ティンクル☆くるせいだーす~最高神と流星の町~ 作:TRcrant
もう10話も書いているのに原作主人公がまったくと言っていいほど登場していないという状態です。
少しすればちゃんと登場する予定だったりします。
それでは本編をどうぞ!
合流地点である九条家の屋敷前に戻った瞬間に、体に衝撃が走る。
「浩ちゃんっ!」
「うわ!?」
それは神楽が抱き付いてきたからだった。
「危ないからいきなり抱き付くな」
「だって、念話が途中で切られるし、力の発動まで感じるし心配してたんだからっ」
いきなりでなければ抱き付いてもいいわけはないが、僕の注意は神楽の言葉に切り捨てられた。
どうやら神楽のほうにも僕の力が発動したことが伝わっていたようで、心配させてしまったようだ。
「悪い。ちょっと予想外の事態が起こったもので」
「予想外の事態?」
不安そうな表情から一瞬で真剣な面持ちに神楽に、僕は先ほど知った情報をすべて説明した。
「それじゃ、魔族の二人がこの町に、魔法陣を設置しているので、間違いないんだよね?」
「ああ、この耳でしっかり聞いたから間違いはない」
話し終えた僕に確認をする形で訊いてくる神楽に、僕は頷いて答える。
ついでに神楽からの報告も聞いてみたが、神楽の方は何ら異常はなかったとのこと。
まあ、図書館の方から不審な気の流れを感じると言っていたが、それは些末な問題だろう。
「それにしても、天使族は何も行動をしないの?」
「そうだろうな。まあ、もし動いたとしても、おそらく太刀打ちは出来ないだろうよ」
神楽が苦虫を潰したような表情でつぶやくのに対し、僕はそう感じていた。
「どういうこと?」
そんな僕の言葉に、不機嫌な声色を隠すことなく聞いてくる神楽に、僕は静かに口を開く。
「女性の魔族は雑魚だが、男性の方は違う。あれは歴戦の戦士……いや、狂戦士と言った方が妥当なほど強い。周
囲の些細な気配だけで僕の居場所を把握できるのだから」
僕は、あの男の人から感じた気配を説明した。
一見無防備にも見えるが、遠くの方に潜んでいた僕を見つけるという芸当を披露したのだ。
それは、どう見ても
「昔の……あの時の浩ちゃんみたい」
「………」
僕の思っていたことを神楽が口にする。
昔であればとてもうれしい言葉だが、今の僕が聞いてもうれしい気持ちは一切しなかった。
感じるのはただただ虚無。
「あ……ごめん」
「いや、気にしてないからいい」
自分の言葉にハッとした神楽が慌てて謝るが、僕はそう相づちを打つ。
本当はかなり気にしているが、これは僕個人の問題。
そのために神楽に変な思いを抱かせたくはなかった。
「あの男魔族の名前に心当たりがある」
「誰?」
興味津々……とは言えないが、促してきた神楽に僕は”記憶が正しければ”と前置きを置いたうえでその名前を口にする。
「魔界で最強の男と呼ばれた魔族。名を、バイラス」
「あの、”天使殺し”で有名なっ!?」
その名を聞いただけで神楽の表情が変わる。
最初は驚き、次に出たのが怒りだった。
(ああ、そう言えば、倒されたのは神楽の友人だったっけ)
神楽がうれしそうな表情で話をしていたのを思い出す。
バイラスは魔界では最強と呼ばれた魔族だ。
魔族の中で抜きんでた実力を持った七人の魔族に与えられる”七大魔将”の筆頭と言っても過言ではない。
もし、七大魔将の名前をこたえろという質問が飛んで来たら、”バイラス”という名前が一番初めに出てくるであろう。
そんなバイラスは”強者との戦い”に生きがいを感じている節がある。
現に、天界でかなりの強さを誇る神楽の友人の天使を倒しているのだから。
彼は”天使殺し”という異名で接触してはならぬという通達が、天界内で物質界に行くことがある天使に出されたと聞いている。
「あいつ、絶対に許さないっ」
「神楽。気持ちはわかるが、復讐をするために来たわけではない。それに、そいつは姑息な手段で負けたわけでは
なく正々堂々とした戦いで敗れた。であるならば、バイラスへ復讐をすることは負けた者への侮辱である。と考えるけどね、僕は」
怒りを通り越し殺気まで放つ神楽に、僕は諭すように言葉を投げかける。
「そうだよね。浩ちゃんもそいつと同じ部類だったもんね」
怒りに染まった表情がふっと解け、苦笑へと変わる神楽の言葉には、とげとげしさというものは一切感じなかった。
「勝者は最高の栄誉を」
「「敗者には最高の敬意を」」
僕の言葉に重ねるように口にした言葉は僕が昔からずっと言い続けていた物であった。
「勝った人には栄誉が与えられ、負けた人には勝った人と戦った経緯を与える」
「敗者は辱められるものではない。敗者は商社を輝かせる光そのもの。ならば、最上の敬意を込めるのは当然のこと」
言葉に込められた思いを紡ぐ神楽に続いて、僕は静かにそうまとめた。
この言葉が根底にあったからこそ、今の僕があると思う。
「それで……バイラスに注意すればいいんだね?」
「ああ。妨害している僕たちの事に気づかれ、ましてや正体まで気づかれたら確実に厄介だ」
神楽の確認に、僕はそう返した。
勿論、負けるからという意味ではない。
ただ、仲間などが来たり正体が敵方に知られて対策などを講じられてしまえば、行動が取り辛くなってしまう可能性があるのだ。
それだけは絶対に避けなければならない。
「万が一バイラスと女魔族の二人、それと謎の女子学生と遭遇したら一般人を装い、抗戦するな」
「了解!」
僕の指示に神楽が頷いたことで、とりあえず今後の計画はまとまった。
僕たちは九条家のお屋敷へと戻るのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「逃げたようね」
「そのようだな」
草むらの茂み……晃輔が先ほどまで隠れていた場所を目の前に、無表情の女魔族と男魔族……バイラスが言葉を交わしていた。
「それで、どうするつもりかしら。今なら仕留められるわよ?」
「待て」
今にも浩介を倒すべく動き出そうとするソルティアにかけたのは赤い髪の女子学生だった。
「今、確かに感じた。主の力を」
「戯言を」
目を見開かせて衝撃を隠せない様子で紡がれた女子学生の言葉を、女魔族は一蹴した。
「……ソルティア、今俺たちのなすべきことは魔法陣の設置だ。今は下手な行動を慎むべきだ」
「……」
バイラスの意見に、女魔族……ソルティアは苦虫をかみつぶした表情を浮かべながら舌打ちをする。
「ぜひとも手合わせを願いたいものだ」
そんな彼女の様子など気にするわけでもなく、バイラスは楽しげにそうつぶやくのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
10月29日
朝、僕はいつものように料理を作って旦那様方に朝食をふるまった。
「大森。ここに来て数日は経つが、少しは慣れてきたか?」
厨房で食器を洗っている時、横から近付いてきた倉松さんが、僕に話しかけてきた。
「あ、はい。おかげさまで何とか」
「そうかそうか。その調子で頑張ってくれ」
倉松さんは僕の答えに満足げに呟くと、自分の仕事に戻って行った。
どうやら、僕のことを気にしてくれているらしい。
そのことがうれしいことこの上なかった。
そして、僕は食器洗いを終えプリエに向かうのであった。
「よし、これで今日は終了かな」
放課後、人の来店数が落ち着いてきたので、僕は軽く伸びをしながら呟いた。
今日はそれほど疲労感を感じることはなかった。
来ている人数に変わりはないので、きっと僕がこの環境に適応しているのだろうと納得することにした。
(この調子なら、適応関係は大丈夫そうだな)
自分がこの世界に適応できているという確信を心の中で抱いた時であった。
『浩介ちゃん浩介ちゃん、理事長室まで急いできてね。来てくれないとあ~んな事や、こ~んな事をしちゃうからね~』
綺麗な音色と共に、ヘレナさんの声が聞えてきた。
どうやらそれは学園放送のようなものでヘレナさんが、僕を呼び出したようだ。
だが……
(あの人、まともに呼び出しもできないのか?)
あまりの内容のひどさに、僕はため息をこぼした。
「早く行ってきなさい」
「……はい」
とはいえ、無視をするのはまずいため、紅林主任に促される形で僕は理事長室へと向かうのであった。
「失礼します」
「お、速かったね。さすが浩介ちゃん」
ノックと共に理事長室に入ると、ヘレナさんがいつものように笑顔で出迎えた。
僕はそんなヘレナさんに本題を促すことにする。
「それで、用件は?」
「少し前にプリエで買ったこのケーキを、生徒会室に届けてほしいのよ」
そう言ってデスクに置いたのは、確かにプリエで売っているケーキだった。
「……まさか、それだけですか?」
「ええ、そうよ。やってくれるわよね?」
僕の問いかけに、ヘレナさんは悪びれる様子もなくうなづいて答えると、そう聞いてきた。
この時点で僕には、頷く以外選択肢はなかった。
こうして僕は、ケーキの入った箱を手に生徒会室へと向かうのであった。
旧校舎の二階のとある部屋の扉の前までやってきた僕は、そこの部屋名を記したプレートを確認する
「ここが生徒会室か」
『―――ちゃん。病気で休んだのに出てきて大丈夫なの? という発想はないのかな』
中に入ろうと扉をノックしようとすると、中からリアさんの声が聞こえた。
(リアさんって生徒会の人だったのか)
仕えている家の人のことをまた一つ知ったのはいいことなのかもしれない。
僕は、彼女なら何となくそういう組織に所属していてもおかしくないと感じていたので特に驚きはしなかったが。
そんな事を思っていると、再び中から声が聞こえてきた。
『おおっ。それは目からロココです!』
「それを言うなら、目からウロコだ!」
あまりにもひどすぎる慣用句の間違い方に、思わず扉を開けてツッコんでしまった。
(あーあ、みんながこっち見てる)
気が付いた時にはすでに手遅れだった。
「あれ、浩介君? なんでここに」
「おお~、あの時のシェフさんです!」
僕の登場にそれぞれが違う反応を示す中、僕は手にしているケーキの入った箱を机に置く。
「色々あって、今はここのプリエで料理人として働いているんで」
「えぇ!? 浩介君って、プリエでも働いていたのッ!?」
僕の説明に目を見開かせて驚くリアさん。
というより、なぜ驚くのだろうか?
理事長でもあるヘレナさんから話を聞かされていないのだろうか?
「え? お姉さまのお知り合いの方ですか?」
「これは、ズバリ! 恋人ですね!!」
「「「「こ、恋人ぉ!?」」」」
金色の髪に黒色のリボンで左右に束ねているツインテールの髪型の女子学生の問いかけに、ローゼン・クロイクさんが、とんでもない爆弾を投下した。
「えぇ~!?」
そんな彼女の爆弾発言に、リアさんは頬を赤くして固まっている。
「違うっ! ぼ……私は彼女の家に料理人として仕えているだけです!!」
「そ、そうだったのか―」
「そ、そうだったんですか」
思わず敬語で説明したが、頷いていたり、ほっとしていたりするものと様々な反応が返ってきた。
「ふむふむ、ということはこれは執事とお嬢様との禁断の――「キッ!」――はぅわ!?」
取りあえず、これ以上爆弾を投下されても困るので、クロイトさんは威圧するようににらみつけることで強引に黙らせることにした。
「ところで、この箱は?」
「ああ、どこぞの謀略野郎にここに持ってくるように言われたから持ってきただけ」
「謀略野郎? それって一体―――」
金色の髪の女子学生の声を遮るようにして、再び学園内放送を告げるチャイムが鳴る。
『浩介ちゃん浩介ちゃん、今すぐに理事長室に来てね♪』
それだけ言うと、放送を終えるチャイムを鳴らした。
「「「「………」」」」」
あまりにも狙っていたかのようなタイミングで流れた放送に、全員が何とも言えない様子で固まる中、一番最初に口を開いたのは……
「あはは、ごめんね」
苦笑いを浮かべて謝るリアさんだった。
「……失礼」
僕は何とも言えない気持ちになりながらその部屋にいた人たちに、頭を下げると生徒会室を後にした。
「そう言えば、さっき生徒会室にいた赤い髪の女子学生……なんか気になるな」
生徒会室の咲良君のそばに立っていた赤い髪の女子学生は、どことなく先日の夜に僕が目撃した謎の女子学生と、同じ特徴であったようにも見えた。
(確証がない以上、様子見しかないか)
もしかしたら他人の空似である可能性だって考えられる。
だが、確証がない以上、本人を問い詰めることはできない。
もし、その光景を手的に見られでもしたら元も子もない。
それに、なんとなくあの女子学生から見られているような気がした。
入ってきた状況が状況なだけに、見られるのは普通だとしても、その視線がどことなく僕という存在の正体をあぶりだそうとしているような感じがして、少し居心地が悪かった。
いずれにせよ、下手に動くのは避けておくべきだと、僕は結論付けることにした。
(あ、そう言えば自己紹介とかしてなかったけど……まあいいか)
そんな事を思いながら、僕は理事長室へと向かうのであった。
現在は最低でも週に一回の投稿を心掛けておりますが、もともと書いていた話をすべて投稿した後はかなり投稿間隔が空いてくると思いますので、ご了承のほうをお願いします。