制服はなに?」

 

「未知の存在の“宇隆睦月”の監視兼保護ルームよ。 あんたが寝ている間に色々調べさせてもらったわ。ここにいる限りあなたから漏れ出ている微量な霊力は外から感知されないわ。」

 

 そんなに俺は寝ていたのか、という感想は漏らさないとして違うことを訊いてみる。

 

「俺から微量な霊力が漏れてるって言ってたけど、それは遮断することは出来ても止めることは出来ないのか?」

 

 少しいつもより上ずっていたがこの世界で生きていくためには大切なことだ。そんなことは気にしないで俺は五河琴里の返答を待つ。

 俺がなんでこんなに食いつくのか、というところに疑問でも持ったのかもしれないけど案外すぐ答えがきた。

 

「それは無理ね。 もし出来たとしてもそんなことはしないわ」

 

 短い否定と可能性があったとしてもしないという断定。

 それは何故?という疑問を口にする前に五河琴里の口が回る。

 

「あんたの微弱な霊波は今のところわたしたちラタトスクしか感知できない程度のものよ。そして、この流れ漏れている霊波を感じてかここ天宮市に精霊が接近しているとの報告もある。なら、それを使わない手はないわ。

 

 そして、付け加えるように「でも、あんたが使う“天使”みたいな力となると話は別で、ASTに感知されるわ。そこだけは注意してちょうだい」と説明された。

 ここに来てから色んなことが急すぎてそろそろ理解が着いていかない。いつもなら罵倒交じりに鈴が分かりやすく補足を入れながら説明してくれるのだがうんともすんとも反応がない。

 五河琴里がくるりと向きを変えて部屋の隅にある机に向かう姿を眺めながら、自分なりに理解を進めていると、

 

「――そして、これがさっきあんたが訊いてきた質問の答え。」

 

 どこか溜めるように言葉を切るとクラッカーの紐を引っ張ったかのように喋り出した。

 

「宇隆睦月、あんたにはこれから高校生として来禅高校に通ってもらうことが決定したわ。そこであんたには、“女の子”とのコミュニケーションを学んでもらうわ!!」

 

 

         *

 

 

 琴里の宣言――命令に完全に放心状態になった睦月に制服と「今日から登校だから」との短い言葉と来禅高校までの道筋を書いた地図を渡すと部屋から出た。ついでに小型イヤホンタイプの通信機も手に置いてきた。

 本当にこれでうまくいくのかしら、という不安は拭いきれていないせいか短いため息が琴里の口から洩れた。

 令音がこれまでの事をまとめた報告書のことを思い出していたからだ。

 その内容と言えば、

 <ラタトスク機関発足に掲げられた『対象の鎮圧ではなく、精霊から多くの霊力を吸収し無力化。そして、保護する』という目的はなかなかの困難を極めていた。だが突然現れた宇隆睦月と名乗る少年の登場によって戦況は大きく一変させられる。

 “デレさせる”又は最低、会話だけでも精霊の力を無力化出来ることを知った彼らは危険を承知で精霊にも匹敵するほどの不思議な力を持つ少年へとこの秘匿任務を任せることを決定した。

 しかし、何にでも問題付き物というもの。彼にはどうやらすぐ告白するという地雷があるらしく、女の子とのコミュニケーション不足なのか会話がてんで駄目。そして、その点についてはこちらが手助けするにしても限度というものがある。だが、「不自然にならないように誘導しつつ、相手の好感度を上げなければならない」という問題はフラクシナスのメインサーバーがタイムラグ無しで対応するため安心である。

 宇隆睦月の監視、そして調査はこれからも重要視され――略 ~報告書一部抜粋~>

 

 一階へと降りている最中、ふと琴里の口元が緩んだ。

 何か面白いものを見つけたわけではない。お笑い番組を思い出して、「あのネタが面白かった」と思い出し笑いをしたわけでもない。

 これは未来のことを考えて出た笑み。

 

「これから毎日、楽しくなりそうね♪ ――お義兄ちゃん」

 

 誰にも――睦月にすら聞こえないぐらい小さな声で独り言のように呟くと、五河琴里は家を後にした。

 

 




 お疲れ様です。ありがとうございました。
 そして、投稿が遅くなりました・・・すいません

 やっと原作の初期設定に足を踏み入れた、という感じですねw
 もう少しペースを速めに、と思いたい所ですが到底ハショリまくりのアニメには追い付きそうにありません。時間的にも量的にも。

 なので、ネタバレの心配は皆無ですm(_ _)m
 そんなことは気にしない、と言う方が多いと思いますがいたら、安心してください。

 むしろ、キャラクターのイメージがある程度出来るのでこちらとしては助かります。

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