「八雲とパイの幻想入り」の方も確実に完結(今月中予定)させますので読んでくださっている方は安心してください。
内、この話は全6話で一旦、完結にする予定です。
悟飯、川神市へ行く
破壊神ビルスは言った。
宇宙は全部で12あると。
未来より来た戦士トランクスは言った。
未来はちょっとしたことで変わり異なる世界が生まれると。
ビルスの言う12の宇宙とトランクスの言う異なる世界は別物で、掛け合わせれば宇宙の数は数え切れない程存在することになる。
その中にはネコ魔人と呼ばれる存在を悟空が弟子にした世界もある。
ルフィやトリコと呼ばれる存在と悟空が戦った世界もある。
そしてこの物語の舞台は『ドラゴンボール』と呼ばれる物語と『真剣で私に恋しなさい!』と呼ばれる物語がまじ合わさった世界。
地球と呼ばれ、しかし私達の知るそれよりも少し大きな惑星に二つの物語の主人公と仲間達が共存し、しかし今日まで交わらなかった世界。
そしてその交わらなかった両者が本日、交わることとなる。
「ブルマさん、どうだ、どこかいい学校はないだか?」
孫悟空の妻であり、悟飯の母、チチは悟飯の進学先を相談するために家族ぐるみの友人であるブルマの家を訪れていた。相談を持ちかけられたブルマはその難題に頭を悩ませる。
「うーん、そうねえ。悟飯君の成績ならどこの高校へ言っても問題無いでしょうけど、問題は上手くなじめるかってことと力を隠して置けるかってことよね。悟飯君しっかりしてるようで、やっぱり孫君の血をひいてるだけあって、たまにちょっと抜けてるとこあるし」
「うっ、否定できねえだ」
言われた指摘に頭をかかえるチチ。しかしブルマはそこでふとあることを思い出し、名案を導き出した。
「そうだ!! チチさん、悟飯君を留学させて見る気は無い!? もし、その気があるのなら学費と留学先での費用は全額、カプセルコーポレーションが持つわよ」
「えっ、全額出してくれるだか!?」
ブルマの申し出に食いつくチチ。
孫家は働き手がいない(居ても働かない)ため、経済的に余裕が無い状態である。そんな家庭の事情を持つ彼女にとってブルマの申し出は願ってもみないことであった。
「でも、何でそこまでしてくれるだ?」
「実はね。日本って国とマヤリト大陸で交換留学の話がでてるのよ。その話にうちの会社も絡んでてね。外の世界の情報は出来るだけ多く手に入れたいから、留学生に知り合いを送り込めるのはうちにとってもメリットがあるって訳」
マヤリト大陸、南半球に存在し、海を除いた土地の面積だけに限定してもユーラシア大陸を越える広さを持ちながら1国に統一されたこの大陸は数千年に渡り他の大陸と一切の交流を持たず鎖国を続けていた。その理由はこの大陸独自の特色の一つ、獣の姿をした人間や怪獣と言ったホモサピエンス以外の知的生命体が存在することにある。肌の色程度で人種差別が起きる外の大陸の国家がこのような特色を持つ国と協調が取れる筈も無く、また侵略を跳ね除けられるだけの力も持っていたためこれまで一切の国交が生まれなかったのである。
しかし近年になりこの関係にも変化が生じつつあった。それは外の大陸の成長である。完全では無いが、人種による差別を表面上だけでも取り繕えるレベルに彼等が成長したことにより、6年前より国交が開始したのである。これにより両者は少しずつの歩み寄りを見せるようになり、この交換留学もこの流れをすすめるための活動一環であった。
「んだども、外の大陸なんて余計不安でねえか?」
学費や生活費を持ってくれる理由はわかった。しかしそれだけでは当初の問題は解決しない。チチの願いは悟飯が問題を起こさずしっかりと勉強して偉い学者になることなのだ。学費に目が眩みそこをないがしろにしては本末転倒である。
その当然の懸念に対し、ブルマは彼女の不安を払拭して見せようと自信有り気に答えた。
「いいえ、実はそこが狙い目なのよ。悟飯君が常識知らずな態度を見せてもマヤリト大陸の出身だからってことで誤魔化せるし、それに悟飯君を交換留学に送り込みたい場所、川神学園って言うところはちょっと特殊な場所らしいの」
「特殊だか?」
「ええ、何でも武術が凄く盛んらしいわ。流石に悟飯君やべジータ程では無いでしょうけど、昔の天下一武道会でも優勝を狙えるレベルに人間離れしたのが何人も居るらしいわ」
「天下一武道会でだか!!」
驚くチチ。今は教育ママの主婦ではあるが、昔は天下一武道会本戦にも出場したことのある武術家であり、彼女の父である牛魔王も武術の神様と呼ばれた亀仙人の二番弟子。天下一武道会のレベルの高さは良く理解していた。
「そこなら悟飯君が失敗して、多少自分の力を見せてしまっても誤魔化せる可能性があるわ。どう? いい話じゃない?」
「そうだな。お願いするだブルマさん!!」
説明を聞いて納得したチチは完全にこの話に食いつき、こうして悟飯の川神学園への留学が決まるのだった。
そしてそれから数週間の時が流れた。
「この街が川神かあ。ここで僕の新しい生活が始まるんだな」
筋斗雲の上から街を眺める悟飯。母の持ってきた留学の話を受け入れて彼はこうして川神の街にやってきていた。ここまでの道中は特別に手配された飛行機でマヤリト大陸から日本に渡り、税関を通り抜け、人の目の無い場所にまで移動した後、筋斗雲に乗って来たと言うわけである。
「ブルマさんの言うように確かに大きめの気を持っている人が多いみたいだな。特にあそこからは3つ位、かなり大きな気を感じる」
川神院のある方向に視線をやって呟く悟飯。そしてそろそろ降りようかと人気の無い場所を探そうと周囲を見渡す。だがそこで彼の目に、狙いとは異なるあるものが映った。
「あれ、なんだろう?」
川神市を流れる大きな川、その中心当たりに何かがあるのが見える。気になった彼はそれに近づきつつ、目を凝らしその正体に気づいた彼は驚きの声をあげた。
「女の子が溺れてる!!」
川の真ん中、悟飯と同じ年位の少女が何かを抱えた状態で今にも沈みそうになっているのだ。それに気づいた悟飯は人目を気にすることも忘れ、舞空術を使い少女に向かって飛び出していた。しかしその直ぐ直後に、少女の身体が完全に水に沈み見えなくなってしまう。
「うおおおおお!!!!」
気を爆発させ速度をあげる悟飯。
そしてそのまま目にも止まらない速度で彼は川へと突っ込んでいった。
「えーと、 こう言う時どうすればいいんだっけ!?」
少女を川から救い上げた、そこまではいい。しかし少女は意識を失ってしまっており、それが悟飯を慌てさせた。一つ幸いなのは、少女が抱きかかえていたもの、それは一匹の子犬であり、その子犬は元気な様子であることだった。
「そうだ!! 人工呼吸と心臓マッサージ!!……って、いいのかな?」
人工呼吸と言えば口付けであり、心臓マッサージと言えば胸を押す。
そしてその対象は同世代の女の子である
サイヤ人の血を引いていることもあり、恋愛感情や性欲に薄い所もあるが、一応、年頃の少年である悟飯はその行為に躊躇いを覚える。
「そ、そんなこと、迷ってる場合じゃない。早くしないと!! えと、どっちから先にすれば」
少女の唇と胸元に交互に視線をやる悟飯。少女の口元から漏れる吐息、上下に動く胸元を見てその艶かしさに緊急事態であることを一瞬忘れ、思わず息を呑んでしまう。
「あれ、いや待てよ」
しかしそこで彼はふと冷静になり気づいた。『口から漏れる吐息』『上下に動く胸元』つまり、彼女は呼吸をしているのだ。
「えと」
手を取ると脈があることが確認できる。慌てすぎてパニックになってしまったが、どうやら最初から人工呼吸も心臓マッサージも必要なかったようである。
「ふあ、よかったあ」
ここで心の底から安堵する悟飯。ここで少しもがっかりしないのは性欲の薄いサイヤ人らしさか、あるいは彼の真面目さと優しさか。いずれにしても心底から安堵した彼は次にするべきことを考える。
「けど、これからどうすればいいんだろう? 彼女が目を覚ますまで傍に居た方がいいのかな? それとも救急車を……」
脈や呼吸が確認できたことで、状況の緊急度は格段に下がったと言える。しかしこのまま放っておいていいものでも無い。どう言った行動をとるべきか悩む。携帯電話があれば両方取れるが生憎悟飯は持っていなかった。まあ、持っていたとしても果たして川の中に突っ込んで携帯が無事だったかどうかは分からないが。
「いっそのこと彼女をおぶって病院に。でもこういう時、無闇に動かしてもいいのかな? 頭を打っていないから大丈夫かな?」
どう行動すべきか悩む悟飯。しかしその悩みは直ぐに解消された。少女が意識を取り戻したからである。
「あれ、アタシ……」
「目を覚ましたの!! 大丈夫!?」
少女に声をかける悟飯。 最初、少女は意識を朦朧とさせているようだったが、意識を覚醒させると突然、悟飯の肩をつかみ問い詰めてきた。
「そうだ、私溺れて……あの子、子犬は!?」
「ああ、それだったら大丈夫、ほら」
行き成り肩を掴まれても落ち着いたまま、彼女の問いかけに答え、周囲を走り回っていた子犬を指差した。その姿を見てほっとした様子を見せる少女。その姿を見て悟飯は思った。優しい子だなと。自分も溺れかけたのに、意識を取り戻して直ぐに子犬の身を案じた少女に悟飯は彼女のことを優しい子だと思った。
「よかったあ。あれ、でもどうしてアタシ達、助かったのかしら。……もしかしてあなたが助けてくれたの?」
冷静になった少女は悟飯の存在と自分が助かった理由を結びつけて推察する。まあ、溺れた筈の自分が何故か助かり、そして目を覚ました所に全身をびしょぬれにした見知らぬ相手が居れば誰でも辿りつく結論である。
「あ、うん、まあね」
「ありがとう。あっ、私、川神一子よ」
照れくささを感じながら答える悟飯に満面の笑みで礼を言う少女。また、そこで直ぐに自分の名前を名乗れる当たり躾の良さが伺えた。
「僕は悟飯、孫悟飯って言うんだ」
自分も名を名乗る悟飯。
そしてお互いに自己紹介を済ませた後、悟飯は一子から溺れた経緯の説明を受けた。
彼女はランニング中に川に流された子犬を偶然見つけ、それを助けようとして川に飛び込んだ。彼女は武術を習っていて身体を鍛えており、泳ぎも得意な方であり自信があった。しかし服を来た状態での泳ぎにくさに加え、パニック状態になっていた子犬が一子に飛びつき暴れたこと、更に悪いことに子犬を見つけたのはランニングの帰りであり川に飛び込んだ時点で体力を相当消耗していたこともあり、二人(一人と一匹)揃って溺れてしまったと言う訳である。
「そうだったんですか。この子を助けたかった気持ちはわかりますけど無理は駄目ですよ」
「うん、今度からは気をつけるわ。大和からもいざという時程落ち着いて考えなきゃ駄目って言われてるし」
反省によりしょぼくれる一子。何故かその頭には垂れた犬の耳が付いているような、そんな幻覚が思い浮かぶ。
「ええ、人を呼んで複数で助けるとかいい方法があったと思います。ところで大和ってのは?」
「あっ、うん、大和は……」
問われた一子は自らの友人である大和のことを説明し、その勢いで他の友人達についても話をした。それを興味深そうに聞く悟飯。
「へえ、一子さんにはいい友達が一杯いるんですね。それにみんな個性的な感じですね」
「うん。悟飯君にもそういう友達いる?」
「うーん、実は僕、今まで学校に通ったことが無くてだから同世代の友人はいないんですよ。年上の人達で仲間はいるんですけど。でも明日から川神学園に通うことになったんで、そこで友達ができるといいな」
「えっ、川神学園!? 悟飯君転校生なの!?アタシもそこに通っているのよ」
悟飯の言葉に驚く一子。返って来た彼女の言葉を聞いて悟飯もその偶然に驚く。
「それは偶然ですね。これから同じ学校に通うことになるのか。一子さん、良かったら学校で仲良くしてもらえますか?」
「もちろんよ!!じゃあ、私は悟飯君の最初の友達ね。えへ、何か口に出して言うとちょっと照れるわ。あっ、くちゅん」
悟飯の言葉に力一杯同意した後、顔を赤くし、くしゃみをする一子。今は1月、まだ春を迎えていないこの季節に全身びしょぬれのままでいるのだから無理も無い。
「うー、ちょっと寒くなってきちゃった」
「風邪でもひいたら大変ですね。 早く家に帰った方が」
心配する悟飯。その言葉に一子も素直に頷いた。
「そうね。あっ、そうだ。よかったら悟飯君も一緒に来て。お礼もしたいし、悟飯君もびしょぬれだし」
そこで自らの家に誘う一子。悟飯は最初それに遠慮しようとするが、下宿先の寮に濡れた状態で訪れるのもよくないと考え、お言葉に甘えることとした。
しかしこの時の彼には知る由もなかった。一子の家が彼にとってある意味川神で最も鬼門となる場所、武術の総本山、川神院であることを。
そしてそこには、彼にとって生涯初めてのライバルとなる少女、武神、川神百代が居ることを。