東方想究談 ~Strange and Strong-willed Bionic Soldiers. 作:ラケットコワスター
「…今日は風が強い。能力をつかわなくてものるだけで飛べるな。」
そう独り言を呟くと僕は受け取った手紙を雑嚢にしまい、地面を軽く蹴った。思った通り僕の体は宙に浮き、高く昇っていった。
僕の名前は颯 蘭丸(はやて らんまる)。幻想郷で郵便屋をやっている。種族は妖怪。鎌イタチだ。鎌イタチには自らの体に風を纏って空を飛ぶ能力と、腕を鎌に変形させる能力をもっている。まぁ、さっきも言った通り今日は風が強いからそれを使わなくてもただ風にのるだけで空を飛べるけどね。さて、今僕は二時間ぶりの仕事にとりかかっている。幻想郷にはもともと郵便制度はなかった。だけど僕が郵便屋を始めてから他人との通信は楽になったと思う。もっとも、幻想郷の妖怪や実力者達は皆何か用がある時は直接会いに行くから僕の仕事相手は大体人間だ。さっき僕に配達の依頼をしたジキルさんも人間だったね。しかしあの人変わった喋り方をしてたな…おっと、話がそれた。それで、今回の配達先は永遠亭。受取人は…四島小櫃さん。そういえば僕この人に会ったことなかったっけ…永遠亭に住む人間であり恐ろしく強い、更には半年程前幻想郷で発動した「ブラスト・ハンドレット排除計画」を遂行するにあたって中心人物として行動し、幻想郷を救った英雄…と聞いたことはある。…そんなすごい人なのになんで一度もあったことないんだろう。僕…ん、そうこうしてる内に迷いの竹林に着いたな。
「…よいしょ」
僕は高度を下げ、静かに着地した。さて、ここからが問題だ。迷いの竹林はその名の通り、妖怪だろうと人間だろうと一度入ればまず迷う。永遠亭の人や、ここに棲みついてる妖怪は迷わないらしいけれど…残念ながら僕はここで迷わないで永遠亭に辿りつく手段を持ってない。まぁ、だからと言って永遠亭にいく術がないわけではないのだけれど。
「妹紅さぁん!?居ますかぁ!?」
僕は声を張り上げた。すると、暫くしてから竹をかき分け一人の女性が現れた。この人は藤原妹紅。迷いの竹林の住人だ。因みにこの人は迷いの竹林で暮らしているから迷わずに竹林の中を動くことができる。
「あぁ蘭丸。お前がここまでくるなんて珍しいな。今日はなんの用だ?」
「永遠亭に用があるんですが…案内をお願いしても良いですか?」
「永遠亭か。わかったこっちだ」
妹紅さんの道案内を得ると、僕と妹紅さんは竹林に入っていった。
「ふぅ…しかし…本当に竹しかありませんね…」
「まぁそれはそうだろ。竹林なのに針葉樹が生えてたら変だろう?」
いや、まぁそうなんですけど。
「ん。ちょっと待て」
突然妹紅さんが立ち止まった。
「この先…何かいる。迂回したほうがいいな。こっちだ」
そう言って妹紅さんは右に進路を変えた。何かいるって…嫌な言い方しないでくださいよ…
まあその後は特に何もなく、暫く歩いたら問題なく目的地に辿りついた。うん。間違いない。竹林の中にたたずまうやや大きめのお屋敷。永遠亭だ。
「じゃ私はここで。輝夜に会いたくないから帰る。じゃあね」
そう言って妹紅さんは来た道を引き返していった。
「ええ。ありがとうございました」
それに対して僕は半ば無意識に返事をした。…ん?
「って!妹紅さん!!帰りは!?」
時既に遅し。妹紅さんは既に竹林の中に消え、僕の声の届かない所まで行ってしまったらしい。むぅ…不思議な人だ。しかしどうやって帰ろう…あ、飛んで帰ればいいのか。さて、そうとわかれば早速仕事を済ませよう。
そう思って僕は一歩踏み出した。…が、
ズボッ!!
「どぉあっ!?」
…落とし穴に落ちた。因幡さんだな…痛たた…って深っ!?優に2メートルはあるぞ!?僕の身長より深い落とし穴なんて…あの人普段何してるんだ…
やっとの思いで這い出すと、鈴仙さんが遠目に見えた。
「あ!!鈴仙さん!!ちょっと…!」
ズボッ。
「うわっ!?」
また落ちた。なんでここは一歩歩くごとに落とし穴にはまるんだ…
「すみません!!てゐは後できつく言っておきますから…」
「い、いや、大丈夫ですよ。」
鈴仙・優曇華院・イナバ。ここ永遠亭に住む月兎だ。よく人里に薬を売りに来る。僕も配達でよく会うから面識はある。…そう言えば時々小櫃さんとよく薬を売りに来るそうだけど僕と会う時は決まって一人なんだよなぁ…まぁ、いいか。
「…で、今日は何の用ですか?」
「あぁそうだ。忘れるところでした。手紙の配達です。四島小櫃さんはご在宅ですか?」
「小櫃…ですか」
「ええ」
「どうだったかしら…今日は忙しくて朝食の時以来見かけてないんですよね…」
「客人か?」
不意に奥の方から低い声が飛んできた。明らかに女性のものではない。目をやると、一人の男性がこちらにむかって歩いて来ていた。
きちんと手入れされた黒い髪、反対に眼は赤く、更に細く、鋭い。不思議なことに光を反射しないようで、どこか変わった印象を受ける。すらりとした高身長で、小柄な僕では見上げなければ目をあわせることができない。そして何より右腕に下げた大きな機械が目立っていた。残念ながら僕に機械工学(それであってたっけ)の知識はない。だからこれがどんな機械なのかは皆目検討がつかない。でもまぁ何か凄い機械なんだろうなとは思った。
「あぁ、小櫃」
小櫃と呼ばれた男性は僕に気づくと視線を鈴仙さんから
僕に移した。ふと、彼と目が合った瞬間突然どこかできいたとある詩が僕の脳裏をよぎった。
──悪しき心にて人を偽り貪りし者、怒りの裁きを受けるべし。
──彼の者は義憤の顕現、天罰の代行者なり。
──赤き眼光が貫けば如何なる深謀をも見透かし。
──その身に決して抗えぬ怖れと痛みを刻み込む。
──黒き翼は全ての不義に絶望を振りまき。
──白き光の刃と
──畏れよ剛勇、崇めよ無双。
──悔い改めては跪け。
──彼の者の名は小櫃、無限の者なり。
この人が四島小櫃。…僕は戦士ではない。本能のまま他の存在を襲う猛獣でもない。だから僕がこんなことを真っ先に思うのもおかしな話だけれど、僕はこの人を前にこう思った。
…勝てる気がしない……
強者としての覇気。それをこの人は全身から発していた。これほどまでの覇気。紫様でも発せるかどうか…と、一人で勝手に怯えてる僕の心境を読みとったのか小櫃さんは厳格そうな雰囲気を崩し、微かに微笑みながら僕に話かけてきた。
「怯えることはない。俺は弱者の味方だ。…で、俺に何か用か?」
おっと、いけない。相手に気を使わせてしまった。悪いことしたな…
「あぁ、ええと。あなた宛に手紙を預かっています。」
そう言って僕は手紙を渡した。若干手が震えてるな…失礼に思われなければいいんだけど…
「ふむ。悪いな。」
小櫃さんは僕から手紙を受けとると、その場で開封し、中の手紙を読み始めた。
「…成程。」
暫くして手紙を読み終えた小櫃さんが顔をあげた。
「お返事をお届けしましょうか?」
また永遠亭まで来るのはいささか面倒だ。返事を届けるならばここで待った方がいいよね。
しかし小櫃さんの返答は僕の予想の斜め上をいった。
「いや、それには及ばん。今すぐ会いたいそうだ。」
すぐに、か。案外ジキルさんも無理を言うものだ。
「そうですか。ではお送りしましょうか?」
「道ならわかる。それより…」
「それより?」
「お前も一緒に来て欲しいそうだ。」
そう言って小櫃さんが見せてきた手紙の書面にははっきりとこう書かれていた。
“それと、もし彼がよろしければ、この手紙を届けてくれた蘭丸君とご一緒にいらして下さい。”
なんてことだ。
結局僕はジキルさんのもとを訪ねることにした。折角お誘いをいただいたのに行かないのは失礼だし、外の世界の話にも興味があったからね。
「ええと、出口はどっちの方向でしたっけ…」
「?何してる。出口なんか探さなくても飛んでいけばいいだろう」
「え、飛べるんですか?」
「全く支障なく」
「大変失礼いたしました」
さて、そうと決まれば長居は不要だ。僕はここに来るときそうしたように軽く地面を蹴り、ゆっくりと離陸した。竹林上空まで上がると、今度は出口ではなく人里の方向を探した。
「人里はこっちだぞ」
急に右から小櫃さんの声がした。
「あ、はい!」
すぐさま僕は声がした方をむいた。…するとなにやらすごいものが目に写りこんだ。
「え」
小櫃さんの飛び方は常軌を逸していた。幻想郷で空を飛べる住人の飛び方は宙に浮き、漂うようにかつ高速で飛ぶ。僕の飛び方なんかはまさにそれだ。しかし小櫃さんの飛び方は明らかにそれとは違う。何が違うかというと、幻想郷の住人は飛ぶ時何も出さないのだけれど、この人は背中、踵、尾てい骨といった所から黒煙を噴出している。すごい量だ。
「小櫃さん…その黒煙は?」
「黒煙? …まあそう見えるか。これは‘バイオブースター’といって、バイオエナジーを俺の身体から直接噴射し、その反作用で空を飛ぶ能力だ」
「…ばいおえなじー?」
「あぁそうか。そこからだな。まずは」
「生物は体内で特殊な素粒子様の物質を無限に生成・循環させている。生物のあらゆる生命活動の根幹を成すこれが‘バイオエナジー’だ。俺を始め、『インフィニタス』と呼ばれる者はこれらを媒体とした特殊能力を使用することができる。その内の一つが、このバイオブースターだ」
「な、成程…」
「ハハハハ、なに、すぐには解るまい。バイオエナジーは幻想郷にはなかった概念だ、愛想で話合わせは無用だぞ」
はい…すいません僕には難しいです…
…さて、それから僕らは少し話をしながら飛んだ。暫く話していると、竹林の話になった。不思議とこの人もこの竹林の中で迷わず進めるそうだ。何か目印でもあるのだろうか。僕は思い切って聞いてみた。するとそれに対する返答はますます常人離れしていた。
「先程バイオエナジーの話はしたな? バイオエナジーは本来、ある一定以上の密度を持たねば視認すらできん。だが俺の能力――‘スキャニング’を使えば、赤ないし青色の光としてそれらを視ることが可能だ」
と、小櫃さんは不意に空中で体勢を変え、僕と向き合うと左手で自分の目を指しながら言った。光を反射しない不思議な目。この目にはそんなものが視えているのか…
更に小櫃さんは続ける。
「タケは地面と平行且つ広範囲に根を伸ばし、そこから新しい芽、即ちタケノコを生やしていく。一つの竹林がたった一株のタケだけで成り立っていることも珍しい話ではない。実際この竹林は僅か七、八株、人里までの最短距離なら根の上を通るのは一株半程度だ。バイオエナジーの流動から根の伸び方を視た上で、根が張られていない場所を割り出せば、俺は迷わず進める」
「そんなことまでできるんですか!?」
「あぁ。タケだって生物だろう?」
すごい人もいるものだ…
それから僕と小櫃さんは色んな話をしながら竹林を進んだ。始めは機械の話についてだったけれど、そのうち僕の仕事についてや幻想郷について、果ては最近何を食べたと暇な時何をしているかなど比較的どうでもいい話にすらなって、しかも盛り上った。何故。厳格そうな雰囲気を纏う小櫃さんだが、話してみれば親しみやすく、非常に好感の持てる人だった。…ちょっぴり強面だけど。でもそんなことはどうでもいい。竹林を抜ける頃には僕が最初この人に対して感じた恐怖心はすっかり消え去っていた。
こんにちは!ラケットコワスターです。ついに東方想究談第一話が投稿できました!嬉しい限りです。さて、今回はいきなりコラボ相手の影のビツケンヌさんの作品の主人公、小櫃さんが登場しました。ジキルに招待され、彼(彼女?)の元へ向かう小櫃さんと蘭丸。今後どのような展開になっていくのでしょうか。では次回をお楽しみに!