モンスターハンター 地雷狩人奮闘記   作:白雫

1 / 1
寂しがりやの死神

「──グォ、オオォォォ………」

 

 ズドン、と地響きをたてながらその雄々しい巨体を地に倒れ伏せるのは、赤い鱗を持つ、空の王者、リオレウスだった。

 大空を支配していた立派な翼は、その翼膜を無惨に破れさせていて、幾多の外敵を屠ってきた歴戦の尻尾は半ばから斬られ、その痛ましさを強調している。

 その巨体を支えていた強靭な足には、無数の斬り傷が刻まれていた。

 かの竜の体で最も肉質の柔らかい腹部は一際大きな深手を負っている。臓物が無惨に飛び出し、流れ出た大量の血が大地を真っ赤に染め上げていた。

 数多(あまた)の獲物を噛み砕き、喰らってきた口からは、舌が力無くたれており、生前の雄姿を知る者は全ての生命の儚きを知るだろう。

 

「…………」

 

 その場にたった一人で佇むのは、クックSシリーズという防具に身を包んだ、まだ少年と言えるような年の狩人(ハンター)だった。

 彼は無言で、狩る側から狩られる側に落ちてしまった飛竜を見つめる。

 

「……僕はちゃんと忠告した」

 

 ふと、少年が口を開く。彼の目は、岩場に倒れる男を捉えていた。

 防具をしっかり着込んだ男は、その四肢をうつ伏せに投げ出し、ピクリとも動かない。その血を大地に染み込ませる彼がもう二度と動かないことを、少年は知っていた。

 

「……だから、言ったんだ」

 

 少年はうわごとのようにつぶやく。その目は既に目の前の光景を映してはいなかった。

 

 

──僕と一緒に行くと、死んじゃうよ。

 

 

 この狩り場に来る前に少年が発した言葉だった。

 

 その目に映るのは、三人(さんにん)のたくましい男達。皆、新調したばかりの防具を着込んだルーキーハンターだった。

 

 

──何言ってんだ、てめぇのクエスト達成率を考えりゃ、てめぇのふざけたジンクスなんざ目に入らねぇんだよ。

 

──本当にいいの?

 

──しつけぇやつだな

 

──俺らが隠れてる間に、テメエがリオレウスを狩ってくれゃぁいいんだよ……おっと、ギルドの奴に聞かれるとマズいなぁ

 

──おら、とっとと行くぞ、このガキ!

 

 どつかれるように背中を押され、少年は狩り場へと向かうガーグァ車の荷台に乗り込んだ。

 抵抗しなかったのは、もしかしたら今度こそは、と言うわずかな期待を抱いてしまう自分を感じていたからだ。

 

 そして、現実は、彼の言ったとおりになった。

 

 隠れていた者達は、暇を持て余し、鉱石採掘にのこのこと出歩き、そこをリオレウスに見つかったのだ。

 ミカエルによって手傷を負い、神経質になっていたリオレウス。

 彼は、自身のナワバリを侵す小賢しい人間達を見つけ、怒り狂って彼らに襲いかかった。

 

 イカれる空の王者の前に、経験の浅いルーキー達は浮き足立ってしまった。それは狩り場での命取りになってしまうというのに。

 一人目は、リオレウスの翼の風圧に尻餅をついたところを、空の王者(リオレウス)の『サマーソルト』を受けて、首から上を盛大にぶちまけて死んだ。

 二人目は、リオレウスの滑空をかわそうとして、石につまずき転んだところをその屈強な足に掴まれ、上空に連れ去られて、そのまま地に打ちつけられて絶命。四散した体と防具は、回収される前にリオレウスの放つ灼熱の『ブレス攻撃』によって焼き尽くされた。

 かろうじて焼け残った防具を形見として腰に持ち、復讐に我を忘れて突貫した三人目は、リオレウスの足の一撃で腹を蹴破られ、あっさりと殺された。

 

 

「──僕と一緒に行くと、死んじゃうよって、言ったじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────自然とモンスターと人との調和のために設立された組織、ハンターズギルド。

 その支部の一つ、ドンドルマギルドに、とある少年がどこからともなくやってきた。

 彼は、ハンターとなってから三年間、クエスト達成率100%という驚異的な記録を打ち立ててきた。

 まだ、15歳であった少年ハンターの偉業に誰もが驚き、多くの猟団がぜひ我々の団に、と熱心にその情報を求めた。

 

 そしてそこに付き纏う黒い噂を手にして、皆その勧誘を諦めるのだ。

 クエストに同行する他のハンターが一人の例外もなく狩猟中に死んでしまう。

 彼は、前代未聞の名声と悪名を同時に手に入れたハンターだったのだから。

 

 目の前に立ちふさがるモンスターはことごとく屠り、また、事故、あるいはモンスターに狩られてパーティーメンバーを全員失う彼を、ドンドルマ中のハンター達は畏怖と敬意と皮肉と嫉妬を込めて、こう呼んだ。

 

──『死神』ミカエル、と。

 

 

 

 

 

 少年、ミカエルは、狩り終えたリオレウスの解体を始め、素材を剥ぎ取る。

 必要な分を狩猟したモンスターから分けてもらった後は、彼らの亡骸を自然に返す。

 これがハンターズギルドの掟だ。それに、荷車にこの巨体を乗せるのは到底無理な話である。拠点に辿り着くまででも、荷台が保たない。

 

 そのため、ミカエルは三年間でモンスターの解体技術を一人身につけねばならなかった。

 通常、新米のハンター達は狩りを終えた後、先達に教えを請い、それを身につけていく。

 しかし、彼の場合はそれが叶わなかった。皆、狩りを終える前に死んでしまったからだ。

 

 基本的なナイフの使い方、解体の仕方はハンター養成のための訓練所で学ぶことができた。

 しかし、新しく出会ったモンスターに対しては、専門家でもない限り、どこが必要な部位かがわからないことが多い。

 素材を無駄に傷つけてダメにしてしまったり、必要な素材が足りなかったり、あるいは取りすぎたりして、たびたびギルドの注意を受けていた。

 

 

 剥ぎ取った素材と、回収したパーティーメンバーの遺体、或いは遺品を荷台に積む。

 ドンドルマギルドへと帰還するため、ミカエルはアイルーの御者が運転するガーグァ車の荷台に乗り込んだ。

 彼はアイルーに何も言わず、アイルーも彼に何も言わない。このアイルーも、彼がどういった素性のハンターなのかを知っていた。

 

 ドンドルマのハンターズギルドで、白金色の髪の毛と目を持ち、人形のような精緻な顔をもつのは、ミカエルの他にはいない。

 彼はその目立ちすぎる風貌から、一目見るだけで身元がバレてしまう。そして、彼の誇る実績と、それに必ずと言っていいほど付随してくる噂は、今やドンドルマの街で知らぬ者はいないというほどだった。

 

 怯えているのであろうアイルーを気遣ってるのか、それとも興味がないのか、ミカエルはそのアイルーを一瞥しただけで、後は遠くの景色を眺めていた。そこにはなんの感情も映らない表情があった。

 無言で走り始めるガーグァ車。

 荷を引くガーグァの平和ボケしたような鳴き声だけが、そこにある唯一の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──クエストお疲れ様でした」

 

「……はい」

 

「パーティーメンバーの方のご遺体は、ギルドに登録された要望に従って扱われます。よろしいですね?」

 

「……どうぞ」

 

「狩猟したモンスターの成功報酬は、後ほどギルドカウンターにてお渡しします」

 

「……はい」

 

「何かご不明な点はございますか?」

 

「……いえ、ありません」

 

「では、クエスト達成をここに認めます。報酬確定まで、ギルドカウンター前でお待ちください」

 

 

 ドンドルマのハンターズギルドに到着し、ギルドの職員が、剥ぎ取ったリオレウスの素材を別の荷車に乗せる。

 ギルド職員が剥ぎ取った素材の確認をして初めてクエスト達成が認められる。狩り場から持ち帰った素材や鉱石は全てギルド貸し出しの荷台に乗せるため、素材の横領や密猟はできないし、ギルドの定める基準以上の物を持ち帰って自分の物にすることもできない。

 自然との調和を第一に掲げるギルドにとって、ハンターが必要以上の乱獲をしたり、狩猟を禁止されているモンスターの密猟をしたりすることは絶対に回避すべきことだった。

 

 

 

「………」

 

 ギルドの職員の指示に従い、ギルドカウンターの前で待つミカエル。

 そこは集会所とも呼ばれる通り、多くのハンター達が酒を飲んだり、クエスト同行者集めのために集まる場所だった。

 いつも絶えず賑やかな集会所は、カウンターで一人手続きを済ませ、頭の防具を脱いだ白金色の少年に一瞬静まり返った。

 

 通常、臨時の狩猟パーティーを組んだ者達は、達成報酬の付与を受けるまで別々に行動することはない。

 彼らは、ミカエルを半ば連れ出すようにクエストに向かったルーキー達が、その場に見当たらない理由をそこで察した。

 

 

「ほらな、俺の言ったとおりじゃないか」「バカいえ、見えきってた結果だろ」

「あの人達死んじゃったんだね……」「あいつらは目上の人達には媚びへつらって、俺らには当たりが強かったからなぁ。むしろ清々したぜ」「ほんとだよ」「いつも我が物顔で居座りやがって」「『死神』が殺してくれて助かったよ」「バカッ、そういうこと言うなよ、聞こえんだろ」「別に良いだろ?何も言ってこないんだから」「聞こえてねぇんだよ、きっと」

「あの子、人形みたいだよね」「ほんと、人には見えないわ」「なんか作られた物みたいな感じ」「表情変わんないし、変なくらい綺麗だし」「無反応乙」「あれが女だったらまだよかったぜ?顔はいいからな」「抱きてぇな」「んれはオトコでもイケる」「やめろ、祟られっぞ」「ちげぇねえ」

 

 

 ヒソヒソと話す彼らの悪口や下世話な話は全てミカエルの耳に入っていた。

 しかし、彼はそれらに一切の反応を示さなかった。

 

「ミカエルさん、リオレウス狩猟のクエスト成功が受理されました。成功報酬をお受け取りください」

 

 ギルドカウンターの受付嬢が事務的な口調でアナウンスする。

 ミカエルはそれに応じ、無言でリオレウスの素材が入った袋を受け取って、無言のままギルド集会所を出て行った。

 

「今度はリオレウスだってよ」「結局あいつら死んだな」「死神が殺したようなもんだろ」「腕は確かなようだぞ」「俺も一つ、狩りに誘って………」「やめとけよ、命あっての物種だろう───」

 

 『死神(ミカエル)』の出て行った後も、集会所はしばらく彼の話で盛り上がっていた。

 

 

 

「…………」

 

 晴れ渡ったドンドルマの空を無言で見上げるミカエル。

 すでに日が沈みかけていて、オレンジ色の空に浮かぶ鳥の影は、どこか物悲しく感じられるようだった。

 

 

 

「ドンドルマグロ、今日は安くなってるよー!買い時は今だよ!」

「エーン、おかあさーん!」

「嬢ちゃん、可愛いねぇ。俺らと飲みに行こうぜ?」

「すみません、私、これから予定が………」

「久しぶりだな!今日帰ってきたのか?」

「おう!なぁ、聞いてくれよ、今回の狩りでさぁ───」

 

「…………」

 

 ミカエルは、人波の中を、それほど大きくない体を滑らせ、誰ともぶつかることなく、すいすいと縫うように歩いていく。

 髪の毛はクックSヘルムに隠されて、彼の存在を周囲に伝えることはなかった。

 

「……………」

 

 ドンドルマの市場の活気が、ミカエルには酷く遠いものに感じられた。

 

 

 

 

 

「…………僕だって」

 

 寂寥感が滲み出たミカエルの呟きを、聞き届けた者はなく、人混みの中に紛れ、空へと消えた。

 

 

 






お暇があればどうぞ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。