東方絵札録~Card In The Illusion Village~   作:竹馬の猫友

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感想でもあったようにグロっちぃ表現はこれから少し抑え目で行こうかと。
あ、でも完全にやめるわけではないです。あしからず。



本編どぞー。


第38話 命のやり取り

目の前の非日常に驚き視界が揺らぎ体がふらつく。体を支える為に靴箱に手を着く。その瞬間ガタンと大きな音が鳴ってしまう。しまったと思いつつも体は動かない。あぁ、こんな場所で何をやってるんだ僕は。

 犯人がいる可能性が高い場所で腰を抜かしている余裕は無い。僕一人ではどうにもならなかっただろうが、慧音さんが必死に僕の体を支え立たせてくれる。しかし、もう遅かった。

 

「お、これハこレは。慧音さんと雪茂さんじゃアァありませんカ。」

「こんナ所でナにヲしてるンですカい?コんな所デ立ち話モあれナンで中に入りまセんカ?…クヒヒ。」

「…っ!」

 

 玄関に、僕らの目の前に門番2人が出てきてしまった。どこか人間らしさが抜けている喋り方をしながらこちらに近づいてくる。慧音さんは僕を自身の後ろへと隠す。恐らくまともに動けない僕を庇ってくれているのだろう。

 

「オやおヤ。なんデそんナニ警戒してルんでスカ?中でお茶でモしナガらゆッくりトお話なンテいかガでショうか?」

「誰が、そんな誘いに…っ!」

「これヲ見てもデスカ?…いイでスカ?アなタ方に拒ヒ権はナいんデす。いいカラ中ヘ入レ。ア、そウソう。慧ネさンは外で待っテイて下さイヨ?…順番におハナシしましょウ。」

 

 慧音さんが警戒の態勢を解かずに相手に抵抗しようとするが、門番の片方が居間へと通ずる戸を開ける。その光景を見た慧音さんは黙ってしまい、手を血が滲んでしまいそうなほど強い力で握り締める。僕からは見えなかったのだが恐らく子供がいたのだろう。

 しかし、子供を後ろ盾にするということはまだ生きているという可能性が高いだろう。まだ、希望はある。しかし、今の現状は絶望的だ。子供を人質に捕られ、2対1で話しをしようというふざけた申し出。余計なことをしたら恐らく殺されるだろう。僕も、子供も。

 …ここは大人しく従って置くしかないだろう。

 

「…分かりました。中へ入ります。」

「雪茂!?」

「大丈夫です。だから、慧音さんは待っていてください。」

 

 あぁ、これ死亡フラグビンビンに立ってるじゃないですか。やだー。そんな冗談を心の中で呟きつつ一人で居間の中へと入る。慧音さんがこちらを追いかけてこようとしたが、門番の一人に睨まれ悔しそうな声を漏らしつつそこに留まった。

 血の匂い。それが居間に入った瞬間の第一印象だった。その次に倒れている子供2人。指と足の無い虫の息の2人。顔や服の隙間から見えている肌には青黒い痣が出来ている。こいつらは僕と慧音さんをここに呼び寄せるためにこの2人をここまで痛めつけたのだろう。そして、恐らくそこまでして僕らを呼んだということは僕らを殺すつもりなのだろう。理由は分からない。しかし、そのような気がする。半ば諦めのような感情を感じつつ2人に話しかける。

 

「…それでお話とは。」

「ほほウ。この状況デよクそんナニ冷静ニいられマすネェ。虚勢でスか?」

「…諦め、ですよ。」

 

 そう呟くと門番2人の顔が一気に無表情になる。つまらない。無言でそう言われている気がした。その瞬間グチャ、とこの場では相応しくない音がなる。それが二回。伏し目がちにしていた視線をすぐさま音のほうへ向ける。

 だめだ。理解してはいけない。二人の頭が潰れているなんて。だけど理解してしまう。

 

「あ゛っぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあああっぁぁああっ!?」

 

 自分の声とは思えないような叫び声。ふと頭の中に思い浮かんだのは絶望の二文字。やばい。逃げなければ。そう頭は判断するがまたも体は動いてくれない。だからせめてもの反抗として2人を睨みつける。

 

「いイですネェ。そノ表情ですヨ。ソの絶望に満ちタ表情。それヲ見たかったんデスよ。…なんてな。」

 

 唐突に門番の声質がガラリと変わる。忘れもしない。あの男の声。僕を殺人者にしたあいつ。僕の友人を殺したアイツ。

 

「…ジェイ、ド。」

 

 男の名前を口にした瞬間、門番だった男の顔がばらばらと崩れていき中から見覚えのある男の顔が出てくる。能力による変装だろうか。もう一人の門番から―――確かカロンだったか―――もう一人が出てくる。そちらは元々ずっと居間に入らず玄関のほうを見ていたようで、こちらからは顔は窺えない。

 

「ご名答。覚えてもらえてて光栄だ。んで、どうする?」

 

 嫌な笑顔を浮かべながらこちらに聞いてくるジェイド。

 

―――汝、命に触れることを厭わないか。

 

 心の中で誰かが囁く。

 

―――汝、人を殺し、心を保てるだけの精神は持っているか。

 

 分からない。

 

―――ならば自身の心を壊す可能性があるが目の前の男を殺し、子供を生き返らせる選択と、全てから逃げる選択。どちらを取るか。

 

「そんなの、決まってるだろ。」

「ほう。」

 

―――ほう。

 

 心の中の声とジェイドの声が重なる。そして僕はジェイドに明確な敵意を向ける。

 

「それが答えか。」

 

―――よかろう。我が力。お主に貸そうではないか。その自己犠牲も厭わぬ精神。気に入った。

 

 瞬間、目の前に一枚のカードが現れる。それを手に取り、無意識に叫ぶ。

 

「タロットNO.ⅩⅢ。DEATH!正位置効果、人生の清算!」

「がッ!?」

 

 いきなり首を押さえ悶えだすジェイド。そしてどこからとも無く手に大きい鎌を持った黒いローブを着た骸骨が現れる。恐らくこれがタロットNO.ⅩⅢ、DEATHなのだろう。そして無意識に発動させた人生の清算という能力。その情報が頭の中に流れ込んでくる。簡潔に言えば命を移し変える能力。ただし、命を取る相手は犯罪者で無ければならない。という制約がつく。また、罪の重さによりその命の価値が決まり、命を移し変える対象が増減する。つまり、こいつ、ジェイドの罪の重さが大きければ、命の価値が高ければ、先程の子供を生き返らせることが出来る。そう理解した。

 

「…貴様の人生は、ふむ。なるほど。これなら子供2人ぐらいなら生き返らせることが出来る。」

 

 その言葉を聞いた瞬間僕は安堵し、崩れ落ちそうになる。しかし、今回は気合で踏みとどまる。だが、全身から力が抜けていってしまう。床に倒れ視界が暗くなっていく。そんな中で「すまぬ。お主の力を使いすぎたようだ。」と声が聞こえた。起きたら説明を求め、ない、と。 

 

 

 

慧音side

 

 雪茂が中へ入って何分もしないうちに雪茂のものと思われる叫び声が聞こえる。その声を聴いた瞬間に中へ入ろうとするが透明な壁にぶつかり入れない。

 

「雪茂!大丈夫か!!」

 

 喉が裂けそうになるほどの大声を出すが中から反応は無い。

 

「私が無理にでも止めていれば…!」

 

 最悪の事態を想定し先程まったく動けなかった自分自身を攻める。その時、透明な壁の目の前にいつの間にか門番ではなく一人の少年が立っていた。見覚えの無い少年。だが、そんなところにいては危険だ。そう判断し声を掛けようとする。しかし、少年から発せられる不気味な気配を感じ、後ろへと跳ぶ。

 瞬間目の前の空間からパンッとはじけるような音がする。少年はわずかに悔しそうな顔をする。

 

 そして慧音は理解する。この少年も敵だと。

 

 そう感じた瞬間今度は中から強大な力を感じる。恐らく雪茂のものだろう。と力の雰囲気からそう判断する。しかし、どこか恐ろしい不気味な気配も感じる。果たして大丈夫なのだろうか。外から心配をすることしか出来ない自分を恨む。と、少年が目を見開き居間のほうへと視線を向ける。まるでありえないことが起きたかのような表情だった。瞬間、見えない壁が音を立てて崩れるのを感じた。実際に崩れたかどうかは見えないので分からない。手を伸ばしてみる。

 

「―――当たらない。…今しかない!」

 

 居間へと飛び込む。少年はどうやら呆けているようだ。こちらに少しも意識を向けていない。居間の中に入ったと同時にドサリという音が聞こえる。そちらを見ると雪茂の倒れる姿。駆け寄りたい気持ちを抑え、部屋の中の状況を確認する。

 倒れている雪茂、それに同じく倒れている見覚えの無い男、血まみれの床に横になっている2人の子供。足も指も無事だ。そして私の後ろでぺたりと座り込む少年。まずはこの少年を捕らえておいたほうがいいだろう。身近にあった麻縄で腕と足を縛っておく。その間も抵抗は無く、どこを見ているか分からない目をしていた。

 次に雪茂と見知らぬ男と子供の確認。雪茂は息がある。だが、もう見知らぬ男はすでに死んでいた。外傷は無い。雪茂に聞いたら分かるかもしれない。これは後回しだ。最後に子供。2人とも気を失っているだけのようで息があった。傷も一つも無い。心配しなくても大丈夫だろう。さすがにこの人数を運び出すのには些か骨が折れる。そのため私はこのまま誰かしら気がつくのを待つことにした。

 

 

 

―――ジェイド・ブラック:死亡  死因:命の譲渡 




閲覧ありがとうございます。
第二のジャック・ザ・リッパー(笑)さんがお亡くなりになられました。随分あっさりと死にましたがこの男は元々このくらいの扱いの予定でした。

更新速度遅くてごめんなさい。(スライディング土下座)
また次回も宜しくお願いします。

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